龍が如く

1995年10月1日 午後5時47分


東城会直系堂島組舎弟頭補佐を務めている桐生一馬は堂島組の事務所にいた。
桐生は右手に拳銃を持っており、床には堂島組長が胸から血を流して倒れている。
床に落ちている赤い宝石がついた指輪を拾い上げる桐生。
指輪には「YUMI」という名前が刻まれていた。
由美は桐生と共にヒマワリという養護施設で育った親友で妹的存在。
そこに2名の警官が入ってきて桐生は逮捕された。


その前日―9月30日深夜


桐生の舎弟で東城会直系堂島組若衆の田中シンジとともに取立てに向かう桐生。
「こんな取立てに出張ってもらうなんて・・」


「気にするなって言ったろ、シンジ。」
「どこの奴等なんだ、その取立ての相手は。」


シンジが答える。
「すぐ近くの街金です。」
「もともとは他の組から金借りてたんです。」
「ところが金利すらまともに払わねえ。」
「で、手に負えなくなっちまってウチに債権回収の依頼が。」


「そうなのか。で、幾ら回収するんだ?」


「2億です。」
「取り半って約束になってますから、ウチには1億入って来ます。」


「そりゃ気合入るな。」
「よし、行くか。」
桐生は車を降りて取立てに向かった。
街金「ピースファイナンス」の中に入る。
「夜遅くに悪いな。堂島組の桐生だ。」
「用件は昨日ウチの若いのが伝えたはずだ。」


「いやあ、まさか桐生さんが直々に・・」
「明日・・明日まで待ってください。」


桐生が言う。
「夜逃げの準備しながら言われても説得力がねえなあ。」
「それに出来ねえ約束はするもんじゃねえ。」


「殺すんですか?」
「堂島組っていや、回収や殺しばかりやってるところじゃないですか。」
「金払わねえ奴は見せしめにされる。」
「皆そう言いますよ。」
「もう・・勘弁して下さい!」


奥の部屋から現金を回収するシンジ。
「兄貴!回収しました。」


「約束の額だ。悪く思うな。」
桐生はシンジと外に出た。


「兄貴、ありがとうございました。」
「でも、これでついに桐生組の立ち上げですね!」
「風間の親っさんも言ってました。」
「兄貴になら安心して組任せられるって。」


桐生が言う。
「まだ決まったわけじゃない。あんまりはしゃぐなよ。」


「はい。」
「・・そう言えばこの後、セレナで錦の叔父貴と会うんですよね?」
「今日は裏口からしか入れないみたいですよ。」
「天下一通りの小道入って奥の階段2階です。」
「俺、しばらくサツの連中が来ないようにここで見張っておきます。」
「半分の1億円は後で依頼先に俺が届けておきます。」
「安心してください。」


「ああ。頼んだぞ。」
桐生は錦山と会うために高級クラブ「セレナ」に向かった。
錦山彰は東城会直系堂島組の若衆で桐生、由美と共にヒマワリで育った親友だ。


セレナに向かう途中、東城会直系嶋野組内真島組組長の真島吾朗と出会った。
「堂島の龍、桐生一馬チャンやないか!」


頭を下げる桐生。
「お久しぶりです、真島の兄さん。」


「よせよせ・・お前、組み立ち上げるって話ややいかい。」
「そや、ソコの店やったなあ。」
「お前の馴染がいるっちゅうのは。」
「エライええ女らしいのお。皆言うとるでえ。」
「一度あんな女コマしてみたいってなあ。」
「ま、ええわ。」
「お前も子分持ったら厳しくシツケせなあかんでえ。」
「行くで。」


桐生が言う。
「はい、覚えておきます。」
「でも・・俺は俺のやり方でやらせてもらいます。」


「ほう・・どんなやり方でやるっちゅうんや?」


「俺はちゃんと筋が通ったやり方を貫きます。」


真島が怒る。
「これで俺と喧嘩する理由はできたなあ。」
「おら!根性あんのやったら殴り返してこんか!」
一方的に殴られる桐生。
「これで・・気は済みましたか?」


短刀を桐生の顔の前に突き立てる真島。
「ああん?その強がり・・どこまで続くかのう。」
桐生は全く動じない。
「アホくさ。」
「筋通すなんぞ言うて無理しとるだけやないか。」
「やせ我慢っちゅうやつや。」
「世の中筋の通らんことばっかりや。」
「そんな意地張っとったら身体がもたんで。」


「どう取ってっもらっても構いません。」
「ですが、俺は自分の考えを変えるつもりはありません。」


真島が聞く。
「何があってもか?」


「ええ。」


腕組みをして考える真島。
「わかったわ。」
「ほなお前のその覚悟、見届けさせてもらうで!」
「四六時中ずーっとな!」
「でももし筋が通っとったら、俺との喧嘩、買うてくれるか?」


「その時になってみないと・・」


「よっしゃ!」
「ほな、どないしてお前をマジにしたるか早速作戦会議せな。」
「ほなまたな、桐生チャン!楽しみにしとってや!」
「あー、ワクワクするでえ。」
真島は帰っていった。


裏口からセレナに入る桐生。
「相変わらず静かだなあ。」


カウンターに錦山が座っている。
桐生は錦山の隣に座った。


麗奈が言う。
「あなた達がいちゃ恐くて飲めないでしょ、普通のお客さん。」
「だから今日は貸切。」
麗奈は由美が勤務して桐生や錦山が入り浸るセレナのママで、3人の良き理解者。
心優しい性格で、それぞれをまるで身内のように見守っている。


桐生が聞く。
「麗奈、由美は?」


「今買い出しに行ってるの。」
「どうせまた腹減ったとか言い出すんでしょ?」


錦山が言う。
「違いねえ。で、どうなんだ?桐生組の立ち上げは。」


「まだ決まったわけじゃない。」
「組長が決めることだ。」


錦山が言う。
「組長も嫌とは言えねえよ。」
「風間の親父がもうその気なんだ。」
「堂島組はあの人で持ってるようなもんだからな。」
「昔の自慢と面子の話しかできやしねえ。」
「またお前に先越されちまったか・・」


「なあ、錦。お前、妹はどうなんだ?」


錦山が答える。
「来月、もう一度手術だ。」
「多分次で最後になる。」
「体がもたないそうだ。これで駄目ならもう・・」


「そうか・・」


由美が買い出しから帰ってきた。
「あ、来てたのね。」
「ちょっと、もう酔ってるの?私も入れなさい!」
由美の右手薬指には赤い宝石がついた指輪がはめられている。
この指輪は桐生が由美にプレゼントしたものだ。


―数ヶ月前―


セレナで錦山と桐生が話をしている。
「例のシノギ、うまくいきそうか?」


桐生が答える。
「ああ、裏カジノか。」
「イカサマやってカタギから金をむしるのはどうも性に合わねえつーか・・」


「何言ってんだ。自分の組もてるかどうかの正念場だぞ?」
「ここでドーンと稼げば問題なしだ。」
「堂島組内桐生組。天下の東城会の三次団体だ。」
「迷ってんじゃねえよ。」


桐生が言う。
「俺は一応舎弟頭補佐だぞ?」
「今でも十分立派なもんだろうが。」


「相変わらずだな、お前は。」
「舎弟頭補佐だなんて名ばかり。邪険にされることもねえが、かといって出世の本筋でもねえ。」
「微妙な立ち位置だ。」
「そんなお前が風間の親っさんの後押しでようやく掴んだチャンスなんだ。」
「死に物狂いでものにしなかったら意味ねえぞ。」
「このままいったら一生飼い殺しだ。」
「極道であるからにはやっぱり自分の組を持ってこそだろ。」
「違うか?」


「そうだなあ・・」


麗奈が言う。
「ねえねえ、さっきお客さんと偶然誕生日の話題になったんだけど、今度由美ちゃんの誕生日でしょ?」
「二人はちゃんと準備してあるの?プレゼント。」


桐生が言う。
「ああ、そういえばもうそんな時期か。」


「馬鹿、お前忘れてたのかよ。」


麗奈が言う。
「そういう錦山君はもう何か用意してるの?」


「もちろん。」
「由美に似合いそうなピンクダイヤのネックレス。」


麗奈が言う。
「まあ、なんだか高そうね。」


「まあな。何ヶ月も前から予約していてやっと手に入ったんだ。」
「実は今日渡そうと思ってちゃんと準備してあるよ。」


麗奈が言う。
「あら、そうだったの?」
「それじゃパーティーしましょうよ。」


錦山が言う。
「お、それならいいケーキ屋知ってるから俺買ってくるよ。」


「桐生ちゃんはどうするの?」
「まだ間に合うから今すぐ用意したら?」
「指輪なんてどう?」
「フランスの有名なブランドの指輪があるの。」
「新作が出たばっかりなんだけど、女の子にすっごく人気なのよ。」
「この前、由美ちゃんと一緒に雑誌見てたら彼女も欲しいって言ってたわ。」
「ねえ、それにしてみたら?」


桐生は「YUMI」と刻印してもらった指輪を買ってセレナに戻ってきた。
錦山もケーキを買って戻ってくる。


ケーキに立てられてロウソクの火を吹き消す由美。
「由美ちゃん、お誕生日おめでとう!」
クラッカーを鳴らす錦山と桐生。
「おめでとう、由美!」


「みんな、ありがとう!」


「ほら、由美。プレゼントだ。」
錦山は由美にピンクダイヤのネックレスを渡した。


「うわ、すごーい!」
「えー、いいの?これ。」
「本当にもらっちゃって。」


「実はその・・俺からもプレゼントがあるんだが・・」
桐生は赤い宝石がついた指輪を渡した。


「この指輪・・」
「一馬が私に?」
「あ、私の名前が彫ってある!」
由美は右手の薬指に指輪をはめた。
「ありがとう。大事にするね。」


―再び、9月30日深夜から数時間後の10月1日午後4時―


桐生は一度、天下一通りの「風堂会館」に事務所がある風間組に向かった。
事務所に入ると東城会直系堂島組若頭で堂島組内風間組組長―風間 新太郎がいた。
「おう、来たか。ご苦労さん。」


桐生はピースファイナンスから取立てた2億円のうちの半分の1億円が入ったアタッシュケースを風間に渡した。
「今月分のシノギです。お納めください。」


風間の隣には東城会直系堂島組内風間組若頭―柏木 修がいた。
「おう。」


風間が言う。
「また無茶したんじゃないだろうな。」


「いえ。」


「一馬・・」
「お前が無茶すりゃ下の連中は歯止めが効かなくなる。」
「元々暴れたいって奴等の集まりなんだからな。」


柏木が言う。
「桐生なら大丈夫ですよ。分別のある男です。」
「それになあ、親父だって昔は東城会イチの殺し屋っつって・・」


風間が話を遮る。
「柏木!」


「すんません・・」


「柏木、すまんが外してくれ。」
柏木は部屋を出ていった。


「しかし文字通りの子供だったお前らに組を任せる日が来るとはな。」


桐生が言う。
「親っさんがいなけりゃ今の俺はありません。」
「感謝しています。」


「おい、そう硬くなるな。」
「ヒマワリには顔だしてるのか?」


桐生が言う。
「いえ。最近は錦も由美も行ってないみたいです。」


「たまには行ってやれ。」
「あそこの孤児院はお前達の故郷みたいなもんだ。」


その時、シンジから桐生に電話がかかってきた。
「俺だ。」


「シンジです!麗奈さんから兄貴に伝えてくれって!」
「今さっき、堂島組長が由美さんさらって行ったんです!」


桐生が驚く。
「由美が?なんで組長に。」


「詳しくは分かりません。」
「でも、錦の叔父貴もそれ聞いて組長の所に。」
「場所は劇場の横のビルの組長の事務所です!」


「分かった。直ぐに行く!」
電話を切った桐生が風間に言う。
「堂島組長が、由美を強引に連れ去ったらしいんです。」
「それで錦が一人で由美を助けに。」


「まずいな。」
「組長は気に入った女はどんな手使っても手に入れる人だ。」
「そこに錦山が入っていったら何が起こってもおかしくねえ。」
「ここでお前まで行ったら三人ともただじゃ済まねえぞ。」
「ここは耐えるんだ。」
「せめて俺が手を回すまでお前は待て。」


「親っさん。由美と錦は兄弟なんです。俺の。」
「だから今俺が行かねえと!」
桐生は堂島組の事務所に向かった。


事務所の中に入るが全く人気がない。
組長室に行くと錦山が膝をついた状態で堂島組長に銃を向けていた。
堂島組長は胸から血を流し、仰向けで倒れている。
由美は錦山の隣でうずくまっていた。
「錦・・堂島組長・・」
由美は無事のようだが、かなり混乱している。


錦山が言う。
「桐生・・組長が・・由美を無理矢理・・」
「だから撃っちまったんだ。」
「カッとなっちまって・・何発も・・何発も・・」
「殺っちまった・・」
「東城会の大幹部を。」


桐生が言う。
「錦、由美を連れて逃げろ。」


「何言ってんだ。」
「お前こそ由美連れて逃げろ!」


桐生が言う。
「お前がいなくなったら妹はどうなるんだ?」
「次の手術が最後なんだろ?」
「そんな時お前がいねえで誰がいてやるんだ。」
「だからお前はここにいちゃいけねえんだ。」
「行け、錦。」
「由美を頼む。」
「行け!」


「・・桐生!」
錦山は由美を抱えてその場を去っていった。


床に落ちている赤い宝石がついた指輪を拾い上げる桐生。
この指輪は桐生が由美に贈ったものだ。
右手に拳銃を持っている所に2名の警官が入ってきて桐生は逮捕された。


取り調べ室で刑事の取り調べを受ける。
取り調べを担当しているのは警視庁捜査一課の伊達真という刑事だった。
「ふざけるな!!」


桐生が言う。
「俺がやった。金の事で組長ともめて。」


「いい加減にしろ!」


先輩の刑事が言う。
「伊達君、もういい。」


「よかあないですよ!」
「奴はこれから組持とうって男なんですよ。」
「こんな殺しやるわけねえ。誰かを庇ってるんです!」


先輩刑事が言う。
「これはヤクザの抗争だ。誰がやったかは問題じゃない。」
「迅速な事件の解決。それが今求められる全てだ。」


桐生が伊達に言う。
「刑事さん。」
「俺の持ち物の中に指輪があります。」
「そいつを若頭の風間に渡してくれませんか。」
「申し訳ありませんでしたって伝えて下さい。」


「虫がよすぎねえか、そりゃ。」
「約束はしねえぞ。」
伊達は取り調べ室を出ていった。


刑務所に入った桐生にシンジが破門状を持って面会に来た。
「俺は破門でいいのか?シンジ。」
「自分の親、殺したんだぞ。」
「絶縁なんじゃねえのか?」


シンジが言う。
「東城会三代目、世良会長が破門にすると決めたそうです。」
「どういうことか自分にも分かりません。」
「ただ風間の親っさんがこの破門状を兄貴に渡すようにと。」
「堂島組は風間の親っさんが引き継ぐそうです。」
「兄貴、由美さんが行方不明なんです。」
「事件の次の日から。」
「由美さん記憶をなくしてたんです。」
「錦の叔父貴や兄貴のことも・・」
「で、急に病院から姿を。」
「すいません。風間の親っさんには口止めされてたんですけど。」
「錦の叔父貴や風間の親っさんが捜しているんですが・・」


「シンジ、由美を頼むぞ。」
「錦にもそう伝えてくれ。」


「はい、分かりました。」


10年後―2005年12月5日
桐生の仮出所が決まった日、東城会緊急幹部会が開かれた。


東城会直系嶋野組組長―嶋野太が言う。
「で、三代目。今日は一体何の緊急幹部会で?」


東城会三代目会長―世良勝が言う。
「奴から緊急の議題があるそうだ。」


世良から奴と呼ばれたのは錦山だった。


風間が言う。
「てめえの裁量で幹部会とはどういう了見だ!錦山!」


錦山は東城会直系錦山組の組長になっていた。
「直系組長の皆さんがいるこの場で三代目に伺います。」
「東都銀行の貸金庫にあった組の金、100億。」
「盗まれたってのは本当ですか?」


世良が聞く。
「その情報、どこからだ。」


「関西・・五代目・近江連合の寺田です。」


「この件はしっかり裏取って話すつもりだった。」


嶋野が怒る。
「ふざけんな!」
「東城会二万五千、死に物狂いでかき集めた金や。」
「100億言うたらどんだけの血い流れてるか分かっとんのか、コラ!」


世良が言う。
「この件は東城会本部預かりにさせてもらう。」
「今日はご苦労だった。」


その日の夜、桐生は刑務所の中で風間からの手紙を読んでいた。
「10年、お前のいない10年で東城会はすっかり変わった。」
「お前を迎えに行く事もできん。」
「錦山の事、由美の事、お前と会って話したい事が山程ある。」
「伝えなければならない事も。」
「スターダストという店がある。」
「その店のオーナーをしている一輝という男に会ってくれ。」
「話は通しておく。」


次の日、桐生は仮出所した。
新宿神室町天下一通りにあるスターダストに向かう。
ユウヤという店のホストが話しかけてきた。
「オイ!お前、何してんだ!」
「店に何か用があるんですかねえ。」
「なあアンタ、どこの組のヤツだよ?あ?」
「嶋野組だろ?」
「俺らは誰の世話にもならねえんだよ!」


「何の話だ?」
「俺はオーナーの一輝を捜してるだけだ。」
「どの組の人間でも無い。」


一輝がやってくる。
「堂島の桐生さんですか?」


「ああ。」


一輝が頭を下げる。
「失礼しました。」
「風間さんから伺ってます。」
「どうぞ中へ。」


スターダストの中に入る。
「お前、風間の親っさんとはどんな関係なんだ?」


一輝が答える。
「風間さんにはこの店開いた時から世話になってます。」
「みかじめも取らず、商売のイロハも分からない俺に色々教えてくれたんです。」
「今この店があるのもあの人のおかげです。」
「そんな風間さんが先日店にいらっしゃったんです。」
「大事な人を迎えたいからこの店を使わせて欲しいって。」
「何か組の方には秘密ということで。」
「先程連絡したんですが、例の会長の件で身動きが取れないと。」


桐生が聞く。
「会長の件?何かあったのか?」


「東城会三代目、世良会長が・・殺されたんです。」
「昨日の深夜のことです。」
「犯人はまだ分からないんですが、ニュースでもさっき・・」
「堂島組長が亡くなって10年、今じゃ同じ東城会の組同士が水面下で街の利権を食い合いしてるんです。」
「堂島組を引き継いだ直後の風間組は一時期大きな力を持ちました。」
「他の組も手出しが出来ないでいたんですが、数年前、内部から裏切って風間組を割った人がいたんです。」
「それは・・」


その時、東城会直系嶋野組の組員がみかじめ料を払えと店の中で騒ぎ始めた。
桐生が助けに入る。
「一輝、ユウヤ、こんな奴等に金を渡す必要はねえよ。」


組員の一人が桐生に銃を構える。
「思い出した。アンタ、堂島の組長殺してムショ行った・・」
「こりゃあ嶋野の親父に最高の土産が出来たわ!」


そこに田中シンジが助けに来た。
「何やってんだ?こんなところで。」
「嶋野組の縄張りじゃねえだろ。」
「次は無えぞ。」
嶋野組の組員達は帰っていった。


シンジが桐生と久しぶりの再会を果たす。
「本当にお久しぶりです!」


「ああ、出世したようだな。シンジ。」


シンジが言う。
「出世っていうか・・」


一輝が言う。
「桐生さん、さっきの続きなんですが。」
「風間組を裏切って内部を割った人、錦山さんなんです。」


桐生が驚く。
「錦だと?」


「関西の五代目・近江連合の本部長、寺田をバックに錦山さんはずっと独立の算段してたんです。」


シンジが言う。
「兄貴、俺は今錦山組の舎弟頭なんです。」
「兄貴・・錦の叔父貴はもう昔のあの人じゃ無くなっちまったんです。」
「だから風間の親っさんは心配して組の様子を見張るために俺を錦山組に送ったんです。」


桐生が言う。
「シンジ、親っさんは俺に話があると言っていた。」
「直ぐにでも会えないか?」


「明日は本部で三代目の葬式が・・」
「親っさんもその場を離れることは出来ません。」
「それに100億の件もあって。」
「東城会の金庫から100億抜かれていたそうなんです。」
「緊急幹部会でその話が出た直後に三代目が殺されました。」


「親っさん、明日は葬儀場にいるんだな。」
翌日、桐生は風間に会うために葬儀場に向かった。


―1996年風間組事務所―
柏木と錦山が話をしている。
「本当ですか、柏木さん。」


「何驚いてんだ。」
「お前のここ最近の働きからしたら別におかしな話じゃないだろう。」


錦山が言う。
「でもまさか俺が自分の組を持てるなんて・・」


「とはいえ、いきなり組持って言っても手駒がいねえだろ。」
「ウチから腕利きのヤツを何人か出すから、そいつら上手く使ってシノギについて勉強しろ。」


錦山が頭を下げる。
「柏木さん、ありがとうございます。」


「礼なら風間の親父に言え。」
「これは元々親父が言い出したことなんだからな。」
「親父もそれだけお前には期待してるってことだ。」
「それに、桐生のこともある。」
「あんなことになっちまったとはいえ、いつか桐生が娑婆に出てくる日が来る。」
「体裁上破門ということになっちゃいるが絶縁じゃねえ。」
「復帰の目もあるだとう。」
「だが、親殺しのあいつを風間組で引き取る訳にはいかん。」
「だから、お前が桐生の受け皿になってやれ。」
「戻ってきたあいつの面倒を見れるのはお前しかいない。」
「お前が錦山組をでかくしてあいつを迎えてやれ。」


「はい!」
「俺、桐生の為にも頑張ります!」


桐生が仮出所した日の翌日、シンジと一緒に葬儀場にやって来た。
「いいですか、兄貴。」
「これが東城会本部の見取り図です。」
「本部施設の中に風間の親っさんがいます。」
「建物の裏口は比較的手薄です。」
「下手に塀を越えたりすればかえって怪しまれますから、正面から弔問客に紛れ込んでいきましょう。」
「正門から入ったら突き当りまでまっすぐ。」
「そこを右に入った先が裏口です。」
「俺はそこで兄貴を待ちます。」


桐生が裏口に向かっている途中、近江連合の組員が近づいてきた。
「ちょっと顔貸してもらおうかい。」
「正面から堂々とはのお。堂島の桐生はん。」


「なぜ近江連合が俺を?」


近江連合の組員が言う。
「頼まれたんや。」
「アンタの元・兄弟に。」
「錦山の組長さんから写真の男を捕まえろってな。」


桐生は襲いかかってくる組員を倒し、裏口にいるシンジと合流した。
「シンジ、実は今ここに来る前に襲われた。」
「近江連合の奴にだ。」
「どうも錦が指示してるらしい。」
「お前も用心しろ。分かったな。」


2階の奥にある部屋で風間と再会する。
「一馬!」
「10年だ。俺はお前に何もしてやれなかった。」


桐生が言う。
「全部俺がやったことです。」
「親っさんは何も。」


「変わらねえな、お前だけは。」


桐生が聞く。
「親っさん、何があったんですか?」
「東城会は?それに錦は?」


風間が答える。
「あいつはあの10年前の事件からすっかり変わっちまったんだ。」
「妹にお前、由美をなくしたあいつはこの世界でのし上がる為に手段を選ばなかった。」
「俺はあいつが鬼になるのを止めてやれなかったんだ。」
「もう一つお前に伝えなきゃならん事がある。」
「由美のことだ。」
「由美は・・」


その時、風間は狙撃され、その銃弾は右胸を貫いた。
「親っさん!」


騒動を聞きつけた嶋野組組長―嶋野が部屋の中に入ってくる。
「お前!桐生!」
「何やお前、堂島の兄ぃの次は風間か?」
「何考えとんじゃあ!」
「おとなしゅう往生せいや、桐生。」


風間が言う。
「一馬・・逃げろ・・一馬・・由美を・・100億を・・頼む。」
「行け!」


桐生は部屋の窓から飛び降り、葬儀会場から脱出した。


―1996年 錦山組定例会―


錦山が怒っている。
「松重!てめえ、もう一回言ってみろ!」


松重という組員が言う。
「こんな定例会、意味ないって言ったんですよ。」
「お前と話すくらいなら場末のキャバクラでブサイクな女とダベってる方がよっぽど有意義なんだよ。」
「組長さんよ、ここらで一つはっきりさせときたいんだがな。」
「俺らは風間の親父に言われたから仕方なくテメェに付いてるだけなんだよ。」
「風間の親父から俺のシノギがどんだけ太い稼ぎか聞かされてねえわけじゃねえだろ?」
「そいつが俺の格ってやつだ。」
「ならそれなりに扱われねえとなあ。」
「あの桐生ならまだしも、お前見てえな幹部に尻尾振るしか能のねえ青二才に指図されるなんて真っ平御免だ。」
「こっちは勝手にやらせてもらうぜ。」
「黙って見てな。」
「シノギのお手本ってヤツ、見せてやるからよ!」
組員達は部屋を出ていった。


葬儀場を出た桐生のところに警視庁捜査一課の伊達が車でやって来た。
「乗れ!」


桐生が車に乗り込むと、伊達は勢いよく車を走らせた。
「出所二日目にしちゃあ派手にやってんな。」


「あんたは・・伊達さん!」


桐生と伊達は神室町天下一通りにあるバッカスという店に入った。
「風間の親っさんが無事かどうかも今は・・」


伊達が言う。
「だが風間の言ってた、その100億と由美・・」
「奴は何をお前に伝えようとしていた?」


桐生は首を横にふる。
「分からない・・」
「伊達さん、なんで俺を助けるような真似を・・」


伊達は自分の名刺を桐生に見せた。
名刺には「警視庁組織犯罪対策部 組織犯罪対策第四課 警部補 伊達真」と書いてある。
「四課?あんたマル暴に?」


伊達が言う。
「10年前の堂島殺し、俺は上の意向無視して突っ走って。」
「結果、一課下ろされて今はつまらねえヤクザの相手してる。」
「お前と同じ。今じゃ組織の鼻つまみだ。」
「女房と娘も愛想尽かして出て行っちまった。」
「お前に関わったおかげで人生が狂ったんだ。」
「桐生、俺は今三代目の世良の殺しを追っている。」
「手ぇ貸せ。」


桐生が言う。
「あんたには助けてもらった借りがある。」
「だが今の俺には・・」


「東城会の100億が消え、三代目会長が殺された。」
「そしてさっきの騒ぎの中心はお前。」
「事件は動き出したんだ。」
「桐生一馬の出所を待っていたようにな。」
伊達は桐生に携帯電話を渡した。
「持ってろ。」
「今じゃガキでも持ってるんだぜ。」
「俺は100億を探ってみる。」
「お前はその由美って女か。」
「その2つのヤマは必ずどこかで繋がってる。」
「お互いに協力した方がいいんじゃねえか?」


「そうだな。分かった。」


伊達が聞く。
「お前、何か手掛かりはあるのか?」


「いや、とりあえず昔の馴染に会ってみる。」
「セレナって店だ。」


桐生は一人でセレナに向かった。
「いらっしゃ・・」


「久しぶりだな、麗奈。」


麗奈が驚く。
「桐生ちゃん!」


桐生は麗奈に一連の騒動を話して聞かせた。
「そうだったの・・風間さんが。」
「でも桐生ちゃん、突然来るんだもん。驚いちゃった。」


桐生が言う。
「麗奈、親っさんは俺に言った。」
「由美を頼むってな。」
「あいつの事、何か知らないか?」


麗奈が言う。
「あの時病院から疾走したって聞いてからは何も。」
「でもね、桐生ちゃん。」
「5年前、ここに美月って女の人が訪ねてきたの。」
「彼女、澤村由美の妹ですって言ってたわ。」


桐生が驚く。
「由美に妹が?」


「うん、でも妹がいたことは由美ちゃんも知らなかったはずよ。」
「由美ちゃんだけ生まれてすぐ生き別れになったんですって。」
「美月ちゃん、ちょくちょくここに顔出してくれてね。」
「そのうち由美ちゃんがいたこの店で働きたいって。」
「4年位いたんだけど、去年急に自分のお店を持つことになったの。」
「お店の名前は、アレス。」
「オープンしたら場所を知らせてくれるってことになってたんだけど、まだ連絡無いのよ。」
「こっちから聞こうにも連絡先変わっちゃってるみたいで。」
「彼女、由美ちゃんによく似てた。」
「会えば直ぐに分かると思う。」
「左胸に刺青入れてたわ。花模様の。」


桐生が言う。
「由美の妹らしくない。」
「邪魔したな。」


「またいつでも来てね。」
「私に出来ることなら何でも協力するから。」
「・・錦山君のこと、聞かないんだ。」
「それとも・・もう誰かから?」


桐生が答える。
「ああ。」
「自分の目で確かめるさ。」
「人が何て言おうがな。」


「ねえ、桐生ちゃん。」
「ミレニアムタワーって知ってる?5年前に建てられた。」
「そのタワーの裏に小さなバーがあるの。」
「マスターは飲食店の元締めみたいな人よ。」
「新しい店が出来たらマスターに必ず連絡が行くわ。」
「アレスの場所も、きっとね。」
「そのバーはバッカスっていう名前よ。」


桐生が再びバッカスを訪れると、バーテンダーと3人の客が殺されていた。
カウンターの影に銃を握りしめて座っている少女を発見する。
「あ・・あ・・あ!」


少女から銃を取り上げる桐生。
「何があった?」


「私が来たら・・みんな・・もう・・」
「お母さん捜して・・私、いろんなとこで聞いて・・」


桐生が言う。
「とにかくここを出るぞ。」


桐生は少女を連れてバッカスを出た。
「お前、母親はどこにいるんだ?」


少女が答える。
「分からない・・今日ずっと捜してたんだけど。」
「孤児院・・黙って出てきたんだ。」
「私は遥。お前じゃない。おじさんは?」


「ああ。桐生。桐生一馬だ。」
「孤児院にいるって言ったな。」
「本当に母親はこの街にいるのか?」


遥が言う。
「多分・・手紙にはそう書いてあったから。」
「でもまだお母さんに一度も会ったことない。」
「私が頼れるのはお母さんと由美お姉ちゃんだけ。」
「由美お姉ちゃんはお母さんのお姉ちゃん。」
「いつも手紙持ってきてくれた。」
「疲れたあ・・」


桐生は眠ってしまった遥を抱いてセレナに向かった。
「麗奈、この子を頼む。」


「熱があるみたいね。奥の部屋にいっててくれる?」
「今薬持ってくるから。」
桐生は遥を部屋の奥へ連れて行き、麗奈が持ってきた薬を飲ませた。


「さてと、薬も飲ませたしあとは寝ていれば大丈夫よ。」
「きっと一時的なショックと疲労が原因ね。」


桐生は麗奈に事情を説明した。
「そう・・ショックだったろうね。そんな怖い思いして。」


遥が目を覚ます。
「おじさん・・ここは?」


麗奈が言う。
「私のお店。よろしくね、遥ちゃん。」


「俺の友達で麗奈だ。」
「遥、さっき由美お姉ちゃんって言ってたな。」
「孤児院に手紙を届けに来てくれたって。」


遥が言う。
「うん。すごく優しいんだよ。由美お姉ちゃん。」
「毎月ヒマワリに来てくれてお母さんからの手紙とかお土産とか・・」


桐生が驚く。
「お前、ヒマワリにいたのか?」
「そして母親の姉は由美・・」
「お前のお母さん、名前は何て言うんだ?」


遥が答える。
「みづき。」
「知ってるの?お母さんのこと。」
「ねえ、お母さんどこ?どこなの?」


「いや、俺も捜してるところだ。由美のことも。」
「遥、由美の居場所は?」


遥が言う。
「ううん、分からない。」
「ねえ、おじさん。」
「私も一緒にいい?」


「さっきのところでお前の母親の店を聞こうとしてたんだ。」
「今は手掛かりが何もない。」


遥が言う。
「私知ってるよ。アレスでしょ?」
「私だけじゃどうしてもお母さんに会えないから。」
「ねえおじさん、いいでしょ?」


「他にどうしようもねえな。」


桐生は遥と一緒にミレニアムタワーの60階にあるというアレスへ向かった。
「遥、お前何で孤児院に?」


遥が言う。
「わかんないよ、そんなの。」
「どうしても迎えに来ることが出来ないって・・」
「手紙で何回も訳を聞いたんだけどそれしか・・」
「ただ最後に由美お姉ちゃんが来た時、お母さんからってこれくれたの。」
遥は桐生にペンダントを見せてくれた。
「でもその時思った。」
「私、本当にもうお母さんと会えなくなるかもしれないって。」


アレスの中に入ると遥の母親みづきの姿はなく、近江連合の組員がやって来た。
「あんた桐生さんでっか?元堂島組の。」
「お初にお目にかかります。」
「ワシ、五代目・近江連合本部の林言いまんねん。」
「噂はよう聞いてまっせ。」


桐生が言う。
「近江連合って事は錦山に頼まれたのか?」
「俺を狙ってるんだろ。」


その時、桐生の電話が鳴った。
「電話鳴ってまっせ。」
「どうぞ気にせんと取っておくんなはれや。」


桐生は電話に出た。
「伊達だ。桐生、100億のホシが分かったぞ。」
「由美だ。お前が追ってる由美がホシだ。」
「現場に指輪が落ちてたらしい。」
「10年前、お前から預かったあの指輪だ。」
「とにかく東城会は彼女とその共犯の女を追ってるそうだ。」
「明日セレナで話したい。大丈夫か?」


「ああ。」
電話が切れた。


桐生が林に言う。
「そうか。お前らも由美と美月を。」


「いや、ワシらが追っとんのはそこのお嬢さんですわ。」
「なんでかは言えまへん。」
「ワシも近江連合のもんですさかい。」
「桐生さん、大人しゅうその子渡したってえな。」
「ワレほどの男をこんな所で殺しとぉないんすわ。」


桐生が言う。
「あんた、ずいぶん気が早えなあ。」
「俺はこんなとこで殺されるほどヤワじゃねえよ。」


「さすがは桐生さんでんなあ。」
「ほな、しゃあないなあ。」
「おい、殺れや!ブチ殺したれや!」
桐生は襲いかかってくる近江連合の組員達を倒した。


―再び1996年―


錦山は妹が入院する病院の廊下で医師と話をしている。
「心臓移植?」


医師が言う。
「ええ。延命のための手術はもう限界です。」
「妹さんを助けるにはもうそれしか。」


「いくらかかるんです?」
「いや、いくらかかってもいい。」
「それで優子が助かんなら。」
「やってくれ、日吉先生!」


医師の名前は日吉公信。
東都大学医学部附属病院の第一外科に所属している。
「お金の件はわかりました。」
「ただそのためには適合するドナーが現れるのを待たなければなりません。」
「それに運良く見つかったとしても順番待ちがあります。」
「移植を受けられるまで一体何年待つことになるか。」


錦山が言う。
「何年もって・・それじゃ妹には間に合わねえ。」
「何か手はねえのか、日吉先生!」
「本当に手はねえのかよ!」
「なんとかしてくれよ!何でもするからさ!」


日吉が言う。
「本当に何でもする覚悟ですか?」
「では、臓器ブローカーの存在をご存知ですか?」
「私からそういう仕事をしている人間に連絡を取ることは出来ます。」
「ただその場合、手術費用とは別にまとまったお金が必要です。」
「3000万円ほど。」
「用意できますか?」


錦山は事務所に帰り、ソファに座っていた松重に土下座して頼んだ。
「松重、俺に金を稼がせてくれ。」
「3000万、どうしても必要なんだ。」
「やり方はお前に任せる。」
「だから頼む、力を貸してくれ!松重!」


「やり方は俺に任せる。」
「あんたそう言ったな?」
「初めっからそうやって頭下げりゃ良かったんだ。」
「なあ?」
「ほんじゃ・・これからは仲良くやりましょうや。」
錦山の頭を足で踏みつける松重。
「組長さん。」


数日後、夜の街中で錦山と松重が言い争いをしている。
「テメエ、柏木さんが世話してる組がケツ持ってる店にミカジメ取りに行ったっての本当か?」


松重が言う。
「おう、バッチリ稼いできてやったぜ。文句ねえだろ?」


「ふざけんな!なんでそんなことした?」


松重が言う。
「おいおい、そんなことも説明しねえと分からねえのかよ。」
「雨後の筍みてえに次から次へとビルが建ってた時代はとっくに終わってんだ。」
「これからは限られたシマを力で奪ってったモンが勝つんだよ。」
「柏木のカシラが文句言ってきたら組長、うまいこと言っといてくださいよ。」
「3000万・・どうしても用意してぇって言ったのはお前だろうが!」
「俺のやり方が気に食わねぇって言うならお前のやり方で今すぐにでも直系に上がってみろや!」
「何もできねえくせに偉そうな口きくんじゃねえぞ。」


錦山は柏木のところに一人で謝りに行った。
「馬鹿野郎!」
「テメェ、恩を仇で返す気か?」
「テメェの子分すらロクに躾けられねえのか!」


土下座をして謝り続ける錦山。
「すみません、すみません、すみません・・」


「ったく、風間の親父の耳に入る前で良かったぜ。」
「こんな情けねえ話で親父を失望させたくねえからな。」
「今回だけは不問にしといてやる。」
「次はねえからな。」
「桐生ならこんなことには・・」
「ま、とにかくしっかりやってくれ。」


肩を落として歩いている錦山のところに嶋野がやってきた。
「その様子じゃ柏木に泣くまで怒られたって感じやな。」
「聞いたで。」
「おどれの子分に手ぇ焼いとるようやのぉ、錦山。」
「せっかく風間の親っさんに色々と便宜を図ってもらったってのに。」
「やっぱりワシがおもてた通りや。」
「風間っちゅう男もえげつないことやりよるのう。」
「本気でお前を大事に育てる気ぃある親やったら、そんな連中選ぶはずないやろ。」
「ま、嫌な思い散々させてお前が音ぇ上げるのを待っとるんやろうな。」
「これだけは覚えとけ。」
「風間はな、桐生に組を持たせたいだけや。」
「桐生のやったことは絶対許されへん。」
「せやけどな、皮肉なもんやが桐生の評判はすこぶるエエで。」
「まあ大物殺ったっちゅうのはそれなりの貫禄がつくもんや。」
「娑婆に出たときはもうお前には手の届かんところにおるやろうな。」
「親殺しの外道でも貫禄さえつきゃ、それなりに上になれるんがワシらの世界や。」
「ひょっとすると目障りなくらいデカい組こしらえるかも知れん。」


錦山が言う。
「でも、柏木さんは桐生が出てきたら俺の組で面倒見てやれって・・」


「ドアホ!目ぇ覚ませ!」
「面倒見られんのはお前の方や。」
「まあでも、そん時は桐生もやりづらいやろうからのう。」
「お前の扱いには困るはずや。」
「人も殺せんガキが無理しても先はあらへん。」
「堅気にでもなれや。」


事務所に戻った錦山のところに松重がやってきた。
「失礼しますよ、組長さん。」
「ほら、今日の稼ぎだ。」
札束が入った紙袋を投げ捨てる。


「ご苦労だった。」


松重が言う。
「おいおい、もっと感謝してみせろよ。」
「今日の分だけでアンタの欲しがってた金額はクリアできてんだぜ?」


「そうか・・恩にきる。」


「そうそう、初めからそう言えよ。」
「ま、今日はでかい取立てが久々に出来たんだ。」
「組長さん、あんたラッキーだぜ。」
「ま、借金まみれでギャンブル狂いの医者にも感謝した方がいいな。」
「でもあの野郎も急に金ができたから返済するとかヌカしやがって。」
「一体何やらかしたんだろうな。」
「3000万だ。」
「親の遺産でも入ったのかねえ。」


錦山は松重が持っていた名刺を見る。
その名刺には東都大学医学部附属病院第一外科の日吉公信の名前が書かれていた。


慌てて東都大学医学部附属病院に行くが、日吉の姿はなかった。
ナースステーションで話を聞く。
「日吉先生でしたら、私達ナースも困ってるんです。」
「さっき急に院長に辞表を渡したとかで。」
「逃げるように出て行ったきり、連絡もつかなくて。」
「あの、何かあったんですか?」


病院を出た錦山はガックリと項垂れ両膝をつく。
「クソみてえなヤツにも頭下げて・・死ぬ気で金を用意したってのに・・」
「今までの時間は一体何だったんだ?」
「もう優子には時間がねえってのに・・」


桐生がアレスを出た翌日、セレナで伊達と会った。
「由美の妹ってのがアレスの美月でおそらくは100億の共犯。」
「そして遥はその娘だ。」
「行方不明だった由美はあの子だけは会っていた。」


セレナの電話が鳴る。
「ごめんなさい、桐生ちゃん。ちょっとお願い。」


桐生が電話に出た。
「セレナです。」


「あ、あの・・兄貴ですか?」
「シンジです。連絡取りたくて方々を回ってたんです。」
「実は今、風間の親っさんを連れて逃げてます。」
「あの後病院で手当したんですが、意識はまだ・・」
「でも兄貴、あの状況から見て親っさんを撃ったのは東城会のもんです。」
「親っさんの居場所が知れたらまた狙われるかもしれません。」
「今は信頼できる筋に隠れ家頼んでるとこです。」
「落ち着いたらまた連絡します。」
「連絡先はセレナで?」


桐生が言う。
「いや、携帯を持っている。」


電話が終わった後、伊達と話をする。
「桐生、何かあてはあるのか?」
「仕方ねえ、例の情報屋の所に行くしかねえか。」
「サイの花屋。この街の事は何でも知ってるって噂の情報屋だ。」
「だがそいつがいるのは例の西公園の中だ。」
「通称さいのかわら。」
「ホームレスが住み着いた公園だ。」
「奴はその賽の河原の中にいるらしい。」
「だが気をつけろよ。」
「あそこは警察も不介入の危険地帯だ。」


桐生は一人で賽の河原に行向かった。
今は使われていない地下鉄駅の入口を下って行くと繁華街があった。
その一番奥に情報屋サイの花屋がいた。
「桐生一馬、出所早々派手にやってるみてえだな。」
「何の情報が欲しい?」


桐生が言う。
「東城会の100億。それに由美と美月って姉妹の情報だ。」
「報酬はいくらかかるんだ?」


「情報集めるのも金がかかるんだよ。」
「どこにでも俺の手下はいる。」
「キャバ嬢のバンツの色から裏の取引。」
「表沙汰になってない殺しまで。」
「全て俺のところに話が入ってくる。」
「そして俺はその星の数程の情報を繋ぎ合わせて客の欲しい正確な情報を提供するんだ。」
「だから俺の情報は高い。」
「分かるよな?」
「10年前、堂島の龍って言やあ相当なもんだった。」
「俺はヤクザってのが死ぬほど嫌いでな。」
「だが情報屋ってのはとどのつまり、のぞき趣味でよ。」
「あんたが天下の東城会敵に回して何しでかすか。」
「実のところ興味津々なんだ。」
「だがタダで情報やったんじゃ他に示しがつかねえ。」
「俺はフェアじゃねえことは嫌いなんだ。」
「仕事をしてもらおう。」
「堂島の龍にしか出来ねえ仕事をな。」


桐生は地下闘技場に連れてこられた。
「金の使い道が思いつかねえ金持ち。血ぃ見るのが好きな変態どもがお得意様よ。」
「選手は殺しても殺されても問題ねえ。」
「ここは賽の河原だ。」
「三途の川もすぐ近くってな。」
「3人勝ち抜けば賞金が出る。」
「そいつを手に入れられれば、そいつを情報料として貰おうじゃねえか。」


桐生は地下闘技場で勝ち抜き、賞金を得た。
「次はお前が仕事する番だぜ。」


花屋の部屋に移動する二人。
「安心しろ。約束は守る。」
「東城会の100億と由美と美月って女の話だったな。」
「東城会三代目は金が盗まれたことを隠していた。」
「だがそれを錦山って直系組長が緊急幹部会で暴露したんだ。」
「三代目を殺したのは、俺は錦山だと踏んでる。」
「ヤツの動きは四代目の椅子を狙っているようにしか見えねえ。」
「だが今の東城会は群雄割拠だ。」
「三代目は死に、跡目もまだ決まってねえ。」
「となれば、100億取り戻した男が四代目だろう。」
「錦山のたった一言の引き金で共食いの泥沼。」
「任侠が聞いて呆れるぜ。」
「100億を奪ったのは由美って女だ。」
「こいつは匿名のタレ込みがあったらしい。」
「東城会で裏取ってるうち、妹の美月が事件の直前からアレス閉めて行方くらましてるのが分かった。」
「いよいよ本ボシってわけだが、二人とも見つかりゃしねえ。」
「それで・・」


桐生が言う。
「美月の娘、遥か・・」
「東城会は美月の娘を捜している。」
「遥は今、俺と一緒にいるんだ。」


花屋が言う。
「遥・・そうだったのか・・」
「おととい顔隠した妙な女が来てな。」
「そいつが捜してくれって言った子の名前が確か遥だった。」
「女の顔は見たが、俺にはそれが由美って女か美月って女かも分からねえ。」
「得体の分からん奴とは仕事も出来ねえからな。」
「丁重にお帰りいただいた。」
花屋の電話が鳴った。
「なんだ?」
「そうか、分かった。」


電話を切った花屋が桐生に言う。
「お前に客だ。」
「見に行くぞ。」
「足元注意しろ。」
花屋が座っているデスクのフロアごと地下に降りていく。
するとそこには無数の監視カメラの映像が巨大なモニターに映し出されていた。
「驚いていいぜ。」
「ここが賽の河原の本当の姿だ。」
「5年前、警視庁は50台のカメラを取り付けた。」
「テロ防止なんかが名目だが、所詮たいして役には立ってねえ。」
「だがよ、俺は実際にこの目で見てるんだ。」
「1万台のカメラを設置してな。」
モニターに伊達の姿が映し出された。
右肩から血を流している。
「奴の行動をたどってみるか。」
「伊達か・・なんとも落ちぶれちまったもんだ。」
伊達が映った映像が巻き戻され、10分前の映像になった。
伊達と遥が道を歩いていると、黒いワンボックスカーが横付けされた。
伊達は銃で右肩を撃たれ、遥は車で連れ去られてしまった。


桐生と花屋は伊達の元に向かった。
花屋を見た伊達が驚く。
「あんたが・・サイの花屋・・」


「久しぶりですね、伊達さん。」
「桐生、例の子をさらった車はバッティングセンターに停まった。」
「安心しろ。この情報料はツケにしといてやる。」
花屋は帰っていった。


伊達が言う。
「あいつは元警官だ。」
「警察の情報を横流ししてたのを俺が告発したんだ。」
「その後は知らねえが、こんなとこで会うとはな。」
「桐生、遥さらったのは真島組の奴等だ。」


「よりによって真島の兄さんか・・」
桐生は一人でバッティングセンターに向かった。


真島が現れる。
「久しぶりやのう、桐生チャン!」
「ワシャ嬉しゅうてたまらんのや。」
「堂島の龍と直接やり合える。」
「本物の命張ったケンカができる。」
「なあ、桐生チャンなら分かるやろ?」


「遥を返せ!」


真島が言う。
「別にええで。」
「そこのドア入ったところにおるわ。」
「言うたやろ?桐生チャン。」
「ワシャお前と勝負できりゃぁそれでええんじゃ。」
「なあ、もうこれ以上じらすなや桐生チャン。」
「行くでぇ。」


桐生は短刀を持って襲いかかってくる真島を倒した。
「やっぱりゴツイで、お前は・・」
「それでこそ桐生チャンや。」


遥は無事だった。
「おじさん・・怖かった、怖かったよ。」


「遅くなったな。」


遥を連れてセレナへ帰ると、傷の治療を終えた伊達が出迎えてくれた。
「すまなかったな、遥。」
「お前のことを守ってやれなかった。」
「怖かったろう?」


「うん。縛られて真っ暗な部屋に・・」
「でも外が急にうるさくなって、そしたら知らないオジサンが来て逃げなって・・」
「お礼を言ったら、ペンダントは持ってるか?って。」
ペンダントを見せる遥。
「これ・・由美お姉ちゃんが。」
「私、由美お姉ちゃんに聞いたの。なんでお母さんに会えないのって。」
「そしたらこのペンダントをくれたの。お母さんが持ってたって。」
「私にって預かってきたんだって。」
「大事なお守りだからこれ持ってることを知らない人に話しちゃダメだって。」


伊達が聞く。
「そのペンダントを知らないオジサンは欲しがったのか?」


首を横に振る遥。
「ううん、大事に持ってなさいって。」
「これには100億の価値があるんだよって。」


「見せてみろ。」
ペンダントを見る伊達。
「鍵付きか。無理矢理こじ開けるってのは・・駄目だよな。」


桐生が聞く。
「遥、そのオジサンの顔は覚えてるか?」


「真っ暗だったから全然。」
「でもその人、桐生のおじさんにペンダントのこと伝えてくれって。」


桐生が言う。
「俺の名前を?」
「何者か分からんが一つだけ確かなのは、俺達はいつの間にか事件の中心に置かれていたって事だ。」


セレナを出た伊達は一度警視庁神室警察署に戻った。
署に入るなり課長に呼び止められる伊達。
「課長・・何か?」


「ああ。ちょっと話がね。」
署長室に連れてこられた。
「何のお話でしょうか?」


署長が伊達に言う。
「10年前、君は独断である事件の捜査を進めその後のキャリアを滞らせた。」
「二度目がないことは分かっているね?」
「単刀直入に言おう。」
「今君が調べている事から直ぐに手を引くんだ。」


伊達が聞く。
「どの件でしょう?」


「交渉の余地は無いんだよ、伊達君。」
「今すぐ手を引きなさい。」
「話は以上だ。」


「失礼します。」
伊達は課長と一緒に署長室を出た。
すると奥から二人の背広を着た男性が出てきた。
「今のが伊達刑事かね?」
「どうだ、須藤君。」


須藤と呼ばれた男が言う。
「誘拐犯なんですね?伊達さんと一緒に居るのは。」


「そうだ。依頼主は明かせないが捜索願が出ている。」
「上から直接頼まれた異例の任務だが一課で引き受けてもらえないか?」


須藤が頷く。
「分かりました。」


その日の夜、伊達は一枚の写真を持ってセレナにやって来た。
「今朝東京湾に上がった女の水死体だ。」


写真を見た桐生が胸の刺青に気づく。
「この刺青・・」
「アレスに飾られていた美月の写真の胸にも同じものが・・」


「死因は頭部挫傷及び出血多量によるショック死。」
「死体はコンクリートの重石をつけられて沈んでいた。」
「かなりの拷問を受けている。」
「何とも言えんが、この刺青・・」
「美月の入れてた模様と一緒なんじゃないのか?」


写真の刺青部分を見ていた桐生が文字を見つける。
「これは・・」
「この辺り、よく見てくれ。」
「小さく歌って文字が見えないか?」
「こいつは二代目・歌彫の仕事だ。」
「この彫師は必ずどこかに自分の銘を入れるんだ。」
「俺の背中も彫ってくれた。」
「千両通りとピンク通りの間の龍神会館にいるはずだ。」
「写真の女が美月なら遥には酷だ。」
「あいつには伏せておく。」
桐生は一人で龍神会館に向かった。


「お久しぶりです。」
「先日出所して参りました。」


歌彫が言う。
「おう、桐生か。」
「で、世良の葬式であの大暴れか。」
「どうした?墨でも入れなおしに来たのか?」


「いえ・・」
桐生は女の水死体の写真を歌彫に見せた。
「この文様は・・月下美人だな。」
「一年に一晩しか咲かねぇって花だ。」
「この刺青、俺が彫ったって言いてぇのか?」
「確かにこれは俺の文様だが、最近は真似する奴も多い。」
「俺は彫った刺青は全部覚えてるんだ。」
「こいつは俺じゃあねえよ。」


電話が鳴り歌彫が出る。
「もしもし・・おう、お前か。」
「ああ・・いるぜ。」
桐生に受話器を渡す。
「錦山からだ。」


電話に出る桐生。
「桐生だ。」


「久しぶりだ。兄弟。」
「情報ってのは権力の大きい所に集まるんだ。」
「お前の居場所もすぐに分かる。」
「今の俺は欲しいと思った情報はたいがい手に入る。」
「美月の死体はもう見たか?」
「お前と一対一で話がしたい。」
「明日、夜の10時。セレナで会おう。」
電話は一方的に切れた。


「桐生、背中の龍に色入れ直してやる。」
「弱っちい龍じゃ今の錦山には勝てねえぜ。」
歌彫に刺青の色を入れ直してもらう。
「もう十何年も前か。」
「お前は龍を、そして錦山は鯉を背中に入れた。」
「刺青ってのは背負ってるそいつ自身が光らせるもんでな。」
「今、錦山の背中はすげえ色に輝いてるはずだ。」
「これでやっとあいつはお前と対等に張り合える。」
「黄河を泳ぐ鯉は山脈を経てやがて龍門に入る。」
「龍門を昇りきった鯉は龍に生まれ変わるんだ。」
「奴は龍門を昇りきろうとしている。」
「最後に龍になる為にはお前という相手が必要なのかも知れねえなぁ。」


龍神会館を出た桐生は一度セレナに戻った。
「錦山がここに?」
「遥は東城会に狙われてる。連れ出さねえとまずいぞ。」


桐生が言う。
「賽の河原が一番安全だろう。」


遥が話に入ってきた。
「行かないよ、私。」
「おじさん、さっきお母さんのこと調べに行ってたんでしょ?」
「なのになんで連れて行ってくれないの?」
「私、お母さんに会いたいの。」
「ここに遊びに来たんじゃないの!」
「このペンダントでしょ?」
「このペンダントがみんな欲しいんでしょ。」
「私なんてどうだっていいんでしょ?」
「おじさんだってきっと100億円欲しいから私と・・」
遥の左頬にビンタをする桐生。
「・・すまん。」
「遥・・今は俺を信じてくれ。」
「それしか言えない・・」


「私だって信じたい・・でも・・」
「私にはお母さんしかいないの!」
「おじさんが勝手にするって言うなら、私もそうする。」
「さよなら!」
遥は桐生の前にペンダントを置いてセレナを飛び出して行った。


桐生と伊達は遥を追いかけたが途中で見失ってしまう。
しばらく捜していると、黒いスーツの男が現れた。
「桐生さんに伊達刑事ですね。」
「お迎えする準備が整ったところです。」
「ご案内いたします。」


黒いスーツの男についていくとスターダストに連れていかれた。
「ここは・・スターダストじゃないか。」
「どういう事だ?」


「お入りになれば分かりますよ。」
中に入ると遥を連れた黒いスーツの男達が現れた。
「一輝たちはどうした?」


黒いスーツの男が答える。
「別室です。縛るくらいはしていますが、無事ですよ。」
「それよりお嬢さんが持っていたはずのペンダントは?」


手に持っているペンダントを見せる桐生。
「渡せば遥を返すんだな?」


「ペンダントをこちらに投げて下さい。」


「遥!すまない!」
桐生がペンダントを投げたと同時に伊達が遥を救出する。
しかし黒いスーツの男が撃った銃弾が遥の腕をかすってしまう。
「伊達さん!無事か?」


「いや、遥が・・クソ!浅いが腕を撃たれた。」
ペンダントは奪われ、遥は右腕を怪我してしまった。


それを見て怒った桐生は力ずくでペンダントを取り返した。
黒いスーツの男達は逃げていった。
「遥・・大丈夫か?」


「出血のわりには傷は浅い。大丈夫だ。心配ないだろう。」


遥が言う。
「おじさん、助けに来てくれたんだね。」
「ごめんね。私が勝手なことばかりするから。」


桐生が言う。
「遥、俺もお前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
「ちゃんと聞いてくれるか?」


「うん。」


「美月・・お前のお母さんなあ、もう・・死んでいたんだ。」
「すまない。俺は・・助ける事が出来なかった。」
「ごめん・・ごめんなぁ、遥。」


一輝達を助け出した伊達がフロアに落ちていたバッジを拾う。
「黒いスーツの男の胸についていたバッジだ。」
「俺はこの線から少し探ってみることにする。」


桐生と伊達は遥を連れて賽の河原にやってきた。
伊達が花屋に言う。
「なあ、この子をしばらくかくまって欲しいんだが。」


「おう、このお嬢ちゃんが噂の子か。」
「分かったよ。でもアンタに頼まれ事するのも妙な気分だな。」


古臭い小部屋に案内された。
「ここを好きに使うといい。」
「ま、外見はちょいとアレだが。」


桐生が言う。
「花屋、恩に着る。ありがとう。」


「まあいいって。」
「ここならヤクザも警察も攻めてはこねえ。」
「安心していいぜ。」


伊達が言う。
「桐生、俺は一度署に戻る。」
「明日は錦山と会うんだ。今日はもう休め。」


次の日、伊達が世良の殺害現場にいると警視庁刑事部捜査第一課長の須藤がやってきた。
「伊達さん、ここは世良の殺害現場です。」
「四課の伊達さんが何か?」
「10年前のあなたは私にとって目標だった。」
「的確な捜査、周到な計画、そして事件への執着心。」
「どれをとっても刑事として一流だった。」
「それが今、あなたの行動が理解できません。」
「私はあなたとあなたの協力者を監視しています。」
「これは忠告ですよ、先輩。」


「須藤、お前に真実は捕まえられやしない。」
伊達はそう言い残し現場を去った。


その日の夜、桐生がセレナに入ると麗奈がいた。
「麗奈、お前なんでここに?」
「これから錦が来るんだぞ。」


麗奈が言う。
「だからよ。」
「あなた達、殺し合いでもするんじゃないかと思って。」


しばらくすると錦山がやってきた。
「久しぶりだな、兄弟。」
「麗奈、酒を。」
「10年ぶりだ。お前とこうして飲むのも。」
「面会にも行かなくて悪かった。」
「俺も色々忙しくてな。」
「俺は・・どうしても100億を手に入れたい。」
「お前が連れているガキとペンダントを渡せ。」


桐生が言う。
「その前に答えろ。」
「なぜ美月を殺した?」


「殺す気は無かったんだ。」
「由美の妹を殺すつもりなんてな。」
「俺の部下が殺しちまった・・」
「10年間、俺は由美の行方を追い続けた。」
「由美の妹がセレナで働いていると知り、俺はずっと彼女をマークしてたんだよ。」
「いつかそこに由美が現れるんじゃないかってな。」
「巡り合わせだよなあ。」
「あの娘はヒマワリにいたんだ。」
「俺達が育ったあの孤児院にな。」
「美月はその後アレスを持ち、そして姿を消した。」
「ヒマワリにいた娘も。」
「そして東城会の100億が抜かれる。」
「だがな・・」
由美の指輪を取り出す錦山。
「そうだ。由美の指輪だよ。」
「こいつが現場で見つかったんだ。」
「由美はいる。」
「近くに、必ずな。」
「桐生、これは東城会の戦争だ。」
「お前一人でどうなるもんでもない。」
「悪いようにはしねえ。」
「ペンダントを渡してくれ。」


桐生が言う。
「あれは遥かにとって唯一残された母親との繋がりだ。」
「お前らの戦争なんて関係ねえ。」


「変わらねえな・・」
「だから由美もお前に魅かれたんだろう。」
「みんなお前の味方をする。昔っからな。」


桐生が言う。
「お前、俺の事を憎んでいるのか?」


「分からねえ。」
「だが結局俺はお前を裏切った。」
「風間の親父もな。」
「もう後戻りは出来ねえ。」


桐生が言う。
「まさか・・風間の親っさんを撃ったのは・・」


「ああ。」
「さすがにあん時ゃ手が震えた。」


錦山を殴り飛ばす桐生。
「なんでだ?」
「親っさんに世話になった恩はねえのか!」


「まだくたばっちゃねえだろ!」
「それに今はシンジも一緒だしな。」
盗聴器を桐生に投げつける錦山。


「お前、シンジを盗聴して・・」


錦山が言う。
「10年前のあの日から俺は誰も信じちゃいない。」
「俺は俺のやり方で東城会の頂点に立つ。」
「どうしても美月の娘をよこさねえなら、お前でも容赦はしない。」


「好きにしろ。だが遥は渡さねえ。」
「お前の道具になんかさせやしねえ。」


「今さらだが、お前とはもう一度一緒にやりたかった。」
「だが、もう今日限り兄弟じゃねえ。」
錦山はセレナを出ていった。


麗奈が言う。
「何でこんなことになっちゃったの?」
「ねえ・・なんで?」
そこに錦山組の組員達が殴り込んできた。
桐生は30人以上いる組員達を全員倒した。


桐生はセレナを出て賽の河原に向かう。
すると賽の河原で爆発事故が起きていた。
花屋に話を聞く。
「桐生・・すまん・・」
「奴等、まさかここまで派手にやってくるとはな。」


伊達は怪我をしている。
「ほんの1時間くらい前だ。」
「大きな爆発音とともに大勢の男が武器を持って乱入してきて・・」
「遥を奪われてしまった・・」
「すまねえ、桐生。」


花屋が言う。
「奴等ギャングの連中だ。」
「遥をさらっていきやがった。」
「この街の愚連隊だ。」
「ヤクザのやばい仕事なんかを引き受けてる。」
「赤・白・青の3つに分かれてるんだが、まとめて襲ってきやがった。」
「河原のシステムがダウンしちまってる。」
「遥をさらっていったのが何色なのか分からねえんだ。」


「ならシラミつぶしにするしかねえな。」
桐生は遥を捜しに出た。


ギャングのアジトに殴り込み、リーダーの男を問い詰める。
「どこだ?遥はどこだ!」


「俺等は・・金で雇われただけなんです。」
「ラウ・・劉家龍・・」
「蛇華のラウ・カーロンです・・」
「子供は中華街のラウさんの所に・・」


嶋野組の事務所で嶋野とラウ・カーロンが話をしている。
「そうかぁ、ガキを奪ったか!」


ラウが言う。
「ええ。今中華街の本部に監禁してます。」
「これで例のお約束、守っていただけるんですよね?」


嶋野が言う。
「おう。おたくの蛇華には30で文句ないやろ?」


「30?じゃあ嶋野さんは70って事ですか?」


嶋野が言う。
「いや・・ウチは50や。」


「なら残りの20億は?」


そこに五代目・近江連合の寺田がやってくる。
「おお、来たか。」
「なあラウ、紹介するわ。」
「これが五代目・近江連合の寺田ゆう男や。」
「錦山のアホからガキの情報持ってきたんがこの寺田や。」
「残りの20はコイツんところや。」


「そうでしたか。それはそれは・・」


嶋野が言う。
「錦山のガキ、まだまだ極道の怖さ知らんで。」
「歳が20も下のガキに出し抜かれるかっちゅうんじゃ!」


桐生は一度伊達と合流して一緒に横浜に向かう。
「劉家龍か・・蛇華まで絡んでくるとはな。」
「大丈夫だ、桐生。」
「ペンダントはともかく、連中が遥をどうこうする理由はねえはずだ。」


「伊達さん、遥は見たこともねえ母親捜しにたった一人であの街に乗り込んできた。」
「9歳の女の子がだ。」
「ただ母親に会いたい、その一心でな。」
「俺は10年前の事を思い出したんだ。」
「何より大事なものを守りたい一心で自分のしたことを信じてた時の気持ちを。」
「今思えば俺は・・逃げたのかもしれないとも思う。」
「その人間が背負うべき運命を見てられなくて・・」
「それを見届ける勇気がなくて・・」
「俺は奴の人生を無理矢理曲げちまったんだと。」
「だが心のどこかではこうも思うんだ。」
「運命に逆らった自分は正しかったはずだ。」
「大事なもん守るために必死になった人間はどんな壁だって乗り越えられるはずなんだってな。」
「美月が死んで、遥はあの小さい体で必死に歯を食いしばってる。」
「あいつが運命と闘うなら、俺はあいつの為に命張ってやろうと思うんだ。」


横浜中華街の蛇華のアジトに着いた。
「こいつがあの蛇華のアジト。」
「伊達さんは例の遥の捜査を探ってみてくれないか。」
「悪いが今の伊達さんじゃ足手まといになる。」
「すまない。」


「死ぬなよ、桐生。」
桐生は一人で蛇華のアジトに乗り込んだ。
次々と襲いかかってくる刺客を倒しながら奥の部屋に進んでいくと、そこにラウ・カーロンがいた。
遥は体を縛られ、口にガムテープを貼られている。
「そろそろ来ると思ってたよ、キリュウカズマ。」


「劉家龍・・なんでお前まで。」


ラウが言う。
「嶋野さんに頼まれてね。」
「なかなかでかいビジネスだ。」
「俺はそう言うのに鼻が利くんだよ。」
「お前等はこの娘の本当の価値を分かっちゃいない。」
「嶋野にしてもそうだ。」
「日本の極道ってのは本当に頭が悪い。」
「ペンダントは売りさばいたよ。」
「錦山にね。」
「ドケチな嶋野には売れんよ。」
「俺達にはこの娘さえいれば十分。」
「お喋りはここまでにしよう。」
「俺は力で蛇華をのし上がった男だ。」
「来な!マフィアの怖さを思い知らせてやる!」


桐生は劉家龍を倒し、遥を救出した。
「おじさん!」
「ごめんね・・ごめんね!」


そこに警官を引き連れた須藤がやってきた。
「桐生一馬!」
「誘拐の現行犯として逮捕する!」
桐生は須藤に逮捕され、遥は警察に保護された。


警察署で伊達が須藤に詰め寄る。
「何で誘拐になるんだ?須藤。」
「お前だって見たろ。あの子はあいつに誘拐されたんじゃねえ。」


「何度言われても同じですよ、伊達さん。」
「何があろうと桐生の釈放はありません。」
「伊達さん、だから言ったじゃないですか。」
「手を引けって。」
「では。」
須藤は去っていった。


伊達は遥を連れて桐生が留置されている拘置所にやってきた。
「おじさん!」
「ごめんね、おじさん。」
「こんなことになっちゃって。」
「私、本当はおじさんと一緒にいたかった。」
「だけどこれ以上おじさんに迷惑かけちゃいけないと思って。」


伊達が拘置部屋の鍵を開ける。
「遅くなって悪かったな。」
「こんなことしたらヤバイだろうなぁ。」
「だがもう遅せぇ。」
「逃げるぞ、桐生!」


拘置所から逃げ出し、伊達の車に乗り込む桐生と遥。
「やっちまったか・・」
「ま、どちらにしてもクビだったんだ。」
「遅かれ早かれな。」
「それよりこの事件、思っていたよりも根が深そうだぜ。」
伊達が運転しながらバッジを取り出す。
「これ覚えてるか?」
「遥をスターダストに連れ込んだ連中のバッジだ。」
「花屋によると、こいつは政府の地下組織のものじゃないかってことでな。」
「その線で調べてたら出てきたんだ。」
「内閣府の地下組織MIAってのがな。」
「ミニストリー・インテリジェンス・エージェンシー。」
「内閣が直接指揮を執る部隊だ。」
「政治の裏工作から要人の護衛。」
「責任者は、警察庁出身の代議士で神宮って男だ。」
「こいつが100億や遥とどう絡んでくるかは分からんがな。」


桐生が言う。
「政治家か・・」
「劉家龍が気になることを言っていた。」
「遥には100億以外の価値があると。」


伊達が言う。
「100億以外の?」
「どういうことか分からんが、もう一つとっておきの情報がある。」
「東京湾の死体だが、ありゃ美月じゃない。」
「鑑識で身元が判明したんだ。」
「全くの別人だったよ。」
「はっきりした証拠もある。歯型だ。」


「じゃあお母さんはまだ・・」


桐生が言う。
「そうだ。まだどこかで生きてるってことだ。」
「なあ遥、俺は由美を、お前は美月を捜している。」
「だがどんな危険があっても俺がお前を守る。」
「必ず母さんに会わせてやるからな。」


―1996年 錦山組事務所―


妹・優子の位牌の前で割腹自殺をしようとしている錦山。
短刀を握りしめた直後、松重がやってくる。
「なんだ、いるんじゃねえか。」
「おう、組長さんよ。」
「またシノギ広げることになったからよ。」
「金、使わせてもらうぜ。」
「おいコラ!聞いてんのか?」
「こっちがせっかく動いてやるって言ってんだぞ?」
「てめえ、いい加減にしとけよ?」
「返事もできねえのか?ああ?」
「あのな、おめえはどこまでヘタレなんだよ。」
「ったく、まだツレの桐生のが根性あったぜ。」
「まあヤツがやっちまったことはマズイっちゃマズイとしても、桐生は・・」


錦山は持っていた短刀で松重の腹を刺した。
「誰がヘタレだって?」
「誰が桐生よりも根性がないんだって?」
短刀に力を込める。
「冥土の土産に教えてやる。」
「堂島組長殺ったのは・・この俺だ!」
「覚えとけ。」
松重は絶命した。


「一人殺すも二人殺すも同じじゃねえか。」
「そうだよ・・とっくに道は決まっていたんだ。」
「堂島を殺し、桐生を見捨てたあの時から・・」
「やってやるよ。」
「俺は必ず頂点に立ってやる。」
「そのためなら・・何人だろうがぶっ殺してやる!」


夜通し車を走らせる伊達。
遥は疲れて眠っている。
「そうだ桐生、お前の携帯。」
桐生に携帯を渡す。
「シンジから伝言が入ってる。聞いてみろ。」


桐生は留守番電話を再生した。
「シンジです。」
「さっき錦山組のもんから聞いたんですけど、兄貴の情報、錦の叔父貴に筒抜けみたいで。」
「そばに怪しい奴がいるはずです。お気をつけて。」


「伊達さん、花屋のところに行ってくれないか。」
桐生と伊達は花屋のところに向かった。
「おう、お前。無事だったのか!」
「どうした?」


桐生が言う。
「一つ頼みがある。」
「もっと早く気がつくべきだった。」
「歌彫のところに行った時、錦は俺宛に電話をかけてきた。」
「あいつには俺の動きが見えていたんだ。」
「それに水死体が美月あないならペンダントの秘密は誰から?」
「由美は失踪中。遥と錦山が接触した事もない。」
「なら・・」
「花屋、セレナの4日前の監視カメラの映像を見せてくれないか。」


監視カメラの映像を見る。
桐生と伊達がセレナを出た後、麗奈が電話を持った。
「今桐生ちゃんが出ていったわ。」
「なんか彫師の・・そう、歌彫。」
「ええ・・分かった。それじゃ。」


花屋が言う。
「お前がここに来る前、遥を捜して欲しいって女が来た。」
「この話、覚えてるか?」
「この女だ。」


桐生が言う。
「伊達さん、行こう。セレナへ。」


桐生と伊達がセレナに入るが麗奈の姿が見当たらない。
手紙が残されていた。
「桐生ちゃん。」
「このメモを見ていたらもう分かってるよね。」
「そう、錦山君に情報を流していたのは私。」
「本当にごめんなさい。」
「私、錦山君の事を愛していた。」
「彼に振り向いて欲しかった。」
「あの人が望むことは何でもしてあげたかった。」
「それがどんなにいけない事かは分かってたはずなのに。」
「ほんと馬鹿だよね。」
「でもあなた達に会って何が大切なのかを思い出した。」
「今更だけどね。」
「私は責任を取りに行こうと思う。」
「私なりの責任を。」


桐生の携帯電話が鳴った。
「シンジか?お前どうした?」


「麗奈さんです。兄貴を裏切っていたの・・」
「麗奈さん、セレナに錦山さん呼び出して撃とうとしたんです。」
「今俺と逃げてます。」
「ミレニアムタワー・・賽の河原が見えます。」


桐生が言う。
「シンジ、待ってろ。」
「直ぐに行く。それまで絶対に死ぬなよ!」


セレナに伊達と遥を置いて、桐生は一人でミレニアムタワー方面に向かった。
ミレニアムタワーの側のビルの屋上にいると連絡が入り、すぐに向かう。
シンジは錦山組の組員に左脇腹を撃たれてうずくまっていた。
「兄貴・・」


錦山組の組員の男が言う。
「桐生さん、邪魔しないでください。」
「これ以上あんたに組荒らされたくないんだ!」


「お前、シンジに銃向けて恥ずかしくないのか。」
「お前等の兄貴分だろ。」


錦山組の組員の男が言う。
「悪いのは田中の叔父貴です。」
「親に背ぇ向けて、組裏切って!」


「錦は東城会を裏切ってる。」
「本当の裏切り者はどっちだ?」


錦山組の組員の男が桐生に銃口を向ける。
「うるせえ!」
「俺達には親が絶対なんだ。」
「親殺しが口挟むんじゃねえ!」


「撃ちたきゃ撃てよ。」
組員の銃を握る手が震えている。
「シンジは撃てて俺は撃てねえのか?」


そこに東城会直系錦山組若中の荒瀬和人がやってくる。
「なにチンタラやってんだ、馬鹿野郎!」
左胸を撃ち抜かれ絶命している麗奈の死体を桐生の前に放り投げる。
「さっさと弾いて終わらせろや!」


桐生は怒り、天に向かって吠えた。
荒瀬率いる組員達をなぎ倒す桐生。


「兄貴・・すんません・・最後まで・・」
「風間の親っさんはアケミって女に預けました。」
「俺の・・女です・・」
「兄貴・・これを・・」
由美の指輪を取り出したシンジはそのまま絶命した。


「シンジ・・!」
「シンジィィィ!!」


花屋のところにシンジと麗奈の死体を運び込む。
「残念だったな、シンジと麗奈は。」


桐生が言う。
「ここ以外に頼れるところが無かったんだ。」


花屋が言う。
「分かってる。できる限り手厚く葬ろう。」


そこに伊達と遥がやってきたので風間の居場所を話した。
「アケミ?」


「そうだ。シンジは確かにそう言っていた。」


伊達が言う。
「しかしそんな名前の女、幾らでもいるぞ。」
「それだけじゃなあ・・」


花屋が言う。
「いや、そうでもねえ。」
「錦山組の田中の頭は実は風俗好きでな。」
「ここ何年か奴が通ってる店がある。」
「桃源郷ってソープだ。」
「そこのナンバーワンが確か・・アケミ。」
「ただしだ、そこは普通の店じゃあない。」
「ビル一軒丸々ソープになってるが、看板もねえしパッと見じゃそれと分からねえ。」
「しかも一回遊ぶのに100万はかかる。」
「現役のタレントやらモデルやらが働いているんだ。」
「選ばれた人間の遊び場さ。」


遥が聞く。
「おじさん、ソープってなに?」


「そのー、まあ・・風呂屋だ。」
「いや、サウナか?」


遥が更に聞く。
「銭湯ってこと?」


「いや、それとも少し違って、その・・」


戸惑う桐生に追い打ちをかける遥。
「おじさんは行ったことあるの?」


「ん?ああ・・」
「ま、いやぁ・・んー・・」


遥が笑っている。
「ウソ。私どんなとこか知ってるよ。」
「何日も歩いてたんだから。」


「こりゃあ一本取られたなあ。」


桐生は桃源郷の会員証を手に入れ、遥を連れて桃源郷に向かった。
「あのー、お客様。お子様連れはちょっと・・」


桐生が言う。
「社会見学の一環だ。大目に見てくれ。」


「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑になりますので・・」


ロビーに置いてあった石像をパンチで粉々に砕く桐生。
「絶対に迷惑はかけない。」
「いいよな?」


「かしこまりました・・」
「では当店のご案内をさせて頂きます。」
「女の子達は空室の札が立った部屋におりますのでご注意下さい。」
「ではごゆっくり。」


ビルの中の部屋でアケミを見つけた。
「いらっしゃいませ。」
「アケミです。」


「桐生だ。」
「シンジから聞いてないか?」


アケミが言う。
「桐生・・?あなたが?」
「それじゃ・・シンちゃんはもう・・」
「そう・・」
「最後に会った時、彼言ってたの。」
「自分にもしものことがあったらあなたが訪ねてくるかもしれないって。」
「いつもふざけてたあの人が急に真剣な顔してね。」
「そっか・・」
「シンちゃん死んじゃったんだ。」
「おかしいと思った。」
「だってね、あの人急に今やってることが片付いたら結婚しようなんて言ってさ。」
タバコに火を付けるアケミ。
「風間さんね・・」
「確かにここにいたんだけど、シンちゃんの知り合いが来て連れて行っちゃったの。」
「近江連合の寺田さん。」


桐生が驚く。
「近江連合?そいつは本当にシンジの知り合いなのか?」


「うん。シンちゃんは信頼してた。だから私も・・」
「場所は芝浦よ。」
「埠頭に止めた船に連れて行くって言ってたわ。」
「それともう一つ。」
「シンちゃんこう言ってたわ。」
「錦山組は100億の他に世良会長の遺言状を探している。」
「それに次の四代目が指名されているんだって。」
「シンちゃんはそう言ってたわ。」


「遺言状・・そんなものが・・」
「それじゃあ錦はそいつを握りつぶそうと・・」


その時、真島が運転するトラックが桃源郷のビルに突っ込んだ。
「イイ音聞かせろや!」
ゴォォン!!!


真島が乗り込んでくる。
「よう、桐生チャン!捜したでぇ。」
「この間の続きや。ココで決着つけようやないの。」
「桐生チャンよぉお!」


桐生は襲いかかってくる真島を倒した。
「桐生・・ホンマ・・ゴツイわ。」
「お前・・は・・」
真島は気を失った。


アケミを賽の河原に連れていき、花屋からシンジの遺骨を手渡した。
その様子を見ている伊達が言う。
「あの女がアケミか。」
「辛いだろうな・・」


「伊達さん、風間の親っさんの居場所が分かった。」
「芝浦の埠頭だ。」
「近江連合の寺田って男がかくまっているらしい。」
「なんで近江連合なのか分からんが、シンジが命がけで親っさんを預けた相手だ。」
「信じるだけの価値はある。」


伊達が言う。
「桐生、MIAが・・神谷が目立って動き始めている。」
「さっき本庁に呼ばれてお前の事、根掘り葉掘り聞かれた。」
「恐らく神宮から圧力がかかったんだ。」
「クビになってもおかしくねえのに奴等、俺がお前とつるんでる内はクビにできねえんだよ。」
「行くんだろ、桐生。芝浦に。」


「ああ。」
桐生は遥を連れて芝浦埠頭に向かった。


停泊してある船の中に入ると五代目近江連合の寺田がいた。
「五代目近江連合の寺田と申します。」
「桐生さんと同じく、俺も風間さんには返しきれない恩が。」
「風間さんがお待ちです。」
「こちらへ。」


奥の船室に入ると風間がいた。
「よく来たな、一馬。」
「すまなかった。苦労をかけたな。」
「あの寺田って男はもともと俺と同じ元ヒットマンだ。」
「近江連合本部長の肩書で東城会に探りを入れてもらってた。」
「特に錦山をな。」
「なあ一馬、これからこの10年間に隠された全てを話す。」
「いいな?」
「その子の母親の美月は・・由美の妹じゃない。」
「由美は・・由美は美月なんだ。」
「お前達が美月だと思って捜してた女は由美だったんだ。」
「美月は5年前から由美が演じ続けた姿なんだ。」
「その子の母親は、由美だ。」
「その子は正真正銘、由美の子なんだ。」


遥が驚く。
「由美お姉ちゃんが・・私のお母さん。」


「由美の相手、その子の父親は神宮京平だ。」
「9年前の写真だ。」
「由美が抱きかかえているのは遥。」
「横に写っているのが神宮だ。」
「由美が事件のショックで記憶を失ったことは知ってるな?」
「事件の翌日、由美は何も分からないまま病院を飛び出した。」
「だがあの子の身体は覚えていたんだよ。」
「自分が生まれ育ったヒマワリの場所をな。」
「俺は連絡を受け、すぐに由美を手元に引き取ったんだ。」
「そしてあの子の記憶を戻してやろうとした。」
「何枚もの写真を見せた。」
「錦山の写真を見た由美は激しく動揺した。」
「俺はその時分かったんだ。」
「堂島組長を殺したのが本当は誰だったのかをな。」
「そして錦山には由美の存在を知らせず、彼女の世話をすることにしたんだ。」
「神宮は世良と深い繋がりがあって、よく東城会に出入りしていた。」
「その時偶然由美に出会ったんだ。」
「政界を目指す神宮は世良から裏でバックアップを受けていたんだ。」
「神宮は由美に出会い、恋をした。」
「そして記憶を失っていた由美は、心の隙間に入ってきた神宮を受け入れた。」
「俺は止めることが出来なかった。」
「もし神宮と幸せな生活が送れるなら極道社会とは縁が切れるかもしれない。」
「運命を変えられる転機なのかもしれない。」
「そう考えると由美の幸せは神宮との生活の中にあるような気がしたんだ。」
「そして由美は神宮の子を産んだ。」
「それが遥だ。」
「だが神宮の元に総理の娘との縁談が舞い込み、その時籍を入れてなかった由美は自ら身を引いた。」
「神宮のためを思ってな。」
「だがそれが歯車を大きく狂わせていったんだ。」
「所詮神宮が手に入れた権力は他人から与えられたものだ。」
「だが奴はそれを守るために少しずつ変わっていった。」
「自分の中では正当化しながら。」
「その後由美と遥は俺がまた面倒を見ていた。」
「そしてある日、世良に神宮から緊急の電話が入ったんだ。」
「死体をひとつ始末してほしいと。」
「神宮ははずみで起こった事故だと言い張ったそうだ。」
「死体はフリーの記者で神宮のスキャンダル・・由美と遥の件で強請ろうとしてきたらしい。」
「世良は記者の家からメモや写真を奪い、全て灰にした。」
「だが神宮にとって、まだこの事件は終わってなかったんだ。」
「神宮は世良に由美と遥を殺すように依頼した。」
「幸か不幸か・・世良が放ったヒットマンに銃口を向けられた由美は、その時全ての記憶を取り戻したんだよ。」
「俺は由美と遥を間一髪で助けることができた。」
「その後俺は世良を説得し、由美と遥を神宮の目から欺く工作をした。」
「俺と世良は遥をヒマワリに入れ、由美を美月へと変身させた。」
「ニンベン師・・偽造屋を雇い由美の顔を変え、架空の戸籍や記録を創り上げてな。」


桐生が言う。
「でも親っさん、何で由美は東城会の100億を盗んだんですか?」


「あれは東城会の金じゃない。」
「神宮の100億だったんだ。」


その時、寺田が駆け込んできた。
「風間さん、嶋野組の連中が!」
「ここはやばいです!」


ドゴォォン!
嶋野組の組員達が手榴弾を船に投げ込んでいる。
「嶋野め・・無茶しやがる・・」


桐生達が船外へ避難したところに嶋野が現れる。
「はっはっは!」
「やっと会えたなあ、桐生!」
「それと・・風間!」
「コソコソしやがって。」
「寺田はん、あんた・・」
「錦山裏切ってワシにつくフリみせてたけどなぁ。」
「そんなん裏の裏まで全部お見通しや。」
「ずっと見張らしてもろてましたわ。」
「お前等といい錦山といい、ホンマ脇が甘いわ。」
「ガキはもらってくでぇ。」
「お前等はここで終いやけどなあ。」


風間が言う。
「嶋野よ。お前さんも相当脇が甘いぜ。」
柏木がトラックを横付けし、トラックの中から風間組の組員達が降りてくる。
「遅いぞ、柏木。」


柏木が言う。
「へへ。もうすぐクリスマスですしね。」
「屈強なプレゼントをお持ちしましたよ。」
「桐生、ずいぶん苦労したみてぇだな。」


嶋野が言う。
「フフ、何や?」
「風間組はやる気みたいやなあ。」
「よっしゃあ!」
「血の雨降らしたるわ!」


桐生は襲いかかってくる嶋野を倒した。
「これまでだ、嶋野。」


嶋野はそばに落ちていた手榴弾を風間と遥に投げつけた。
寺田が嶋野を撃ち、嶋野は絶命する。
風間は遥を庇って手榴弾の爆発をもろに受けてしまった。
「一馬・・遥は無事だぜ・・」
「100億の話を・・」
「一馬・・金を盗んだのは・・由美と俺と世良なんだ・・」
「100億は神宮の金だ・・」
「奴は・・東城会を使って闇の金を洗ってた。」
「マネーロンダリングだ・・」
「俺は奴を失脚させるために、その100億を・・」
「そして由美は・・その計画に志願したんだ。」
「アレスに急げ、一馬。」
「由美が危ねえ・・」
「それから・・これは三代目の・・遺言状だ。」
「世良が神宮と手を切るには奴が裏でためこんだ100億を取り上げて失脚させるしかなかったんだ。」
「命の危険を悟った世良は遺言状を俺に託した。」
「しかし遺言状には後継者の名前が書かれていなかった。」
「世良はこう言った。自分は東城会を仕切る器じゃない。跡目は俺が決めてくれと。」
「東城会の、極道の未来を託せる男をと・・」
「東城会の・・未来がここにある。」
風間は桐生に遺言状を託した。
「一馬・・俺はお前に・・謝らなきゃならない事がある。」
「許してくれ、一馬・・」
「お前の・・肉親を殺したのは・・俺なんだ。」
「ヒマワリは・・俺が肉親を殺した子供のための施設・・」


桐生が泣きながら言う。
「いいんだ。いいんだ親っさん。」
「俺にとっちゃ・・親っさんが本当の・・親父でした!」
風間は絶命した。


桐生と遥はアレスに向かった。
桐生達より先に伊達と須藤がミレニアムタワーに来ていた。
屋上にあるヘリコプターの前にいる。
「急ぎましょう、伊達さん!」
「時間が無いです、早く!」


伊達が言う。
「須藤、お前・・」
「こんな事して大丈夫なのか?」


「横浜で伊達さんに言われて気になったんです。」
「それで自分で神宮を内偵してみたら、神宮が世良と繋がっている事が分かりました。」
「あの100億は神宮の金だったんです。」
「ですが私にはもっと別の裏があるように思えるんです。」
「神宮はあの金を取り返して何に使うのか・・」
「別の組織と繋がっているのかもしれない。」
「東城会とMIA・・それ以外の組織の影を感じるんです。」
「刑事の勘って奴です。」
「ま、私も伊達さんの弟子ですから。」
「私達も自分の目で確かめに行きましょう。」


桐生と遥がアレスの中に入ると、由美がいた。
「由美・・」


由美が驚く。
「一馬!・・遥!」


遥が由美に駆け寄る。
「お母さん・・お母さんなんだよね?」


遥を抱きしめる由美。
「遥!ごめんね・・」
「辛い思いさせてごめんね!」
「私ね、お母さんね、本当はあなたと一緒にいたかった。」
「でもね、自分がお母さんだって言う事が出来なかったの。」


「いいよ、お母さん。分かってるから。」
「私、嬉しいよ。」


桐生が遥の頭を撫でる。
「良かったな、遥。」


由美が桐生に体を寄せる。
「お帰りなさい、一馬。」


「ああ。遅くなって悪かったな、由美。」


ヘリコプターの音がした。
「きっと彼が来たのよ。」
「奪われたものを取り返しに。」


ビルの屋上にあがるとMIAのヘリコプターから神宮が降りてきた。
「久しぶりじゃないか、由美。」
「それに遥。」
「こうして会うのは初めてだね、桐生一馬君。」
「初めましてと言うべきか。」
「さようならと言うべきか。」
「フフフ、君には苦労させられたよ。」


由美が言う。
「100億を取り返しに来たのね。」


「ああ、そうだ。当然の話さ。」
「それは元々私の金だからねえ。」
「それに他にも色々処分しにきたのさ。」
神宮は遥に銃口を向けて引き金を引いた。
桐生はとっさに遥を庇い、右肩に被弾してしまった。
「神宮ぅ・・お前!」
「お前・・どうして・・」
「どうして自分の娘を撃てるんだ?」


「馬鹿な男だ。」
「まあヤクザなど皆こんなもんか。」
「仕方ない事さ。」
「その子供は私にとって邪魔者でしかない。」
「私の今後、いや、この国の今後の為には必要のないものなのだよ。」


桐生が言う。
「自分が愛した女と出来た子をどうしてそんな簡単に・・」


由美が言う。
「一馬、この人にはそんなこと言っても無駄よ。」
「この人の頭の中にはそんな感情は無いの。」
「自分が出世することしか考えてない。」


「何を分かったような事を言っているんだ。」
「私に捨てられた女に何が分かるというんだ?」
「知ったような口を叩くんじゃない。」


由美が言う。
「私には分かるわ。」
「どうして世良さんがあなたを裏切ったか。」
「あなたは国のため、政治のためと言って全てを切り捨てて生きている。」
「でもね、それは全部言い訳。」
「結局は自分がのし上がるための理由でしかない。」
「そんな信念はすぐに嘘と分かってしまう。」


「ふざけるな!」
「お前や世良ごときに私の何が分かるというのだ。」


由美が言う。
「あなたには何を言っても無駄ね。」
「自分が恥ずかしくないの?」


神宮が由美に銃口を向ける。
「随分な言いようじゃないか。」
「でももうそんな事はどうでもいい。」
「ここでお前等は終わりなんだからなぁ。」


そこに寺田が組員を連れてやってくる。
「そうかなあ、まだ終わってへんのちゃうか?」
「これで力は五分五分や。」
「風間さんの意思はまだ生きとるんやで。」


神宮が高笑いをする。
「これだから頭の無い極道は困る。」
「やれ!」
近江連合の組員が寺田を拘束する。
「そうだよ。」
「私は東城会から近江連合に鞍替えしたんだ。」
「バックの組織をな。」
「私は着々と進めていたんだ。」
「東城会を捨てて近江連合と協力関係を築く計画をね。」
「寺田、お前は近江連合の五代目に踊らされていただけなんだよ。」
「もう1年前から話は進んでいたんだ。」
「五代目と私の間でね。」
「私は世良が私を裏切る事は分かっていた。」
「彼は融通の利かない男だったからね。」
「理想を求めずっと私を支援してきてくれたが、結局は現実の前にくじけたんだ。」
「君等に政治の話をしても分からないだろうが、国を動かすには金と力が必要なのだよ。」
「私にとって彼はその力だった。」
「だが彼は変な信念のために私の理想から離れていったのだ。」
「数年前、殺してくれたと思っていた由美が生きていると言う事を知った私は世良、いや東城会を捨てる腹心算でいたんだよ。」
「私は近江連合に話を持ちかけた。」
「近江連合としては私の政治力は魅力だ。」
「政治と裏社会、このふたつを牛耳ることができたら日本を操ることなど造作もない事だからな。」
「その100億は近江へと渡る。」
「私としては東城会も潰れてくれて正に一石二鳥という訳だ。」


桐生が言う。
「じゃあ錦も踊らされてたって言うのか?」


「そうだよ。」
「彼に100億の話を吹き込んだのは私だ。」
「出世欲に取り付かれた若造にエサを見せて動かしただけだ。」
「彼は見事にその役目を果たしてくれた。」
「世良の暗殺から内部抗争までね。」
「そして更に嬉しい誤算があった。」
「君だ。」
「君が現れてくれたおかげで東城会は崩壊寸前だ。」
「本当にお礼を言いたい気分だよ。」
「悔しいだろ?だがな、もう遅い!」
「私は近江連合と手を組み、日本国の頂点に立つ。」
「近江連合は裏社会を統一し、その全ての力を私が得る。」
「私の理想が叶うのだ!」


「そんな事はさせないわ・・」
由美は持っていたアタッシュケースを開いた。
アタッシュケースの中には爆弾が入っていた。
爆弾にはタイマーがついていて、起爆するためのリモコンもある。
暗証番号を入力して起爆スイッチの解除ができるようだ。
「もうこれであなたは私を撃てない。」
「これが爆発すれば店の中にある100億も一緒に消えて無くなる。」
「私は100億をあなたには渡さない。」
「一緒に爆発してこの世から消すわ。」
「人間は損得勘定だけじゃ動かない。」
「もっと熱い、もっと強い気持ちがあって初めて動くものなの。」
「昔のあなたにはそんな気持ちがあった。」
「だけど権力を持つことや出世することにあなたは溺れたの。」
「一馬、遥をこっちに。」
由美と遥はアレスの中に入っていった。


桐生が言う。
「これで由美と遥には手出し出来ねぇなぁ、神宮。」
「なあ、神宮。」
「世良会長はな、あんたが何を考えているかなんてお見通しだったんだよ。」
「会長はあんたに気づいて欲しかったんだ。」
「昔の強い信念があったときのあんた自身を。」
「だから自分の命を危険にさらしてまで100億を盗んだ。」
「あんたから取り上げようとしたんだ。」
桐生は世良の遺言状を取り出した。
「あんたは遺言状の存在を錦にちらつかせ内部分裂を画策したんだろうが、本当にあったんだよ。」
「会長と親っさんが命がけで残したんだ。」
「俺は風間の親っさんや世良会長が残してくれたもんを守る!」
遺言状をひろげると、そこには桐生一馬の名前が刻まれていた。
「俺は東城会四代目、桐生一馬だ!」


襲いかかってくる近江連合組員をなぎ倒していく桐生。
そこに伊達と須藤がヘリコプターで駆けつけた。
上空から拡声器を使って伊達が言う。
「無事か、桐生!」
「神宮京平!」
「今四課が逮捕状を請求した。」
「贈収賄、銃刀法違反、殺人教唆・・お前はもう終わりだ!」


神宮が言う。
「こうなった以上全員死んでもらう他無い!」
「覚悟はいいね?」


桐生は襲いかかってくるMIAと神宮を倒した。
桐生がアレスに戻ると由美と遥が出迎えてくれた。
そこに錦山がやってくる。
「終わったか。」
「これでようやく落ち着けるな。」
「何だそりゃ、爆弾か?」
「由美、馬鹿なことはやめろ。」


由美が言う。
「駄目よ。100億はあなたに渡さない。」


「由美、お前そんなに俺のことが憎いのか。」
「まあそうだろうな。当然の話しか。」


桐生が言う。
「錦、お前まだ諦めていないのか?」


「当たり前だ!」
「俺はどんな犠牲を払っても東城会の跡目になる。」


桐生が言う。
「なあ錦、それは無理だ。お前、神宮に踊らされていたんだ。」
「神宮の本当の目的はな・・」


「んな事ぁ分かってる!」
「分かってたんだよ、俺は。」
「言ったろ、桐生。」
「俺は10年前、お前を裏切ったあの日から誰も信用しちゃいねえってな!」
「神宮が俺に話を持って来たときから信用しちゃいなかったんだ。」
「俺は負けたくなかったんだよ。」
「俺はお前に負けたくなかったんだよ、桐生。」
「俺は由美を愛してる。」
「だが由美は一度も俺を振り向いてはくれなかった。」
「由美の中にはお前しかいなかった。」
「10年前の事件の後、俺の目の前からお前という存在が消えた。」
「その時俺は決意したんだ。」
「運命を変えるためにどんな犠牲も払うってな。」
「俺は100億を手に入れ東城会を継ぐ。」
「そしてお前から由美を奪い返す。」
「それで初めて俺の運命が変えられるんだ!」


由美が言う。
「錦山君、やっぱり分かってない。」
「そんな事して何になるの?」
「そうやって変えた運命じゃ幸せになんてなれない。」
「あなたは自分に都合の悪い事から逃げてるだけ。」
「本当に運命を変えたいなら辛いことも全て受け止めて、それでも逃げないで立ち向かう事なんじゃないの?」
「一馬や遥のように!」


「うるさい!」
「どうしてお前は俺を認めてくれないんだ!」


桐生が言う。
「錦、俺にはお前の苦しさが分かる。」
「俺は一番大切にしていたお前達を失った。」
「もう戻ろうと思っても10年前に戻ることは出来ねえ。」
「もうその運命から逃げる事は出来ない。」
「だから、決着をつけよう。」
「俺達の闘いに。」


桐生は錦山をコテンパンに叩きのめした。
「一馬!」
桐生に駆け寄り抱きつく由美。
桐生は錦山から取り戻した遥のペンダントを由美に渡した。
由美は鍵を取り出しペンダントを開く。
するとそこには桐生の写真が入っていた。
「ごめんね、私・・」
「あなたの事、ずっと忘れられなかったの。」
「記憶を取り戻した後も、こうしてあなたの事を。」
「私、弱い女だった。」
「記憶を失ってからも本当はあなたの事だけはうっすらと覚えていたの。」
「名前は思い出せない。」
「でもあなたの笑顔や仕草が浮かんでいた。」
「でも誰だか分からない。全てを思い出せない。」
「そんなあなたの事を待ち続ける事が出来なかった。」
「だから神宮の事を・・」
「でもね、遥は何もかも失った私にとってたったひとつの宝物だった。」
「だから遥とお別れに行った時、思わずこのペンダントをあげてしまったの。」
「私の一番大切なものを持っていて欲しかったから。」
「遥・・私のせいで怖い思いさせてごめんね。」


首を横に振る遥。


「一馬、私まだやらなきゃいけない事があるの。」
由美が柱の影にあるセンサーにペンダントをセットすると壁が横に開き、隠し部屋が現れた。
そこには100億円が現金で積まれていた。
「このお金はあってはならない。」
「だからもう消そうと思うの。」
由美が爆弾の起爆タイマーをセットして部屋を出ると神宮が再び現れた。
「桐生ぅ!」
桐生に向けて引き金を引く神宮。
遥が両手を広げて桐生の前に立ちふさがる。
その遥をさらに由美が庇う。
由美は神宮の凶弾を左下腹部に受け倒れ込んでしまった。
「由美ぃ!」
桐生が由美を抱きかかえる。
「しっかりしろ、大丈夫か!」


錦山が起き上がり、神宮の右下腹部をサバイバルナイフで刺す。
「こんな奴に好きにさせて・・たまるかよ。」
神宮にナイフを突き刺したまま100億が積まれた隠し部屋まで押し込む。
「最後のケジメくらい俺につけさせろや。」
神宮が持っていた拳銃を拾い上げた錦山は爆弾が入ったアタッシュケースに向かって発砲した。


ミレニアムタワーの最上階が大爆発し、神室町に100億円の雨が降った。
空から降り注ぐ100億円の雨に発狂する人々。


桐生達は物陰にいたおかげで助かったようだ。
「由美・・由美、しっかりしろ。」


「ごめんね、遥。」
「やっと・・お母さんって言ってもらえたのに。」


「由美、10年前・・いや、それよりずっと前から言えなくて済まなかった。」
「好きだった。お前の事が。」
桐生は以前由美にあげた指輪を取り出した。


「一馬、これ・・あなたが持っていてくれたの?」


桐生が言う。
「シンジが。シンジの奴が死ぬ前に錦から奪い返したんだ。」


「良かった。また返ってきた。」
「あなたが私にくれたたった一つのプレゼントだもんね。」
「ありがとうね。」
「私結局・・全てから逃げてたのかもしれない。」
「あなたからも。錦山君からも。」
「でもね、私・・後悔は無いの。」
「あなたを忘れないために、また記憶が無くなってしまっても思い出せるようにってこの刺青を入れたの。」
「月下美人。一夜でもいい。一目でもいいからもう一回・・一馬に会いたかった。」
「その夢が叶ったの。」


遥の方を見る由美。
「遥・・いい?」
「遥はどんな事があっても逃げちゃだめ。」
「逃げたら私みたいに幸せ逃しちゃうから。」
「いい?絶対に逃げちゃ・・だめ・・」
由美は絶命した。


「お母さぁん!」
泣き崩れる遥。


そこに警官達がやってきた。
「動くな!そのまま手を上げろ!」
「桐生一馬だな!」


「おい、やめろ!」
伊達と須藤がやってきた。
「事情は後で話す。お前等銃を下げろ。」


伊達が言う。
「桐生、お前は悪くねえ。」
「だがこのヤマで逮捕されたらもうシャバに出れん。」
「俺についてこい。」


桐生が言う。
「もういいんだ、伊達さん。」
「由美も錦も風間の親っさんももう皆いない。だから・・」
「ひと思いに逮捕してくれ。」


「ふざけるな!」
「お前の闘いはまだ終わってねえはずだ。」
「かけがえのねえものを守り続けろ!」
「逃げるんじゃねえ。」
「お前がムショに行けばこの子はまた一人だ。」
「お前、それでもいいのか?」


「伊達さん・・」
桐生と遥は伊達と一緒にその場を立ち去った。


数日後、東城会の屋敷から桐生が走って逃げてくる。
「会長!待って下さい!」


「おい桐生!こっちだ!」
伊達が待機していた車に乗り込む桐生。
「じゃあお前等、しっかりやれよ。」


伊達は急いで車を走らせた。
「ちゃんと終わったのかよ。」
「襲名式と引退式は。」


「ああ。義理は果たしたつもりだ。」


伊達が言う。
「しかし聞いたことねえよな。」
「組長の襲名披露と引退式が同時なんてよ。」
「で、五代目は誰にしたんだ?」


「まあ世良会長や親っさんに恥ずかしくねえ奴にしたよ。」
「意外な奴だよ。」


寺田が車で追いかけてきた。
追い抜きざまに桐生に挨拶して走り去っていく。
「おい、もしかして寺田が五代目なのか?」


「ああ。奴ならきっちり東城会を立て直すさ。」


神室町の劇場前で車を降りる桐生。
「じゃあ、行くぜ。」


「もう戻ってこないのか?」


桐生が言う。
「さあなぁ。」
「また伊達さんから呼ばれる事があれば来るかもしれないぜ。」


「そうか。だが残念ながらそれは無いと思うぜ。」
「俺は暫く子供と暮らしてみるよ。」
「今までになかった家庭ってのを楽しんで見るさ。」


桐生が言う。
「おう、じゃあなおさら俺が居ないほうがいいな。」


「ああ。もう胃が痛い毎日とはおさらばだよ。」
二人は力強く握手を交わした。
「じゃあな。」
「もう警察の世話になんじゃねえぞ。」


桐生が言う。
「大丈夫だ。あいつと一緒なんだからな。」
遥がニッコリと微笑みながら桐生の方に駆け寄ってきた。
「すまない。待たせちまったな。」


「おじさん、帰ろう。」