ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター11「バックステージ」

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羽村の尋問を始める。
「あんたの知ってることは全部吐き出してもらう。」
「協力してくれるよな?」
「まずあんたらを動かしてたのはアドデック9の生野だ。」
「いつからだった?あんたらがやつの駒になったのは。」
「あんたがモグラを使った最初の殺しはズバリ、創薬センター副所長殺害事件。」
「今から半年前、端木が殴り殺された事件だ。」
「端木は梶平会長の手先で、創薬センターを潰すためにアドデック9のアラを嗅ぎ回ってた。」
「そしてアドデック9の開発者である生野には絶対に知られたくない秘密があった。」
「だから生野は端木を野放しにはできなかった。」
「あの事件は当時、神室町じゃよくある喧嘩として処理された。」
「モグラは端木にとどめを刺さず、でもその時点でしっかり致命傷は与えてた。」
「だからたいして騒がれもせず、ろくな証拠も残してない。」
「全部計算の上なら相当手際がいい。」
「それが生野に依頼されたモグラの最初の殺しだ。」
羽村の顔を見る。図星のようだ。
「モグラは今どこにいる?」


羽村が答える。
「さあな。ただ今頃俺を探してるはずだ。」
「皆殺しにされるぞ、お前ら。」


「モグラは何者なんだ?ただの殺し屋?」
「そもそもあんたはどこでやつを見つけた?」


羽村が答える。
「モグラは・・あいつもはじめは神室町を食い物にする情報屋でしかなかった。」
「俺はもともとやつの師匠をよく使ってたんだ。」
「だがそいつはサツにパクられて。」
「その後釜に収まったのがモグラだった。」
「正直言って師匠より断然仕事ができてな。」
「流してくる情報は確かだしな。」
「チャカだの偽造書類だの、他のどんなやべえもんもたいていは調達してくる。」
「それで俺らはお互いに利用し合ってこの街でのし上がってきた。」
「付き合いはもう20年近くになる。」
「俺が松金組の若頭になると、モグラに回す仕事も増えていった。」
「あいつは死体の後始末なんて仕事も危なげなくやってのけてた。」
「極道でもねえのに、度胸も根性も据わってる。」
「そのうちやつは仕事があるなら殺しも請けると言い出した。」
「そん時は、ついにきたと思ったよ。」
「殺しについちゃ、さすがに俺もためらったな。」
「だが、ヤバい仕事ほど稼げるもんだ。」
「俺はやつの窓口になって闇ルートに宣伝を打ってやった。」
「すぐに最初の仕事が入ってきた。」
「創薬センターの副所長を消してほしいってよ。」
「直接接触してきたのは、生野とは別の仲介人だった。」
「愛想笑いがずっと顔に張り付いているような小男でな。」
「そのときはお互い一度きりの仕事だと深くは立ち入らなかった。」
「俺らはなぜ殺すのかの理由も知らされず、ただ1000万で端木の殺しを受けた。」
「世間の目を引かないように殺せとな。」
「その仕事でイシマツは俺らを気に入ったらしい。」
「何ヶ月かしてやつはまた次の仕事を持ってきた。」
「アドデック9の実験台にする人間の調達とその始末だ。」
「共礼会のヤクザをさらってこいという。」
「報酬は1人につき1億。」
「この先何人さらう必要があるのかイシマツにもわからないという。」
「1人で済むのか、それとも10人でも足りないのか。」
「俺はイシマツと長期的なパートナー契約を結んだ。」
「この1億には口封じと死体の後始末も含まれていた。」
「その時、イシマツの上司と名乗る厚生労働省事務次官・一ノ瀬が木戸と生野を連れてやってきた。」
「そこでアドデック9のことを聞かされた。」
「医療システム産業開発機構ってわかるか?」
「創薬センターもその一部だが、厚生労働省の役人たちにとって欠かせない天下り先になってる。」
「で、そいつを20年くらい前に立ち上げた陰の立役者が若き日の一ノ瀬だ。」
「一ノ瀬はその手柄で事務次官にのし上がったんだ。」
「つまり創薬センターは一ノ瀬の権力の源だ。」
「それを守るためにもアドデック9を完成させる必要がある。」
「何人ひとを死なせてもだ。」
「アドデック9の莫大な利権はな、一ノ瀬たちだけじゃねえ。もう多くの人間に配分まできっちり決まってんだ。」
「今更陰で何人死のうが止められるもんじゃねえ。」
「人体実験に共礼会のヤクザを使ったのは生野にそう指定されたからだ。」
「アドデック9は実験するたびに死人が出る可能性があった。」
「それで何人も行方不明にしてたら、どう隠したって騒ぎになる。」
「だがヤクザ同士の抗争なら何人死んでもおかしかねえ。」
「みんなそういうもんだって思うだけだ。」
「それともう一つ、生野は罪のない人間に危険な実験はできないってよ。」
「そもそも創薬センターを潰そうと動いていたのがゼネコンの梶平だ。」
「で、その手先になってる兵隊が共礼会。」
「そいつら死なせたとこで胸は痛まねえとさ。」
「俺が逮捕された時は、モグラが共礼会を2人立て続けに殺ったってタイミングだった。」
「そうなるとやつらも警戒が厳重になってもう単独じゃ街を出歩かねえ。」
「そんな状況じゃモグラが一人で共礼会の人間をかっさらうのは流石に無理だ。」
「だがモグラは俺以外の人間には絶対に顔を見せねえ。」
「だから俺が手ぇ貸すしかなかった。」
「アドデック9の実験台は車のトランクに押し込まれて生野のところへ運ばれる。」
「創薬センターとは違うところだ。」
「その場所を知っているのはモグラだけだ。」
「なぜ死体から目を抉るのかは俺も聞いてねえ。」
「新谷が殺られたのは俺のせいだ。」
「久米が死んだ事件で俺は裁判を受ける羽目になった。」
「でもよ、やってもねえ殺しでムショ行きなんて冗談じゃねえ。」
「だから俺なりに保険をかける必要に迫られた。」
「裁判前、新谷と接見したときに俺はこう言ったんだ。」
「もしこの先、無罪の可能性がなくなるようだったら創薬センターの生野を調べろってな。」
「一の瀬の名前までは出してねえ。生野の名前だけだ。」
「だがまあ、連中から見りゃそれも立派な裏切り行為だろうよ。」
「だから俺は新谷にもキッチリ口止めはしてた。」
「いざってときの情報だとな。」
「新谷はよ、お前に負けたくなかったんじゃねえのか。」
「あいつが俺を無罪にしたときも、実際に決め手の証拠をつかんできたのはお前だった。」
「新谷はただ、そのおこぼれで名を挙げただけだ。」
「まわりの連中も、口にはしないがみんな承知してたろ。」
「おまけにお前はさらにやつより先を行こうとする。」
「裁判ではわからずじまいだった真犯人さえ探し始めた。」
「それを新谷はどんな気持ちで見てたんだろうな。」
「お前が華麗に真相を暴くのを期待してたか?」
「俺にはそうは思えねえ。」
「お前より先に真実を掴む。」
「それができて初めて奴はお前に勝つことが出来る。」
「新谷が生野に近づこうとしたことは、すぐ一ノ瀬にも知れた。」
「それでやつは俺が新谷に情報を漏らしたと気づいた。」
「俺としちゃ、もう新谷に死んでもらう他なかった。」
「モグラには俺が自腹で金を払ったよ。」
「身代わりの犯人には、綾部を選んだ。」
「俺たちはまず、やつの銃を手に入れた。」
「その樹を使って新谷に手ぇ下したのはモグラだ。」
「凶器になった銃には弾を補充し、使った痕跡を消して綾部の懐に戻した。」
「一方、死体から見つかる弾丸にはその銃の線条痕がつくことになる。」
「するとそこにあるのは、綾部刑事の銃で新谷が撃たれたってまぎれもねえ事実だ。」
「結局、綾部にはまともなアリバイもねえ。」
「誰かに襲われて記憶がないって、そんな説明、誰が信じる?」


レインコートを着たモグラが単独でやってきた。
羽村に縦断を浴びせるが、それを松金組長が身体を張って身代わりになる。
モグラはすぐに逃げていった。
大の字で倒れている松金組長の前で膝をつく羽村。
「組長・・なんで・・」
「なんで俺をかばうような真似・・」


「さっきの奴がモグラだろ?」
「俺があいつなら、まずおめえの口をふさぎに来るって・・」
「思った通りだった。」
「お前の話を聞いてて分かったんだよ。」
「悪いのは、俺だ。」
「俺が不甲斐ねえばっかりによ。」
「お前は組守るために危ねえ橋を。」
「俺だってそれは薄々分かってた。」
「だが知らんふりして。」
「ずっとお前の稼ぎをあてにしてた。」
「今更文句言えた義理はねえよな。」
「辛かったろ?本当に、すまん。」
「だからよ、これが・・」
「せめてもの、俺のけじめだ・・」
「それが親ってもんだ。」
「ター坊、もう俺は駄目だ。」
「早く逃げろ。」
共礼会のアジトに火がまわりだした。


「神室署の黒岩だ。」
「モグラの正体。」
「黒岩がモグラだ。」
羽村はそう言うと、その場から逃げ出した。


共礼会のアジトを出た八神は、駆けつけた黒岩に連行された。
神室署で黒岩に尋問を受ける八神。
「羽村から全部聞いた。」
「あんたの正体だよ。」
「センターの副所長を殺したな?」
「ヤクザの目を抉ってきたのも、そして新谷を殺したのも。」
「否定しないんだな?」
「羽村を取り逃がしたのは失敗だったな。」
「口を塞ぎそこねた。」
「お前は親っさんを殺した。」
「このまま逃げ切れると思うな!」


黒岩が切れて机を殴る。
「お前もな!」
「俺の後ろ盾はアドデック9の莫大な利権だ。」
「そいつを握ってる連中の目と耳がそこらじゅうにある。」
「警察やらの上層部なんかにも息がかかってるかもなあ。」
「羽村の口が塞がれんのも時間の問題だよ。」
「残念だが、もちろんお前も。」


「その前にあんたの化けの皮を剥いで全部暴き出す。」


釈放された八神が事務所に戻ると杉浦が待っていた。
「海藤さんは何日か寝れば大丈夫だって。」
「潜りの医者に診てもらった。銃で撃たれてたからさ。」
「海藤さんから闇医者のこと聞いてね。昔よく世話になったって。」
「普通の医者でもいいと思ったんだけど、海藤さんが面倒臭がってさ。」
「入院してる場合じゃないっていうし。」
「そっちも大変だったんでしょ?」
「共礼会のキャバレーが焼けたって聞いたけど。」
「八神さんも少し休んだ方がよさそうだね。」
「海藤さんのこと知らせに来ただけだからもう帰るよ。」
「八神さんの無事も確認できたし。」
「僕も今日はもう限界。」


翌朝、真冬から八神の携帯に着信があった。
「モグラの新しい犠牲者が出たの。」
「また共礼会のヤクザ。」
「場所は松金組の事務所前。」


現場に向かうと、真冬がいた。
犠牲者は塩屋で、両目を抉られているようだ。
「なあ、真冬。」
「黒岩だったよ。モグラの正体。」
「羽村のカシラと昔からずっとつながってたらしい。」
「たぶん、はじめは綾部と似たような汚職警官だったんだ。」
「それがとうとう殺しまで請けるようになった。」
「で、その黒岩を道具に使ってるのが生野と厚生労働省の一部官僚たち。」
「神室町で目を抉られた死体はアドデック9の人体実験に使われた犠牲者だった。」
「生野には、俺が実験に気づいてるとこの間知らせといたんだけどな。」
「なのに今日また新しい死体を平気で・・」
「これがどういうことかわかるか?」
「この先もまだ続ける気なんだよ、あいつは。」
「俺がどれだけ真実に迫ろうが、実験をやめる気はない。」
「そう言っているんだ。」
「生野は面と向かえば真面目で寡黙な研究者だよ。」
「ただアドデック9のことになるとまるで悪魔だ。」
「それでも薬を完成させれば何百万って患者とその家族が救われる。」
「そこに生まれる莫大な利権が生野を守っているんだ。」
「敵はそこらじゅうに潜んでいるらしい。」
「俺はやつらに親父を殺されたんだ。」
「この借りは・・絶対に返すよ。」


親っさんの葬儀は東城会の本部ってとこで営まれた。
ただし参列者はごくわずか。
松金組は跡目だった羽村が失踪して、実質解散状態。
それに親っさんはもともと名もなき組長の一人でしかなかった。
源田先生にとって、親っさんは四十年来の親友だった。
海藤さんは中学を出てすぐに親っさんの組に入った。
その破門に居合わせた東は以後、親っさんを守ることを自分の役目だと考えてきた。
俺たちには誰が親っさんを死に追いやった連中か、ハッキリとわかっている。
今必要なのは、それを裏付ける決定的な証拠だ。


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