ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター12「ダーティワーク」

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新谷を殺したとされる現役刑事・綾部和也の裁判。
その公判前整理手続きが始まっていた。
そこでは一般人からなる裁判員の負担を減らすため、事前に裁判の進行が打ち合わせされる。
検察も弁護人もあらかじめ証拠を整理しておくのがルールだ。
昔の映画やドラマのように後出しの証拠は認められない。
つまり俺たちは裁判までにすべての手札を揃え、その手の内を敵に見せなければならないということだ。


八神は綾部に接見した。
「黒岩だったのか。モグラの正体。」
「なるほどな。」
「関係ないかも知れねえが、昔小耳に挟んだ話がある。」
「黒岩がまだ駆け出しだった頃、その指導役だった先輩警官が東城会のヤクザに便宜を図ってやってた。」
「見返りは金と女。」
「神室町じゃよくいる汚職警官の一人よ。」
「だがその警官はあるときビルから飛び降りた。」
「逮捕直前だったんだ。」
「正義感のある同僚から密告されてな。」
「密告者は同じ頃に首を吊った姿で発見された。」
「その首吊には他殺の可能性もあったらしい。」
「もしかしたら、誰かが密告者にケジメをつけたのかもな。」
「そして腐った先輩警官の地盤を引き継いでさらに腐った警官が誕生したってわけだ。」
「そいつはヤクザを利用しまくって、今じゃどえらい検挙率のスーパー刑事でもある。」
「黒岩がそうかはわからないが、思い当たるフシを話しただけだよ。」


梶平会長が八神の報告を待っているというので、服部に今までの経緯を説明した。
「なるほど。」
「モグラの正体は現役の刑事でしたか。」
「全部今あなたの言ったとおりならアドデック9のまわりは死体だらけですね。」


八神が言う。
「生野に殺された入院患者に寺澤絵美、センター副所長の端木、新谷弁護士、どれも結局はアドデック9の人体実験に行き着く。」


「しかし証拠がなければよくできた仮説でしかありません。」
「お話は承りましたが、会長はとにかく八神さんと直接お目にかかりたいとの仰せです。」
「あたしはただの使いですから。」


梶平会長に会うために海藤と共に「神室菊野屋」に向かった。
「あんたらようそんなんつかんだわ。」
「たいしたもんや。」
「大久保新平のことも聞いたわ。」
「あんたが放した殺人鬼、ほんまは恋人殺っとらんかったんやて?」
「実は困っとるんや。」
「共礼会の古葉会長からせっつかれとる。」
「塩屋は共礼会の跡目やった。」
「それが目ぇ抉られて殺されたんや。無理ないわ。」
「あんたらでモグラを始末できんか?」
「黒岩っちゅう刑事なんやろ?」
「あんたらの腕を見込んでのことや。」
「わかったわかった。冗談やて。」
「あんたらを呼んだほんまの目的はな、端木のかわりに礼を言うためや。」
「アホが酔っ払って喧嘩で死んだなんぞ言われてあいつもさぞ無念やったやろ。」
「せやけどその嘘をあんた見抜いてくれたんや。」
「あとは証拠を見つけてアドデック9潰したら、あいつも報われるっちゅうもんや。」


八神が言う。
「もうすぐ綾部の裁判が始まる。」
「俺たちはその場を借りて真犯人の犯行を立証する。」
「それは同時にアドデック9の真相を暴くことでもある。」
「そうなれば大久保の死刑も止められる。」
「黒岩を追うつもりです。」
「尻尾をつかむまで張り付いて。」
「時間はかかるでしょうがやるしかない。」


「そない悠長なこというてられんぞ。」
「大久保新平はもうすぐ死刑執行になる。」
「ワシもツテを使って調べさせた。」
「実はな、次に処刑される死刑囚が誰かいう極秘の候補者リストがあるんや。」
「そこに大久保新平が入っとったらしい。」
「後は法務大臣がサインしたらそれまでや。」
「どっからか大久保をリストに入れるように圧力がかかっとったらしいな。」


服部が言う。
「こんなとき、もしあたしなら黒岩よりもっと切り崩しやすい相手を選びますね。」
「木戸の女好きは有名でしてね。」
「アドデック9の発表からはタガがはずれたといいますか・・」
「肩書を外せばどこに出しても恥ずかしい俗物です。」
「的は黒岩でなく彼にすべきでは?」


八神はさおりに頼み、木戸にハニートラップをかけた。
さおりは見事、木戸への取材を取り付けた。
取材の様子をかばんに忍ばせたカメラで隠し撮りする。
木戸はさおりの色仕掛けにまんまと引っかかり、セクハラ行為を繰り返した。
その様子をすべて録画することに成功した。
その日の夜、八神はその動画を木戸に送りつけ、神室町のバッティングセンターに呼びつけた。
バッティングセンターにやってきた木戸を拉致し、シャルルに監禁する。
「私が連れ去られたことは一ノ瀬さんの耳にも入っている。」
「早く解放しないとヤバいことになるぞ!」


八神は木戸のセクハラ動画で脅迫する。
「3年前の事件のことだけど、創薬センターで入院中のアルツハイマー患者が死んで山の中から遺体で発見された。」
「でも実際にはあれは生野がアドデック9の人体実験で死なせた事故だった。」
「あんたはそのことを知っていたな?」


木戸が答える。
「知ってました。」
「アドデック9の記者会見のすぐ後に知りました。」
「生野本人の口から直接。」
「あのときのことは今も思い出すと身体が震えてきますよ。あいつへの怒りで。」
「世界が持つ新薬を一刻も早く試したい一心で独断でやったと私に言いました。」
「投与した途端に恐ろしい悲鳴があがり、その口を両手で押さえて殺したと。」
「アドデック9が無事に完成すれば何も問題ないといい、公表すれば破滅しかないと私を脅してきた。」
「失うものが大きいのは私の方だと。」
「大久保新平を殺人鬼に仕立てるために寺澤絵美を殺したとも・・私に言った。」
「副所長の端木を殺したのも私じゃない。」
「私と生野は一ノ瀬さんにすべてを打ち明け助けを求めました。」
「あの人は政治の表も裏も知り尽くした剛腕で有名でした。」
「私と生野は意を決して人体実験で患者が死んだことも寺澤絵美のことも打ち明けたんです。」
「すると一ノ瀬さんはそれら全てを隠蔽し続けると即決してくれた。」
「なにがあってもアドデック9とその利権を守ると。」
「だから端木の口を塞ぐことにも躊躇がなかった。」
「もともと一ノ瀬さんは端木が梶平のスパイということも知っていたんです。」
「一ノ瀬さんの手配で羽村と黒岩が殺し屋として雇われました。」
「端木が死んで、あとはアドデック9さえ完成すればすべてが丸くおさまるはずでした。」
「しかし臨床試験をしてもしまた人が死ぬようなことがあれば、新薬の完成は夢と消える。」
「そしてセンターの存続もなくなり、それまで払った犠牲もすべて水の泡になる。」
「手をこまねいていた私とは対象的に生野は積極的でした。」
「彼はこう言いました。」
「アドデック9を完成させるためには実験の失敗を恐れてはならない。」
「そして成功するまで実験を続けるべきだと。」
「さらにアドデック9の開発を早めるため生野は極秘の人体実験が出来る仕組みが必要だと言い出したんです。」
「もしアドデック9がまた人を死なせてしまってもそれを隠せるなら危険を承知で何度でも実験は繰り返せる。」
「つまり実験台の確保とその始末が速やかに行われる仕組みです。」
「それができれば薬は必ず完成させると。」
「それで共礼会のヤクザたちが実験台になりました。」
「一ノ瀬さんは生野のその希望を全面的に聞き入れたんです。」
「私は生野が必要とする裏金の調達役でしかない。」
「創薬センターには厚労省の予算が流れ込んできました。」
「それを使って生野は神室町に秘密のラボを作らせたんです。」
「人体実験はそこで行われています。」
「私は生野と一ノ瀬さんの話をなるべく聞かないようにしていたので、詳しい場所まではわかりません。」
「黒岩刑事ならもちろん知っているはずです。」
「他には、ラボの設置を指揮した人物がいます。」
「一ノ瀬さんの部下で、名前はイシマツ。」
「神室町のミレニアムタワー。あの中に厚労省の支局分室があるんです。」
「今夜はそこにいると聞いてます。」
「生野のラボを管轄するためだけの部署です。」
「表向きには存在しません。」
「看板だって違う名前で出ています。」


木戸に電話をかけさせ、イシマツをおびき出す。
イシマツを尾行すると、潰れたラブホの地下に入っていった。
そこが秘密のラボの場所だった。
真冬に連絡し、警察を連れてきてもらうよう手配する。
八神と杉浦が中にはいると生野がいた。
「杉浦、この部屋をビデオで撮れ。」
「今まで目を抉られた連中はここに連れてこられてた。」
「警察の捜査で何が出てくるか見ものだな。」
「被害者たちの指紋、毛髪、体液、DNA。」
「ここにあるのは俺らがずっと欲しかった証拠の山だ。」


杉浦が言う。
「ごめんね、八神さん。」
「今までずっとみんなに嘘ついてたんだよ、僕。」
「元梶平の社員だとか、あれ全部ウソ。」
「名前も偽名。」
「八神さんのことも、じつはずっと前から知ってた。」
「知ってて八神さんに近づいたんだ。」
「僕の本当の名前はね、寺澤文也。」
「お前に焼き殺された寺澤絵美の弟だ。」
杉浦がナイフを取り出し、生野に近づく。


そこに真冬と警察官が現れた。
泉田検事と森田検事正もいる。
杉浦はナイフを投げ捨てた。


森田検事正が言う。
「彼は心配いりません。事件にするまでもない。」
「別に何も起きていません。」
「ここが連続殺人の現場だと考える根拠は?」
「木戸から聞き出した程度の理由で勝手な家宅捜索はできません。」
「まず裁判所の令状は出ないでしょう。」


八神が言う。
「令状の名目ならちゃんと用意してあるよ。」
「俺を逮捕すればいい。」
「不法侵入の現行犯逮捕。」
「つまりここは立派な犯罪現場だよ。」
「封鎖して証拠保全をしないと。」


「なるほど。ここを調べるためなら逮捕されてもかまわないと?」
「はじめからそのつもりだったんですね。」
「たいした人だ。」


一ノ瀬がイシマツを連れてやってきた。
「ここは厚生労働省の関連施設です。」
「勝手な立ち入りはお断りします。」
「見た目がどうあれ、今ここはアドデック9の研究施設だ。」
「重要機密だらけなんだよ、この場所は!」


八神が言う。
「それなんですけど、俺が不法侵入したばっかりに悪いね。」
「ここは警察で封鎖を。」
「そうですよね?」


森田検事正が言う。
「やはりそうはいきませんね、八神さん。」
「ここはアドデック9の研究施設と仰いましたよね?」
「アドデック9は日本の国家戦略ともいえる研究です。」
「たかが不法侵入でそれをストップさせるなんてありえません。」
「もっと柔軟に扱うべき案件ですね。」
「では、撤収します。」
「全員すみやかにこの建物を出るように。」
「どうかアドデック9を完成させてください、生野先生。」
「今後もこのような邪魔は一切入れさせません。」


時を同じくして、突然シャルルに黒岩が乱入して木戸の見張りをしていた海藤と東をふっとばした。
木戸は解放され、黒岩は無言で去っていった。


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