ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター8「親子盃」

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「死体から出た弾丸は綾部の中で撃たれてた。」
「やつが新谷殺しの犯人だ。」


森田検事正が言う。
「あなたには申し訳なかったが、我々が綾部を疑っていることをしばらく本人に気づかせたくなかったんです。」
「なんせ現役警官の殺しだ。」
「逮捕となると、政治や根回しにも時間がかかる。」
「それで今まであなたを疑っているフリを。」
「あなたにとってもこれで終わったわけじゃない。」
「綾部刑事は職務上得た情報を不正に外部へ漏らしていました。」
「我々はその件についても徹底的に追求します。」
「いずれあなたからもお話を伺うことになるのでは?」


八神から電話が入る。
「よお、ちょうどあんたの噂してたよ。」
「綾部刑事。」


「聞いてくれ、八神。これから俺は逮捕される。」
「新谷殺しの件で誰かにハメられたらしい。」
「驚かないのか?」


八神が言う。
「ああ。」
「俺も今ちょうど聞いたところだから。」
「今あんたを疑っている連中と一緒にいる。」
「みんなこっち見てるよ。」


「あんたに弁護を頼みたい。」
「この件で頼れんのはあんただけだ。」


八神が答える。
「わかった。依頼を引き受けるよ。」
「俺とあんたの仲だもんな。」
「すぐ接見に行く。話はそのときに。」


八神が森田検事正に言う。
「じゃあこの決着は法廷で。」
「そっちの担当は?泉田検事?」
「でもあんたは誰かさんの操り人形だろ?」
「俺の本当の敵は、その誰かさんだ。」


東京地検を出た八神は源田に電話をかけた。
「というわけで先生、綾部の弁護、源田事務所で受けてください。」
「じゃ、すぐ綾部と接見してえだろ?星野君に言っとく。」
「ええ。とにかくすぐそっちに行きます。」


星野と合流し、神室署で綾部に接見した。
「現役の刑事が殺しで逮捕か。」
「ショッキングな光景だな。」
「こちらは源田法律事務所の星野先生。若いけど頼りになる。」
「俺はもうずっと法廷に立ってないから。」
「そのかわり証拠集めに回る。」
「大丈夫。羽村のときもそれでうまくいったよ。」
「新谷はあんたの銃で撃たれたんだって?検事たちがそう言ってた。」


「ああ。弾丸の線条痕が一致してるらしい。」
「拳銃ってのは弾の軌道を安定させるために内側に螺旋状の溝がついてる。」
「で、撃つと溝で傷が残る。それが線条痕だ。」
「その溝は人間の指紋みたいに銃ごとに特徴がでる。」
「つまり拳銃ごとに全部違う。」
「で、今回新谷の死体から出た弾丸の線条痕が俺の銃のものだったわけだ。」
「凶器は間違いなく俺の銃だよ。」
「それを意味するのはつまり、誰かが俺をハメたってことだ。」
「新谷が殺された日のこと、覚えてるか?」
「俺ら、テンダーで飲んでたろ。海藤もいた。」
「あのあと俺はもうしばらくひとりでいて、それから店を出た。」
「ところがそっから先の記憶がねえんだ。」
「何かで頭を殴られた。後ろからいきなりガツンだ。」
「場所は店の近くだろうがはっきりしねえ。」
「何しろ全部急だったんで。」
「おまけに気を失ってる間に場所を移されててな。」
「それで余計記憶が。」
「ベンチに寝かされてた。」
「神室町の児童公園のベンチにな。」
「で、起きた時にまわりにはもう誰もいなかった。」
「1時間くらい気を失ってた。」
「あとで知ったんだが、新谷はちょうどその間に殺されてた。」
「俺の銃で撃たれてな。」
「ただ、銃は俺の懐にちゃんとあった。」
「要するによ、俺を襲ったやつは俺の銃で新谷を撃った後、まったく元通りに戻してくれたわけだ。」
「たった1時間のあいだにな。」
「弾数も元のままだ。」
「使った痕跡もきれいに消されてた。」
「量産されている弾だからどれも同じ。そこから手がかりを探すのは無理だ。」
「このことは上司に報告していない。」
「だって手帳も拳銃も何も盗まれたものはないし、面倒だったしよ。」
「それに普段の素行が突っ込まれるしな。」


八神が言う。
「でも犯人の狙いはそこかもな。」
「あんたなら騒ぎ立てないと見越して濡れ衣を着せる相手に選んだとか。」
「かくして現場から出た弾丸にはあんたの銃の線条痕が入ってた。」
「それは事実なのか?」


「そいつを聞かされたのもついさっきだ。」
「銃の線条痕が出た時点で俺は第一容疑者だろ?」
「なのにまわりの同僚は誰もそれを知らせちゃくれなかった。」
「ここんとこ捜査の時、黒岩はいつも俺をそばに置いてたろ?」
「あれは俺を監視するためだ。」
「ま、今思えばだけどな。」
「俺は新谷を殺ってねえ。」
「俺はハメられたんだよ。」
「なあ八神、あんたから見て俺は助かりそうか?」


八神が答える。
「ああ。大丈夫。」


神室署を出た八神が星野に言う。
「綾部はまんまと真犯人にハメられた。おれはその前提で動く。」
「綾部は刑事の風上にもおけないが、そこまでワルじゃないし頭も切れる。」
「自分の銃で殺しなんてやらないよ。」
「真犯人は別にいる。」
「まずは松金の親っさんに聞いてみる。」
「何かわかるかもしれない。」


松金組長に会うため、海藤と共に隠れ家の料亭に向かう。
「しばらくだな、ター坊。」
「海藤は組み辞めて以来か。」
「なあター坊、やっぱり羽村からは手ぇ引いてもらえねえか。」
「羽村あっての松金組だ。」
「あいつでうちの組は回ってる。」
「羽村の居場所は知らねえ。」
「あいつはそんなもん、いちいち報告してこねえんでな。」
「ター坊、もう羽村には手ぇ出すな。」
「お前も分かってんだろ。」
「羽村とモグラは太くつながっている。」
「だがもう忘れろ。」
「あいつらに触れるのはヤバい。俺を信じろ。」
「俺にも得体の知れない連中がいる。」
「だがそれ以上話せることはねえ。」
「どうしても引かねえってんなら、しばらく動けねえ身体になってもらう。」
「それで死なずに済む。」
「お前らのことはガキの頃から面倒見てきた。」
「今までそれを恩着せがましく言ったことはねえ。」
「だからこれが最初で最後だ。」
「お前らはしばらく街を出てろ。」
「少しでも俺に恩を感じてるなら。」
「この頼みだけは聞け。」


八神が言う。
「モグラの件は創薬センターとも絡んでいる。」
「3年前の大久保事件とつながってきてんだ。」
「いくら親っさんに恩知らずと言われようが、譲れない。」


「馬鹿野郎・・」
「たいしたもんだな。お前ら。」
「これだけの極道相手に。」
「それに比べて腐っちまったよ。俺は。」
「なあ、そうじゃねえか?ター坊。」
「初めてお前と会った頃とはもう・・」
「あれは20年前だったな。」
「今日は、絶望的に酒がまずいな。」
「お前がモグラって呼んでるのは、羽村が抱えてる殺し屋だ。」
「羽村は殺しが必要なときは決まって同じ人間を使ってるみてえだ。」
「どっから見つけてきたのか、ただ相当なもんだ。」
「同じ手口で何人も殺ってんのにろくな証拠も残してねえ。」
「モグラの顔を知ってんのは羽村だけだ。」
「もし羽村やモグラを追ったところで、やつらも道具に使われてるだけだ。」
「その奥には顔も見えねえ、影みてえな連中がいる。」
「そんなもんに手ぇ出したら、もう引き返せねえ。」
「フン、年寄の忠告ってのはいつもこうやって無視されるんだ。」
「時代が変わって、今の松金組は羽村の仕切りだ。」
「任せた以上、一切口出しはしねえ。」
「俺が組長として決めたことだ。」


「今まで、お世話んなりました。」
八神と海藤は去っていった。


松金組の組員を盗聴し、羽村の居場所を突き止めた。
チャンピオン街の賭場へ向かうと、羽村がいた。
八神と海藤は羽村をボコボコにした。
「組の金庫から盗まれた1億な。」
「ありゃあんたの差し金だったんだろ。」
「まんまとハメてくれたな。」
「ま、今となっちゃそりゃ二の次だ。」


八神が言う。
「モグラはあんたがお抱えの殺し屋だってな。」
「全部で何人殺させた?」
「共礼会のヤクザたちと新谷、他にもまだいそうだな。」
「新谷は殺される前、モグラの殺しを抗争絡みじゃないと言ってた。」
「つまりそう言えるだけの情報を持ってた。」
「だから口を塞いだんだよな?」
「モグラに綾部の銃使わせて。」
「新谷がつかんでたのは神室町の殺しと創薬センターをつなぐなにかだ。」
「アドデック9の利権も絡んでる話なんだろ?」
「創薬センターの木戸、あんたらを動かしている黒幕は木戸だな?」
羽村の反応を見る。
「違うのか?」
「新谷は創薬センターに電話した時、木戸じゃなくて生野を呼び出そうとしてた。」
「端木も殺される直前まで生野から情報を聞き出そうとしてた。」
「黒幕は・・生野か?」
羽村が苦虫を噛み潰す。
「そうなんだな?」


その時、羽村の手下達の反撃にあい、羽村を取り逃がしてしまった。


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