ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター7「蝶の舞う夜」

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梶平ホールディングス会長・梶平茂が言う。
「そこの服部さんは知っとるな?」
「八神さん、あんたのことはこの人からいろいろ聞いとる。」
「例えばあんたの弱みが何かとか。」
「服部さんはよう知っとったで。」
「八神さんの妹分というとこか。」
「あんたを好いとるやろ?」
「ワシもあんたらの腕を見とこ思うてな。」
「けどもう共礼会がそっちに手ぇだすことはない。」
「このワシが保証したるわ。」
「そのかわり、ひとつ仕事頼まれてくれや。」
「神室町の探偵として。」
「今から1年前、ワシは労働省のある土地でどデカイ再開発を計画しとった。」
「計画用地は医療システム産業開発機構の土地全部。」
「神室町が3つ4つ楽に入る広さや。」
「労働省の風見大臣とも話つけてまわりの土地もぎょうさん安値で買い漁ってな。」
「あとは早いとこ創薬センターに潰れてもらうだけやった。」
「けどそれをおとなしゅう待つほどワシは先が長ない。」
「そこで使こたんが端木いう男や。」
「端木は創薬センターの副所長でな。」
「ワシはそれを抱き込んでセンター閉鎖に向けてサボタージュをさせとった。」
「出来る研究員は追い出したり、めぼしい研究はよそに情報漏らしたり。」
「ようやっとったで。あいつは。」
「ところがや、ほとんど瀕死やった創薬センターがアレのおかげで一気に息を吹き返しよった。」
「アドデック9や。」
「あの日を境に大臣もセンター存続に手のひら返し。」
「木戸の側について再開発は白紙や。」
「ワシと端木から容赦のうハシゴ外しよった。」
「端木は半年前、神室町で殴り殺された。」
「今も犯人は見つかっとらん。」
「警察は酔っ払い同士の喧嘩やいうて済ましとる。」
「八神さん、あんたにはその事件を調べてほしいんや。」
「ワシは端木は計画的に殺られたんやと思うとる。」
「あいつはアドデック9をまがいもんやと疑っとった。」
「センター閉鎖の話が出た途端、急に画期的な新薬の論文発表や。」
「タイミングが良すぎるやろが。」
「端木はアドデック9になんやからくりがあるはずや言うてたで。」
「せやからその裏を嗅ぎ回ってたんや。神室町で殺されるまでな。」
「このままやったら1000億がドブなんや。」
「ワシら神室町から引けん理由がそれよ。」
「あの創薬センターにはなんや裏がある。」
「新谷いう弁護士もそこに近づいた途端やったやろ。」
「目ぇ抉られたんは。」
「何かがあるんや。あのセンターには。」
「もしそうなら、あんたかて調べずにはおれへんはずやな。八神さん。」
「せやからワシはあんたを選んだんやで。」
「この仕事、他に頼めるやつはおらん。」
梶平会長は去っていった。


服部と話をする。
「あたしもここへは梶平会長に無理矢理さらわれてきたようなもんです。」
「好きで八神さんのことを喋ったわけじゃありませんよ。」


外に出た八神は星野に電話する。
「・・ああ。創薬センターの副所長で端木。」
「そう。半年前に神室町で殺されたらしい。」
「急で悪いけど星野君の方で事件の情報を集めといてくれるか?明日までに。」
「ありがと。」


翌朝、八神は源田法律事務所に向かった。
「源田先生は昼過ぎには来るそうです。」
「声はまだ元気ない感じでしたけど。」
「それより昨夜頼まれていた件です。」
「端木って人の事件、調べときました。」
「先端創薬センターの元副所長、端木亨さん。」
「半年前に殺害された当時51歳。」
「深夜神室町の路地裏で倒れているところを発見されました。」
「誰かに殴られたようですでに意識はなく、その3週間後に病院で亡くなっています。」
「その間ずっと昏睡状態だったみたいで。」
「犯行そのものを見た人はいなかったようです。」
「ただ事件の直前、端木が酔って声を荒げてた姿は大勢に目撃されてます。」
「相手は黒いレインコートの男。」
「その続報は無しです。」
「多分警察でもそいつを見つけられなかったんじゃないですかね。」
「本当に単なる喧嘩だったかもしれないと思いました。」
「もし犯人の目的が端木を殺すことなら、なぜその場でとどめを刺さなかったのかなって。」
「ただのゆきずりの喧嘩だったから、端木は即死じゃなかった。」


海藤が言う。
「俺は逆だと思うがな。」
「犯人はプロで、しかも凄腕だ。」
「結果だけ見りゃこの犯人は人ひとり静かに殺してのけたわけだろ?」
「もし殴ったその日に端木が死んでたら警察も殺しとして動く。」
「だがよ、気を失ってただけじゃよくある酔っ払いの喧嘩でしかねえ。」
「そんなもん、神室町じゃ腐るほどあんだろ。」


綾部は黒岩の締め付けが強く身動きが取れないと言うので、代理の人物とラ・マンで待ち合わせをした。
代理の人物はなんと真冬だった。
「今朝、彼から急に連絡があったの。」
「自分のかわりに八神君に協力してほしいって。」
「捜査資料、創薬センターの端木が殺された事件のね。」
「必要なんでしょ?」
「昨日助けてもらったお礼だから。」
「それともうひとつ。泉田検事の件だけど、やっぱり新谷先生のことで八神君を逮捕する気みたい。」
「そっちも早く何とかした方がいいよ。」
真冬は帰っていった。


海藤がやって来た。
「見てみろよ、この端木の資料。」
「これ、端木の経歴か?さすがの高学歴って感じだな。」
「創薬センターの副所長になったのが4年前。」
「てことはお前が大久保の弁護をしてた時にはもう端木もセンターにいたんだな。」


「木戸と各研究に予算を割り振ってもいたらしい。」
「となると端木もセンターじゃ結構な権力者だったはずだ。」
「こっちは現場の資料地図だ。」
「ここが端木の倒れていた場所だ。」
「その1時間くらい前には近くのキャバで飲んでたらしい。」
「で、これがそのキャバだ。」
「店の名前は『クイーンルージュ』。」


海藤が言う。
「あそこは結構高いのに羽振りが良いねえ。」
「一人じゃなく、もうひとり同僚といたみてえだな。」
「例の生野ってやつとだ。」
「端木は創薬センターからわざわざ神室町まで来て生野と飲んでたのか。」
「そこで何を話していた?」
「店を出た後、生野の方は端木と別れてひとりでタクシーに乗った。」
「で、創薬センターに戻って木戸と話してる。」
「つまり生野にはアリバイがあるってことだ。あと木戸もそうだ。」
「端木の方はタクシー乗り場でレインコートの男と言い合いになって、その後路地裏で倒れているのが見つかった。」
「死んだのはその3週間後だ。」
「死因は殴打による脳挫傷。」
「殴られたのは14,5発。手袋越しに殴られたとみられ、指紋は検出できず。」


八神が言う。
「これでやっと事件の大枠がわかったってことか。」
「現場の場所がわかったんだ。」
「端木が倒れていた場所を見に行く。」
「クイーンルージュって店もその近くだ。」


源田法律事務所に寄ると、源田に呼び止められた。
「星野君から全部聞いた。」
「下手な言い訳するなよ、八神。」
「新谷の件だ。よせっつったのにお前、どっぷり首突っ込んでんだろ。」
「星野君まで巻き込みやがって。」
「前も言ったがよ、新谷はあれでも俺にとってはかわいい弟子みたいなもんだった。」
「そのあいつが死んで、身体中まるで力が入らん。」
「昨日まで何食っても喉を通りゃしなかった。」
「このうえお前や星野君までやられたらどうなる?」
「そうやって寝込んでいるうちにこうも思ったんだよ。」
「こんなんでこの先も神室町で弁護士続けられんのかなあってさ。」
「でもな、俺が間違ってた。」
「弟子を殺されたのに泣き寝入りして何もなかったような顔でいられねえよ。」
「いられるわけがねえ。」
「この街では戦う意志のねえやつが生き残っていくことはできねえ。」
「神室町で生きていくやつらはみんながみんな上見て這い上がろうとしている連中だ。」
「だから他のやつに食いもんにされたくなきゃ、強がりでもはったりでも、とにかくファイティングポーズを取り続ける。」
「それができなきゃ今すぐ新谷が殺されたことも綺麗サッパリ忘れてこの事務所もたたむしかねえ。」
「違うか?」
「八神、お前は本気だよな?」
「本気で新谷の仇、とるつもりなんだよな?」


八神が頷く。
「はい。」


「よし!」
「なら星野君のことも遠慮なく使ってやってくれ。」
「ウチも新谷の仇討つまで採算度外視で事件を追う。」
「必ず犯人を突き止める。」
「もちろん俺にもできることがあれば何でもやる。」
「遠慮しないで何でも言えよ。」
「ただし、これ以上の犠牲者は無しだ。」
「お前らに万一のことがありゃ、俺もおめおめ生き恥さらすつもりはねえ。」


さおりと話をする。
「真冬とは中学校の時からの幼馴染です。」
「それからしばらくブランクがあって、大学の法学部で再会したんです。」
「真冬はいかにも裕福なお嬢様育ちで、私の方は人見知り。」
「中学のクラスでもイジメられてたんです。」
「真冬はことあるごとに私をイジメっ子から守ってくれました。」
「彼女はその頃からもう検事を目指してて、私はそんなあの娘に憧れたんです。」
「一方的ですけど。」
「だから最初は私も検事を目指してたんです。」
「でもやっぱり悪人を裁くより、弱い人を守る弁護士の方が性に合ったみたいで。」
「そういえば、真冬にも小さい頃憧れの存在がいたそうです。」
「あの娘が子供の頃、お母さんと歩いていたところを車に轢き逃げされたんですけど、お母さんが真冬をかばって。」
「しばらくは意識不明で危なかったとか。」
「そのあと轢き逃げ犯が捕まったんですが、裁判のときもお母さんはまだ眠ったままだったんです。」
「轢き逃げの状況はまだ小さかった真冬ではとても説明しきれません。」
「でも担当した検察官は辛抱強く現場で起きていた全てを調べ上げて状況を理解してくれた。」
「物を言えない被害者にかわって正義を貫いてくれたんです。」
「それがあの娘にとっての初恋だったのかも。」
「その人は今、真冬の上司。森田検事正です。」
「八神さん、私が真冬を紹介した日、覚えてます?」
「3人でテンダーで飲みましたよね。」
「あの日、森田検事正は別の女性と結婚を。」
「それで私、真冬にもっといい男の人を紹介したくて。」
「だから八神さんを呼んだんです。」


さおりの協力を得てクイーンルージュに潜入してもらった。
休憩室で元気のないミカという女の子から話を聞き出す。
「私、どんくさいせいでお客さんを激怒させちゃったことがあって。」
「そのお客さん、うちの店を出た後で亡くなっちゃったの。」
「知らない?男の人が酔っ払って喧嘩して殴られたのが原因で死んじゃったって話。」
「結構すごい人だったんだけど。」
「アドデック9っていう薬の開発に関わってる。」
「あの日、私が注いだお酒のせいで酔っ払って。」
「私がどんくさいせいで機嫌悪くなっちゃって。」
「それで喧嘩なんかしちゃったのかなあって思うと、なんか責任感じちゃってさ。」


その頃、八神のところに黒岩と綾部がやってきた。
「お前が帰ってくるのを待ってた。」
「検察内部に裏切り者が一人いる。」
「俺が思うにそいつは女だが、ある事件の捜査資料を持ち出した。」
「その資料は創薬センターの副所長が神室町で殴り殺されたって事件のもんだ。」
「捜査資料の横流しだ。ったく、許せないよなあ、綾部。」
「どいつもこいつも、警察ナメてやがる。」
「明日、泉田検事がお前と話したいと言ってる。」
「新谷殺しの件でだ。」
「お前が応じなきゃ逮捕状を請求するとさ。」
「とにかくお前は地検に行って検事と話せ。」
「潔白ならなんてことねえだろ。」
「泉田検事は知らない仲じゃないんだろ?」


「わかったよ。お互い誤解を解くいい機会かもしれない。」
黒岩と綾部は帰っていった。


クイーンルージュが閉店した後、八神はさおりとミカと合流した。
「半年前にミカさんがついた客、この男で間違いない?」
「ふたりの様子はどんなだった?」


ミカが答える。
「パッと見はよくいるサラリーマンの上司と部下って感じ。」
「端木さんが上司の悪口言って、それを生野さんが愛想笑いで聞いてて。」
「全部木戸さんって人の悪口。」
「知ってる?アドデック9って認知症の薬。」
「木戸さんはそのアドデック9を開発してる一番偉い人だって。」
「木戸さんはアドデック9で儲けたいって人たちから接待とかお金も受け取ってるんだって。」
「裏社会ともつながってるとか、端木さんはそう言ってたよ。」
「詳しくはわかんない。でも新薬の利権っていうの?」
「とにかく色々美味しい話チラつかせてだいぶ悪どくやってるんだって。」
「しばらくしたら端木さんがこう言ったの。」
「アドデック9にはなんかデカい問題が隠されてるだろ!って。」
「捏造、とか、でっちあげ、とか。」
「なんかアドデック9ってそれくらい出来すぎたものなんだって。」
「端木さん、途中で絶対何かあるはずだって怒り出しちゃって。」
「なんか必死すぎてみんなドン引きって感じ。」


ミカと別れ、源田法律事務所に戻った。
「創薬センター副所長の端木は計画的に殺された。」
「梶平の会長が睨んだ通りでその可能性はかなり高い。」
「端木はアドデック9の論文にデータの捏造というような問題があると疑ってたようです。」
「そして殺される直前までそれを必死に嗅ぎ回っていた。」
「そこでもし何か問題が見つかれば、今頃創薬センターは閉鎖されてたかも。」
「アドデック9の論文発表以来、何百億って予算が創薬センターや厚労省に回っているそうです。」
「そんな大金が動くとしたら、ひと一人死んでもおかしくないです。」
「問題は誰が端木を殺したか。」
「直接手を下したのはプロの殺し屋だった可能性が高い。」
「例の黒いレインコートの男だよ。」
「それが殺し屋なら雇った黒幕がいるはず。」
「そいつはアドデック9や創薬センターを守りたい誰かだ。」
「センター長の木戸はアドデック9の将来性を餌に悪どく稼いでいたらしい。」
「おまけに裏社会とつながりがあるって話まで出てきた。」
「叩けば埃は出るはずだ。」


話を聞いていた源田が言う。
「もしかしたら新谷も変に創薬センターへ近づこうとして、それで木戸に殺されたってのか?」


「その可能性も考えられます。」
「ただそこまで仮設を固める前に、俺はもっと木戸を探りたい。」
「俺らで無理なら、かわりに検察に動いてもらえばいい。」
「ちょうど明日、泉田検事と会うことになってるんでね。」
「俺を逮捕しようとしてる。」
「明日もその件で呼び出されたんだ。」
「話の持っていき方次第ですよ。」
「それでもしうまく検察を味方にできれば、俺への疑いも晴れるし万事解決です。」


翌朝、探偵事務所で目を覚ますと綾部がいた。
「よお。」
「黒岩に伝言頼まれてよ。」
「これから東京地検に行ってくれ。泉田検事がお前をお待ちかねだ。」
「虫の知らせってやつがきてな。」
「お前がもしこのまま逮捕されたら、その顔も見納めだと思ってよ。」
「もし俺のこと言ったら、ムショに殺し屋送り込んでやる。」
「すぐに地検に出頭しろよ。」
「あいにくお車代は出ねえけどな。」


東京地検に向かうと、泉田検事の他に森田検事正も待ち構えていた。
「黒岩刑事から聞いていると思いますが、新谷弁護士が殺害された件でお呼びしました。」
「ただしこれは非公式な場です。」
「お互い知らない仲じゃないですし、軽く雑談するつもりで。」


八神が言う。
「そもそも立証責任ってのは検察にある。」
「何で俺に新谷殺しの疑いがかかっているのか、まずその根拠を聞かせてくれるかな。」


泉田検事が言う。
「新谷先生が亡くなった夜、あなたは何をしていましたか?八神先生。」
「あなたに事件当時のアリバイはあるんですか?」


「共例会のヤクザたちが詰めているKJアートって会社がある。」
「事件の晩はその近くで若頭の塩屋達と会ってた。」
「俺のアリバイは連中に聞けば確認できるはずだ。」


泉田検事が聞く。
「ではあなたの事務所から新谷弁護士の死体が出てきたのはなぜですか?」


「俺に聞かれたってわからないよ。」
「犯人を見つけてそいつに聞いてくれ。」


泉田検事が言う。
「ええ。だからあなたに聞いてるんですよ。」


森田検事正が言う。
「八神さん、あなたは新谷弁護士のスマホから発信履歴を盗み見しましたね?」
「新谷さんは亡くなる前、創薬センターに電話をかけていらした。」
「そのことを知ったあなたは間もなくセンターに押しかけて木戸さんや生野さんを問い詰めている。」
「なぜそんなことを?」


八神が答える。
「新谷がなんで殺されたのか、自分なりに調べようと思ったからです。」
「検察や警察には任せておけません。」
「よくとんちんかんな犯人を捕まえてますからね。」
「まさに今の俺みたいのを。」


森田検事正が言う。
「なるほど。では犯人は別にいると?」
「あなたはそれをこの場で説明できますか?」


「俺は新谷が殺された背景には大きな前提があると考えています。」
「ご存知の通り、まず1年前にアドデック9という新薬の論文が発表されました。」
「アルツハイマーを治せるとして非常に期待されている。」
「ところがそれを開発する創薬センターの関係者が半年前、ある事件で殺されたことはあまり知られていない。」
「創薬センター副所長の端木亨です。」
「端木は神室町でたまたま行きあった相手と口論している姿が目撃され、その後路上に倒れていた。」
「素手で暴行を受けており、病院に運ばれて3週間後に死亡。」
「今も犯人は見つからずじまいです。」
「検事はこの事件を?」


泉田検事が答える。
「私は初めて聞いた。」


「まあ確かに大きく取り上げられた事件ではありませんでした。」
「ところで、この端木という男にはちょっとした裏があった。」
「関西の大手ゼネコン、梶平グループの会長のために動いてたんです。」
「梶平は創薬センターを含む地域を再開発する計画を持ってましてね。」
「共例会のヤクザを手駒にして厚労大臣にも根回しを済ませていた。」
「ところがアドデック9の登場で計画はご破算。」
「表に出ない大損失を被ってしまった。」
「その額、1000億。」
「そんな梶平にアドデック9を潰してみせると豪語していたのがこの端木です。」
「そして端木は神室町で暴行を受ける直前、もうひとりのセンター関係者と会っていた。」
「店で端木と飲んでいたのはアドデック9に深く関わっている。」
「泉田検事は見覚えがあるはずだ。」
「生野は3年前にセンターで起きた事件の目撃証人だった。」
「生前の被害者、和久という老人を見たと証言していた。」
「そしてアドデック9の開発ユニットリーダーでもある。」
「この生野に端木はアドデック9の論文には何か問題があるはずだと詰め寄っていた。」
「たとえばデータの捏造や薬の効果のでっちあげ。」
「そもそもアドデック9は創薬センターの閉鎖話が出た途端、突然センター長の木戸から発表されたものです。」
「端木はそれを出来すぎと考え、裏をしつこく嗅ぎ回っていた。」
「ただその動きはアドデック9に莫大な利権を見込む人たちにとって非常に目障りだったはずです。」
「こうなるとアドデック9のまわりに何かずいぶんと深い闇があるんじゃないかと思いません?」
「新谷も死の直前、創薬センターに電話をかけて何かしらの接触をしようとした。」
「そのことももしかしたらアドデック9の闇に潜む誰かを刺激したかもしれない。」
「そして端木同様、邪魔者とみなされたっていうのはどうです?」
「つまり俺が言いたいのは、アドデック9を守るために誰かが邪魔者を消している可能性があるってことです。」
「もしそれを検察がまるで検証できていないんだとしたら、俺を逮捕する前にまだやるべきことがあるんじゃないのか?」
「そうだろ、泉田!」
「それでも今すぐ俺を逮捕したいんなら、その根拠を教えてくれ。」
「あんたらには充分頭数が揃ってんだから。」
「相手は世間に支持されて今をときめくアドデック9だ。」
「その闇を調べるなんて、一介の探偵には荷が重すぎます。」
「泉田検事じゃなく、森田検事正とならうまくやれるかも。」


森田検事正が言う。
「実を言うと、新谷弁護士殺害犯についてはすでにもう裁判所に逮捕状を請求していたんです。」
「今、無事に受理されたという報告を受けました。」
「逮捕するのはあなたじゃありません。」


泉田検事が言う。
「新谷を殺したのはな、神室所の綾部だ。」
「死体から出た弾丸は綾部の銃で撃たれてた。」
「やつが新谷殺しの犯人だ。」


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