ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター3「ピストル強盗」

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八神は羽村に追われる身となった。
海藤の電話に留守電を入れる。
「早く出た方がいいぞ、海藤さん。」
「今、松金組に見つかるとまずい。」


探偵事務所に戻ると、海藤と松金組の構成員が乱闘していた。
その中に東城会系松金組若衆・東徹がいた。
東は海藤が組にいた時、かわいがってた舎弟だ。


海藤が言う。
「カシラの命令で来たんだと。お前を探し回ってる。」


「ああ。あの人は相当モグラに触れられたくないらしい。」
「うちをコケにしたカシラが怒ってんだよ。」
「ますます手を引く気なんてないね。」


東が言う。
「カタギの出る幕じゃねえんだよ。馬鹿が。」
「おかげで俺らまで面倒に駆り出されちまった。」


海藤が言う。
「いいじゃねえか。カシラに尻尾振るのが今のお前の仕事だろ?」


「カシラは芸さえすりゃたっぷり餌をくれるんでね。」
「あんたと違って尽くし甲斐があるんですよ。海藤の兄貴。」


海藤が言う。
「俺はもうお前の兄貴じゃねえ。」
「手下連れて帰れや、東。」


「ええ。今日のところはそうします。」
「やっぱあんたに手ぇ出す時は、こっちも殺す覚悟でいねえと。」
「前にも言いませんでしたっけね。」
「疫病神を略してヤガミですよ。」
「すぐに手ぇ切った方がいいですよ。」


八神が言う。
「東よ、少し見ないうちに悪い顔になったな。」


「うるせるせぇよ。」
東は手下を連れて帰っていった。


海藤が言う。
「ター坊、東を尾けてきてくれねえか?」
「俺が組抜けてからあいつに何があったか、今どうなってるかが知りてえ。」
「さっきあいつがここに来た時、俺は一瞬誰かわからなかった。」
「お前の言う通り悪い顔になってた。」
「モグラの件とは別だ。依頼料は払う。」


「そんなのいるわけないだろ。」
「それに羽村の情報も手に入るかもしれないしな。」


八神は東の尾行を始めた。
「東は公園前通りのゲーセンに入ってった。」
「心当たりは?」
「シャルルって看板が出ている。」


海藤が答える。
「昔俺が組から任されてた店だ。」
「今はあいつがやってるってことか。」
「たまにヤバい取引の場所に使ってたがよ、普段はガキでも入れる普通のゲーセンだ。」
「広い店じゃねえから、店入る前に変装してった方がいい。」


八神は変装してゲームセンターに潜入した。
「海藤さんがお前を心配しててね。」
「自分を慕ってた舎弟がすっかり別人みたいだってな。」
「悪ぶってるだけだろ?」
「根っこは変わってない。」
「海藤さんを兄貴って呼んでた頃から何もな。」


東が言う。
「俺らが最後に会ったのはもう1年前か。」
「海藤の兄貴が破門にされた日。」
「ちょうど1年前。」
「ヤクザの金庫が強盗に襲われる。そんなまさかがあるなんて、普通は考えない。」
「その日、事務所の当番だった海藤さんもそうだ。」
「盗られた組の金は1億。」
「さすがの海藤さんもいきなり銃を突きつけられちゃどうしようもなかった。」
「カシラに責任を取れと迫られ指を落とそうとした時、お前が組長と事務所に入って来た。」
「すでに本家に報告済みだとカシラに言われ、組長は仕方なく兄貴を破門にした。」
「お前は海藤の兄貴はもうカタギだからと言い、兄貴は指を落とさずに済んだ。」
「あの時、組長は兄貴を助けたくてお前を連れてきたんだろ?」
「だがもうあの状況だ。破門は避けようがなかった。」
「それでお前はできる限りの弁護をしたってわけだ。」


八神が言う。
「おかげでカシラにはずっと目をつけられてるよ。」
「でもお前はうまいことやったな。東。」
「カシラに取り入って出世したか?」
「このゲーセンも前は海藤さんが仕切ってたって?」


「お前に何がわかる。」
「今の松金組は全部カシラが牛耳ってんだよ。」
「海藤の兄貴がいなくなって、組長は少しずつ勢力を崩されてった。」
「兄貴さえ組に残ってりゃこうはなってねえ。」
「たった一人で何ができるんだよ。」
「言うは易しだ。」


八神が聞く。
「そういえば、松金組から盗られた1億、あれどうなった?」


「うるせえ、てめえにゃ関係ねえだろが。」


「だよな。」
八神は事務所に戻った。


海藤に報告する。
「まず、今の松金組は親っさんも羽村のカシラを押さえきれてない。」
「それで東もカシラの言いなりになるしかないってことらしい。」
「ただ、実際話してみて、東はそこまで昔と変わってない気もしたよ。」
「1年前、海藤さんが組を破門にされた時、事務所の金庫から1億円、拳銃強盗にやられたんだったよな。」
「結局、その始末はどうなった?」
「海藤さんは何か聞いてるか?」


「金は東が回収したらしい。」
「例の綾部から聞いた情報によればだ。」
「もっと詳しく聞きたきゃ20万出せって言われてよ。」
「そん時は持ち合わせがなかったんでな。それっきりだ。」
「東とは、破門されて以来久々に会った。」
「俺と行き来すりゃあいつがカシラに目ぇつけられる。」
「迷惑になっちまうと思ってな。」
「羽村のカシラはまたここに押しかけてくる。」
「時間の問題だ。」
「次はマジで俺らを殺りにくるかもな。」
「それだけモグラに触れられたくねえってのが一つ。」
「あとは何より、カシラは俺らのことが嫌いだ。」


翌日、八神は綾部に連絡を取った。
情報料は10万円に値下がりしたようだ。
「松金組の件は事件になってねえ。」
「この資料は全部俺の独自情報だ。」


資料はとてもわかり易くまとめてある。
「わかりやすいな、これ。」
「本物の捜査資料みたいだ。」


綾部が言う。
「刑事がどれくらい書類を作ってると思う?」
「ホシ追ってる時間より書類作ってる時間の方がずっと長いんだよ。」
「まず、これが松金組の間取りだ。」
「1年前、強盗に入られた当時のものだが、まあ今と変わってないだろ?」
「強盗はまず事務所に入る組員に紛れて監視カメラをかわした。」
「で、その死角で組員の頭を拳銃で殴って気絶させる。」
「そのとき事務所は留守を預かる海藤がひとりきり。」
「午後3時。松金組の事務所が一番手薄な時間だ。」
「そして強盗は油断しきってた海藤に銃をつきつけ金庫を開けさせた。」
「強盗は海藤に銃を突きつけた後、天井を一発撃ち抜いてみせた。」
「銃は本物。となれば誰だって動けるもんじゃない。」
「で、脅されるまま金庫を開けた後は海藤も頭を殴られて気を失った。」
「ここまでが事件のあらましだ。」
「強盗の手際が良すぎる。」
「腕がいいのもあるが、それだけじゃないな。」
「金庫の場所や事務所が手薄な時間。」
「内部事情に詳しくなきゃここまでスマートにはやれん。」
「組の中に賊を手引した内通者がいたはずだ。」


八神が言う。
「なんか海藤さんが不自然だな。」
「あの人ならもっと抵抗しそうなもんだけど。」


「流石だな。」
「今までの話は所詮、前フリだ。」
「こっからが10万の価値がある情報でね。」
「さっき俺は事務所に海藤はひとりだと言ったな?」
「だが実際にはもうひとり松金組の組員がいた。」
「東だよ。」
「強盗が金を奪っているまさにその時、あいつもあの場にいたんだ。」
「フロアの隅で組長の靴を磨かされてたらしい。」
「それで異変に気づいたときにはもう出るに出られなかった。」
「東はそこで強盗の顔つきや体つき、特徴を記憶に焼き付けてた。」
「結果として誰も死なずに済んだし、それがベストの行動だったが、兄貴分を見捨ててむざむざ1億渡したとも言える。」
「ヤクザとしちゃ指詰めもんだ。」
「だから海藤は東もあの場にいたことを誰にも言わずにいてやった。」
「そして消えた1億の責任は自分ひとりで全部かぶった。」


八神が言う。
「なるほどね。海藤さんらしいや。」
「でもその後は?」
「1億は東が犯人から回収したって聞いてる。」
「何があったんだ?」


「犯人の素顔をみてた東は一人でそいつを追い始めた。」
「金を取り戻せば海藤の破門も取り消せるんじゃねえかってな。」
「それで警察のデータベースから犯人の顔を探そうとした。」
「そこで俺を頼ってきたわけだ。」
「東は警察の前科者リストからホシを見つけ出した。」
「そいつは神室町のホームレスになっていて、赤鼻と呼ばれてた。」
「これが赤鼻がホームレスになる前の顔だ。」
「その後東は1億を組に戻したってことらしい。」
「海藤の復帰は叶わなかったが、代わりに東は組の中でそこそこ出世したよ。」
「カシラの覚えがめでたくなったってわけだ。」
「俺の知ってる情報はここまでだ。」


八神は海藤と一緒に赤鼻を探した。
ホームレスに話を聞く。
「赤鼻は死んだよ。とっくの昔だ。」
「1年くらい前、赤鼻が下水に沈んでたのを見たやつがいる。」
「銃で撃たれた痕があったって。」
「警察には届けていない。」
「俺らは警察が好きじゃないし、向こうもドブで死んだホームレスの事件なんて面倒なだけだ。」
「死体だってもうどっかに流されちまったよ。」
「それでも俺らは赤鼻になにがあったか突き止めてやりたかった。」
「せめてもの供養にな。」
「ただ、その頃東城会のヤクザが一人、あいつを探し回ってた。」


海藤が東の写真を見せる。
「ああ、こいつだ。間違いないよ。」


「1年前、東は強盗犯だった赤鼻から1億を回収して組に戻している。」
「その頃、下水道には赤鼻の射殺体があがっていた。」
「となると、犯人は・・東か。」


海藤が言う。
「俺にはどうしてもあの東が人を殺せたとは思えねえ。」
「銃だって下っ端のあいつがどっから調達した?」
「東に話を聞きにいく。」


八神と海藤は東のもとに向かった。
「あんとき俺は、兄貴を助けたかったんですよ。」
「金さえ取り返せば破門も取り消せるって。」
「そのためならなんだってやる覚悟でした。」
「でも俺は殺ってねえんだ。」
「赤鼻を殺したのは俺じゃねえ。」


八神が聞く。
「赤鼻が松金組の金を奪った時、組の中に誰か手引した内通者がいたはずだ。」
「そいつは赤鼻にいろんな情報を与えてた。」
「事務所が手薄な時間帯、金庫のある場所はもちろん、その中に確実に金がある日時。」
「でなきゃヤクザの金を奪うなんてまず不可能だ。」
「その内通者が赤鼻を殺したんじゃないのか?」
「真相の口封じをするために。」


「そうかもな。」
「金は二の次だったんです。」
「海藤の兄貴を潰すことが内通者の本当の狙いでした。」
「だからわざわざ兄貴が当番の日に金庫を。」
「内通者は羽村のカシラです。」
「カシラにとって兄貴は組の中でただ一人の脅威だった。」
「兄貴さえいなくなりゃ松金組を完全に掌握できる。」
「あの人はそう踏んだ。」
「カシラに逆らえるモンはもうただの一人もいねえ。」
「あの人にはそれだけの稼ぎがあって、力がある。」
「カシラあっての松金組だ。」
「1億が奪われて兄貴が破門になった次の日だ。」
「俺はサツから情報を買って、その夜にはもう赤鼻の名前と顔を手に入れてた。」
「そいつで街中聞き込んで、行き着いたのは神室町の下水道だった。」
「ただそこにいたのは赤鼻だけじゃなかった。」
「カシラもそこにいたんだ。」
「カシラは赤鼻から9000万を回収して高飛びさせようとしてたんだ。」
「つまり赤鼻の報酬は1000万。」
「それで円満におさらばのはずだった。」
「でも俺がその場に現れたのを見て、すぐに赤鼻を射殺した。」
「カシラに銃を向けられた俺は、すべてありのまま話した。」
「事務所が襲われた時、俺もその場に居合わせたこと。」
「綾部からサツの情報を買って赤鼻に辿り着いたこと。」
「言葉が途切れたらそこで撃たれるって、そう思って必死に喋りまくった。」
「カシラは俺に、死にたくなきゃ俺に忠誠を誓えと言った。」
「カシラは赤鼻を殺した罪を俺にきせたんだ。」
「俺は街中歩いて赤鼻の居場所を聞き込んでた。」
「そしてやつを殺った銃には俺の指紋。」
「端からみりゃ言い訳できねえ状況が揃ってる。」
「俺の顔、悪くなったって言ってたよな。」
「実際、俺もそう思ってた。」


海藤が言う。
「組長にはもうカシラを止める力はねえ。」
「情報を伝えたとこであの人を困らせるだけだ。」
「東もそれがわかってたからずっと一人で呑み込んでた。」


八神は席を外し、海藤と東の2人で話をする。
「やっぱり俺は、あの八神が嫌いです。」
「ヤツは俺よりずっと前から兄貴とつるんでた。」
「極道でもねえのに組長から一目置かれて。」
「まあ面白くねえ野郎でしたよ。」


「東、お前ター坊の父親の話、知ってるか?」
「あいつがガキの頃は、武道の手ほどきなんかもしてくれたらしい。」
「そして弁護士でもあった。」
「で、ター坊が15歳になった頃だ。」
「親父さんはある殺しを弁護して執行猶予つきの実質無罪を勝ち取った。」
「だがな、それを被害者遺族の一人が恨みに思ったんだよ。」
「ター坊の両親は、包丁でメッタ刺しにされたらしい。」
「その頃ター坊は仕事ばかりの親に反抗期を迎えててよ。」
「襲撃の時はダチの家を泊まり歩いてた。」
「もしあいつが家にいたら、その暴漢を取り押さえられてたかもな。」
「犯人は現場の奥で首吊ってたってよ。」
「ひとつも救いのねえ事件だった。」
「いっぺんに親を亡くしたあと、ター坊は親類の手も振り払って神室町に出てきた。」
「年をごまかしてテンダーで働いてたんだ。」
「あいつは最初、俺が店で偉そうにしてたのが気に食わなかったんだと。」
「当時は俺だってまだ駆け出しだ。」
「それでもヤクザ相手に15かそこらのガキが喧嘩ふっかけてきやがってよ。」
「その鼻、へし折ってやったよ。」
「ただあいつは、それ以来何度やられようが負けを認めようとしなかった。」
「てめえの痛みを他人事みてえに醒めた目で見てたっつーか・・」
「でもある日、それをどういうわけか松金の組長が気に入った。」
「するとター坊もだんだん組長の言うことだけ聞くようになってった。」
「もともとあいつは、ヤクザにしかなれねえ俺らとは出来が違ったんだ。」
「組長もそこを見込んでタニマチを買って出たんじゃねえか?」
「ター坊もそれに答えて司法試験まで通っちまった。」


東が言う。
「そこがまた気に食わなかったんですよ。俺らは。」
「でもあいつは取り返しのつかないしくじりをした。」
「本物の殺人鬼を無罪にしちまったんだ。」
「もう終わった人間じゃないすか。八神は。」
「なのに兄貴も組長も、なんであんなやつと。」


「それ言ったら、破門にされた元極道も似たようなもんだぜ。」
「神室町じゃ珍しくもねえ。」
「ここはその手の人間が最後に行き着く街でもある。」
「あいつも俺も、この街で育った。」
「他に行き場なんかねえ。」
「だから羽村のカシラといくらカチ合おうが、俺らは俺らの流儀で行くだけだ。」


東が言う。
「兄貴、今の俺にはカシラの命令が絶対です。」
「でももし兄貴達を殺せとでも言われたら、精一杯あがいてみせます。」


「その気持だけで充分だ。」


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