龍が如く5 夢、叶えし者

―2010年・沖縄養護施設アサガオ―
芸能事務所ダイナチェアの朴美麗という女社長がアサガオを訪ねてきた。
「あの子を琉球街の本屋で見つけてから一週間、この養護施設のことも、どういう環境で育ってきたのかも全て調べさせてもらった。」
「もちろんあなたの前の職業もね。」
「澤村遙。容姿やスタイルは荒削りだけど間違いなく逸材。」
「磨けば光るわ。」
「私なら彼女をギラギラに光る宝石の中でも特別な存在にすることができる。」
「私にあの子を預けて。必ず成功させてみせる。」
「条件は、あなたにここを去ってもらうこと。」
「人間っていうのは誰かを好きになればなるほどその人の裏を知りたくなるものなの。」
「血液型、出身地、服の趣味や家族構成。」
「知れば知るほど身近になった実感を得られる。」
「でもその相手が実際は手の届かない遠い存在であるほど知りたいという感情はより強く作用してしまう。」
「そしてそれは相手の知らなくてもいい部分を暴きたいという感情に繋がっていく。」
「一度愛した人間に裏切られたと感じた時、その愛情は憎悪にすら変わる。」
「そうは思わない?」
「彼女を守るためなの。」
「あなたと一緒にいた過去を消し去ることができれば私は彼女を守れる。」
「だから・・」


翌年、養護施設アサガオの前にある砂浜で話をする桐生と遙。
「本当に出ていくんだね。」
「どうして?私はおじさんと一緒にいる方を選んだのに。」


桐生が言う。
「お前も来年は高校生。」
「次の年には他の子供たちも中学を卒業する。」
「もう大人の世話になる年でもないだろう。」
「それにお前のために出ていくわけじゃない。」
「俺もガキの世話に飽きていたところなんだ。」
「嘘じゃない。俺は俺のためにここを出るんだ。」
「お前の芸能界入りは関係ない。」


「それだけじゃないことは分かってる。」
「いくらおじさんが嘘ついたって分かってるんだから。」
「お金なんでしょ。」
「朴社長がおじさんがここから居なくなることを条件に援助するって言ってきたんでしょ。」
「ごめん。おじさんが気を遣って嘘ついてくれたのは分かってる。」
「でも私には嘘ついて欲しくなかったから。」


桐生が言う。
「子供たちが高校に行かないで働くというんだ。」
「あいつらは自分が犠牲になってもこのアサガオを守ってお前が成功して戻って来る日を待つと言っている。」
「お前はあいつらの希望の星なんだ。」
「お前が歌手として成功し、またこの場所に戻って来ることがあいつらの望んでいる幸せだ。」
「だがあいつらは犠牲を払うには幼すぎる。」
「金がないという理由だけで自分の可能性を潰すような生き方を選ばせるわけにはいかない。」


「でもきっと皆はそれでもおじさんと暮らしたいんだよ。」
「私もそうだから。」


桐生が言う。
「ありがとうな。」
「でもここが潮時だ。」
「俺らにだっていつの日か離れ離れになる日が来るんだからな。」
「だから俺はここを去る。」
「お前やアサガオの皆のことを愛しているから。」


―2012年12月某日・福岡永洲街―
ロールスロイスに乗っている堂島大吾の隣には山笠組組長・斑目忠がいる。
「なかなか信用できる御方のようだ。」
「ホテルでの面会を突然キャンセルし車で面会したいというこちらの希望を貴方は受け容れた。」
「狭い車中、護衛も同席できない密室空間。」
「当然命を狙われる危険性も高い。」
「それでも貴方はこの車に乗り私と面会した。」


大吾が言う。
「我々にとってこの会合はそれほどまでに重要だということです。」
「それに私は九州全土を掌握する山笠組の組長がそのようなことをするとは思ってません。」
「郷に入らば郷に従え。」
「福岡においては斑目組長のルールに従うつもりですよ。」


「3万の組員を束ねる貴方が5百に満たない兵隊しか持たない私に従うと?」


大吾が頷く。
「はい。それが五分の盃というものだと。」


「なるほど。度胸だけではなく礼節も弁えてる。」
「その若さで東城会の金代紋を背負うだけのことはありますな。」
「盃の件、前向きに検討させていただきます。」
「後日改めてお返事を。」


「ええ。物騒な世の中です。」
「組長も十分にお気をつけて。」
「大変申し上げ難い話なのですが、我々のどちらか、もしくは両方の命が狙われる可能性があります。」
「身内の何者かが組織を裏切ろうとしている。」
「今回の盃の件、反目する組員がいたのも事実ですから。」
「斑目組長、一つお願いがあります。」
「車を降りてから口裏を合わせて頂きたい。」
「それと私がこの後消えることをお許しいただきたい。」
大吾は深々と礼をして車を降りた。


東城会本部長直系青山組組長・青山稔が大吾を出迎える。
「先方がホテルでの会合をキャンセルしてきた時はどうなることかと思いました。」


「相手もそんなに馬鹿じゃない。」
「むやみに手を出してくるはずもない。」
「それに本当なら呑めないはずの盃をこっちが無理やり呑ませようとしてるんだ。」
「多少のリスクは覚悟の上だ。」


青山が言う。
「我々もホテルに戻りましょう。」
「あまり余所の街に長居するのは危険です。」


「せっかく福岡まで来たんだ。」
「少しは独りで息抜きがしたい。」
「安心しろ。すぐ戻る。」
「付添は不要だ。」
大吾は一人で永洲街に消えていった。


タクシーに乗り込む大吾。
タクシーの乗務員証には有限会社永洲タクシー・鈴木太一と書いてある。
サングラスとマスクで顔を隠しているが、運転手は桐生一馬だ。
「これから話すことは客の独り言だと思って適当に聞き流してください。」
「ちょっと福岡でビジネス上の重要な取引をしようと思ってましてね。」
「実は私、東京でとある会社を経営してまして。」
「従業員3万人。国内最大規模の大企業ということになりますかね。」
「ここ数年の景気の悪さから一時倒産の危機もあったんですが、今では堅調な経営ができています。」
「経営が安定した最大の理由は関西にある同業他社との業務提携にあります。」
「ウチの会社とその関西の会社は長年ライバル関係にあり、過去には激しく争った歴史もありました。」
「しかし時代は変わり、私達の業界も商売をする上で大きな変革が求められるようになってしまった。」
「このままでは時代に取り残されていってしまう。」
「そんな危機感を持った我々は、業務提携という形で和解し、共にこの厳しい世の中を渡っていこうとしていたわけです。」
「だが実は今、そのライバル会社との間に大きな問題を抱えていましてね。」
「このままでは両者食うか食われるかの大抗争に発展しかねない事態に。」
「原因は先方の社長の病気にあります。」
「余命1ヶ月弱。末期の肺癌だそうです。」
「その社長さん、大変理解のある方でしてね。」
「私も強い信頼をもってました。」
「でも病気となれば代替わりは止む無し。」
「当然次の社長が選ばれることになるわけですが。」
「その候補というのがこちらにとって少々厄介な方々で。」
「候補は3人。」
「腕一本でのし上がった副社長に大阪の財界を仕切る専務。」
「そして社長の秘蔵っ子の取締役。」
「タイプは違えど、皆さん社長になる実力をもった方々です。」
「ただその三人に共通して言えるのは、こちらの存在をよく思ってない。」
「つまり好戦的な方だということです。」
「そんな方たちが次の社長に就任したらこれまでの協定は破棄。」
「東と西、本州全土を巻き込んだ大喧嘩が始まってしまいます。」
「だから私は福岡まで来たんです。」
「関西以外の同業他社の方とも手を結ぼうと思いましてね。」
「いわゆるM&A、吸収合併というヤツです。」
「万一の事態に備え、少しでもうちの会社組織を大きくしておきたい。」
「名古屋や札幌にも私の部下が行ってるんですが。」
「どうでしょう。うまく話がまとまってるといいんですが。」
「いい加減俺も自分の足で歩けるようにならないと駄目ですね。」
「これでも俺なりに精一杯、棘の道を歩いているつもりなんですが。」


堂島大吾をタクシーから降ろした桐生は、行きつけの立ち食いそば屋に入った。
備え付けのテレビに遙が出ている。
遙はプリンセスリーグというデビュー前の少女を集めて競わせる番組に挑戦しているようだ。
そこで優勝したらメジャーデビュー出来るという。


桐生は現在、有限会社永洲タクシーで鈴木太一という偽名を使ってタクシー乗務員をし、乗務員で稼いだ給料をアサガオの運営費にあてている。


一人暮らしをしている桐生の部屋にまゆみというキャバ嬢が住み着くようになっていた。
まゆみはクラブ「オリビエ」のNo.1キャバ嬢だ。
山笠組組長・斑目忠の娘で、大吾に桐生を見守るように頼まれている。


仕事が終わり会社に帰った桐生を青山組の構成員2人が待ち伏せていた。
「鈴木太一さんですね?」
「少々お聞きしたいことがありまして。」
「桐生一馬さん、ここじゃお互い都合が悪いでしょう。」
「場所を変えまえんか?」


運河の橋の下に場所を移す。
「既にお分かりの事と思いますが、自分たちは東城会の代紋担がせてもらってる人間です。」
「今回堂島会長の福岡訪問にあたり、本家本部長兼会長秘書の直系青山組組長・青山から会長の護衛役を仰せつかりました。」
「私、森永と申します。」
「横に居るのは私の弟分の相沢です。」
「堂島会長が行方不明なんです。」
「実は昨晩、会長は山笠組の斑目組長と盃交渉のため永洲街で面会しました。」
「交渉自体は問題なく終えられたのですが、その後の会長の足取りが分からないんです。」
「堂島会長が面会終了後単独で行動してタクシーに乗り込んだところまでは分かっています。」
「その後車で追いかけたのですが、福岡の交通事情に疎い私達は不覚にも会長が乗ったタクシーを見失ってしまいました。」
「会長を乗せたタクシーのナンバー情報を陸運局に照会した結果、車は永洲タクシーという会社のものであること、運転手が鈴木太一という人間だということまでは辿り着きました。」
「だが会長が鈴木太一という人間と知り合いだったという情報はない。」
「それで私達は謎の運転手、鈴木太一さんに会うためここで貴方の帰りを待ち続けたというわけです。」
「まさかその運転手が東城会の四代目、桐生一馬さんだったとは。」
「正直今も驚いています。」
「桐生さん、堂島会長の行方を何かご存知ではないですか?」


桐生が答える。
「俺は客を乗せ高速を走り、再び永洲街の近くで降ろした。」
「それ以外のことは何も知らない。」
「話はそれだけか。」
「じゃあ俺は会社に戻る。」


相沢が言う。
「それでいいんですか、桐生さん。」
「本当にあなたは堂島会長を見捨てたまま平気でいられるんですか?」
「東城会は今、大きな選択を迫られています。」
「福岡に来たのもそのためです。」
「その大事な場面で会長が消えるなんてただ事じゃない。」
「事故か、あるいは最悪の場合・・」
「そんな状況だというのに、なんでそんなに冷静でいられるんですか?」
「そんなに簡単に会長のこと見捨てられるんですか?」
「自分はまだ東城の代紋担いでから日も浅いです。」
「正直四代目がどういう人だったのかも分かりません。」
「でも会長はいつも言ってました。」
「俺は四代目の創った東城会を守りきるって。」
「今回の山笠組との一件も本当は他の幹部から反対されていたんです。」
「山笠組と東城会は格が違う。」
「五分の盃なんかありえないと。」
「でも会長は四代目との約束を守るため泥水を呑む覚悟をされたんです。」
「教えて下さい、四代目。」
「あの夜会長はどこに行こうとしていたのか。」


桐生が答える。
「いや、俺は本当に知らないんだ。」


森永が言う。
「分かりました。」
「あなたは桐生一馬さんではなく鈴木太一さんだと。」
「そういうことですね?」
「だったら話は簡単です。」
「今からあなたには痛い目にあってもらいます。」
「あなたが東城会の四代目だというならどんな事情があれ我々が手出しすることなどできません。」
「ですがあくまで一介のタクシードライバーだと言い張るのなら話は別。」
「力づくで本当のことを教えてもらうまで。」
桐生は襲いかかってくる森永と相沢を叩きのめした。


翌日、桐生が運転するタクシーに極道風の男2人組が乗り込んできた。
「しっかしえらいことになりよったで。」
「本部の使いで福岡までやって来てせっかくやから永洲街で遊ぼう思っとったのにトンボ返りやないか。」
「ホンマにただの事故やったんか?」


桐生が聞く。
「お客さん、そんなに急いで何かあったんですか?」


「ちょっとうちのお偉いさんが事故で亡くなってしもてなあ。」
「それで通夜のために大阪戻るんや。」


桐生が聞く。
「ひょっとして新聞に載ってた名古屋の件ですか?」


「せや。なんやうちだけやのうて東城会の人間も事故ったらしいが。」
「新聞には載らへんかったかもしれんが名古屋の交通事故、2件あったんや。」
「同じ日にうちのお偉いさんとは別の場所でもう1件、東城会の人間が死んだ事故があったっちゅう話や。」
「ほんま偶然にしちゃ出来すぎやわ。」
「七代目もはよう跡目を指名してくれはったらええのに。」
「でも末期がんでここんとこずっと面会謝絶やしな。」
「このまま七代目が亡くなるようなことになれば面倒なことになるで。」
「跡目めぐって組割った内部抗争なんてやったら向こうの思うツボやしな。」
「跡目不在の場合、直参団体組長全員の総意で八代目が決まることになる。」
「とどのつまり派閥が大きい方が跡目や。」
「派閥言うたら渡瀬組と逢坂興業、高知組の三大派閥やろ。」
「本家の若頭の渡瀬は今じゃ一番の武闘派でシマの広さ、傘下組織の数では近江最大じゃ。」
「一方蒼天掘を仕切る本部長は莫大な上納金で全体への影響力も大きい。」
「高知の親分がのうなった今、どっちに転んでもおかしないで。」


桐生が聞く。
「その亡くなられた方ってのも大した方だったんですか?」


「高知の親分か?」
「一応若頭補佐ってことやったけど、正直あんま目立つお人やなかったなあ。」
「どないなわけか七代目からは目えかけてもらってたさかい誰も文句言われへんかったけどな。」
「ある意味高知さんが跡目継いでくれてたら波風立たずに済んでたかも知れへんな。」
「これから直参組長の票を集めるために相当な金が動く。」
「金だけで住めばええけど、近江のトップに立つっちゅうことは日本の極道のトップに立つっちゅうことでもある。」
「そのためには跡目にふさわしい功績も上げんとあかんやろ。」
「例えば東城会の大物を殺るとかな。」
「東城会六代目の堂島とか大幹部の真島とか。」


桐生が言う。
「そう言えば東城会の会長さんがこの福岡で行方不明になったらしいですよ。」
「昨日あたりから東城会の方が必死になって捜しまわってます。」


「そうなんか。ほなわしの推測もあながち外れてへんかもな。」
「渡瀬組か逢坂興業あたりが堂島を拉致した可能性があるな。」
「ま、そないな過激なことしでかすんは渡瀬組の方やろうが。」
「まあなんにせよ、わしらのようなただの兵隊には迷惑なだけの話や。」


仕事を終え家に帰るとまゆみが来ていた。
「今日は夕方までのシフトだったの。」


まゆみが台所で料理をしていると怪我をした森永と相沢がおしかけてきた。
「助けてもらえませんか、桐生・・いや、鈴木さん。」
「森永の兄貴の治療をさせてもらえませんか?」


森永は頭から血を流している。
「すみません。」
「鈴木さんには迷惑かけるなってコイツに言ったんですが・・」
森永は気を失ってしまった。


まゆみが森永の手当をし、桐生は相沢を外に連れ出した。
「病院にも行くわけにいかず、他に頼れる人間もいなかったので・・」


桐生が聞く。
「そうして俺の家が分かった。」


「実は会長を乗せた車の運転手が鈴木太一って名前だと分かった後、本家経由で福岡市内の不動産関連情報を流してもらっていたんです。」
「鈴木太一という名義で賃貸契約をしていたのはあのアパート一軒でしたので直ぐに分かりました。」
「先程、山笠組の跳ねっ返りにいきなり襲われました。」
「堂島会長と山笠組の斑目組長の会合以来、街じゃ山笠組の連中が東城会を襲う事件が頻発してまして。」
「もう十人近い組員がその餌食に。」
「山笠組の下っ端連中は東城会が福岡に来た事自体、良く思ってないようです。」
「俺らは会長の護衛役です。」
「会長が行方不明になった今、その責任は全部森永の兄貴です。」
「仮に会長が見つかったとしてもケジメはとらされるでしょう。」
「ましてやそんな状況で不意打ちとはいえ山笠組の連中に襲われたなんて事がバレたら森永の兄貴はどんな目にあうか・・」
「仕方ないなんて理屈は青山組長には絶対に通用しません。」
「信賞必罰。徹底した方ですから。」
「青山組長のその厳しさがあるからこそ、今東城会は一枚岩となれているのも事実です。」
「裏切りや命令違反を犯した組員に対して青山組長は容赦しません。」
「実際三代目時代からの名跡であっても不祥事があれば廃跡となってます。」
「その代わり忠誠を誓い結果を残した組は次々と直系昇格させています。」
「ドライなやり方だと思われるかもしれませんが、そのわかり易さが若返りした組員達の士気を高めているんです。」


桐生と相沢が部屋に戻ると、まゆみが手当を終えていた。
森永も意識を取り戻し、無事のようだ。
まゆみを家に帰らせ話を聞いていると、森永の携帯が鳴った。
「なんですって?」
「はい。今すぐ戻ります。はい、失礼します。」
森永は電話を切った。
「青山組長が会長代行に就任するらしい。」


相沢が驚く。
「会長代行?」
「でもまだ堂島会長が居なくなってから2日しか経ってませんよ。」
「なのにどうして・・」


「それだけ」本家が山笠組との盃を焦っているということだろう。」
「0時過ぎから説明があるそうだ。」
「今すぐホテルに戻ろう。」
森永と相沢は帰っていった。


翌日、桐生が勤務を終えて帰宅途中、大阪府警の芹沢和彦という男に声をかけられた。
「永洲タクシーの鈴木さんですよね?」
「こういうもんです。」
桐生に警察手帳をみせる芹沢。
「私、極道関係の事件を追ってましてね。」
「昨日から東城会の堂島会長がここ福岡で行方不明になったって話じゃないですか。」
「あなた、何か行き先について知ってるんじゃないですか?」
「堂島が行方不明になる直前、あなたのタクシーに乗っていたという目撃証言もあるんですよ。」
「大名橋で降ろした人ですよ。」
「関係ねえってことはねえだろ?」
「テメエの古巣だろうが。」
「よお、桐生さんよ。」
「あんまり警察なめてんじゃねえぞ。」
「どういうつもりで福岡まで来たかは知らねえが、テメエの所在ぐらいちゃんと掴んでんだよ。」


桐生が言う。
「そういうアンタこそ。府警の刑事がどうして福岡にいるんだ?」


「今この永洲街にな、近江の若頭の渡瀬が来てるんだよ。」
「近江の七代目が危篤だって話、お前知ってるか?」
「近江の七代目が死ねば東城会との五分盃がなくなる。」
「だから東城会の連中は焦って各地に飛んで回っている。」
「福岡には堂島自らが話をつけにやってきたわけだが、渡瀬はそれを阻止しにやって来たってわけだ。」
「やつらにとっちゃ東城会と山笠組が手さえ結ばなきゃいいだけの話。」
「自分たちの言うこと聞かなきゃ山笠組を潰すくらいの腹心算かも知れねえ。」
「そんなわけで今この永洲街は日本の裏社会において最も危険で最も重要で最も注目される場所になりつつある。」
「当然東城会のやつらも近江の渡瀬が福岡入りしたことは知ってるはずだ。」
「堂島を拉致したのは近江の人間、そう考えるのが自然だな。」
「堂島大吾が消えさえすりゃ盃交渉は進まない。」
「もし東城会が会長代行を立てたとしても堂島大吾の身柄さえありゃどうにでも話を運べるだろうからな。」
「東城会に堂島の警護を任されたチンピラ2人組がいたろ。」
「確か森永と相沢って言ったか。」
「あの二人の動きをアンタに止めてほしいと思ってる。」
「堂島大吾が渡瀬組に拉致されたとありゃ、あの二人がカチこむのは目に見えている。」
「そうなりゃそれを口実に近江連合は東城会に向こう正面きって戦争を仕掛けてくるだろうよ。」
「だからアンタにはやつらよりも先に渡瀬んとこ行って話を丸く収めてもらいたい。」
「今回の一件、間に入るとすりゃ裏事情に精通していて裏社会に顔が利く、どの組織にも属していない人間しかいない。」
「つまりアンタが一番の適任者だってわけだ。」
「それにアンタ、えれえ強えって話だしな。」
「警察が近江の大幹部を逮捕するなんてことになったらどんな事態になるか分からねえ。」
「ここは何事もなく穏便に済ませるのが一番なんだよ。」
「大阪府警が本庁出し抜いて今回の事件収めたらこれ以上あちらにへえこらしなくて済む。」
「あんたも知ってるだろ?」
「以前、府警の女刑事とどこぞの極道が仲良くなっちまったおかげで府警四課は表立って動けなくなったんだよ。」
「この一件で府警が対極道の要だということをアピールする必要があるんだ。」
「渡瀬は今、クラブで組の幹部連中と楽しく飲んでるはずだ。」
「確かオリビエって店だったかな。」
「今回の一件でアンタがいくら暴れても、アンタが苦労して掴んだ堅気の仕事は奪わない。」
「あてにしてるぜ。じゃあな。」
芹沢は去っていった。


桐生はまゆみが働くオリビエに向かった。
渡瀬と対峙する桐生。
「ほう、こりゃけったいな運転手さんのお出ましやな。」
「これがあの伝説の男、元東城会四代目会長・桐生一馬はんか。」
「おお、こりゃいかん。自己紹介が遅れました。」
「ワシ、七代目近江連合で若頭させてもろうてます。直参渡瀬組組長の渡瀬勝っちゅうもんです。よろしゅう。」
「いやいや、しかしまさか桐生はんの方から会いに来てくれるとは思うてまへんでしたわ。」
「ワシら福岡くんだりまで来たんは桐生はん、アンタに会うためでっせ。」


桐生が言う。
「何馬鹿なこと言ってんだ。」
「早いとこ大吾の居場所を教えろ。」


「そないなんは東城会の人間捕まえて聞いたらよろしいがな。」


桐生が言う。
「とぼけるな。」
「お前らが大吾のことを拉致したんだろう。」
「東城会と山笠組の盃を壊すために。」


渡瀬は大吾の行方を本当に知らないようだ。
「東城会の六代目が行方不明やと?」
「噂には聞いとりましたけど、それホンマやったんですか。」
「なるほど。だんだん話が読めてきましたわ。」
「桐生はん、ほんでここへ来はったっちゅうわけですか。」
「アンタ、わしらが堂島さらったと思うてるわけやな?」
「いくらちゃう言うても納得してもらえる雰囲気とちゃいますな。」
「ええ顔や。」
「いくら正体隠して生きとってもワシには見えてまっせ。」
「アンタの背中の龍が目え輝かせとんのが。」
「堂島の龍がなんぼのもんか試させてもらいまっせ。」
桐生は襲いかかってくる渡瀬組の組員達を倒した。


「流石や。」
「そこそこの腕利き連れてきたつもりが、こないアッサリやられてまうとは。」
「まだ腕は落ちてへんようですな。」
「ワシには代紋違いの兄弟分、東城会本部長会長秘書の青山稔っちゅうのがおるんですわ。」
「青山は堂島会長の秘書です。」
「つまり堂島会長が知っとることは青山も知っとる。」
「当然アンタがこの街におることも青山は知っとったっちゅうことになります。」
「アンタは最初から青山に目えつけられとったんですわ。」
「変な動きせんようにね。」
「これで少しはこっちの話、聞きとうなったんちゃいます?」
「ワシとあの青山っちゅうんは一年ほど前盃交わしましてな。」
「代紋違いの兄弟分ですわ。」
「まあワシも最初はあないな下っ端と盃交わすやなんて反吐がでるかと思いましたけど、七代目の勧めでしてなあ。断りきれんかったんです。」
「七代目は東城会との抗争を避けていたんですわ。」
「仕方なしの政略盃っちゅうわけです。」
「でも七代目がああなった以上、ワシもここから先は好きにやらせてもらうつもりです。」
「ワシは青山から桐生はんの情報を聞いただけ。」
「堂島会長の件には一切関わってまへん。」
「嘘ちゃいます。」
「ワシはアンタが福岡におるっちゅうことだけ聞いて福岡まで来たんです。」
「それ以外の目的なんかおまへん。」
「わしゃ跡目争いなんか興味ありまへんのや。」
「ワシの興味はもっと先。」
「自分が八代目になった時に起こす東城会との大戦争のことだけですわ。」
「八代目なぞ何もせんでも転がり込んできますわ。」
「ワシ以外近江の跡目になれる男などおらん。」
「それよりワシが八代目になった時、東城会のトップに誰が座っとんのか。」
「そっちの方が重要なんですわ。」
「堂島みたいなボンボンがトップの組織、戦争するに値せん。」
「もっと他にトップに立つべき人間が居るでしょうが。」
「そう、近江は五代目郷田仁の時代からただの一度も東城会に勝てへんかった。」
「兵隊の数も資金も力も近江の方が勝っとったはずやのに。」
「ずっとアンタが居ったからです。桐生はん。」
「関西最強の男、郷田龍司が仕掛けた戦争の時もそう。」
「あんたは引退した身でありながらたった一人で近江の関東侵攻を食い止めた。」
「それだけやない。」
「東城会が跡目争いや内紛やらで崩壊しかけとった時も近江は指くわえて見とるしかなかった。」
「それも全て事件の先に桐生一馬という男が居ったからです。」
「見栄もなければ欲もない。」
「そんでもその行動全てに華がある。」
「せやからその華の匂いを一度嗅いだもんは皆アンタの幻影を追い続ける。」
「きっと堂島大吾もその一人なんやろうな。」
「桐生はんには覚悟決めてもらおう思いましてな。」
「東城会への復帰のね。」
「ワシにとって東城会は全国制覇のため避けられん敵や。」
「せやけど今の東城会は倒すに値せえへんゴミの寄せ集めにしか過ぎん。」
「ワシがあの関西の龍、郷田龍司を超えるためには周りが納得するような足跡を残さなアカン。」
「その為にはアンタという明確なライバルが必要なんですわ。」
「せやから何としてもアンタには東城会に復帰してもらう。」
「その話するために福岡まで来たわけです。」
「納得していただけましたやろか。」


桐生が言う。
「話は分かった。」
「つまり俺を東城会に戻すためにお前が大吾をさらったということか。」


「話は分かったって、全然分かっとりゃしまへんがな。」
「堂島大吾が居ようが居まいがそないなことどうでもええ。」
「ワシにとっちゃアンタがここに居ることの方が問題なんや。」
「もし今堂島が死んだら東城会は内部崩壊するだけや。」
「死に体の敵と戦うてなにが戦や。」
「何が極道や。」
「ワシにとっちゃ喧嘩が全てや。」
「金勘定ばかりしくさっとる腑抜けの連中とはちゃう。」
「ワシは強い奴と喧嘩しとおてヤクザになったんや。」
「せやから東城会には強くなってもらわなアカンねや。」
「今堂島大吾が死んだらワシ以外の近江のヤツでも潰すことができてまう。」
「そないな東城会、ワシは困んねや。」
「ワシには分かる。」
「本心はアンタも常に闘いを求めとるはずや。」
「もうカッコつけるのはやめましょうや。桐生はん。」
「ワシは今のアンタが退屈そうに見えてしゃあない。」
「東城会に戻ってください。」
「そんでワシと思いっきり喧嘩楽しもうやないですか。」


桐生が言う。
「勘違いするな。」
「俺とお前は違う。」
「お前の極道は死に様。」
「俺の極道は生き様だ。」
「同じ道でも死に向かって戦うのと生きるために戦うのは違うということだ。」
「いずれ分かる。」
桐生は店を出た。


そこに森永と相沢がやってくる。
「お前達、やはりここに来たか。」
「渡瀬はシロだ。」
「大吾拉致には関与していないようだ。」
「話してみて分かった。」
「あの渡瀬という男はそういった策を弄するようなタイプの人間じゃない。」
「大吾拉致には本当に関与していないと思っていいだろう。」
「渡瀬は俺がこの街にいるということも、あの日大吾を乗せた後何をしていたかまで全て知っていた。」
「情報源は大吾の秘書、本部長の青山だ。」
「青山は渡瀬の代紋違いの兄弟分。」
「特に交友があったというわけでもないようだが、俺が福岡にいるという情報を渡瀬に流し福岡に呼び込んだのは間違いないようだ。」
「なぜそんなことをしたかは分からないが、青山は大吾が行方不明になる前から俺のことを密かにマークしていたということだけは確かだ。」
「山笠組への牽制の可能性もある。」
「青山が近江の渡瀬が俺に強い興味を持っているということを知っていたならな。」
「渡瀬の性格からして直ぐに行動に出ると踏んだ青山は、渡瀬組を上手く福岡に呼び入れたってわけだ。」
「つまり今この状況で渡瀬組を福岡に乗り込ませれば事情を知らない山笠組は、東城会との盃を近江が妨害しに来たものだと考える。」
「近江との戦争する危険性が高まった山笠組は焦り、東城会との盃に踏み切る。」
「つまり渡瀬組の福岡入りは盃交渉のために青山が仕掛けた策ということだ。」
「だが一つ引っ掛かる。」
「大吾はこの青山の策を知っていたんだろうか。」
「俺はこの車に大吾を乗せた時、あいつは命をかけて交渉に臨む決意を滲ませていた。」
「そんな覚悟をもった大吾が交渉のためとはいえ、あえて危険な渡瀬組を近づけるような作戦に出ただろうか。」
「俺の勘が正しければ大吾の失踪・・裏で絵を描いているのは、青山。」
「青山は今どこに?」


森永が答える。
「それが・・青山組長は会長代行として斑目組長との盃交渉に向かっています。」
「永洲街の北、山笠組本部です。」


桐生は森永達と一緒に山笠組本部に向かった。
応接室に向かうと、青山と斑目がいた。
斑目は床に倒れ込んでいる。
「お前らが来るとは思っていたが意外と遅かったな。」
「俺はハナっから山笠組と手を結ぶつもりはなかった。」
「金をチラつかせて相手を安心させた後ゆっくり殺すつもりだったが。」
「田舎組織とはいえ、よぼよぼの爺になるまで組長をやっていただけのことはある。」
「斑目はコッチの殺意を見抜いていたようだ。」
「俺が目を離した一瞬の隙きを見て逆に銃をぶっ放してきやがった。」
「ってまあ弾が外れてくれたおかげで隠し持ってたナイフで胸を一突きすることができた。」
「天下の東城会が山笠組みてえな小さな組と五分の盃など交わす必要はない。」
「現時点で東城会のトップはこの俺だ。」
「会長が消えちまった以上、俺の意志が東城会の意志ということになるんだ。」
「俺の考えは至ってシンプルだ。」
「極道は食うか食われるか。」
「盃なんか交わしてる暇があったら山笠組を潰してシマを奪えばいい。」
「そういうことだ。」
「ま、堂島だろうが桐生だろうが、極道ってのは一度その座を譲っちまったらお終いなんだよ。」


「青山組長、それじゃやっぱり堂島会長を誘拐したのは貴方・・」
森永は青山に銃を構えた。


「森永、あらかじめお前に渡した拳銃は空砲にしておいた。」
「間違って撃って堅気に弾当てたりしたら御上と戦争になっちまうからな。」
「俺は身内に不祥事に厳しい。それは知ってるよな?森永。」
「お疲れ。」
青山は森永の胸部に4発の銃弾を浴びせた。
「四代目は引っ込んでてください。」
「これはあくまで身内の問題。」
「東城会の躾の一つですから。」
「感謝します。」
「貴方が来てくださったおかげでここから無事に出られそうです。」


そこに斑目組の組員・八幡がやって来た。
「なんやこりゃ!」


青山が言う。
「八幡の頭、こいつらが斑目組長を。」


「おい、救急車や!」
「はよ親父を病院に運ばんか!」
青山は担がれた斑目と一緒に部屋を出ていった。


八幡が桐生に言う。
「キサン、何者ね?」


「説明してもキリがなさそうだな。」
「相沢、お前は森永を連れてここから出ろ。」
「俺が足止めする。」
「絶対にそいつを死なせるな。」
「早く行け!」
桐生は襲いかかってくる八幡を倒し、山笠組本部を脱出した。


外に出ると青山がいた。
「流石ですね、四代目。」
「この状況、私ならまず逃げ切れない。」
「こうでもしなければね。」
青山が爆弾の起爆スイッチを押すと山笠組本部が大爆発を起こした。
「感謝してください。」
「これで桐生さんが山笠組と争った痕跡も消える。」
「警察にも逮捕されない。」
「これまで通りタクシーを運転することもできるはずです。」
青山はロールスロイスに乗り込み去っていった。


翌日、桐生が部屋に戻るとまゆみがいた。
「お前なんだろ?」
「俺の情報を東城会に流していたのは。」


まゆみが言う。
「今から会ってほしい人が居ます。」
「桐生一馬さん。」


まゆみについていくと、斑目が入院する病室に連れてこられた。
「昨晩は世話になりましたな。」
「ウチの八幡とやりあったんでしょう。」
「防弾チョッキの類を着てましてね。おかげで命拾いしました。」
「実はある人に警告されていたんです。」
「東城会の人間と会う時は用心するようにと。」
「その人は私に言った。」
「もし自分が消えた後、東城会の中に斑目さんに近づく人間がいたらその人間が組織の裏切り者の一人だと。」
「そう。私に警告したのは他でもない。あの堂島大吾さんです。」
「堂島会長は拉致されたのではない。」
「自ら行方をくらましたのです。福岡から脱出するために。」
「自らの命が狙われている以上、他に策がなかったのでしょう。」
「私との面会直後行方をくらませれば山笠組の仕業だと誰もが思う。」
「その隙きに堂島会長は福岡を抜け出したんです。」
「東京に戻る前に確かめなければならないことがあると仰ってました。」
「そのために暫くの間姿を消すと。」
「あの日の様子からして青山という男が怪しいということは堂島会長も感じていたはずです。」
「ということはつまり、真の裏切り者は別にいる。」
「桐生さん、貴方には謝らなければならないことがあります。」
「この女を近づかせ、貴方が福岡で暮らしているという情報を東城会に流していたのは私です。」
「堂島会長に頼まれたのです。」
「福岡にいる貴方が素性を隠して生きていけるように守って欲しいと。」
「堂島会長も貴方が福岡にいるという情報までは掴んでいたようです。」
「貴方が素性を隠していることも知っていた。」
「だから会長は貴方が騒動に巻き込まれることなく穏便に日常生活が送れるようにとわざわざ福岡まで私を訪ね、頭を下げたのです。」
「関東最大の組織の頂点に立つ男が地方の一勢力にすぎない山笠組に頭を下げる。」
「これがどれ程のことか貴方なら分かるはずだ。」
「以来、私は堂島会長と通じまゆみから得た情報を会長に報告していたのです。」
「私とまゆみの関係は親子です。」
「桐生さんが福岡にいるという情報は極秘中の極秘事項。」
「心から信頼のおける人間にしか教えられません。」
「だから私は実の娘であるまゆみに貴方を守るという役を託したのです。」
「だがもし最初から桐生一馬という男がどういう人間なのか知っていたら自分の娘を近づけたりはしなかったでしょうな。」
「貴方に惚れてしまうからです。」
「私も人の親。」
「実の娘が結ばれない恋に悩む姿は見たくなかった。」
「桐生さん、これを。」
斑目は桐生に解散声明書を手渡した。
「山笠組の解散宣言です。」
「これを貴方の手で警察に出していただけませんか。」
「育ち過ぎた子供たちをこれ以上小さな城で養うには無理がある。」
「山笠組は本来小さな家です。」
「だが私は子供たちを受け容れ過ぎた。」
「東城会という巨大な組織と一触即発の状態になってしまった今、私にできることは可愛い子供たちが生きていけるようにするだけだ。」
「解散すればもう我々は極道じゃない。」
「シマを明け渡せば東城会や近江から命を狙われることもないはずだ。」
「これが最良の選択なんです。」


桐生が言う。
「身を引く覚悟があんなら直接アンタの口から子分に説明してやるのが義理なんじゃないのか?」


「九州の男ってのは頭に血が上ったら最後、この状況で東城会と喧嘩するなと言っても素直に言うことを聞くような子供たちじゃない。」
「ならいっそ法の力で収めてもらうのが一番の策。」
「解散すれば組は実質警察の管理下になる。」
「東城会や近江も迂闊に手出しはできません。」
「本来なら私が納得いくよう組員達に説明すべきだが、今はこの身体。」
「東城会との戦争を避けるために話し合いをすることすらままならない。」
「それに貴方が解散の届け出を出したと知ればあの八幡も納得するんじゃないかと思いましてな。」
「昨晩、貴方と八幡は拳を交わした。」
「八幡というのは計算ができない男ですが、一度拳を交わした男がどういう人間なのかちゃんと分かる男です。」
「まあ不幸中の幸いとでも言うんですかな。」
「こうなる前に八幡と貴方が闘ってくれていて良かった。」
「勝手なお願いをしているということは分かっています。」
「ですがこの老いぼれの願い、どうか叶えてやってもらえませんでしょうか。」


桐生が言う。
「俺も根っこはあんたと同じ。所詮は極道だ。」
「だが極道は極道でも皆同じってわけじゃない。」
「俺は出来た人間じゃないが、男の頼みを聞けないほど腐っちゃいない。」
「この解散書は俺が預からせてもらう。」
「腐れに育てられたガキの世話は嫌いじゃない。」
「本気で俺に任せるというなら何も聞かずに預けてくれ。」
「結局俺は独りじゃなかった。」
「理由はどうあれ弱りきっていた俺の傍にこんな良い女を置いてくれたこと、感謝している。」
「絶対に青山の好きにはさせない。それだけは約束する。」
「それじゃ。」


桐生は病室を出て八幡に会いに行き、解散書を見せた。
「山笠組の解散宣言が書かれた書状だ。」
「斑目はお前らが東城会との戦争に走ると思っている。」
「だからお前らを守るためにこれを書き俺に預けた。」


八幡が言う。
「そうね。」
「俺らは斑目の親父ば担ぐためにこの世界に入っただけやけん。」
「山笠組がどげんなろうがそげんこつはどうでもよか。」
「親父の仇ば討つ。」
「今の俺らにはそれしかなか。」
「親父に手ばかけたとはあの青山っちゅう東城会のガキやろ。」
「本部ば破壊された時、気付いたばい。」
「アンタはあげな姑息な手口使うような人間やなか。」
「シマがどげんの利権がどげんのとかは関係なか。」
「俺らは極道の義理ば通すだけばい。」


それを聞いた桐生は解散書を破り捨てた。
「山笠組は解散させない。」
「お前らにはしっかりと仕事をしてもらう。」
「永洲に来て分かった。」
「この街は神室町によく似ている。」
「良くも悪くも山笠組を中心に均衡が保たれている街だ。」
「もし今山笠組が潰れて他の組がシマ争いでもしようもんならそれこそ商売あがったりだ。」
「こう見えても俺はタクシー運転手だからな。」
「だから山笠組は解散されたら困る。」
「ちゃんとこの街が正常に戻るよう仕事をしてもらう必要があるってことだ。」
「今のお前らの戦力じゃ東城会と闘っても皆殺しになるだけだ。」
「それでも青山を殺すというのなら止めない。」
「だがその前に俺を倒せるか試してもらおう。」
桐生は八幡を殴り飛ばした。


八幡は桐生の指示で青山に電話をかけ、埠頭へ呼び出した。
青山が渡瀬と一緒に埠頭にやってくる。
「どうせ斑目組長あたりに泣きつかれたんでしょう。」
「山笠組を助けてくれって。」
「私としては山笠組と喧嘩する口実さえできればよかった。」
「それに今、斑目に死んでもらっては都合が悪い。」
「堂島会長の行方が分かるまではね。」
「斑目は堂島会長と繋がっている。」
「堂島会長をおびき出すには格好の素材です。」
「我々としては一刻も早く堂島会長の身柄を抑えておきたいんでね。」


桐生が言う。
「この喧嘩、俺が一人でお前ら全てを始末したら組同士の戦争にはならねえよな?」
「俺が一人でお前ら全員倒したら、それは堅気とヤクザのただの喧嘩。」
「八幡!お前は引っ込んでろ。」
「コイツら全員俺がぶん殴る。」


渡瀬が言う。
「その条件、ワシが呑む。」
「桐生はんが東城会のガキ全員倒したら山笠組との戦争にはさせん。」
「七代目近江連合若頭・渡瀬組が預かる。」
「なんか文句あるんか?青山の兄弟。」
「よし、それじゃ始めや。」
「この喧嘩、立会人はこのワシや!」


桐生は東城会の構成員を一人で全て倒し、青山をコテンパンに叩きのめした。
「聞いてた話と違う・・」
「四代目は人は殺さない・・情けのある男だって。」
「どうして俺がこんな目にあわなきゃなんねんだよ。」
「こうなるって分かってたら最初っからやらなかったのに。」
「俺は言われただけなんだ。」
「四代目、桐生さんを引っ張り出せばそれで良いって。」
「兄弟、アンタの・・」


そこに森永が現れ、青山を撃ち殺した。
「喋りすぎですよ、代行。」
「こんな再会は嫌だったんですが。四代目。」
「私の仕事は貴方をあの場所に連れて行くことだった。」
「斑目組長同様、万一のための装備は出来ていました。」
「相沢は可愛いやつでしたが・・知り過ぎた。裏の裏までを。」
「犬吠山の山中に埋葬してきました。」
「私自らの手で。ちゃんとね。」
「今はまだ貴方に殺されるわけにはいかないんです。」
「そして貴方にも死んでもらっては困ります。四代目。」
「全ての答えは東京にあります。」
「待ってますよ、桐生さん。」
森永は去っていった。


2日後、永洲街で勤務中の桐生のもとに芹沢がやって来た。
「そういや今朝、渡瀬が関西に戻ったみたいだ。」
「野郎、ご丁寧に警察の遺体安置所までやってきて青山の遺体に線香あげてったそうだ。」
「ったく、自分は青山に利用されたっていうのに。」
「おめでたいヤツだぜ。」
「でもま、ああいう古いタイプの極道がまだ近江にもいたんだな。」
「ある意味嬉しくなるな。」
「自分で言っててなんだがおかしな話だな。」
「俺にとってヤツは一番厄介な存在のハズなのに。」
「ホントおかしなもんだ。」
「敵とはいえ、感情の一つや二つくらい湧いてくるもんさ。」
「ああ、そう言えば渡瀬のヤツお前にヨロシク伝えてくれと刑事たちに言ってったとよ。」
「近江のケツは自分が拭く。その後東京で白黒つけようってな。」
「行くのか?お前。」
「今朝、犬吠山で男の遺体が見つかった。」
「顔が潰されてたこともあって身元はまだ不明だが、男の胸には東城会の代紋がついていたそうだ。」
「お前、本当にこのままでいいのか?」
「この肝心な時、頼りの堂島大吾は行方不明のまま。」
「今の東城会を支えられるのはお前しかいないんじゃないのか?」


桐生が言う。
「行きたい場所があるんだったら乗せてってやる。」
「だがそれ以外、アンタの指図は受けない。」
「俺の行く道は俺が決める。」


「分かった。好きにしろ。」
「だがその前にラジオのニュースくらい聞くんだな。」
「アンタとは短い間かもしれないが、濃い付き合いになりそうだ。」
「じゃ。」


桐生はタクシーを走らせ、ラジオをつけた。
「・・繰り返します。」
「昨日未明、札幌市内で発生した発砲殺人事件に関してです。」
「北海道警察は今朝、被害者を関東一円を拠点とする広域指定暴力団東城会の幹部組員・真島吾朗氏であると断定。」
「緊急の会見を開き発表しました。」
「関東最大の暴力団組織東城会の現役幹部組員であった真島吾朗氏の死亡という事態を重く見た警察は、警視庁と連携し事態の全容解明に務める方針を明らかにしました。」


―2012年1月某日・網走刑務所―
冴島大河は新たな人生を歩むため、今までの贖罪を目的に懲役3年の実刑に服することを決断し網走刑務所に自ら収監されていた。
その後、模範囚としての日々を過ごし仮釈放が目前に迫っていた。


冴島大河が同房の馬場茂樹と話をしている。
「今所長室で正式に仮釈放を辞退したいって返答してきました。」
「今まで黙ってましたけど実は自分、元々は北海道の組の人間でして。」
「二十歳の頃、殺しやったんです。」
「当時組同士の戦争があって。それで。」
「俺の兄貴分が本家の直参やってて。」
「もう少しで幹部に昇格できるってところまで来ていたんです。」
「それで俺が代わりに殺りました。」
「兄貴は自分が偉くなって、すぐにムショから出られるように手配してくれるって言ってたんですけど。」
「それから何年経っても音沙汰なしで。」
「最初は入ったムショが関西だから面会に来れないんだと思ってました。」
「でも7、8年過ぎたあたりからだんだん現実が見えてきて。」
「ああ、もう俺捨てられたんだろうなって。」
「でももういいんです。吹っ切れました。」
「理由がどうあれ俺は人を殺した。」
「10年勤めたところで俺の罪は消えるわけじゃない。」
「それだったらいっそのこと最後まで罪に向き合ってみようかなって。」


冴島が言う。
「お前、ホンマは怖いんとちゃうか?表出んのが。」
「実は俺もそうやった。」
「ムショで何年もメシ食うてると外の世界が怖なってしょうない。」
「せやけどな、いくらここに居っても罪は消えへん。」
「一度心焼かれた人間は表出なアカンねん。」
「表に出て現実に踏みつけられて必死に生きて、初めて罪の償いになるんや。」
「そうやって自分の生きる場所見つけるんや。」
「どんな辛い道が待っとってもな。」


数日後、冴島は副所長の高坂に呼び出された。
「お前の仮釈放申請書だ。」
「数日前から私が進めていた。」
「一週間前、所長宛に東城会がお前を破門するという旨が書かれた破門状が届いた。」
「刑務所は更生施設。」
「罪を犯した人間を更生させるのが本来の目的だ。」
「罪に対して十分な更生を態度で示した服役囚には刑期の軽減措置が図られる。」
「仮釈放もその一つだ。」
「通常服役囚が極道関係者の場合、更生を示す最も有効な手立てが組を辞めるということ。」
「つまり今回のケースもそれにあたる。」
「お前、ここを出たら東城会の若頭を襲名する予定だったんだろ?」
「二年前お前がここに移送されてくる際、警察関係者から申し送りがあった。」
「そのことが他の囚人にばれないよう配慮してくれとな。」
「傷害罪で3年。」
「お前ほどの大物がこの手の軽微な罪状で服役する場合の理由は2つだ。」
「敵対する第三者に嵌められたりなどして現場不在を余儀なくされた場合。」
「もしくは逆に自ら身を洗い組織の万全を期すため。」
「お前がここに来たのは身を洗い、組織に戻るためだよな?」
「組を辞めたお前がもうここで無駄に苦しむ必要もないだろう。」


冴島が言う。
「アホらし。」
「俺はつくづく自分が情けないわ。」
「高坂はん、仮釈放の件は辞退させてもらいますわ。」
「破門されて初めて分かった。」
「俺はヤクザを続けたかったんやない。」
「ただ自分が信じたやつらと一緒に居りたかっただけなんや。」
「元々どの組織に居るとか若頭になるとかどうでもええんや。」
「今はちゃんと罪償うてここを出られりゃそんだけでええ。」


部屋に戻った冴島のところに同房の日村が新聞を持ってきた。
「これって、冴島さんが居た組のことですよね?」


新聞には「東城会最高幹部・真島吾朗氏死亡」と書いてある。
「こういうことやったんか、あの破門状は。」
「嘘や。こないなことあるわけない。」


冴島と馬場が高坂に呼び出された。
「実は冴島の仮釈放申請が却下された。」
「理由は私にも分からない。」
「通常仮釈放の申請は施設のある地方更生保護委員会が審理し決定されるものなのだが、今回は更にその上の法務省から直接圧力がかかったようだ。」
「冴島は全国の警察関係者もマークする裏社会の大物だ。」
「東城会ほどの大組織の最高幹部が仮釈放されるとあれば法務省が口出ししてくることも考えられるが。」
「そしてお前の兄弟分・真島吾朗の死。」
「真島を殺したと目されているのが札幌北方組の組長、北方大蔵だ。」
「警察関係者の話によれば真島は東城会会長の命を受け北方組を傘下に収めるべく札幌へとやってきていたらしい。」
「そして組長の北方との会合中に撃たれて死んだそうだ。」
「どうしてお前がここに呼ばれたのか分かるな、馬場。」
「北方組は前にお前がいた組だ。」
「私が気にしているのはお前らの身の安全だ。」
「どうも引っ掛かるんだ。」
「今回の一件、あらかじめ全てが仕組まれていた事のように感じる。」
「もし法務省に手を回すことができるとすればそんな組織は2つしか存在しない。」
「一つは関西の近江連合。それにもう一つは関東の東城会。」
「冴島は2年前この刑務所に入る時、刑期を終えたら東城会の若頭に就任する予定になっていた。」
「東城会はどうにかして冴島の力を封じ込める必要があったんだろう。」
「しかしただ破門しただけでは逆に刑期短縮、仮釈放が許可される可能性が高まる。」
「だから法務省にまで手を回し、今度は仮釈放の申請を却下した。」
「この網走に冴島大河という力を封じ込めるためにな。」
「恐らくそういうことだろう。」
高坂は冴島に鍵を手渡した。
「運動場の一番奥、南西の門。その裏にスノーモービルが停めてある。その鍵だ。」
「脱獄しろ。ここから。」
「ついさっきウチの所長が死んだ。」
「死因は調査中だが他殺の線が濃厚なようだ。」
「所長は冴島の仮釈放が却下された理由を訊くため東京に向かう途中だった。」
「だが札幌空港でタクシーから降りたところを何者かに襲撃されたらしい。」
「それだけじゃない。」
「今日の午後には新たに100名近くの服役囚が移送されてくる。」
「通常では考えられない数字だ。」
「恐らく何かの目的があって移送されてきた人間に違いない。」
「事態は我々が考えるより大きくなっているんだ。」
「このままでは確実に冴島、それにこの件に関わった馬場も殺されることになるだろう。」
「そうなる前に何としてもこの危機を回避しなくてはならない。」
「私は職を辞することに後悔はない。覚悟の上だ。」
「それよりもこの刑務所が更生を促すための施設であり続けることの方が重要だ。」
「冴島さん、それに馬場さん。」
「もうあなた方は囚人ではありません。」
「あなた達は十分に罪を償った。」
「これ以上私がここであなた達に更生を促す必要はない。」
「ここから出て本当の敵、所長を葬った真の敵を見つけてください。」
「深夜、同房の囚人が眠ったのを確認したら房を出てください。」
「刑務官に命じて鍵は開けさせておきます。」
「所内を出たらそのままグラウンドを突っ切って南西門から脱出してください。」
「最後に一つだけ約束をお願いします。」
「もし犯人を見つけることが出来たらその時は決して殺さず、必ずその男を生かして刑務所に送ってやってください。」
「そこから先は私達の仕事ですから。」


その夜、冴島と馬場は網走刑務所を脱獄し札幌へと向かった。
札幌・月見野のビルでニュースを見る。
「先日刑務所で発生した火災事故の続報です。」
「事故後所内から行方をくらましている2名の受刑者について北海道警察は今朝、刑務所近くの山中で内1名の受刑者を遺体として発見したと発表しました。」
「残る1名の受刑者に関しても現在も付近を逃走中の可能性が高いとみて全国に指名手配しました。」
「指名手配されたのは元東城会系組員の冴島大河受刑者です。」
「北海道警察は冴島受刑者が札幌市内に現れる可能性が高いという情報もあることから現在月見野周辺に警戒態勢を敷いています。」


馬場が言う。
「兄貴、網走刑務所が火災って一体・・」
「それに遺体が1人見つかったって・・」


ひとまず2人は馬場が馴染みのバー「北極星」に向かった。
「昔俺の兄弟分がやってた馴染みのバーです。」
「当然営業していると思ったんですが、店、やってませんね。」
「まあこっちとしては逆に好都合ってとこですね。」
「どうやらここ10年の間、月見野の街もすっかり変わっちまったみたいですね。」
「昔はどの店も繁盛してたんですが、なんだか寂しい気分です。」
「しかしどうして冴島さんだけ指名手配されてしまったんですかね。」
「俺なんか実名も公表されないまま遺体で見つかったことになってましたし。」
「やはりあの刑務所のことも指名手配も全部、東城会が裏から手をまわしてやってることなんでしょうか。」


冴島が言う。
「ちょっと表出るわ。」
「ずっとここおっても埒あかへん。」


「そういうことでしたらBARアンビシャスという店に行ってみてください。」
「そこの店なら今でもきっと北方組の人間がいるはずです。」


冴島はBARアンビシャスで北方が明後日の正午から雪まつりオープニングセレモニーに参加するという情報を掴み北極星に戻った。。
「北方は二日後の昼十二時から行われる雪まつりのオープニングセレモニーに来賓として出席するらしい。」
「ここで逃したら次のチャンス待っとる間に俺らが警察に捕まってまう。」
「誘拐するしかないわな。」
「護衛も手薄になるセレモニーの真っ最中に誘拐する。」
「誰も北方のこと見とらん隙を狙うしかないな。」
「ま、特に作戦はないけど。」
「北方という男はえらい街の人間に好かれとるようやな。」


馬場が言う。
「親父は三代目ですが、組自体は戦前から月見野をまとめてきた名跡です。」
「地元住民たちとの関係も深く、この街じゃ親父を悪く言う奴なんていませんよ。」
「以前東北のとある組が進出してきた時も組総出で街を守ったほどです。」
「だからちょっと信じられないんですよね。」
「その真島さんって人を北方の親父が殺すなんて。」
「俺の知ってる親父ならどんな状況でもきっと話し合いで解決したと思うんです。」
「だからなんだか妙に引っ掛かって。」


明後日、冴島は北方の誘拐に成功し廃ビルに連れ込んだ。
「なるほどなあ。こういう手もあったのか。」
「おめえさんは冴島大河だな?」
「こうして会えて嬉しいぜ。」
「ずっとアンタのこと待ってたんだ。」
「おめえさんはあの真島が死んだっつう話を聞いてはるばる網走からやって来たんだろう?」
「真島を殺した犯人である俺に会うために。」
「俺もおめえに伝えなきゃならねえことがあるんだよ。」
「あの真島吾朗が最期に言い残した言葉。」
「邪魔が入らねえ場所を用意してある。そこで話そう。」
「安心しな。俺の部下たちも知らない場所だ。」
「もちろん警察も知らん。」
「さっきも言ったが俺もお前さんに用事があるんだ。」
「さあ、邪魔が入らねえうちに行こう。」


北方と一緒に空きビルにやって来た。
「先日このビルを丸ごと買い取った。」
「最近は月見野も不景気でなあ。」
「物件ころがせなくなって困った連中が駆け込んできやがる。」
「参ったもんだよ。俺らもそんなに金持ってねえってのによ。」
「俺がおめえに伝えたかったことってのはな、俺と真島が会合したあの日あの場で本当は何が起こっていたのか。その真実についてだ。」
「まず最初に結論から言おう。」
「北方組は真島を殺ってない。」
「俺には真島を撃つ理由がないんだ。」
「そもそも真島は東城会の傘下に入れと言ってきたんじゃない。」
「五分盃を交わして欲しいと頭を下げに来たんだ。」
「つまり俺に堂島大吾の兄弟分になってくれと言ってきた。」
「そしておそらくウチだけじゃなく福岡や名古屋にも同じ条件で話つけに行ってたはずだ。」
「ウチとしても五分なら異存はねえ。」
「東城会と手をくみゃあウチに余計なちょっかいかけてくる組織もなくなるだろうしな。」
「だから俺が真島を殺す理由はねえ。」
「一度目の会合で盃の話を聞いた後、心を決めた俺は真島に連絡し二度目の会合の日取りを決めた。」
「そして事が起きたのはその二度目の会合の時だった。」
「俺が返事を伝えたところ、どういうわけか真島はしばらくじっと黙り込んでいた。」
「少しして真島の口から飛び出した言葉を聞いた時、俺は耳を疑ったよ。」
「この盃、交わしたらアカン・・とな。」
「真島は感じていたようだ。」
「この盃交渉の裏に誰か別の人間の思惑を感じると。」
「東城会と北方組が盃を交わしてしまうとそいつの描いた絵の通りに事が運んでしまうかも知れんとな。」
その時、何者かが北方の胸部を銃で撃ち抜いた。
北方は胸から血を流し倒れ込んだ。


冴島はすぐにビルを飛び出し犯人を追いかけると、犯人は馬場だった。
「俺は北方組の人間なんかじゃないんです。」
「俺の目的にとってはその方が都合が良かったからそう振舞っていただけです。」
「俺があの刑務所に移送されたことも、貴方と同部屋になったことも全部計画されていたことなんです。」
「貴方は全てこちらの読み通りに動いてくれた。」
「こっちが戸惑うほどにね。」
「でも正直言って貴方だけにはバレたくなかった。」
「俺の役目は貴方の監視。」
「そのために刑務所に入ったんです。」
「殺人で十年食らってたっていう話も作り話です。」
「そういうエピソードの方が冴島さんの関心が惹けると思いましてね。」
「俺の目的は貴方の刑期をコントロールすること。」
「つまり都合の良いタイミングであの刑務所から貴方を連れ出し、ここ月見野まで連れてくることにあったんです。」
「だから外の力を使って無理矢理あの脱獄騒ぎを仕掛けたというわけです。」
「真島吾朗の死ですよ。」
「それが俺達にとって貴方をあの刑務所から連れ出すためのサインだったんです。」
「貴方を刑務所の外に出すために真島は殺されたんですよ。」
「真島が死んで貴方が動く。」
「それが我々の描いたシナリオです。」
「所長を殺し法務省に手を回して貴方の仮釈放の申請を取り下げたのも、すべて貴方が自らの意志で刑務所から出るように仕向けるため必要なことでした。」
「まあ俺個人にそんな力があるわけはありませんが。」
「俺のバックにいる人の計画に貴方の力が必要だからです。」
「その名前を知れば貴方は死ぬことになる。」
「当然教えた俺も殺されるでしょう。」
「なら結論は一つです。」
「シナリオでは貴方をここで殺す予定はなかったんですが、こうなってしまった以上致し方ない。」
馬場は自分のこめかみに銃口をあてた。


「何しとんじゃボケが!」
冴島が馬場を殴り飛ばす。
「人間、どんなに辛うても生きなアカン。」
「辛うても夢もって生きなアカンのや。」
「きっとお前にもあるはずや。」
「手に入れたい、叶えたい夢が。」
「俺は網走に入る前誓ったんや。」
「極道の世界に足踏み入れるしかなかった人間が二度と俺みたいな哀しい道を生きんでもええようにする。」
「それが俺と真島が描いた夢。」
「俺が今ここにおる理由や。」
「馬場ちゃん、都合よう死ねる程世の中甘ない。」
「黒幕の名前なんてもうええわ。」
「そんなん聞いても真島の兄弟は帰ってこえへん。」
「せやけど来た方に会うてなんとなく思たんや。」
「アイツはまだ生きとる。」
「そうあって欲しいと思うとるだけかも知れんけどな。」


馬場が言う。
「冴島の兄貴、恥を忍んで言います。」
「ここは一旦逃してください。」
「今貴方に事の真相を話したら俺は確実に消されます。」
「でも俺はまだ死ねない。」
「こんな俺にも夢はあるんでね。」
「でも夢に自分なりのケリをつけたらまた必ず冴島の兄貴の前に姿を現します。」
「そん時はちゃんと兄弟の盃交わさせてください。」


「分かった。いつでもええ。」
「待っとるで。」
馬場は去っていった。


そこに警官を引き連れた芹沢がやってくる。
「そこまでだ。」
「冴島大河だな。」
「加重逃走の現行犯で逮捕する。」
「これでようやくサシでアンタと話ができそうだな。」


護送中、芹沢と話をする。
「脱獄までして出てきた割にはやけにあっさり観念したもんだな。」
「北方には会えたのか?」
「お前がどういう目的で動いていたかくらい分かってる。」
「警察なめんなよ。」
「それにさっき北方を警察病院に搬送したばかりだからな。」
「銃声の後すぐに駆けつけた。命に別状はないそうだ。」
「お前、北方から真島の死の真相を聞き出すつもりだったんだろう?」
「北方から聞いたかも知れないが、真島を殺したのは北方組じゃない。」
「東城会だ。」
「この情報は知ってるか?」
「福岡で山笠組と盃交渉に行った堂島大吾が消えたって話。」
「つい先日、堂島は訪問先の福岡で忽然と姿を消しやがった。」
「それから間髪入れず月見野で真島が、名古屋で安住が死んじまった。」
「おかげで東城会本家は大パニックだ。」
「本庁の四課の連中、今や寝る間もねえくらい忙しいらしいぜ。」
「実は俺は今森永って奴の行方を追ってる。」
「実はその男、福岡で本部長の青山を殺ってんだよ。」
「森永が護衛していた堂島は行方不明。」
「そして会長代行をしていた青山も森永に殺された。」
「なんかこれ、怪しくないか?」
「さっきお前と一緒にいた男、あれ、馬場って男だよな。」
「ワザと泳がせた甲斐があるってもんだ。」
「俺の真の狙い。それはこの一連の騒動を裏で操ってる人間―東城会の裏切り者を突き止めることだ。」
「堂島大吾の失踪、真島の死、そしてお前。」
「数年間全く動きを見せなかった東城会という山がこの数日間で一気に動き出している。」
「それもまるでタイミングを合わせたかのように一斉に。」
「俺はな、さっきお前と一緒にいた馬場もその東城会を巡る騒動を操ってる人間の一味なんじゃないかと睨んでんだよ。」
「その人間っていうのが森永の可能性が高い。」
「一つだけ確実なことがある。」
「それはお前がこの東城会の内部で起こっている出来事の中心にいるってことだ。」
「お前は奴らの計画に利用されているんだよ。」
「東城会のことが気になるか?」
「となるとお前は東京に行くしかない。」
「実はこの車、空港行きなんだよ。」
「俺はな、現在全国の極道社会を揺るがしているこの一大事件を府警の力で解決したいんだよ。」
「そのためには事件のキーマンである森永、馬場を追うのが一番。」
「そこでアンタの力を借りたい。」
「東京に行って東城会内部で何が起きているのかひとつ探ってきちゃくれねえか?」
「今の東城会はガタガタだ。」
「そこに若頭候補のアンタが現れればきっと事態は動く。」
「ノーと言うならこのまま刑務所に向かうだけだ。」


―東京・神室町―
桐生一馬が神室町に戻ってきた。
ニューセレナへ向かう途中、馬場があとをつけてきた。
「お前は?どうして俺をつけていた?」


「ある人からあなたが東京に現れると聞いて待っていました。」
「福岡でのご活躍も聞いています。」
「たった一人で青山会長代行の計画を阻止したとか。」
「堂島の龍は健在と言ったところですか。」


桐生が言う。
「その口ぶりじゃ森永の手下ってとこだな。」


「手下というよりは協力者という方がいいかもしれませんね。」
「自分と彼は盃を交わすような間柄じゃありませんので。」
「同じ目的のために集まった同志といったところです。」
「桐生さん、ひとつ確認させてください。」
「東京に来たということは、あなたもこの一件に関わる覚悟が出来たと考えていいんでしょうか。」
「その様子だと既に決意は固まってる感じですね。安心しました。」
「真島組長が死んでなお、あなたが福岡から動かないようなら色々と計画を修正しなければならないところでしたからね。」
「あなたもあの人と似てますね。」
「冴島の兄貴のことです。」
「あなたなら私達の計画を止めることが出来るかも知れない。」
「私、馬場茂樹と言います。」
「今あなたが巻き込まれている事件の裏、森永がやろうとしている計画、その全てについてこれからお話しします。」
「今さら説明するまでもないことかも知れませんが、現在東城会と近江連合は全面抗争の危機を迎えています。」
「七代目が亡くなってしまえば東西で戦争が起こるのはほぼ確実です。」
「それで東城会は焦って福岡、札幌、名古屋の極道組織を味方につけようと幹部陣が各地へ飛ぶことになりました。」
「名古屋には若頭補佐の安住、札幌には真島さん、そして福岡には堂島会長が。」
「当初の計画では堂島会長は山笠組の斑目と共に殺されるはずでした。」
「しかし計画は失敗。」
「堂島会長と斑目を取り逃がした青山さんは勝手に計画を変更しようとしたんです。」
「青山さんは堂島会長が居ない隙きに東城会を乗っ取ろうとしたんですよ。」
「しかし青山さん、それに森永の本当の使命は東城会を奪うことではなかった。」
「むしろその逆、東城会を売ることだったんです。」
「売る相手は、近江連合です。」
「青山、森永は最初から近江連合に買収された人間だったんです。」
「彼らの目的は2つ。」
「一つは堂島会長に真島さんら現東城会の幹部の暗殺。」
「そしてもう一つはあなたや冴島さんといった組織から離れている人間を監視し、東京に連れ戻すことにありました。」
「理由は一つ。」
「あなた達を東京に集めて殺すためです。」
「近江連合にとって東城会は二人の伝説の極道とイコールなんです。」
「堂島の龍と呼ばれた桐生一馬。」
「それに18人殺しの極道、冴島大河。」
「その二人の首を東京で獲ってこそ手に入れられる代紋なんです。」
「近江の狙いは神室町のシマだけじゃありません。」
「3万人と言われる東城会の兵隊全てを手に入れたい。無傷のままでね。」
「その為には全面戦争を避け、もっとも効率の良い方法で手に入れる。」
「あなたたちはその為のキーマンだと言うことです。」
「恐らくは冴島の兄貴も東京に向かっているはずです。」
「刑務所から連れ出すところまでは私もご一緒できたんですが。」
「冴島の兄貴とは一緒に脱獄しました。」
「もちろん私はそうするように仕向けた側の人間なのですが。」
「私は青山、森永と同じ立場。」
「近江の指示に従って動いている人間です。」
「私の役目は冴島さんを脱獄させ、真島さんの死を追うように仕向けることでした。」
「結果、冴島さんは脱獄。」
「計画通りに事は運んでいたんですが、途中色々あって・・俺は・・冴島さんに惚れてしまった。」
「だから今こうして貴方に全てを打ち明けているということです。」
「近江連合は七代目の危篤が伝えられてからというもの、3つの二次団体による跡目争いが激化していたんです。」
「大阪北を拠点に組内最大の武闘派集団を組織する若頭渡瀬組組長・渡瀬勝。」
「兵庫に地盤を持ち七代目の信頼も厚かった若頭補佐、高知組組長・高知比呂志。」
「そして大阪のミナミで産廃処理などで巨万の富を築き上げた本家本部長、逢坂興業の会長、勝矢直樹。」
「その中で最も跡目に近い人物として見られていたのが若頭の渡瀬勝です。」
「高知比呂志は名古屋ですでに死んでいます。」
「今回の一連の騒動。私や青山、森永を使ってこの絵図を描いていたのは逢坂興業の会長、勝矢直樹です。」


冴島は府警の刑事・芹沢と一緒に神室町にやってきた。
「お前には警察の代わりに森永を捜してもらう。」
「福岡での事件後、森永が東京に帰って来たところまでは府警の方でも掴んでる。」
「だがその後の消息が分からない。」
「会長代行だった青山に手をかけた森永が東城会に戻るはずはない。」
「だからそれを捜すのがお前の役目だ。」
「ヤツがこの街に潜伏しているのは間違いない。」
「だが東城会からも命を狙われる男が潜伏する先といえば地下だ。」
「恐らく森永は地下に潜伏し、事件の黒幕に接触する機会を伺ってるはずだ。」
「今警察の人間が地下に潜れば森永が警戒して再びどっかへ姿を隠す可能性もある。」
「だからお前に探ってほしいんだ。」
その時、逢坂興業会長・勝矢直樹が乗った車が通り過ぎる。
「今の車に乗っていた男、近江連合の大物だ。」
「勝矢直樹45歳。」
「元役者で今は大阪にある大阪芸能という芸能事務所の社長をやってる男だ。」
「だがその裏で現役の近江連合の直参、逢坂興業の会長という顔も持っている。」
「容姿端麗で紳士的。」
「世間的には青年実業家として名が知れているがな。」
「今、近江連合で最も八代目の座に近いと言われる男だよ。」
「ヤツは表の顔がある分、自由に各地を動くことができる。」
「表の稼業の用事なら何の問題もないんだが、一応調べておく必要がありそうだな。」
「勝矢のことは俺が調べる。」
「お前は予定通り森永を追ってくれ。」
「明日またこちらから連絡する。それじゃ。」


冴島は賽の河原に向かい、花屋と会った。
「久しぶりだな、冴島。」
「相変わらず厄介な事件に巻き込まれてるようじゃないか。」
「沖縄に続き網走まで脱獄してくるとはな。」
「今全国各地で起きている極道関係の大騒動、そしてそれに絡んで殺された真島吾朗の死の真相について探っているんだろう?」


冴島が言う。
「話が早うて助かるわ。」
「せやけど犯人の目星はもうついてんのや。」
「東城会で大吾の護衛をやっとった森永っちゅう男を追ってるんや。」
「何日か前に福岡から神室町に戻ってきて潜伏してるらしい。」
「森永の居場所を教えてほしくてここに来たんや。」


「面白い日だな、今日は。」
「実はもう一人来ているんだ。」
「森永の行方を教えて欲しいと言ってきた男がな。」
花屋について地下闘技場に行くと、死んだはずの相沢がいた。
「森永の舎弟で一緒に堂島大吾の護衛をやっていた相沢という男だ。」


相沢は冴島にここまで辿り着いた経緯を説明した。
「俺は森永の兄貴に捨てられたんです。」
「それだけじゃありません。」
「兄貴にはたくさん裏切られた。」
「あれだけ真剣に堂島会長を助けることだけを考えて頑張ってきた兄貴がどうしてあんなことを・・」
「兄貴が山笠組本部で青山代行に撃たれた後、俺は桐生さんに指示されて兄貴を病院に連れて行ったんです。」
「手術が終わるのを待って翌朝病室を訪れたら、重体だったはずの兄貴はもう姿を消してました。」
「俺宛の置き手紙を残して。」
「東京に逃げろとだけ書いてありました。」
「でも自分には全く意味が分からなくて。」
「兄貴を捜して福岡の街を彷徨っていたら、翌日、青山代行が死んだという噂を耳にしました。」
「しかもその青山代行を撃ったのが兄貴だと。」
「その瞬間、自分は兄貴に捨てられたんだって確信しました。」


冴島が言う。
「くだらんな。」
「俺らの世界の兄弟の絆っちゅうんはガキの好き嫌いを言うとるんとちゃう。」
「大事なんは兄弟に捨てられたかどうかやない。」
「要は自分がそいつを好きでいられるのか。それだけや。」


花屋が言う。
「今日は特別にお前ら二人ともに森永の居場所を教えてやる。」
「だが現実とは非情なものだ。」
「その現実を受け容れられるだけの勇気があればの話だがな。」
「警視庁神室署地下2階の霊安室だ。」


ニューセレナに移動した桐生と馬場はテレビでニュースを見た。
勝矢が記者会見を行っている。
「今回のT-SETのメジャーデビューコンサートは急きょ決定したものです。」
「関西のテレビ局で放映されていたプリンセスリーグの決勝で活躍したダイナチェアさん所属の澤村遥さんが日本ドームでのメジャーデビューコンサートを予定していたのですが、その都合がつかなくなってしまったことから急きょ決勝で対戦したT-SETが代わりにコンサートをする運びとなりました。」
「緊急なコンサート開催になりますが、T-SETの二人は既にとある著名な先生からの楽曲提供を受けメジャーデビューする予定になってましたから、コンサートの開催自体に問題はありません。」
「私ども大阪芸能としては、これをラッキーなきっかけとして、澤村遥さんには申し訳ないんですが・・」


桐生が言う。
「行くしかないな。これはあの男のサインだ。」
「東城会乗っ取り計画に合わせて自らメディアに登場して存在をアピールする。」
「あの勝矢って男は呼んでるんだよ。」
「敵も味方も自分のところに集めるためにな。」
「馬場、お前は残ってくれ。」
「一つお前にやって欲しいことがあるんだ。」
「明後日、日本ドームでコンサートをやることになっていた澤村遥、アイツに伝えてほしいことがある。」
「諦めるなと。」
桐生は一人で勝矢の事務所に向かった。


「お前が勝矢・・」
時を同じくして冴島もやって来た。
「冴島・・やはりお前も来たか。」
「さあ勝矢、色々話を聞かせてもらおうか。」
「東城会を乗っ取ろうとしていたお前がどうして俺達をおびき出すようなことをしたのか。」


渡瀬もやって来た。
「ワケを聞かせてもらおうやないか、勝っちゃん!」
「福岡での騒動、それに札幌での真島殺し、全部勝っちゃんが東城会乗っ取るために描いた絵なんか?」


勝矢が言う。
「やはりそういうことになっているんですね。」
「はっきり言いましょう。違います。」
「黒幕の正体を知るためにあなた達に集まってもらいました。」
「福岡での堂島会長、山笠組斑目組長の暗殺計画。」
「それに札幌での真島吾朗暗殺。」
「そして名古屋での安住・高知、東城会近江連合両幹部の事後死。」
「すべては東城会と近江連合を潰すためにある男によって仕組まれた計画だったんです。」
「どうしてあの人がこんなことまでして私達を戦わせる必要があったのか。」
「その謎を知るためにも私達はここで殺し合わないとならない。」
「恐らくこの事件の黒幕の本当の目的は私達四人の死です。」
「それもただの死じゃない。」
「ここで直接殺させあう必要があるんです。」
「黒幕は近江連合の最大勢力である渡瀬組と逢坂興業、それに東城会の象徴とも言うべき桐生さんと冴島さんを相討ちさせた後でその全てを奪い取るつもりなんですよ。」
「最小限の労力でね。」
「私の推測が当たっていれば、敵は猜疑心の塊のような人だ。」
「恐らく私達の闘いが終わった後、姿を表すはずです。」
「全ての答えを見ることができるのは戦い終わって生き残った人間だけ。」
「理由はどうあれ、血が騒ぐのが極道ってもんじゃないですか?」


四人は戦いを始め、桐生と冴島が生き残った。
二人で戦っている最中、芹沢が現れた。
芹沢は銃で冴島の右肩と桐生の左脇腹を撃った。
「やっぱり東京に来てくれたんだな、桐生。」


渡瀬が言う。
「あれは・・ウチの親父・・」


勝矢が言う。
「そう、彼がこの事件の黒幕。七代目近江連合会長、黒澤翼、本人です。」


黒澤は立て続けに渡瀬の左下腿、勝矢の右下腿を撃ち抜いた。
「今度は足か。」
「上手く当たんねえな。」
「弾はあと2発入ってる。」
「話を聞いた後、今度はちゃんと頭撃ち抜いてやるからよ。」
「渡瀬、お前の魅力は邪魔だった。」
「勝矢にしてもそうだ。」
「テメエのカリスマだけで組織が動くもんだと思ってやがる。」
「俺はな、お前らみてえにテメエのカリスマだけで綺麗に極道やってる奴が大嫌いなんだよ。」
「いいか?ヤクザってのは所詮バカの集まりだ。」
「だが組長ってのはそんなバカどもを操ってなんぼだ。」
「いくらてめえにカリスマがあったとこでそのカリスマに群がったバカどもは組織にとっては屑にしか過ぎない。」
「知恵のねえヤクザはただのゴミだ。」
「お前らのやり方じゃこのまま極道社会がゴミ溜めになっちまうんだよ。」
「これ以上お前らがいると目障りなんだよ。」
「まずはお前からや。」


黒澤は勝矢の胸部を撃ち抜いた。
「兄貴・・八代目、継いでください・・」
勝矢は倒れ込んでしまった。


そこに堂島大吾が現れ、黒澤に銃口を向けた。
「一ヶ月ぶりですかね、黒澤会長。」
「福岡で青山の裏切りに気付いたあと、ずっとあなたのことを追いかけていました。」
「少し時間がかかってしまいましたが。」
「名古屋でウチの安住と近江連合の高知が殺されたことで確信しました。」
「今回の一連の騒動を。」
「東城会の地方組織との盃交渉、それを阻止しようとする近江連合というう敵対構図があるなか、なぜか名古屋では東城会と近江連合の両幹部が殺されるという事態が起こった。」
「これまで実態のなかった名古屋組が急に動き出したのには何か理由があるはず。」
「名古屋組を背後で動かしている人間は誰か。」
「それが判れば今回の騒動をコントロールしようとしている人間も誰かわかる。そういうことです。」
「お陰でこうしてあなたにたどり着くことができました。」
「あなたに病気のことを聞かされた時から怪しいと思ってました。」
「あの時、確かにあなたは顔色も悪く体を壊しているように見えた。」
「だが目だけは違った。」
「あの目は何か大きな仕事をする前の男の目。」
「余命幾ばくもない人間のものじゃなかった。」
「組織は一度大きくなりすぎると膿がたまる。」
「その膿を一掃するには良い機会だと思いました。」
「真島さんと相談し、あえてあなたの描いた絵に乗ることにしたんですよ。」
「俺はアンタと違って目先だけを見ているわけじゃない。」
「もっと遠い未来の東城会のあり方を考えてるつもりなんでね。」
「そのためには一度どこかで全国の極道組織の長とツラを突き合わせなきゃならない。」
「良い勉強させてもらいましたよ。」
「さあ会長、難しい話はこれで終わりにしましょう。」
「アンタと俺が殺し合えばそれで全ては終わる。」
「病気の話が本当なのかは分からないが、どちらにしろ行く先短い命なんでしょう?」
「このビルにアンタが登っていくのを見た時、確信しましたよ。」
「黒澤会長、お互い3万人の組織の頂点に立つ人間として相応しい引き際にしましょう。」
「三途の河渡るくらいまでは肩貸しますから。」
「桐生さん、冴島さん、後のことは任せましたよ。」
「これでやっと俺も六代目って胸張って言えますかね。」
「黒澤会長、選んでください。」
「せめて極道らしく自分自身でケジメをつけるのか。」


黒澤は至近距離から大吾の左下腹部を撃ち抜いた。
「とまあ、こういうことだ。」
「コイツはもう助からない。」
「桐生、今後のことが心配だろう?」
「例の可愛いお嬢ちゃんのこととかな。」
黒澤は去っていった。


馬場が遥の芸能事務所にやって来た。
「実は私、桐生一馬さんから伝言を言付かって来たんですが。」
「昨日の夜、俺と桐生さん、一緒に大阪芸能の社長さんのインタビューを観ていてね。」
「君のドームでのコンサートがキャンセルになったことを知ったんだよ。」
「でも桐生さん、昨日の夜はちょっと忙しくてね。」
「君に会いに行く時間がないから俺に伝言を頼むって。」
「諦めるな、そう君に伝えてくれって。」
「短い伝言だよね。」
「でも本当は桐生さん、もっと君に伝えたいことがあったんだと思う。」
「だけど時間が無かったから一番伝えたい言葉だけを選んで俺に伝言を頼んだんじゃないかな。」
「俺は桐生さんと君との関係は良く知らないんだけど、きっと桐生さんは君のことずっと応援しているんだろうね。」


遙が言う。
「実は明後日、ドームでT-SETの2人と一緒にコンサートができることになったんです。」
「良く分からないけど、ウチの事務所の社長と大阪芸能の勝矢社長が私達に内緒で計画していたコンサートみたいなんです。」
「だから私、本当に嬉しくて。」
「あ、そう言えばさっきおじさんと一緒にテレビ観てたって言ってましたけど、福岡からわざわざ伝言伝えに来てくれたんですか?」
「もう、おじさん相変わらず人使い荒いんだなあ。」
「そんなことするなら電話してくれればいいのに。」


「遙ちゃん、実は桐生さんは今神室町に来ている。」
「ちょっと前の職場のトラブルがあったらしくてね。」
「短い出張みたいなもんだ。」
「今は出かけてるけど、ニューセレナって店が入ってるビルに滞在してる。」
「遙ちゃん、さっき桐生さんからの伝言を伝えたばっかりなんだけどさ、そのコンサート・・どうしてもやらないとダメなのかな。」
「これは俺の勘なんだけど、そのコンサート・・裏に何かありそうな気がするんだ。」
「そのコンサートって急に決まった話なんだよね?」
「だったらなおさらおかしいよ。」
「日本ドームでのイベントなんか、そんな簡単に組めるもんじゃないし。」
「絶対なんかあると思わない?」


遙が言う。
「私、おじさんを信じています。」
「だから私はおじさんが苦しんで送り出してくれた道を進みます。」
「ありがとうございました。」
「おじさんの伝言、伝えてくれて。」


ニューセレナに冴島、桐生、伊達が集まった。
ママが桐生の様子を見て心配している。
「大丈夫かしら。かなり苦しそうだけど。」


冴島が言う。
「俺は腕やったが、こいつは脇腹に一発食ろとる。」
「ここまで辿り着けたんが不思議なくらいや。」
「今病院に近づいたら警察に捕まる可能性が高い。」
「そうなれば理由がどうあれ2、3日は身動きがとられへんようになってまう。」
「それだけは避けなアカンのや。」
「ママには迷惑かけてしまうがな。」
「それで大吾の方はどんな具合や。」


伊達が答える。
「そっちも悪い。」
「心臓を無理矢理動かしてるって状況だ。」
「今日明日が峠ってとこだろう。」
「しかし驚いたぜ。」
「堂島大吾が東都大医学部に運び込まれたって聞いた時は。」
「てっきり東城会と近江連合の抗争が原因で殺し合いでもしたのかと思ってたが。」
「まさか事件の裏にお前らまで控えていたとはな。」


そこに秋山駿が店に入ってきた。
秋山は神室町の消費者金融「スカイファイナンス」の代表取締役で、キャバクラ「エリーゼ」のオーナーだ。
「実は皆さんに近江連合と東城会の今起こってることについて色々話さなきゃならない、訊いておかなきゃならないことがあると思いましてね。」
「福岡で始まり、札幌、大阪、そして名古屋と続いた東城会を巡るこの一連の事件、それは全て繋がっています。」
「七代目近江連合現会長・黒澤翼。」
「彼の計画に気付いた3人の男の手によってね。」
「堂島大吾さん、それに逢坂興業会長の勝矢直樹、そしてもう一人はあの真島吾朗さんです。」
秋山は真島、勝矢、朴の3人が写る寫眞を見せた。
「真島さんと勝矢、それに朴美麗という女性が命がけで計画した愛する人間を守るための証拠です。」
「今回の事件、全ては近江連合の現会長・黒澤という男が計画したものです。」
「それはもうご存知ですか?」
「全ては黒澤の余命が原因で今回の事件は始まっています。」
「東城会の盃外交、それに伴う福岡、札幌、名古屋での幹部殺害。」
「全ては黒澤が描いた計画です。」
「しかし唯一、大阪で起こった事件のみ性質が違います。」
「真島さんがかつて結婚していた朴さんという女性に宛てた手紙を巡って、勝矢率いる逢坂興業と遙ちゃんが所属する芸能事務所・ダイナチェアとの騒動が起きてしまったんです。」
「恐らくお互いの今の立場もあって、色々と公に出来ないところもあったんでしょう。」
「真島さんがかつて結婚していたという事実を知る人間は殆どいないはずです。」
「その手紙は真島さんがかつての妻だった女性、遥ちゃんも所属するダイナチェア芸能事務所の社長・朴美麗さんに宛てたものです。」
「問題はその手紙の消印。」
「真島さんが札幌で殺されたという日よりも後のものなんです。」
「しかも手紙の文面は真島さんの居場所を指し示す内容になっている。」
「その情報を知った逢坂興業の連中は真島さんはまだ生きているものだと思い、真島さんの居場所を突き止めようとその手紙を奪いに走ったんです。」
「その結果、手紙を持っていた朴さんは非業な死を遂げ、その手紙を引き継いだ遙ちゃんも逢坂興業に追われる身となってしまった。」
「しかし残念ながら真島さんが生きているということはないでしょう。」
「もし生きているとすれば、昨晩黒澤を追って姿を現しているでしょうから。」
「でも真島さんは姿を現さなかった。」
「恐らくこの手紙が朴さんに届いた段階で既に亡くなっていたと考える方が自然です。」
「この手紙はあらかじめ真島さんから勝矢に託されたものだったんです。」
「ずっと気になっていたことがあったんです。」
「逢坂興業の人間はどこでこの手紙の存在を知り得たのか。」
「その秘密がこの写真に隠されていました。」
「これは今から20年前、当時アイドルとして活動していた朴さん。それにその旦那さんだった真島さん。」
「そしてまだアクション俳優として活躍していたころの勝矢を写したものです。」
「当時勝矢のマネージャーをしていた男から聞きました。」
「朴さんと勝矢、それに真島さんの3人は20年前から切っても切れない深い絆で繋がっていたんです。」
「俳優を引退した勝矢を世話したのも真島さんだそうです。」
「真島さんの手紙の存在をリークしたのは勝矢。」
「それに他でもない、朴さん自身なんです。」
「恐らくその手紙は真島さんと勝矢が黒澤の計画に気付き仕掛けたトラップと言ったところでしょう。」
「本来殺されるはずだった真島さんが生きているという情報をワザと流し、その情報に寄ってくる人間が誰なのか。」
「それを見定めるための罠として手紙は用意されたものだったんです。」
「そして敵はまんまとその罠にはまった。」
「あの黒澤が真島さんの手紙を追っていた人間です。」
「その事実を知った勝矢は自分が真島さんと通じているということを悟られないようにするため、あえて自らもこの手紙を追うような行動をとった。」
「だが実際は遙ちゃんの身に危険が及ばないよう先回りするような行動をとっています。」
「きっとそれが朴さんを守りきれなかったことへの償いでもあったんでしょう。」
「恐らく朴さんもこの手紙を受け取った段階で自分の身に危険が迫ることは分かっていたんだと思います。」
「だから事件の鍵を解き明かすためのヒント、金庫の鍵である万年筆を遙ちゃんに託した。」
「もしものことがあった時、遙ちゃんならきっと自分の意思を継いでくれるに違いない。」
「そう思ったんでしょう。」
「多分朴さんは死ぬまで真島さんと会うつもりはなかったんだと思います。」
「生きる世界も違う。」
「いくら愛していても一度すれ違った道は再び交わることはない。」
「だがそれでも彼女はどこかで繋がりを感じていたかった。」
「だから勝矢を通じて真島さんの近況を聞き20年前の想い出をよすがにして孤独なビジネスの道を歩んで行ったんだと思います。」
「実は一番皆さんに相談したかったのは日本ドームで行われるコンサートのことなんです。」
「実は遥ちゃん、日本ドームでメジャーデビューコンサートを控えているんですが、それが危険なんじゃないかと。」
「実は勝矢が手を回して日程が今日から明日に変更になりました。」
「しかも遥ちゃんだけではなく、大阪芸能所属の遥ちゃんのライバル、T-SETと特別ユニットを組んで舞台に立つと。」
「多分今も明日披露するデビュー曲のレッスンをしているところでしょう。」
「勝矢は遥ちゃんのコンサートが黒澤に狙われているというところまで読んだ上でワザと遥ちゃんの公演を中止にさせたんじゃないかと思いましてね。」
「遥ちゃんは桐生さんを殺し損ねた時の脅迫材料にするためにはもってこいの存在ですから。」
「だがドームでのコンサートは朴さん、そして勝矢自身の夢でもあった。」
「だからどうにか開催日を変更することで遥ちゃんの安全を確保し、彼女をドームのステージに立たせようとしてたんじゃないかと。」
「しかしその予定も狂ってしまった。」
「本来なら勝矢は昨晩、黒澤と決着をつけるつもりだったんでしょう。」
「だが黒澤をとり逃がしてしまった。」
「コンサートを中止しようにも、当の勝矢は意識不明の重体。」
「事態は悪い方向に進んでしまってます。」
「明日のコンサート、なんとかして黒澤の侵入を防ぎたい。」
「もしくは延期、いや、中止にできないかと思ってます。」
「今日まではなんとしても遥ちゃんを舞台に立たせるつもりで協力してきました。」
「ですが黒澤がこの街に居る今、他に選択肢が・・」


桐生が言う。
「だめだ。」
「どんな事情があってもコンサートを中止にしないでやってくれ。」
「遙は今の話を知ったところで結局は舞台に立つ道を選ぶ。」
「お前もそれを分かってて俺達に相談しに来たんだろ?」
「恐らく遙を止めることができる人間は俺だけだろうからな。」
「遙やアサガオの子供たちと離れて暮らしてからの一年間、俺は本当の孤独というものを味わった。」
「傍に女がいても新しい仲間が出来てもなぜか心は寂しかった。」
「どうしてなんだろうな。」
「昔はムショで暮らした時もこんな感覚は無かった。」


そこに品田辰雄という男がやって来た。
秋山が品田を紹介する。
「彼は大吾さんの友人で元プロ野球選手です。」
「今は球界を追放されて俺から3億2000万円もの金を借金しようとした名古屋の風俗ライター。」


日本ドームの図面を見ながら品田が皆に説明する。
「敵が遙かちゃんを銃か何かで狙撃するとしたら外野スタンドからしかあり得ません。」
「もしこの図面通りステージがホームベース上に位置するんであれば誰にも見つからずに狙撃できるポイントは更に絞られます。」
「このバックスタンドの横、この部分しかあり得ません。」
「それ以外の場所だと周囲に人が居たり角度の問題で狙撃するのが難しくなってしまう。」
「ステージの柱や証明、それにカメラの配置を考えるとホームベースを狙い撃ちにするにはこのポイントしか考えられないんです。」
「現に狙撃とまではいかないですが、実際プロの世界じゃホームチームがこのポイントにスパイを用意するのは常識だったりしますから。」
「いわゆるサイン盗ってやつです。」
「このポイントから相手キャッチャーのサインを直接望遠鏡などで盗んでそれをベンチに無線で送ったりしてます。」


秋山が聞く。
「じゃあプロのバッターってのは相手の配球を知った上で打ったりしてるってわけ?」


「全部が全部ってわけじゃないですけど。」
「試合を決定づけるような局面でサインを盗むってのは結構ありますね。」


秋山が言う。
「ちょっと待った。」
「それじゃ、君が15年前サイン盗したって疑いを掛けられた事件ってのも本当にサインを盗んでいたってこと?」


「その逆なんです。」
「本来ならサヨナラがかかったあの場面、ワイバーンズが勝ちに行くんであればバックスタンドのこの場所にスパイを配置してサインを盗み、その配球を3塁コーチャーが俺に教えてくれるはずでした。」
「だがあの時、バックスタンドには誰も居なかった。」
「俺はサインを知りませんでした。」
「だからあの時、俺はホームランを打てたんです。」
「サインを事前に知らされていたらきっとあのストレートを打つことはできなかったでしょうから。」


秋山が言う。
「なのに君はサイン盗の嫌疑をかけられ球界追放になっちまった。」
「どうして15年前にそのことを話さなかったんだ?」


「ま、そうなんですけどね。できなかった。」
「お客さんの夢を奪いたくなかったんです。」
「誰も夢のフィールドでそんなことが行われているなんて知らない。」
「いや、知りたくもない。」
「彼らは俺達のプレイを見て喜び、興奮し、自分の果たせなかった夢を重ね合わせる。」
「俺が打ったたった一本のホームラン。」
「それを見て元気を取り戻してくれたってファンの人も居てくれたんです。」
「このコンサートも同じです。」
「会場にくるお客さん達は遙ちゃんの歌い踊る姿に夢を見る。」
「人間ってのは自分の目で夢を見ないとダメなんです。」
「夢を見なきゃ自分の夢を想像することなんてできない。」
「そうやって夢ってのはカタチを変えて人から人に伝わっていくもんなんだと思います。」
「堂島君が俺に夢を感じてくれたように、今度は堂島君が命がけで守ろうとした夢を俺が引き継ぐ番です。」


ミレニアムタワーにある真島組の事務所で黒澤と真島吾朗が話をしている。
「神室町の夜景がこんなにもいいもんだとはな。」
「お前が生きてるってことは分かってた。」
「最後の最後までどちらか片方が生き残り、俺を倒す。」
「それが勝矢との約束だったんだろ?」
「真島。」
「さあ、最後の一仕事、手伝ってもらうとするか。」


ニューセレナのママがテレビをつけた。
「速報です!本日17時過ぎ、警視庁は東京・神室町中心部にあるビル、ミレニアムタワーが何者かによって占拠されたとの発表をしました。」
「犯人は広域指定暴力団、東城会の幹部・真島吾朗氏を人質に最上階に立てこもっているとのことです。」


秋山が言う。
「そういう事だったのか。」
「奴らの目的は桐生さんと冴島さんの命だけじゃない。」
「この街から完全に真島組と東城会を追い出すことにあったんだ。」
「きっとヤツらはこの騒動を真島組の仕業に見せかける腹なんです。」
「真島さんを人質にとったのもそのため。」
「真島さんを犯人から救おうとした組員達の暴動に見せかける演出なんですよ。」
「どうしましょうか。このままじゃ真島さんも遙ちゃんも、いや、この街全員の命が危ない。」


桐生、冴島、秋山はミレニアムタワーに、品田は日本ドームに向かった。


桐生、秋山の援護で冴島がミレニアムタワーの屋上にたどり着くと、黒澤と真島がいた。
「やっぱりお前が来たか。」
「つくづくお前らは期待を裏切らない。」


真島が言う。
「すまんのう、兄弟。」
「俺らは殺し合いをせんといかんらしい。」
「俺には桐生ちゃんの命より大切なモンを見捨てることはできんかったんや。」


黒澤が言う。
「合図をすればすぐに澤村遥を射殺するよう命令してある。」
「これ以上は説明しなくてもわかるよな?」
「澤村遥の命を救いたいのなら自分の兄弟を殺せ。」
「真島が勝てばその瞬間射殺。」
「二人とも仲良く天国に送ってやる。」
「だがもし冴島が勝てばその命助けてやる。」
「お前は東城会を破門にされた腹いせに真島を人質に立てこもり殺害した犯人として一生を塀の中で過ごすことができる。」
「ムショ暮らしは好きだったんだよな?お前。」


日本ドームにたどり着いた3人。
品田は狙撃ポイントにいた馬場と対峙した。
「馬場さんだね?」
馬場を殴り飛ばす品田。
「ここは普段いろんなチームのスコアラーが必死になって相手チームのサイン盗んでる場所なんだよ。」
「確かにサイン盗は汚いことかも知れないけど、皆必死なんだよ!裏方ってのは。」
「アンタ、この事件の裏方なんだろ?」
「裏方なら裏方らしく最後までテメエのやったことに責任持て。」
「ちったあ痛い目に合えって言ってんだよ!」
「アンタにはこれまでやってきたことの責任をしっかりとってもらう。」
「そうしねえとアンタを信じて待ってる人間が悲しむだけだからな。」
品田は馬場を叩きのめした。


馬場が呟く。
「なんでもっと早く・・冴島さんに会えなかったんだろう。」


馬場と連絡が取れなくなった黒澤が焦る。
「まさか失敗したのか?」
「こうなったら予定変更だ。」


その時、大吾と勝矢がやってきて黒澤に銃を向ける。
「もう終わりだ、黒澤。」


「時間切れなんだよ、もう。」
黒澤は口から血を吐いた。
「堂島、お前の言った通りだ。」
「もう俺の体は限界だ。」
「そう、あの話は本当だったんだ。」
「俺は・・本当に末期の癌だったんだよ。」
「どうしてもこの目で見たかったんだ。」
「俺が築き上げた力の全てをアイツが引き継ぐ瞬間をな。」


黒澤の構成員と戦っている桐生と秋山のもとに大吾から携帯で連絡が入る。
「桐生さん、俺です。大吾です。」
「黒澤の本当の目的は桐生さん達の命でも神室町でもありません。」
「東城会、それに近江連合そのものをある男に受け渡すためのものだったんです。」
「とにかく今は時間がない。」
「お願いします、今すぐ東城会本部に向かってください。」
「行けば全てわかるはずです。」


黒澤の構成員を秋山に任せ、桐生は東城会本部に向かった。
東城会本部には相沢がいた。
「俺はついこの前まで会長警護役とは名ばかりのただのチンピラでした。」
「それが今はここにいる。」
「四代目、あなたは堂島会長が本当に構成員3万人という組織の頂点にいるべき人間だと思ってるんですか?」
「堂島会長が現在の地位につけたのは四代目だったあなたの口添えによるところが大きい。」
「寺田五代目の裏切りによって東城会がバラバラになりさえしなければ絶対に跡目を継ぐことなんてできなかった。」
「ですが裏を返せば極道の地位なんて所詮そんなものだってことですよ。」
「いくら力や金を持っていてもコネがなければのし上がれない。」
「だからいまだに盃なんて古臭いものにこだわってるんです。」
「俺は黒澤会長の実の息子なんです。」
「でも俺が極道でなかったらあの人はどうするつもりだったんでしょうね。」
「ホント、死ぬ前の人間が考えることは理解できません。」
「途中までは計画通りにいってたんです。」
「森永さんも今の東城会のあり方に疑問を抱いていた一人です。」
「色々と協力してくれました。」
「だが森永さんは福岡で堂島会長が居なくなってからというもの、俺に計画から降りるよう迫ってきた。」
「森永さんは俺にこう言いました。」
「お前には桐生一馬を超えることなどできない。」
「今すぐこの計画から手を引けとね。」
「福岡であなたに接触したのは間違いでした。」
「あなたは危険すぎる。」
「あなたの傍にいる人間は皆あなたの魅力に惹きつけられていく。」
「でもそれが生まれ持ったカリスマだっていうなら、ずっとあんたが東城会のトップやってりゃよかったんだ!」
「正直、あんなクソみたいな親父が遺してくれたモンなんてどうでもいいんです。」
「俺は今、初めて自分の力で頂点の人間と闘うことができる。」


「人間には才のある人間とそうでない人間の二種類がいる。」
「だがな、才のある人間の中に自分の才能だけで強くなった奴は一人もいない。」
「壁を見つけて超えていく。」
「人ってのは乗り越えることでしか成長できねえんだ。」
「乗り越えるべき壁が俺だと言うのなら付き合ってやる。」
「二度と乗り越えようとすら思えない力の差、一度だけ味あわせてやる。」
桐生は相沢を叩きのめした。
「這い上がれ、相沢。」
「何年経っても構わない。」
「這い上がってまた俺に向かってこい。」
「その時まで待っててやるぜ。」


日本ドームでのコンサートを無事終えた遙がステージでファンに挨拶をする。
「実は皆さんにどうしても話しておかなければならないことがあります。」
「今私がこのステージの上に立てているのは決して自分ひとりの力ではありません。」
「私を支えてくれた事務所の社長やマネージャー、ダメな私を見捨てずに指導してくれた先生方、プリンセスリーグでお互いに競い合ったライバル達、そして何よりもこんな私のことを応援してくれる皆のおかげです。」
「でもそんな皆に隠していたことがあります。」
「それは私の家族のことです。」
「私はずっと自分の親の顔を知らずに育ちました。」
「親のいない私にとって養護施設で一緒に暮らす子供たちや面倒を見てくれるおじさんは本当の家族以上に大切な存在でした。」
「でもその大好きな皆から私は離れてしまいました。」
「アイドルとしてデビューするためです。」
「アイドルって女の子なら誰もが一度は夢に見ますよね?」
「でも私にはそれ以上に決して裕福とは言えない現実がありました。」
「私は自分がアイドルになって成功することで養護施設の経営を助けられると思いました。」
「しかしそれは同時に、私と私をこれまで育ててくれた大事な人との絆を断ち切ることに繋がったんです。」
「私を育ててくれたおじさんは昔、極道と呼ばれていた人でした。」
「他の人から見たら怖いかも知れないけど、私にとってのおじさんは強くて、優しくて、頼りがいがあるけれど、でもどこかちょっと抜けてて。」
「私はそんなおじさんのことが大好きでした。」
「けど今はもうおじさんのことを家族とは呼んじゃいけないんです。」
大粒の涙を流す遙。
「それでも私、後悔はしてません。」
「私にこの世界を見せてくれた事務所の社長には言葉にできないくらいの感謝をしています。」
「毎日が新鮮な驚きに満ちていて嬉しいこと、楽しいこと、辛いこと、悲しいこと、たくさんありました。」
「これからもそんな生活が続くのかと思うと心がワクワクします。」
「けどファンの皆や何より自分自身に嘘をついて生きていくことは私には出来ません。」
「私の夢はアイドルになること。」
「でももう一つあったんです。」
「大好きな人達と一緒に幸せに暮らすこと。」
「今日この舞台に立って、私にとって何が一番大事なのかやっと分かりました。」
「だからもうこれ以上歌うことは出来ません。」
「私は、桐生一馬の家族です。」