龍が如く3

―2007年1月 東京神室町―
伊達と桐生が墓地で話しをしている。
「あの爆弾が偽物だったとは・・」
「寺田が一番の役者だったな。」


桐生が言う。
「ああ。奴が言っていた通り、高島の事は心から信用しちゃいなかったのさ。」


伊達が言う。
「そうだな。最初から爆弾の信管は抜かれていたわけだしな。」
「ハナっから爆発させる気はなかったってことだ。」
「しかしまあ、爆弾が起動した時はどうなるかと思ったぜ。」


桐生が言う。
「だがあの時、寺田の判断が無ければ高島の思い通りになっていただろう。」
「奴は最期に信じてくれと言った。」
「多分、風間の親っさんへの気持ちだったんだと思う。」
「今思えばな。」


寺田の墓に手をあわせていた遥が薫の姿に気づく。
「あ・・!」
墓花を持った薫が桐生のもとに笑顔で歩いてきた。
「今日、発つのね?」
「私もお別れを言いに来たわ。」


桐生が言う。
「ああ。明日の朝には沖縄へ発つ。」


薫が言う。
「でもまさか、あなたが養護施設をやるとは思ってもみなかったわ。」


「昔、孤児だった俺に風間の親っさんがしてくれたように俺も子供たちの世話をしてみたいと思っていたんだ。」
「沖縄にはヒマワリと縁の深い養護施設があってな。」
「前の経営者が亡くなった後、面倒をみれる人間がいなかったんだ。」
「元極道の俺にできる仕事なんて限られてるからな。」
「丁度良い話だったんだ。」
「海辺の近くだ。」
「お前も暇な時に遊びに来い。」


薫が言う。
「そうね。でも暫くはいけないわ。」
「私も明日、日本から発つの。」
「アメリカに行くの。今度警視庁に新設される部署の実地訓練があってね。」
「そこの教育係として上から誘いがあったの。」
「仕事の内容を言えばあなたはきっと止めると思うから話さないでおくわ。」
「まだ私には警察官としてやり残したことがある。」
「だからアメリカに行って自分を試したいの。」
「これから暫くはお互いの道を歩みましょ。」
「何年か経って私の気持ちに踏ん切りがついたら、その時はあなたの所へ行くわ。」


伊達が離れたところでその様子を見ていると須藤がやって来た。
「結局あの二人はくっつかなかったか。」


須藤が言う。
「まあ仕方ないでしょう。」
「狭山君には警察官としての夢がありますからね。」
「私は来月付けで四課から一課へ戻ります。」
「今回の東城会と近江連合の抗争。」
「結局、警視庁も府警も後手に回り何もすることは出来ませんでした。」
「それに加えて倉橋課長とジングォン派の起こした警察内部の不祥事。」
「警察としては大きな汚点を残す結果に。」
「私が一課に異動できたのは、要するに口封じですよ。」
「狭山君も私も、今回の抗争事件に関わった人間は皆昇進。」
「本人の希望部署に転属させることで不祥事をうやむやにするつもりなんでしょう。」
「私は今後の神室町が心配です。」
「警察は今後、東城会や近江連合といった組織に対して一定の距離を取る方針です。」
「今回の警察の失態を救ったのは、ある意味彼らでしたからね。」
「でも私はまだ極道を信じてません。」
「もし東城会の跡目が桐生さんじゃないなら、また神室町は昔のような荒れた街に・・」


伊達が言う。
「大丈夫だ。」
「あいつはちゃんと考えてるよ。」
「ヤツはケツの拭き方を知ってる。」
「神室町を去る前にやることはやっていくはずだ。」


桐生が薫に言う。
「それじゃあそろそろ行く。」
「神室町に行って、一輝やユウヤ達に一言挨拶しないとな。」
「それにどうしても一人、話をしておかないとならない奴がいるんだ。」
「このまま行けば大吾が東城会の六代目を継ぐ。」
「だが大吾はまだ若い。」
「組をまとめるだけの力が足りないんだ。」
「俺と同じように昔から東城会を知ってる人間が一人いる。」
「真島吾朗って男がな。」
「だから俺は今日、どうしても真島に会う。」
「そして奴を説得するんだ。」


薫と別れた桐生は神室町ヒルズ建築現場にいる真島に会いに行った。
「そろそろ神室町から消えるんか?」


桐生が言う。
「俺はな、兄さん。」
「あんたに大吾を支えてほしいと思ってる。」
「これから東城会は大吾が継ぐ。」
「だが大吾は組を持っていない。」
「当然、直系の組長達の当たりも厳しくなる。」


真島が言う。
「だから俺に真島組を率いてあのアンちゃんを守らせようってのか。」
「断る。」
「桐生チャン俺はな、ホンマはただ暴れてたいだけやねん。」
「それが今となっちゃ真島組の連中の手前、昔みたいに好き放題暴れるワケにもいかん。」
「それに加えて大吾のお守りなんぞ荷が重すぎる。」
「絶対にお断りや。」


桐生が言う。
「やっぱりか。」
「あんたは暴れたい。そうなんだろ?」
「だが今はそれができない。」
「だったら今度は思い切り暴れたらいい。」
「大吾が跡目となれば、はねっ返る連中もいる。」
「あんたはそいつらを片っ端から叩けばいい。」
「六代目に盾突く奴は組に背いた連中だ。」
「喧嘩する理由もちゃんとあるぜ。」


「桐生チャン、俺にドブざらいせえっちゅうんか。」
真島はジャケットを脱いだ。
「もう分かってるんやろうな?」
「俺は強いヤツが好きや。」
「俺に命令出来んのは強いヤツだけや!」
「俺を東城会に戻したかったら、俺に勝ってから命令せえや。」
桐生は真島の勝負を受け、勝利した。


「やっぱり桐生チャンはごっついのう。」
「これでホンマにお別れやな。」
「寂しくなるなあ、桐生チャン。」


桐生が言う。
「大吾のこと、頼んだ。」


「ああ。」
「ただ一つ気がかりなことがある。」
「もし六代目がおかしな方向に進んでも俺には止めることは出来へんで。」
「大吾―いや、六代目はアンタと同じで人を信じやすいところがある。」
「変な連中に利用されなきゃええんやが。」
「エライこと引き受けてしもうたなあ。」
「ま、しゃーない!」
「真島吾朗、いっちょやったろやないか!」
「はー、メンドくさ。」


―それから半年 2007年夏―


桐生は沖縄で遥と共に養護施設アサガオを営んでいた。
アサガオで親のいない子供たちを引き取り育てている。
そんな桐生の元に琉球街を拠点とする極道組織、琉道一家の若頭・島袋力也と若衆・幹夫がやって来た。
「俺等はなあ、内地からシャシャリ出てきた奴が大嫌いなんだよ。」
「とっとと沖縄から出ていけ。」


桐生は力也を叩きのめした。
「どうだ?内地のオッサンのパンチは痛かったか?」
「お前の親父のところに案内してもらおうか。」


すっかり腰の低くなった力也達と一緒に琉道一家の事務所に向かう。
琉道一家の事務所は有限会社・名嘉原興行の事務所を兼ねていた。
中に入ると名嘉原茂が現れた。
「おう、待たせたな客人。」
「あんたが桐生さんか。」
「ウチの力也が可愛がってもらったようだな。」
「アンタには悪いことをしたと思ってる。」
「だが、あそこの土地の立ち退きの話が出ていてな。」
「あんたが住んでるあの土地の一帯はな、古くからウチのシマだったところだ。」
「最近じゃ住宅地になっちまって人伝に土地を又貸ししていたんだが、急に買い取りたいって話があってな。」
「どうもあの一帯まるごと今度造られるリゾート開発の予定地になっているらしいんだ。」
「あの地域を一大リゾートにして、その横に米軍の基地を増設するって計画らしい。」
「最近新聞じゃよく取りだたされてる話だ。」
「まあ沖縄に生まれ育った俺としては複雑な思いもあるんだが、ここが発展して沖縄の人間が潤うんだったら仕方ねえ。」
「ここは一つ、琉道一家の顔立てて大人しく立ち退きしてもらえねえだろうか。」
「アンタがあそこで養護施設をやってるって事は力也から聞いている。」
「俺も咲って女の子を引き取った身だ。」
「あのくらいの年のガキを育てんのが大変なことはよく分かる。」
「だがな、アンタは内地の人間だ。」
「いざとなりゃ、あの子供たちを連れて別の場所に移ることもできる。」
「もし金が必要だっていうなら少しくらいは工面してやれねえこともねえ。」
「どうだ、悪い話じゃねえと思うが。」


桐生が言う。
「理由は分かった。」
「しかし断る。」
「あんたの言い分は通っている。」
「だがな、所詮それは極道の勝手な都合ってやつだ。」
「俺も昔は極道だった。」
「他人の生活に土足で踏み込んでは何かと理由をつけて良いように事を運ばせていた。」
「だがな、そんな俺達の事情で振り回された子供はどうなるんだ?」
「俺はな、ここで施設をやっているうちはあいつらをそういう目に遭わせたくねえ。」
「話は終わりだ。帰らせてもらう。」


「おいコラ、ちょっと待て!」
名嘉原は立ち上がり、日本刀を手にした。
「沖縄で生まれて60年、内地から来たガキに説教されるほど老いぼれちゃいねえ。」


桐生が言う。
「あんた、本当にそれで良いと思っているのか?」
「今俺をここで殺して子供達を追い出して、あんたそれで満足なのか?」
「沖縄のことを愛しているなら俺達を立ち退かせることよりも、もっと他に考えることがあるんじゃないのか?」
「あんたが暴力で向かってくるなら構わない。」
「そん時はこっちも手加減ナシにやらせてもらうぜ。」


―数日後―
テレビで沖縄リゾート開発のニュースが流れた。
「続いてのニュースです。」
「来年度、民自党が衆議院での通過を目指している沖縄米軍基地拡大法案のキーマン、田宮隆造防衛大臣と、同時に開発が進められているリゾート開発の責任者、鈴木善信国土交通大臣が今日揃って現地沖縄へ視察に訪れました。」
「日本防衛の鍵とも言われる弾道ミサイル防衛システム、通称、新BMDシステムの導入を目指す田宮氏、一方これまで沖縄米軍基地拡大法案に一貫して反対する立場を取りながら沖縄の内需拡大のためリゾートの開発を推し進めてきた鈴木氏。」
「政財界からの注目が集まっています。」
「田宮氏の現地到着に先駆け、空港前には基地の拡大に反対する市民が大勢詰め掛け反意を示すビラを配るなどする一方、鈴木氏はリゾート開発による内需拡大を支持する地域財界関係者に迎えられ開発候補地の視察へと向かいました。」
「田宮氏の米軍基地拡大法案、鈴木氏のリゾート開発、ともに現地でも意見が割れており、法案成立に向け両大臣とも各方面との調整が必要と思われます。」
「空港到着後、インタビューに応じた鈴木氏とは対照的に、田宮氏は足早に車に乗り込み現地の視察へと向かいました。」
「突然の両大臣の沖縄訪問に、野党からは鈴木氏の沖縄リゾート開発に田宮氏が便乗する形で強引に米軍基地拡大法案を進めようとしているのではないかと疑問の声が揚がっています。」
「次期総裁候補として呼び声の高い鈴木氏、田宮両氏の沖縄での行動に今後も注目が集まります。」


ニュースを見ていた桐生の元に力也がやってきた。
「またお前か。」
「俺の答えは変わってねえぞ。」


力也が言う。
「いや、今日はそういうんじゃねえんです。」
「今日は兄貴にどうしても頼みたいことがあって。」
「実は、お嬢のことなんです。」
お嬢とは名嘉原の養女、咲のことだ。
「お恥ずかしい話なんですけど、一昨日の夜からお嬢がいなくなっちまって。」
「組の連中、総動員して街中捜したんですがどこにも姿が見当たらなくて。」
「実はお嬢、ウチの親父が昔カチコミかけた奴の娘でして。」
「訳あってウチで引き取ってはいるんですが、素性がバレたら元の親のところに戻らねえとならなくなるんで警察は頼れないんです。」
「咲さんの実の親ってのが両親揃ってひでえヤツでして。」
「父親はギャンブルで借金ばかりしている典型的なダメ親父で。」
「オマケに家に帰っては酒に酔って暴れる始末。」
「母親は母親で咲さんを放っておいて外の男の家を転々とするような浮気女で。」
「3年前、ウチの組は咲さんの父親の借金回収を請け負ったんです。」
「咲さんの父親を追いかけてウチの親父が家に踏み込んだときには部屋の中にはまだ幼い咲さんが一人。」
「父親は咲さんの目の前で首を吊って死んでいました。」
「母親はとっくに別の男とどこかへ消えちまってました。」
「咲さんのことなんかどうでもいいって感じでね。」
「ウチの親父は見てくれは怖いですが、義理人情に厚い昔気質の人間です。」
「だから咲さんのことが放っておけなかったみたいで。」
「最初のうちはガキなんて面倒くせえなんて言ってましたが、今じゃドが付く程の親バカです。」
「親父にとって咲さんは本当の娘のような存在です。」
「でも最近になって、失踪していたはずの咲さんの母親がお嬢を連れ帰そうと捜し回っているらしくて。」
「理由は分かりません。」
「大方、家事をお嬢にやらせて自分は外で遊ぼうってところじゃないですか?」
「とにかく親父はお嬢が元の母親に見つからねえよう事務所から出さないようにしていたんですが。」
「そんなわけで親父もお嬢の行方を心配してまして。」
「お嬢は昔からクチがきけないんです。」
「多分親父が首吊ってんのを見ちまったショックでそうなったんじゃねえかって町医者が言ってたんですが。」
「とにかくお嬢は一人で電話も出来ねえんです。」
「今は一刻も早くお嬢の行方を捜したいんですが、兄貴以外頼れる人間がいないんです!」
「今親父は荒れちまって手がつけられねえ状態です。」
「だから兄貴に出張ってもらって、とりあえず親父を落ち着かせてほしいんです。」
「先日の一件から親父は兄貴に一目置いているみてえです。」
「だからここは兄貴しか収められねえと。」


桐生が言う。
「ちょっと待て。」
「さっきから聞いていると俺のこと兄貴兄貴って、何言ってるんだ?」
「お前は琉道一家の若頭だろ。」
「俺はお前の兄貴分でもなんでもない。」
「お前みたいなヤツに兄貴と呼ばれたらウチの子供達に悪影響だろうが。」


力也が言う。
「別にいいじゃないですか!」
「俺は兄貴の強さと男気に惚れたんです。」
「俺にとって兄貴は兄貴なんです!」
「じゃあ自分、車まわしてきますんでお願いします!兄貴!」


桐生は酔って荒れている名嘉原と話をして落ち着かせた。
咲が名嘉原より実の母親の方を選んだと思っているようだ。
「俺が咲から話を聞いてやる。」
「俺もあんたと一緒で目の前に困ってるガキがいると放っておけない性質なんだ。」
「安心しな。別に咲を連れ戻したところで土地の話を持ち出す気はねえよ。」
「それとこれとは別の話だ。」
「今は咲のことだけを考えようじゃねえか。」
「アンタんとこの若いの、借りるぜ。」


桐生は力也と一緒に咲きを捜した。
聞き込みの結果、咲は極道組織・玉城組の事務所にいるという。
桐生が一人で乗り込むと、咲の実の母親も一緒にいた。
東城会系玉城組組長、玉城鉄夫が言う。
「琉道一家の新入りか?」
「一人で飛び込んでくるとはいい度胸だ。」


桐生が言う。
「俺は琉道一家じゃない。」
「そこ子を取り返しに来ただけだ。」


玉城が立ち上がる。
「なにおかしなこと言ってんだ?」
「このガキに用があるのは名嘉原だけだろうが。」


「理由はどうでもいい。」
「とにかくその子、返してもらうぜ。」


玉城が言う。
「ふざけんな。」
「大事な取引の材料、そう簡単に奪われてたまるか。」
「しかし可哀そうな娘もいたもんだねえ。」
「父親は目の前で首吊り、母ちゃんは男のために実の娘まで誘拐しちまうとは。」
「こりゃ世も末だ。」


咲の母親が玉城に詰め寄る。
「ちょっとアンタ!なに言ってんの?」
「アンタこの前、咲と一緒に3人で暮らそうって。」


「俺が本気でお前みたいな年増の女、相手にすると思ったのか?」
玉城は咲の母親をひっぱたいた。
「お前はもう用済みなんだよ、オバサン。」
桐生にナイフを向ける。
「さあ、次はお前の番だ。」
「お前をぶっ殺した後、その指全部、名嘉原に届けてやるぜ。」


桐生が言う。
「気乗りしねえなあ。」
「殴る価値がねえヤツと喧嘩するのは好きじゃねえ。」
「だがてめえみてえなヤツをのさばらせておくのはもっと好きじゃねえ。」
「来やがれ、この外道!」
桐生は玉城を叩きのめした。


「なんで・・こんなやつが・・沖縄に・・」
玉城は気を失った。


そこに力也が名嘉原を連れてやってくる。
「咲・・」


桐生が咲に言う。
「名嘉原の親父さんな、お前が居なくなって凄く心配していたんだ。」
「お前がな、本当の母親のとこに行っちゃったんじゃないかと思ってすごく寂しがっていたんだ。」
「お前は名嘉原と母親、どっちと一緒に居たいんだ?」


咲の母親が大笑いしている。
「何が娘よ。何が母親よ。」
「バッカじゃないの、アンタたち。」
「私はね、この子のせいで人生メチャクチャになったのよ。」
「産まれた時からいっつも邪魔だった。」
「そんなにこの子が欲しいんならアンタにくれてやるわ。」
咲の母親は事務所から出て行った。


桐生が名嘉原に言う。
「咲なら大丈夫だ。」
「咲のスケッチブックの中身、見たことないだろ。」
「見てみろ。」


名嘉原は咲が持っているスケッチブックの中を見た。
すると名嘉原が笑っている似顔絵に「いつもみまもってくれてありがとう」のメッセージが添えられている。
それを凝視している名嘉原に桐生が言う。
「もう答えは出ていたんだ。」
「咲はあんたの本当の娘なんだ。」
「そうだろ?咲。」


咲は頷いた。
「咲!」
泣き崩れながら咲を抱きしめる名嘉原。
「ありがとうな・・ありがとうな・・」


咲を連れて琉道一家の事務所に戻る。
「今回の一件、アンタには本当に世話になった!」
「この名嘉原茂、任侠道四十年。アンタ程の漢、見たことがねえ。」
「俺はアンタとどうしても兄弟の盃を交わしたいと思ってる。」
泡盛と盃を持ってくる力也。
「頼む!俺はアンタに惚れちまった!」
「盃を交わしてくれ!」


桐生が困惑する。
「と言ってもなあ。」
「俺はもう極道じゃねえんだ。」


名嘉原が言う。
「んなことは関係ねえ。」
「要は俺がアンタに惚れたってことだけだ。」
「それで十分。」
「晩酌人もいねえが我慢してくれ。頼む。」


そこに大吾がやってくる。
「晩酌人なら俺が引き受けますよ。」
「お久しぶりです。桐生さん。」
「例の沖縄リゾート開発の土地買収の件でこちらに来ました。」
「実は今話題になっているリゾート開発に必要な土地の買収、沖縄の東城会傘下の組織が中心となって進めていたことなんです。」


名嘉原が驚く。
「なんだって?まさかその東城会傘下の組織ってのが玉城組だってのか?」


「そうです。」
「玉城組は東城会の下部、五次団体にあたる組織です。」
「その玉城組が東城会の本家の許可も無く勝手にリゾート開発の土地買収を進めていたんです。」
「例のリゾート開発、計画の立案者である鈴木大臣が土地の買収を玉城組に依頼したというのが事の発端です。」
「あのリゾートは一定の広さの土地を揃えることが出来ないと動かない計画なんです。」
「リゾートに必要な土地を確保するためにはどうしても現地に詳しい組織に任せる必要がありますからね。」
「玉城組は恰好の存在だったというわけです。」
「玉城組の土地買収のやり口は非常に強引なものでした。」
「他人から土地の権利書を奪い取るようなことばかりしていましたからね。」
「玉城は名嘉原さんのお子さんを誘拐し、身代として土地権利書を取引するつもりだったのでしょう。」
「玉城組のような強引な土地買収を続ければ、いずれ大事になるのは明白です。」
「リゾート開発にヤクザが絡んでるなんてスキャンダルが世間に知れたら、リゾート開発はおろか基地拡大法案まで白紙に戻る可能性があります。」
「それで田宮さんは私のところに事態の収拾を依頼してきたんです。」
「世間でささやかれている通り、基地拡大法案とリゾート開発計画はワンセットなんです。」
「あの二つは持ちつ持たれつの関係なんですよ。」
「どちらかが倒れたら上手くいかなくなる。」
「リゾート開発がなくなれば基地拡大法案だけが残ってしまい、住民感情から法案が通る可能性がなくなります。」
「だからある意味、田宮さんにとってリゾートは自分の基地拡大法案の生命線なんです。」
大吾の横には當眞という男がいる。
「私は今回の仲裁をこちらの當眞君に頼まれ、田宮さんと一緒に沖縄まで。」


當眞が自己紹介をする。
「田宮防衛大臣の秘書をさせて頂いています。當眞昌洋と申します。」
「私は田宮先生のご指示に従っているだけの男です。」


桐生が言う。
「しかし土地の買収を止めてしまえば、どの道リゾート開発も進まなくなるんじゃないのか?」
「結局、田宮の基地拡大法案は通らなくなってしまうだろう。」


當眞が言う。
「その件に関しては、地域住民との話を進めながら進める予定と聞いております。」
「基地拡大法案を通せばリゾート開発よりも大きな仕事を成し遂げたことになり、次期総理へ一気に近づきます。」


大吾が言う。
「東城会としても本来なら下部組織の仕事を奪うようなことはしたくないんですが。」
「ひとたびスキャンダルになってしまった場合、後々警察にマークされてしまう可能性も高い。」
「それだけはなんとしても避けたいと思い、仲裁の役目を引き受けた訳です。」
「でもまさか桐生さんの施設が買収対象だったとは。」
「正直驚きましたよ。」


當眞が言う。
「しかし今回はこういう結末になりましたが、このままという訳にはいきません。」
「いずれリゾート計画は私の手で必ず実現させます。」
「私は沖縄出身です。」
「この辺境の地はこのままなら必ず廃れていってしまう。」
「リゾート開発計画のように直接沖縄に金が落ちる仕組みを作らなければ、この島はいつまで経っても発展していかない。」
「私は田宮大臣の秘書ですが、基地よりもむしろリゾートの方が沖縄には必要だと思っています。」


名嘉原が言う。
「アンタ沖縄の人間なら分かってんだろ?」
「別に沖縄の人間がそんなこと望んじゃいねえってことくらいよ。」
「俺も最初は沖縄に金が落ちるなら良いと思った。」
「けどな、やっぱりそうじゃねえ。」
「大事なのは俺ら沖縄の人間が愛せるままの沖縄ってことなんじゃねえのか?」


「一度東京に行けば分かりますよ。」
「いかに沖縄が日本にとって必要のない小さな島なのかってことが。」
「私はなんとしても沖縄を豊かにしたい。」
「そのためなら多少の犠牲は必要だと思っています。」
「沖縄には海や砂浜は腐る程あります。」


大吾が言う。
「とにかく今回の一件、これで幕引きとさせて下さい。」


大吾が晩酌人となり、兄弟の盃を交わす桐生と名嘉原。
「大吾、もしまた東城会がここの買収に来るようなら、そん時は一言いってから来てくれ。」
「俺にも守らなきゃならないものがあるからな。」


「分かっています。」
「ですがご安心ください。」
「俺が六代目の内は沖縄には手を出しませんよ。」
「俺は嫌って程、桐生さんの怖さを知ってます。」
「敵に回したら東城会が潰れちまう。」
「當眞君の夢は、彼が総理大臣になった時にでもやってもらいましょう。」
「その頃はもう桐生さんもいい歳になって、今面倒見ている子供さん達も今の俺くらいの歳にはなってますよ。」
「それならいいでしょう?」
「じゃあ、今度はプライベートで。四代目。」


大吾と當眞は帰っていった。
「あのよ、兄弟。」
「あんたもしかして、あの東城会の四代目・・って訳じゃねえよな?」


桐生が言う。
「それがどうした?」


「嘘だろ?」
「四代目っつたらよ、こっちの人間でも知ってるぜ。」
「たしか堂島の龍って・・」
「アンタ、ひょっとして桐生・・」


桐生が言う。
「ま、今度から喧嘩を売る時はちゃんと相手のことを調べてからにするんだな、兄弟。」


「なんかとんでもねえ奴と盃交わしちまったぜ。」


―それから一年後 2009年3月―


桐生の元に力也が慌てた様子でやって来た。
「兄貴・・親父が撃たれた。」


桐生は力也、遥と共に急いで病院に駆けつけた。
名嘉原は手術中で予断を許さない状況のようだ。
咲が心配そうにスケッチブックを抱えている。


咲に声をかける遥。
「咲ちゃん、怖かったね。」
「咲ちゃんは大丈夫だった?」
静かに頷く咲。


幹夫に声をかける桐生。
「犯人は割れてんのか?」


「いいえ。」
「お譲と二人きりのところを襲われたんで。」
「親父は腹に数発食らったみたいで・・」
「多分土地買収の絡みです。」
「事務所からは例の土地の権利書が無くなってました。」


力也が言う。
「ぜってえ玉城組の連中に決まってる!」
「奴等、一年前のことで俺達を逆恨みして。」


幹夫が言う。
「いや、それがどうも違うみてえで。」


咲がスケッチブックに描いた似顔絵を桐生に見せる。
咲はかなりの画力を持っている。
「これは!」
「こいつが撃ったのか?」
静かに頷く咲。


スケッチブックに描かれた似顔絵は、風間の顔にそっくりだった。
「俺の死んだ親父・・風間の親っさん・・」


一方、東京では東城会六代目会長・堂島大吾のもとに1本の電話が入った。
「堂島です。」
「ええ。だからその件に関しては先日お断りしたはずじゃ・・」
「ええ、そうです。」
「この件、東城会は一切手を引かせてもらいます。」
「だから断ると言っているんだ。」
「たとえ100億、200億積まれても答えは同じだ。」
「それじゃ。」
大吾は電話を切った。


組員の男が言う。
「今の電話、例の沖縄の件では?」
「本当に断っていいのでしょうか。」
「お言葉ですが、今本家は直系白峯会の上納金でやっていけてる状態です。」
「もしあの沖縄の一件、ウチが引き受ければこの先10年は食っていけるだけの金が本家になだれ込みます。」
「ざっと見積もって1000億、いや、それ以上の金が。」
「それに今、あの男に恩を売っておけば後々政界との強いパイプが。」


大吾が怒る。
「黙れ!」
「そんなことは百も承知だ。」
「だがあの土地は奪えねえ。」
「東城会は四代目に何度も救われてきた。」
「その人から居場所を奪うことは出来ねえ。」
「今は沖縄の土地買収を勝手に進めるような連中が出ないよう組織を固める方が先決だ。」


本部に戻った大吾の所に風間と瓜二つの人物が訪ねてきた。
その男を見た大吾が驚く。
「風間さん!」
「あなた、死んだはずじゃ・・」


風間に似た男が言う。
「驚かせましたか?」
男は大吾に茶封筒を渡した。
「今のあなたにとって大切なものです。」
茶封筒の中には沖縄の土地権利書が入っていた。


大吾が土地の権利書を見る。
「沖縄の土地の権利書・・」
「だがあの土地には四代目が。」


風間に似た男が言う。
「知ってますよ。」
「あなたにはあの桐生一馬がいる土地を奪うことは出来ない。」
「だからあなたに代わって私達が権利書を取ってきたんです。」
「今我々は東城会に沖縄の土地買収の件から降りてもらう訳にはいかないんです。」
「あなたは東城会の六代目。」
「三万人の構成員を養うにはそんなことは言ってられないでしょう。」


大吾が言う。
「それでも俺が断ると言ったら?」


「それは困りましたね。」
風間に似た男は銃を取り出し、大吾を撃った。


病院で名嘉原の手術が終わるのを待っている桐生の携帯電話が鳴った。
「桐生、俺だ。柏木だ。」
「六代目が撃たれた!」
「1時間くらい前に、本部の会長室で撃たれた。」
「詳しいことはまだ分からん。」
「だがどうも本部にいた奴の話によると六代目を撃った男は風間の親父そっくりだったらしい。」
「とにかく、状況が分かり次第連絡する。」
「それじゃ。」
電話が切れた。


力也に状況を説明する桐生。
「どうやら東京でも東城会の六代目が撃たれたらしい。」
「恐らく大吾を撃ったのもこの絵の男らしいんだ。」


手術中のランプが切れ、医師が手術室から出てきた。
「とりあえず出来るだけの処置はしました。」
「今日から一週間が峠となるでしょう。」
「至近距離から3発もの弾丸を受けていますので。」
「ただ不幸中の幸いと言うべきか、弾丸は全て急所を外れた上貫通していました。」
「臓器損傷があまりない分、助かる見込みはあります。」
「五分五分といったところでしょうか。」
「これだけの怪我をなさったのに、ご自分で救急車を呼ばれた方です。」
「恐らく人並み外れた精神力の持ち主でしょう。」
「我々も最善を尽くしますので。」


遥の申し出により一旦、咲をアサガオで引き取った。
桐生はアサガオを遥かに任せ、東京・神室町へ向かった。


神室町に着いた桐生はひとまずスターダストに向かった。
すると三代目錦山組若頭・長谷部と一輝達が揉めていた。
「三代目錦山組で若頭しとる長谷部いうもんです。」
「今、神室町の一帯を仕切らせてもろてます。」
「暫くの間、この店ウチの組で使わせてもらおうか思うてますんや。」
「せやからこうしてお願いに。」
「何に使うかはこっちの勝手です。」
「ま、邪魔せんとってください。」
「で、どないするんや。オーナーさん。」
「三億もあれば十分やろ?」
「たかが一ヶ月のレンタル。断る理由はどこにもないやろ。」


一輝が言う。
「あんた達の目的は見当がつく。」
「この店事務所代わりに使って、どこかと戦争する気なんだろ。」
「次のターゲットは風間組か?」


長谷部が言う。
「ま、金で動く気がないんやな?」
「それやったら、あとは力づくで奪い取るだけやな。」
「という訳で四代目はん。」
「ウチら取り込み中なんで。」
「今日のところは帰ってもらえますか?」


桐生が言う。
「いや、そうはいかない。」
桐生は一輝達に加勢し、長谷部達を一網打尽にした。
「さあ、お前等の腹、聞かせてもらおうか。」


「もう遅いわ。」
「柏木のおっさん、殺されるで。」
「戦争は始まったんじゃ・・」
長谷部は気を失った。


店内を片付け、ユウヤが桐生に酒を作る。
「2年ぶりですね、桐生さん。」
「こうして桐生さんと酒飲めるのも久しぶりだ。」
「ゆっくりしていってください。」


桐生が言う。
「そうもいかないんだ。」
「柏木さんのことが気になる。」
「すぐにでもミレニアムタワーに行きたいんだが。」


一輝がやって来る。
「若いホストの喧嘩って事で警察には話しておきました。」
「でもしばらくは様子を見たほうが良いでしょうね。」
「表にはまだ警察官が待機してます。」
「今外に出たら質問攻めに遭ってしまうでしょう。」
「10分もすれば消えるはずです。」
「警察が居なくなるまでの間、桐生さんには少しお話しておきたいことがあります。」
「神室町の現状です。」
「桐生さんが神室町を去ってから2年、その間にずいぶんとこの街は変わってしまいました。」
「いや、街が変わったというより東城会内部の勢力図が変わったと言ったほうがいいでしょう。」
「三代目錦山組の台頭です。」
「先代の新藤、先々代の錦山さんの頃から武闘派でしたが、今の組長も相当なイケイケで。」
「三代目錦山組を襲名してからというもの、暴力で神室町中の店を我がものにしようと。」
「柏木さんは東城会の若頭なものですから、内輪で抗争が起きるのを極力避けようとしています。」
「神室町の店も風間組にはお世話になっていますから、そうそう錦山組になびく店もなかったんですが。」
「最初は暴力で脅すことしかできなかったんですが、丁度一年前辺りからどういう訳か急に金回りが良くなった様で。」
「ここ一年で急激に神室町のシマを拡大していってます。」
「そうなってくると、さすがに風間組も黙ってはなくて。」
「最近じゃ頻繁にイザコザが起きてます。」
「今では完全に対立してますから、近々大規模な抗争が起こるんじゃないかと周辺のテナントも戦々恐々としています。」
「恐らく錦山組は風間組と事を構えるためにうちの店を拠点にしようと考えたんでしょう。」


桐生の携帯電話が鳴った
「俺だ。柏木だ。」
「至急お前に会って話しておきたいことがある。」
「明日にでも東京に来てもらえないか?」


桐生が言う。
「俺なら今、神室町にいます。」
「俺も柏木さんに話したいことがありましたから。」
「今はスターダストにいます。」
「錦山組の連中と店の中で揉めました。」
「でも問題ありません。」
「それよりも柏木さんは大丈夫ですか?」
「錦山組の長谷部という男が、柏木さんの身が危ないと。」


「そうか。直ぐにでも会って話をしておいた方が良さそうだな。」
「桐生、今から会えるか?」
「あまり言いたくはないが、お前の命狙っている連中は沢山いる。」
「派手に動かないようミレニアムタワーまで来てくれ。」
電話が切れた。


桐生はミレニアムタワーにある風間組の事務所に向かった。
事務所に入ると東城会若頭、直系二代目風間組組長・柏木修が出迎えてくれた。
「よく来たな、桐生。」
「あまり時間がない。」
「お前とは色々と話しておかなければならないことがある。」
「今日の幹部会のことだ。」
「一度お前を呼び戻して立て直そうと提案したんだが、揉めた。」
「錦山組組長の神田と浜崎組組長の浜崎が強硬派で、お前を倒して跡目を継ぐと息巻いている。」
「白峯会会長の峯は六代目と盃を交わしていることもあり賛成してくれたが。」
「真島は我関せずといったところだ。」
「既にお前が神室町に戻って来たことを知っている組もあるだろう。」
「特に神田の動きには気をつけろ。」
「恐らくそれぞれの組がそれぞれの行動に出る。」
「俺は神田の動きを抑え、一刻も早く大吾を撃った男というのを突き止めるつもりだ。」


「その件ですが、実は・・」
桐生は咲が描いた似顔絵を柏木に見せた。
「昨日の夜、沖縄でも琉道一家という組の名嘉原という男がその男に撃たれました。」
「俺も最初、信じられませんでした。」
「ですが、現場に居た子供がその絵を。」


柏木が言う。
「それじゃ、その名嘉原という男と六代目が同じ男に撃たれたということか。」
「これで少し見えてきたな。」
「恐らく六代目は沖縄のリゾート関連の土地買収に巻き込まれて撃たれたのかも知れない。」
「お前も知ってるように、1年前東城会は国土交通大臣の鈴木が進める沖縄のリゾート関連の土地買収に絡んでいた。」
「最近になってまた急激に土地買収が進みだしたんだ。」
「別の組織が間に入って進めているのかも知れん。」


桐生が言う。
「そういうことか。」
「沖縄で名嘉原が撃たれた現場から土地の権利書がなくなっていました。」
「名嘉原は土地の権利書をめぐって絵の男と争うことに。」


柏木が言う。
「実際沖縄のリゾート開発の土地買収は、東城会にとって大きな金になる仕事だった。」
「1年前の事件の後も鈴木はしつこく土地の買収を東城会に依頼してきていた。」
「だが大吾はそれを頑なに拒否した。」
「土地の買収先にお前の養護施設があったからだ。」
「六代目はそれを知って話を断った。」
「今六代目は俺の信頼のおける病院に入れてある。」
「誰にもその場所は話していない。」
「お前も知らないほうがいい。」
「もしお前が見舞いに行ったりしたら、それが原因で場所が周囲に漏れる可能性もあるからな。」
「今は俺を信用しておいてくれ。」
「容態はこの一週間がやまだろう。」
「だがもしこの絵の男が犯人だとして、どうやって沖縄と東京の移動を?」


桐生が言う。
「名嘉原が撃たれたのは昨日の4時過ぎ。」
「大吾が撃たれた時間が6時半頃。」
「差し引いて2時間半。」
「沖縄東京間は飛行機でもそれくらい時間が掛かる。」
「どうやったって空港から東城会に来る時間はない。」
突然事務所だけが停電になった。
その時、ヘリコプターがビルに横付けし、 ガトリング銃で発砲した。
事務所内を滅茶苦茶にした後、ヘリコプターは飛び去っていった。
桐生は無事だったが、柏木が血を流して倒れている。
「桐生・・この男・・」
「この絵の男と繋がってるヤツを捜し出せ・・」
「多分そいつは・・沖縄のリゾート開発の裏で利権を狙ってる。」
「そいつは東城会内部の人間だ・・」
「そいつを捜し出せ・・」
柏木は絶命した。


桐生は咲の絵を持って事務所をあとにした。
警察に見つからないようミレニアムタワーを出て路地裏に入ると、伊達が現れた。
「事件あるところに桐生一馬あり。」
「お前さんに話がある。」
「久々に一杯ひっかけねえか?」


伊達は桐生をニューセレナに連れて来た。
「ここは昔お前がよく使っていたセレナだ。」
「今は新しいママに買い取られて様変わりしたけどな。」
「ママ、ちょっとコイツに話があるんだ。」
「外しておいてもらえるか?」


ニューセレナのママはかなり若い。
「はいはい、ごゆっくり。」


「ここは俺がいつも使ってる店だ。」
「盗聴も盗撮もされてねえ。安心しな。」
「一輝から聞いた。」
「お前さんのことだからまた事件に巻き込まれてんじゃねえかと思ってな。」
そこに伊達の仕事仲間で若造と呼ばれている男がやって来た。
若造は京浜新聞社社会部のデスクを務めている伊達の上司だ。
「デスクを雑用に使う新人がどこにいますか。」
「もう、人使い荒いんだから。」
東城会の幹部達の顔写真を伊達に渡す。


「お前に見せておく必要があると思ってな。」
「東城会の現幹部達の写真だ。」
「実は私、こういう者でして。」
伊達は桐生に自分の名刺を渡した。
名刺には「京浜新聞社社会部記者・伊達真」と書いてある。
「桐生、お前が巻き込まれている事件、実は今俺が追っかけてるヤマと繋がってる。」
「東城会、そして政治家、鈴木善信に絡む沖縄リゾート開発。」
「こっから先は危険な旅だ。」
「お前さんには敵をよく知っておいてもらう必要がある。」
「少し時間をもらうぜ。」
「このスキンヘッドの男、こいつが東城会直系三代目錦山組組長・神田強だ。」
「お前と3年前戦ったあの錦山組の当代がこいつだ。」
「コイツは2年前まで強姦でムショにぶち込まれていた。」
「喧嘩と女が大好きっている典型的なイケイケで、錦山が組長をしていた頃は鉄砲玉にもならねえ程のチンピラだったらしい。」
「ムショから出て以来、こいつは神室町を中心に勢力を拡大していった。」
「徹底的な暴力路線でな。」
「2年前といえば、近江連合との抗争の後だ。」
「警察も東城会との距離を取りたがっていた時期に、こいつは間隙を縫うようにシマを拡大。」
「穏健派の二代目風間組のシマをどんどん奪い急成長をしていった。」
「この男の目的はズバリ東城会の跡目だろう。」
「てめえが欲しいものは何があっても取るって輩だ。」
「女だろうとシマだとうと、欲しいものは強奪する。」
「とにかく力づくで後先考えずに突っ走る。」
「で、こいつは東城会直系白峯会会長・峯義孝ってヤツだ。」
「港区を中心としたオフィス街に居るヤツでな、とにかく若くて金を持っている。」
「高級外車を乗り回し、一見すると青年実業家って風貌だな。」
「仕手戦やインサイダーを使っての株取引と不動産売買で巨万の富を得た。」
「ま、言ってみりゃインテリ極道の代表格的な男だ。」
「今東城会の金はこいつで回っていると言っても過言じゃない。」
「年間かなりの金がこいつから東城会に流れている。」
「特に三代目錦山組の神田あたりは、かなり峯から回してもらってるという話だ。」
「この峯という男、数年前まで新興ベンチャーの立ち上げなんかをやっていた普通の会社員だった。」
「それをこっちの世界に誘ったのがムショ上がりの神田だったらしい。」
「峯は神田の仲介を得て堂島大吾との盃を交わし東城会へ来たみたいだ。」
「峯は六代目の信奉者だ。」
「最近じゃ自分の組の力もあって、神田の後ろ盾も必要ない。」
「今は神田のことを煙たがっているだろう。」
「で、最後にこのAV男優みたいな男。」
「こいつは通称ハマの帝王。」
「東城会直系浜崎組組長の浜崎豪という男だ。」
「3年前の抗争事件の後、あの中国マフィアの蛇華に代わって横浜を制圧したのがこの浜崎だ。」
「この男、結構裏が見えないヤツでな。」
「どういう訳かシマを奪ったはずの中国系の連中とも上手くやってるらしい。」
「コイツの不思議なのはそれだけじゃねえ。」
「実はこいつの組、構成員が10人程しかいねえ。」
「普通あの蛇華相手に横浜のシマ奪い合うなら、最低500、いや、1000以上の兵隊を持っていないと渡り合えない。」
「だがコイツの組は蛇華と争うこともなく、易々と横浜一帯を手中に収めた。」
「まあ恐らく裏で中国本国のマフィアと繋がっていて、密輸の裏口や日本での資金運用なんかを引き受けてるんだろう。」
「良いように利用されているだけなのかも知れないな。」
「裏は取れないが今回の一件、裏でリゾート絡みの利権が絡んでいるとしたら一番絵を描いた可能性があるのはこの男だろう。」
「カジノやらなんやら、さらに裏があるのかも知れん。」


桐生が言う。
「柏木さんは死の間際、俺に言った。」
「リゾート開発の裏で利権を狙っているヤツが東城会にいると。」
「柏木さんはもう一つ俺に言った。」
「その裏切り者は大吾を撃った男とも繋がっていると。」
伊達に咲が書いた似顔絵を見せる。
「大吾、それとリゾートの買収候補地の土地を持っていた名嘉原という男を撃った犯人だ。」


似顔絵を見た伊達が驚く。
「こりゃ一体どういうことだ?」
「こりゃ死んじまったお前の親代わりだった風間じゃねえか。」


「俺にもまだ分からない。」
「大吾と名嘉原を撃ったというこの風間の親っさんに似た男。」
「それにさっきのヘリの襲撃。」
「敵は一体どこにいるんだ。」


伊達が言う。
「ま、今はとにかく東城会の裏切り者を捜すしか道はねえようだな。」
「俺はこの絵の男が誰なのかを追ってみる。」
「お前は柏木を殺す可能性が一番高い神田を追え。」


桐生が外に出ると携帯電話が鳴った。
「力也です。」
「今俺、神室町にいるんすよ。」
「俺、自分の手で親父を弾いたヤツを捜したいんです!」
「アサガオのことは幹夫に頼んできました。心配しないでください。」


力也と合流した桐生は神田に会いに行った。
「東城会四代目、桐生一馬だ。」


神田が狼狽する。
「これはこれは四代目。」
「なんでこないなとこまでわざわざ・・」
突然豹変した神田が桐生に襲いかかってきた。
「なんで四代目がここに来とんじゃ!」
「こんなところまでカチコミかけやがって、このガキ!」


桐生は神田を叩きのめした。
桐生が神田の頭を踏みつける。
「さあ、お前の知っていることを話してもらおうか。」
「この期に及んで何も知らないとは言わせねえ。」
「柏木さんを弾いたのはお前の組だろ?」


神田が言う。
「ちゃうわ!頭弾いて何のメリットがあるんじゃ。」
「そや、多分この絵描いたんは浜崎や。」
「アイツは秘かに神室町を狙っとったんじゃ。」
「柏木を弾く動機もある。」
「奴は横浜で力溜めこんで攻める機会を狙っとったんや。」
「ホンマや。前にウチのシマで暴れた中国人問い詰めた時そんな話しとったわ。」
桐生が踏みつけていた頭を蹴り上げると、神田は意識を失った。


そこに力也がやって来る。
「コイツが神田ですか。」
「コイツ、もっと問い詰めなくていいんすか?」


「今回の一件、こんな単純な奴が描けるようなもんじゃない。」
「多分コイツはどうして大吾が撃たれたのかすら分かってねえよ。」
「力也、名嘉原の一件は俺が絶対になんとかする。」
「だから悪いことは言わない。今の内に沖縄に帰れ。」


力也が言う。
「嫌です。」
「自分は絶対に名嘉原の親父を撃った男をこの手で。仇を取りたいんです!」
「お願いします兄貴。自分を東京にいさせてください。」


「分かった。」
「だが一つだけ条件がある。」
「もしお前があの絵の男を見つけ出したとしても、絶対に一人では動かないでくれ。」
「約束できるか?」


力也が頷く。
「はい。」


「よし。」
「それじゃ、今日は一杯飲もう。」
「お前にこの街を案内してやる。」
「怖いことばかりの街じゃねえことを教えてやるよ。」


力也に神室町を一通り案内した後ニューセレナに行くと、伊達が慌てた様子でやって来た。
「桐生!とんでもない情報が入ったぞ!」
「沖縄基地拡大法案が可決する見込みのようだ。」
「遂に防衛大臣の田宮が民事党と沖縄県議会をまとめたんだ。」


桐生が言う。
「つまり基地拡大法案の成立は確実ってことか。」
「基地とリゾートは元々ワンセット。」
「基地が動き出したことでリゾートの開発も一緒に動き出したって訳だな。」


「ところで桐生。このリゾート開発、裏でとんでもねえ奴が絡んでるようなんだ。」
「どうやら鈴木が仕掛けているリゾート開発、裏で建設の利権を得ようとしていたのがあの真島組らしいんだ。」
「真島が首謀者じゃねえにしても、何かしら関与していることは間違いねえ。」


桐生は一人で賽の河原にある真島組事務所に向かった。
東城会直系真島組組長、真島吾朗が出迎えてくれる。
「真島の兄さん、どうしてだ。」
「あんたみたいな人が、どうして沖縄のリゾートの利権なんかに。」


真島が言う。
「大吾の為や。」
「何とかして大吾の奴を楽にしてやろうと思うて俺はあの話に乗ったんや。」
「俺もな、正直ワケがわからんねや。」
「俺を鈴木っちゅうオッサンに引き合わせたんは浜崎や。」
「奴は一年前、東城会が沖縄リゾート開発の土地買収に関わっていることを嗅ぎつけ利権を狙ってたんや。」
「しかし大吾は沖縄の土地買収から手を引いてしもうた。」
「それを聞いた浜崎は陰で鈴木に近づき、浜崎組が東城会に代わってリゾートの土地買収を引き受けると申し出たんや。」
「そうなりゃリゾートに絡む色んな利権が浜崎の手に入る訳やからなあ。」
「でもどうしてそんなウマイ話をわざわざ俺のところへ持ってきたんか分からんかったんやが、これでハッキリしたわ。」
「桐生チャンが聞いた話、ありゃあきっと浜崎がリークしたもんや。」
「東城会側で鈴木と繋がっとったんは真島組っちゅうことでオチをつけようとしたんやな。」
「それがもしスキャンダルになって逮捕者が出たとしても、鈴木と俺。」
「その後、浜崎はやりかけたリゾート開発を一手に引き継いで大儲けや。」
「そんなとこちゃうか。」
「それに奴にはもう一つ別の狙いがある。」
「この間会うた時、神室町をこの手に収めたい。それがどういう意味か分かりますよね?などとぬかしおったわ。」
「浜崎は今回のゴタゴタに乗じて上手いこと神室町を乗っ取る計画を企てとる。」
「大吾が撃たれた後、柏木の親父もやられた。」
「あの神田も桐生ちゃんに組潰され、今神室町はガラガラや。」
「もしかしたら浜崎は最初からこうなることを想定して絵を描いてたんかもしれん。」
「奴の最終的な狙いは神室町の占領、それに東城会の七代目。」


花屋がやって来た。
「それだけじゃねえようだぜ。」
「久しぶりじゃねえか、桐生。」
「2年前の抗争の後、俺は行き場を失っちまったから真島さんにお願いして場所の間借りをしているってわけよ。」
「どうやら浜崎の最終的な狙いはあのリゾート全体を中国に売り払っちまう腹らしい。」
モニターに劉家龍と浜崎が握手をしている写真が映し出される。
「お前さんが四年前に潰したあの蛇華の総統、劉家龍だ。」
「奴は四年前の事件の時、死んではいなかった。」
「日本から姿を消し、本国に帰って復活の機会を狙っていた。」
「そこで目をつけたのが当時横浜の市外を仕切っていた東城会の三次団体、浜崎組だったんだ。」
「浜崎は蛇華のバックアップを得て横浜全体を制圧。」
「その功績を買われて一気に直系の若頭補佐まで浜崎組はのし上がった。」
モニターに契約書が映し出される。
「これは蛇華と浜崎組との間で交わされた沖縄のリゾートに絡む契約書だ。」
「浜崎はリゾートの地下に極秘裏に地下カジノを作る計画だったらしい。」
「その経営権を蛇華に任せるといったような内容がこの契約書には書かれている。」
「どうやら浜崎は相当あの鈴木って政治家に食い込んでいたみたいだな。」
「一介の直系組織がここまでの絵を描いていたとは、正直この俺でも予想はできなかった。」
「実は半年前、ある人間に依頼されて浜崎の動きを追っていたんだ。」
「堂島大吾だ。」
「本来、情報屋は依頼人の情報は教えられないんだが大吾もあんな事になっちまったから仕方ねえ。」
「実は大吾は1年くらい前から東城会内部の裏切り者を捜していた。」
「例の沖縄リゾート開発。その裏で政治家とつるんで動かそうとしている奴がいると。」
「それで俺は大吾と協力して、各直系の組事務所や根城としている場所に徹底的に調査員を送り込んで情報を仕入れた。」
「大吾が撃たれた後、この一件が気になってもう一度調べていたんだが、そうしたらある男に出くわした。」
モニターに風間に似た男が映し出される。
「驚いたか?」
「まあお前にとっちゃ一番ゆかりのある人間に瓜二つだからな。」
「なにか臭うなあ。」


花屋の部下が言う。
「ボス!神室町におかしな連中が!」
モニターには劉家龍と蛇華の構成員達が映し出された。
劉家龍の手には力也の写真がある。
「どうやらラウは蛇華の連中を使ってお前の相方を捜し回っているらしいな。」


力也に電話する桐生。
「お前、今どこにいる?」


力也が答える。
「兄貴がいないんで、一人で街をブラついてるんですけど。」
「ん?なんだ、あれ。」
「誰だ、お前ら。」
「ん?うわ!」
電話が切れた。


力也を助けるために賽の河原を出ると、劉家龍が現れた。
力也は蛇華の構成員に捕まっている。
「久しぶりだな、桐生一馬。」
「こうすればお前に会える。だからコイツをさらった。」
「俺が浜崎という男に協力したのは、お前への復讐。それだけ。」
「さあ、決着をつけよう。桐生一馬。」


桐生が劉家龍を返り討ちにする。
するとそこに風間に似た男が現れ、劉家龍と蛇華の構成員達を銃で撃ち殺した。
「親っさん!」
「あんた、風間の親っさんじゃないのか?」
「どうして大吾と名嘉原を撃ったんだ。」


風間に似た男が口を開く。
「Youが桐生一馬か。」
「Beautiful eyes.(美しい目をしている。)」
「Like I heard from my brother before.(以前、兄からそう聞いていた。)」
風間に似た男は去っていった。


賽の河原に桐生、力也、伊達、真島、花屋が集まる。
桐生の話を聞いた花屋が言う。
「うーむ、一体何が目的なんだ?」
「事件に絡んでいることだけは間違いねえんだが。」


力也が言う。
「兄貴、俺にはなにがなんだか分からなくなってます。」
「あの髭の男、どうして俺を助けてくれたんでしょうか。」
「親父を撃った奴なのにどうして俺を・・」


桐生が言う。
「力也、お前は一旦沖縄に帰れ。」
「俺はこっちでまだやることがある。」
「だがお前には今やるべきことがなくなったはずだ。」
「今はまだあの絵の男が俺達の敵なのか味方なのか分からない。」
「今は沖縄に帰って咲やアサガオの連中の面倒をみてやってほしい。」
「分かったか?」


力也が頷く。
「はい。」


その時、花屋の電話が鳴った。
白峯会の峯が桐生に会いに来ているという。
峯は大きなアタッシュケースを持ってやって来た。
「まさか神室町の地下にこんな場所があったなんて。驚きです。」
「実は今回のごたごた、ウチの組も少なからず影響していたので。」
「その責任をと思いまして。」
アタッシュケースをゆっくりと開ける峯。
アタッシュケースの中には神田の生首が入っていた。
「神田のような男、必要以上に大きくしてしまったのは私です。」
「手洗い方法を取りましたが、錦山組の一件はこれでケジメとさせてください。」
「私は今の内に東城会の直系を集めて事態の収拾を図ります。」
「浜崎に関しても白峯会で行方を追っています。」
「まあ捜したところで見つからないでしょうけど。」
「恐らく日本にはいないでしょうね。」
「蛇華日本支部の総統だった劉家龍が死んだ。」
「当然中国の蛇華本部は黙っちゃいません。」
「ラウと共に行動していた浜崎は彼らの手によって拘束されているに違いありません。」
「浜崎以外の組員は横浜港から死体で上がったという話ですしね。」
「どちらにしても白峯会が手を出すまでもなく浜崎組は消滅するでしょう。」
「私としては中国と戦争にならないよう、蛇華本部と早々に手打ちにするつもりです。」
「桐生さんは崩壊しかけた東城会にとって、今一番必要な人です。」
「くれぐれもお体にお気をつけて。」
「それでは。」


アタッシュケースを持って帰ろうとした峯に桐生が言う。
「お前はそういう教育をされたのか?」
「内輪の落とし前、大吾がそんなつけ方を命令するかってことだ。」


峯が言う。
「多分しないでしょう。」
「だが命令する大吾さんはいない。」
「この落とし前は私の判断。私のやり方です。」
「それに桐生さん。こういう事態を招いた責任、あなたにもあるんじゃないですか?」
「大吾さんに以前聞きましたよ。」
「沖縄で養護施設を営んでらっしゃるんですって?」
「呑気な人だ。」
「自分が背負った立場が分かってない。」
「ボランティアでもされている気分なんでしょうね。」
「意味のないことを。」
「偽善だ。」
「とにかく私は私の判断でドライに行動します。」
「やり方はどうであれ、私は大吾さんの意志を継いでいるつもりですよ。」
「つまり私の行動の全ては東城会の未来のためにあるということです。」
「大吾さんもそれで納得するはずです。」
「そのためには阻害するものは全て排除します。」
「たとえそれが身内であろうと。」
「私には分かりません。」
「どうして大吾さんがあなたみたいな人を大事にしているのか。」


桐生が言う。
「峯。お前、何か見失ってるぜ。」
「俺がいつか教えてやる。」


「あなたから教わることなんか何もありませんよ。」
峯は帰っていった。


伊達が言う。
「桐生、俺は浜崎の行方を追ってみる。」
「花屋、アンタは白峯会、峯の行動を洗ってくれ。」
「今回の騒動で東城会幹部が次々とやられた。」
「残ってるのはここにいる真島と峯の二人だけだ。」


花屋が言う。
「分かった。白峯会の動きと風間に瓜二つの男、この二つを引き続き追おう。」


沖縄に帰る力也を見送った後、桐生の携帯に着信が入った。
「桐生一馬だな?」
「防衛大臣の田宮だ。」
「俺が沖縄の件で堂島大吾と関わりがあったということは知っているな?」
「だが堂島大吾が倒れた後、東城会内部にいる鈴木と繋がっていた勢力が再び動き出してしまった。」
「それで俺は急いでBMD、基地拡大法案を通さなければならなくなった。」
「想定外の敵が仕掛けてきやがったんだよ。」
「それで俺も動かざるを得なくなったんだ。」
「あんたに頼みたいことがある。」
「結果的にはリゾート開発を止めることになる。」
「とにかくあんたがまだリゾートの土地買収を止めたいと思っているなら議事堂まで来てくれ。」
「ミレニアムタワー前に迎えをやるから、その車に乗って俺のところまで来てくれ。」
電話が切れた。


桐生は伊達に報告し、田宮に会うため一緒に国会議事堂に向かった。
桐生を見た田宮が葉巻を吸いながら言う。
「思っていたより若いな。」
「そっちは?」


伊達が言う。
「京浜新聞社の伊達だ。」
「鈴木と東城会の癒着を追っていた。」


田宮は吸っていた葉巻の火を消した。
「あの有名な元刑事のブン屋か。」
「で、お前、沖縄の例のリゾート予定地で養護施設をやってるんだってな。」
「それが原因で堂島大吾も土地買収の話を断ったそうじゃないか。」
「お前とこの田宮隆造、お互いに利害が一致している。」
「お前はあのリゾート開発が止まればいいと思っている。」
「俺もあのリゾート開発が止まればいいと思っている。」


桐生が聞く。
「あのリゾートが無ければ、あんたは基地拡大法案を通せないんじゃないのか?」


「そうだな。だがそれはもういいんだ。」
「あの法案、俺は初めから通す気がなかったからだ。」


桐生が聞く。
「あんたの沖縄米軍基地拡大の本当の狙いってのはなんなんだ?」


「それは世界で暗躍する組織の正体を暴き、その組織を潰すことだ。」
「俺が追いかけているのは、通称ブラックマンデーと呼ばれている組織だ。」
「1987年、あの世界大恐慌の引金になったニューヨーク株式市場株価大暴落を裏で操っていたとさえ言われる武器商人。」
「アンドレ・リチャードソンを中心とした武器密輸集団。通称ブラックマンデー。」
「俺はその正体を知るために、あの沖縄米軍基地拡大を仕掛けた。」
「知っての通り、基地拡大の最大の目的は日米で共同開発するBMDの配備だ。」
「その開発の裏では兆単位の金が動いている。」
「設計図だけでもとてつもない価値を秘めているんだ。」
「日本最先端の技術とアメリカの兵器開発のノウハウの結晶。」
「沖縄の基地拡大法案による新BMD配備は、他のどの国が逆立ちしても得ることができない最強の防衛兵器の誕生を意味する。」
「実現すれば中東を含めたアジア一帯の国々は今後十数年、日本に手出しすることは出来ない。」
「日米共同開発のBMDは世界の防衛バランスを変えるほどの代物なんだ。」
「・・と、一応世界的にはそういうことになっている。」
「そういった風評があることが重要だったんだ。」
「世界最新の兵器開発。それを欲しがるヤツらが動き出すってことだ。」
「世界中に武器を売りつける武器密輸組織ってのは常に最先端の技術を欲している。」
「もしその技術が日米以外の国に流れたら世界の防衛バランスを崩壊させるほどの技術。」
「ヤツらが指を咥えたまま見ているはずがない。」
「ダミーとは言え、俺は本気で法案を通す形が必要だった。」
「そのために俺は鈴木にリゾートの話を提案し、奴に利権を一手に渡すと持ちかけ基地拡大法案とセットの形で進めてきた。」
「つまり俺以外、全ての国民を騙す必要があったんだ。」
「そのくらいのことをしなければならなかったんだよ。」
「そしてようやくブラックマンデーの尻尾を掴むことが出来た。」


桐生が聞く。
「大吾を撃った犯人を知らないか?」


「それは俺にも分からん。」


伊達が言う。
「あの風間に似てるって男のことか。」
「素性も目的もさっぱりだからな。」


田宮が驚く。
「待て、風間だと?」
「そいつが堂島大吾を撃ったのか?」
「俺の知っている風間とお前等の知ってるその男が同一人物ならの話だが・・風間譲二。」
「お前のいた東城会の元幹部、風間組組長・風間新太郎の実の弟だ。」
「やはり風間は肉親の話をしていなかったようだな。」
「両親を早くに失った風間にとって、弟・譲二は血を分けた唯一人の兄弟。」
「何物にも代え難い存在だったからな。」
「普通の兄弟関係でいられるような間柄じゃなかったんだ。あの兄弟は。」
「あの二人は決して交わることのない道に進んだからな。」
「譲二の職業は、警察だ。」
「元警察庁長官官房国際部国際課。今の外事課の刑事だった。」
「だが不思議なものだ。」
「同じ釜の飯を食い日本という国の未来を共に案じた人間が、かたやこうして議事堂の真ん中でアメリカのために必死に動いているんだからな。」
「譲二と俺は警視庁の同期。」
「唯一無二の親友だ。」
「今回の沖縄に絡んだ一連の事件も、全ては俺と譲二で仕組んだことだったんだ。」
「俺が計画の絵を描き、譲二は組織を使ってそれを実行した。」


桐生が言う。
「じゃあ親っさんの弟が大吾を撃ったというのも計画のためだったというのか?」


「恐らくは。」


伊達が聞く。
「風間の弟の組織ってのはなんなんだ?」
「今も警察の下で動いているのか?」


「違う。アイツはもう日本の警察の人間じゃない。」
「アイツはアメリカのCIA。」
「アメリカ中央情報局の極東担当の諜報員だ。」


桐生が聞く。
「風間の親っさんの実の弟、その男がCIAの諜報員として日本で活動していると?」


「例の武器密輸組織。CIAはあれを追いかけている。」
「俺は譲二と協力してブラックマンデーの尻尾を掴んで潰そうとしているんだ。」
「今回の一件、CIAの諜報員への命令は、沖縄を巡る基地拡大法案に絡んだブラックマンデーの動向を探ること、そのために障害となる対象はそのことごとくを排除すること。」
「だがCIAの諜報員は譲二だけじゃない。」


伊達が言う。
「それじゃもしかして柏木を撃ったのも?」


「CIAだ。」
「譲二にとってCIAは己の生きてきた人生の全てだ。」
「今から30年前、日本という保守的な国家で警察官の肉親に極道関係者がいるとなればそれだけで迫害を受ける時代だった。」
「譲二は実の兄が極道、しかも東城会という大組織の顔役であることが原因で自分の正義を貫くことすら出来ず警察を去った。」
「そんな譲二に手を差し伸べたのがアメリカという国だった。」
「能力があれば国籍や人種を問わない自由の国で、譲二は新たな人生を手に入れたんだ。」


桐生が聞く。
「あんたの頼みたいことってのはなんなんだ?」


「二人の男を救ってやって欲しい。」
「一人は俺の秘書だった男、當眞。」
「當眞は2週間前、勝手に俺の秘書を辞めたんだ。」
「當眞は俺の基地拡大法案の裏にある本当の狙いを知ってしまった。」
「だからリゾート開発計画を動かせる男に擦り寄った。」
「極道だよ。」
「東城会直系白峯会会長、峯義孝だ。」
「こうなった以上、當眞から峯に秘密が漏れる危険が高い。」
「その前に譲二は當眞の口を封じようと動くはずだ。」
「そうならないよう、あんたに止めて欲しいんだ。」


桐生が言う。
「當眞が基地拡大法案を通過させるためにリゾート開発の土地買収を頼んだ先が、あの峯だと言うのか。」


「そもそも2年前の玉城組の土地買収騒動以来、リゾート開発の土地買収は行われていなかった。」
「リゾート予定地の買収が進まなければ同時に基地拡大法案も止まってしまう。」
「そうなればブラックマンデーの尻尾が掴めない。」
「だから強引な手段で土地の権利書を名嘉原という男から奪い、土地の買収を推し進めようとしたんだ。」
「CIAは堂島大吾を動かすため、ネックとなっていたアサガオがある土地の権利書を奪い土地買収の協力を持ちかけた。」
「だが堂島大吾は土地の買収を断った。」
「だから撃たれた。」
「そして當眞は峯にリゾートの土地買収の話を持ちかけた。」
「當眞はリゾートの利権、その全てを峯に渡すという条件で協力するよう求めたんだろう。」
「當眞という名前からヤツが沖縄の人間だということは知ってるな?」
「今から3年前、當眞は沖縄の発展を夢見て政治の世界へと足を踏み入れた。」
「そこで當眞は沖縄の米軍基地拡大とリゾート計画のことを知り、沖縄のためになるならと喜んで働いた。」
「當眞の目的は最初から沖縄の発展しかない。」
「あいつは1年前にリゾートの土地買収とヤクザが繋がっていることが発覚しそうになった時にも、基地拡大まで共倒れにならないよう俺を東城会の堂島に引き合わせ丸く収めさせた。」
「だがあいつは初めから基地拡大のことはどうでも良くて、リゾート開発計画のことしか頭になかったんだ。」
「だが奴は1年経って法案がフェイクであることを知ってしまった。」
「だから強行に土地買収を進められる力を求めて白峯会に擦り寄っていった。」
「當眞と峯はお互いの利害が一致して手を組んだんだ。」
「峯という男はよく分からん。」
「今回の一連の騒動で東城会の事実上のトップはあの男のはずだ。」
「黙っていればより上のポストが約束されているのに何を考えているのか。」


桐生が言う。
「沖縄のリゾート計画を続行する當眞と峯、それにCIAとあんたの目的。」
「ようやく絵を描いた奴が見えてきたな。」


「譲二を止めてくれ。」
「當眞を守ってやって欲しい。」
「當眞は知りすぎたんだ。」
「この法案の裏にCIAが関与していることも。」
「そして法案がフェイクだということもな。」
「俺は當眞を殺したくはない。」
「出来ればあの二人を助けてやりたいんだ。」
「強い信念を持った人間はいずれ大きな志を抱く。」
「そしてそれを実現する。」
「俺の恩師が教えてくれたことだ。」
「當眞は純粋で真っ直ぐだ。」
「あれはいずれ良い政治家になる。」


桐生が言う。
「分かった。」
「今當眞を止めれば土地買収も終わる。」
「親っさんの弟には返さなきゃならない借りもあるからな。」
「あんたのためじゃない。」
「俺はただアサガオを失いたくないだけだ。」


「いいだろう。」
「お前が當眞を譲二から守ってくれたら沖縄のリゾート開発は俺の手で完全に止める。」
「約束しよう。」
「當眞は今沖縄にいる。」
「地元の県議会の議員との会合に向かってるはずだ。」
「日本の極道にもまだこんな男がいたとはな。」


桐生は沖縄に帰った。
すぐにアサガオに向かうと、退院した名嘉原が出迎えてくれた。
「もう動いても大丈夫なのか?」


「待たせたな、兄弟。」
「何発か喰らっちまったがこれでくたばるほどヤワじゃねえよ。」


力也が言う。
「兄貴、俺を助けてくれたあの男の事は何かわかったんですか?」


「ああ。奴は俺の育ての親、風間のおやっさんの実の兄弟でCIAの諜報員だ。」
「CIAはある目的のために日本に潜入している。」
「詳しくは話せないが、その目的のために奴等はこのアサガオの土地の権利書が必要だった。」
「CIAはこの土地を利用した計画が予定通りに進む必要があったんだ。」
「そしてそれに伴う沖縄の基地拡大。新たな軍備配置法の実現だ。」
「基地拡大、そして新たな軍備配置法によってアメリカにとっても敵である組織の動きを誘うことが目的だ。」
「組織を突き止め、潰す事がアメリカの狙いだ。」
「俺や名嘉原、そして東城会六代目の堂島大吾もそのための駒に過ぎない。」
「これは防衛大臣の田宮から聞いた話だ。」
「田宮は俺に部下である政治家を救って欲しいと頼んできた。」
「沖縄の當眞だ。」
「當眞を救ってくれたらリゾート開発を止めると。」
「當眞は今回の田宮とCIAの共謀を深く知りすぎた。」
「そして自分自身の意思で勝手に行動し始めた。」
「その結果、CIAから狙われることに。」
「田宮も古いタイプの人間ってことだ。」
「かわいい自分の部下を見殺しにはできないそうだ。」
「俺はその當眞を救うために沖縄に戻って来た。」
「まずは奴の居場所を突き止めないと。」


桐生の携帯電話に着信が入る。
「桐生か?田宮だ。」
「県議会の連中との会合は先程終わったようだ。」
「部下の連絡によると、當眞はプライベートで飲みに出たらしい。」
「おそらく初町だ。」
「彼のお気に入りの店がある。」
「行きつけの店は何軒かあるようだ。」
「以前俺を案内したときにも数軒に顔を出した。」
「だが當眞の一番のお気に入りの店はポールダンスのショーをやっている店だ。」
「名前は忘れてしまったがな。」
「頼むぞ、桐生。」
「俺は彼を殺したくはない。」
電話が切れた。


ポールダンスの店に行くと、當眞がVIP席で飲んでいた。
風間譲二の姿を見つけた桐生はすぐに助けに入る。
「待て!」
「田宮から聞いた。」
「あんたが名嘉原や大吾を撃った理由。」
「そしてあんたが當眞を殺そうとしていることも。」
「田宮は俺にあんたを止めるように頼んできた。」
「たとえCIAの命令だろうとこんなことするのはあんたの本心じゃないはずだ。」
「あんた、本気で當眞を殺す気か?」


風間譲二が言う。
「桐生一馬だったな。」
「お前もかつて極道に生きた男なら、親の命令がどれだけのものか分かるだろう。」
「俺にとってCIAは親。」
「殺せと命令されたらたとえ相手が誰であろうと殺すしかない。」


桐生は風間譲二に飛びかかった。
「逃げろ!」
當眞は逃げていった。


風間譲二が言う。
「どういうつもりだ?」
「田宮め。相変わらず甘い男だ。」
「俺は命令に従う。」
「俺を止めたければ・・分かってるな?」


桐生は襲いかかってくる風間譲二を倒した。
「どうやら俺も歳のようだな。」
「俺の負けだ。」
「田宮の望み通り、そこのboyのことは忘れよう。」
風間譲二は気を失った。


當眞は逃げずにまだ店内にいた。
「桐生さん。」
「あなた本当に先生に頼まれてここに?」
「どうして田宮先生は俺を助けるようなことを。」


「田宮はお前のことが好きなんだ。」
「田宮にとってお前が裏切ったかどうかは問題じゃない。」
「お前の沖縄を救いたいという熱い想いが田宮には伝わっていた。」
「田宮はお前がいい政治家になると言っていたぞ。」


泣き崩れる當眞。
「先生・・田宮先生・・すみませんでした・・」


當眞が帰った後、店内で風間譲二を介抱する桐生。
しばらくすると風間譲二が目を覚ました。
「寝てしまっていたのか。」
「あのboyは?」


「最終便で東京へ帰った。」
「田宮に直接会って謝りたいそうだ。」
「あいつも田宮と同じで気持ちで動く男なんだろう。」
「田宮が好きなのがよく分かる。」
「本当にあんた、當眞を見逃して良かったのか?」


風間譲二が答える。
「今更何を言っているんだ。」
「見逃せと言ったのはお前だろう。」
「確かに俺にとってCIAは全てだ。」
「だが自分の意思で動くこともある。」
「CIAにとって大切なのは結果だからな。」
「名嘉原茂、それに堂島大吾。お前も知っているようにあの二人は基地拡大法案を通過させるために巻き込まれた。」
「だが本来なら撃たれる必要は無かったんだ。」
「あの二人を撃ったのは俺の同僚だ。」
「名嘉原の時はお前が住んでいる土地の権利書を巡って。」
「堂島大吾の時は彼の勘違いから撃たれることに。」
「堂島大吾はあの日、私が上着のポケットに手を入れたのを見て焦った。」
「恐らく彼の極道としての習性がそうさせてしまったんだろう。」
「次の瞬間、堂島大吾は自らの銃を私に向けた。」
「そして俺の同僚に撃たれたんだ。」
「名嘉原も同じだ。」
「我々が土地の権利書を取り上げると同時に銃を向けてきた。」
「CIAも作戦のためとはいえ、人の命を奪うことはなるべく避けて通る。」
「だがあの場面では仕方なかった。」
「任務とは言え本当に申し訳ないことをしたと思っている。」


桐生が言う。
「名嘉原なら一命を取りとめ退院した。」
「直接会ってみたらどうだ。」


「できることならそうしたい。」
「だがCIAの人間として会うことはできない。」
「今回の作戦、その全ては極秘だ。」
「私の権限で民間人に話すことはできない。」
「いつものことだ。」
「CIAの諜報員として活動する中で命を奪った人間は少なくない。」
「だが我々諜報員はそれを贖罪することすら許されていないのだ。」
「それが何よりも辛い。」


桐生が言う。
「名嘉原には俺から伝えておく。」
「それなら問題ないんだろう?」


「ああ。そうしてくれ。」
「あと東京に戻ったらあの堂島大吾にも謝っておいて欲しい。」
「今は東京の東都大医学部付属病院にいる。」
「数時間前CIA本部がその情報を掴み、ついさっき俺も知った。」


その時、桐生の携帯電話が鳴った。
力也からだった。
アサガオに峯と玉城がやって来て重機で建物を壊していったという。
子供達は無事だったが、名嘉原が玉城に連れ去られてしまったようだ。
琉球街の外れの闘技場にいるというので、桐生は一人で向かった。
闘技場に着くと玉城がいた。
「やっと会えたな。」
「まあ焦るな。」
「こっちは一年ぶりの再会を楽しみにしてたんだ。」
「峯会長にお前に会わせてやるって聞いた時は嬉しすぎて鳥肌が立ったよ。」
「峯会長はとっくに東京に帰ったよ。」
「俺の役目はあの養護施設をぶっ壊すこと。」
「それにアンタの足止めだ。」
「アンタをここで殺せば白峯会から10億円。」
「ついでに琉道一家を潰せば沖縄は全て俺の物だ。」
「名嘉原の始末は後回しだ。」
「まずはお前を血祭りにしてやる。」


そこに力也が咲を連れてやって来た。
「玉城!もう警察には連絡済みだ!」
「10分もすりゃオマワリがここになだれ込んでくるぜ。」
「お前みたいなヤツは兄貴や親父が相手にするような価値はねえんだよ。」


その時、咲が叫んだ。
「お父さん!」
名嘉原が窮地に追い込まれたことによって声が出るようになったようだ。


桐生が言う。
「力也、警察が来るまであと7、8分だな?」
「じゃあそれまでにコイツら全部片付ければいいんだな。」
「時間がねえ。遊びは一切ナシだ。」
「さっさと片付けさせてもらうぜ。」
桐生は玉城組の組員達と玉城を叩きのめした。


無事救出した名嘉原に抱きつく咲。
「お前、喋れるように・・」
「心配かけてごめんな。」


その時、玉城が息を吹き返した。
近くに落ちていた銃を拾い桐生に向けて発砲する。
それにいち早く気づいた力也が桐生を庇った。
玉城が放った弾丸は無情にも力也の左胸を貫いてしまった。


「敵に背中見せんのは素人のやるこった。」
「これでお前も終わりだ!」
玉城がなおも引き金をひこうとした時、風間譲二が現れて玉城の頭部を銃で撃ち抜いた。


力也は血を吐いて倒れ込んでいる。
「撃たれちまったみたいです。」
「兄貴・・自分、どこを撃たれたんですか?」
「兄貴・・俺・・犬死ってヤツなんすかね。」
「俺は兄貴を・・守ったんすよね。」
「なら俺は・・それでいいや。」
「俺・・楽しかったっす・・」
「兄貴に逢えて・・」
「これで俺も・・一人前の男かな・・」
力也は絶命した。


その後桐生は風間譲二と沖縄空港特別滑走路に向かった。
戦闘機が桐生の前で停まった。
「そうか。あんたはこれで沖縄と東京を1時間で行き来していたのか。」


風間譲二が言う。
「ああ、そうだ。」
「これを使えば1時間もかからんよ。」


「俺は峯と決着をつける。」
「世話になったな。」


風間譲二が言う。
「俺は後から向かう。」
「病院で堂島大吾を見つけたら屋上に向かえ。」
「俺は救助のヘリを回す。」
「気をつけてな。」


桐生は戦闘機に乗って東京に向かった。


―数時間後―
ベッドで寝ている大吾の横に峯がいる。
「六代目・・」


峯の携帯にアンドレ・リチャードソンから着信が入る。
「Hello.」
「OK, got it.(そうですか。了解しました。)」
「No.」
「There's no change in the plan.(予定に変更はありません。)」
「Bye.」
電話が切れた。


峯が部下に言う。
「桐生さんが沖縄を出たようだ。」
「あと少ししたらここへ来るだろう。」
「別に気にすることはない。」
「ヤツらが到着したら全てが終わる。」


神室町に着いた桐生は一人で東都大病院へ向かった。
大吾の病室に入ると風間譲二の同僚の男がいた。
この男は大吾と名嘉原を撃った張本人だ。
「Looks like you're a little late.(少し遅かったようだな。)」
「You just missed him.(彼はいない。)」
「If you're looking for Daigo, Mine's taken him up to the roof.(堂島大吾なら屋上だ。峯が連れて行ったよ。)」


桐生は急いで屋上に向かった。
屋上にはストレッチャーに乗せられた大吾と峯がいた。
「やっぱり来てくれましたか。流石です。」
「嬉しいですよ、桐生さん。」


桐生が言う。
「お前、大吾をどうするつもりだ。」
「大吾を殺して東城会の跡目に就くつもりなんだろ?」


「跡目か。」
「本当はそんな物どうでも良かったんですがね。」
「こんなことになっちまうとは。」
「桐生さん俺はね、大吾さんのこと本当に心配していたんですよ。」
「この人は俺の人生で唯一、俺を一人の男として信じてくれた人なんですよ。」
「俺がこっちの世界に入ったのは神田の口利きだってこと知ってますよね?」
「あれは俺が神田に金を積んで頼んだことだったんです。」
「ムショから出てきたばかりの馬鹿な極道を捜していたらたまたま神田に行き当たった。」
「それだけなんですよ。」
「俺はね、あんたと同じ孤児だったんです。」
「俺も生まれた時からたった一人だった。」
「物心ついた時から貧困の限りを味わう毎日。」
「まるで戦後の孤児並みの生活しか出来なかった。」
「今の日本でもまだそういった現実はある。」
「あんたなら分かるでしょう。」
「誰からも愛されず、誰からも必要とされず、ただ孤独と向き合いながら生きていく辛さを。」
「だから俺は絶対に偉くなってやる、偉くなって金を手にしてやるということだけを考えて育った。」
「俺は誰よりも働いた。」
「そして誰よりも我慢した。」
「何故か分かりますか?」
「金のためですよ。」
「金という目標が出来た瞬間から俺は手段を選ばず生きる時間の全てを金に捧げてきた。」
「そして欲しいものは何でも買える。」
「いい女も好きなだけ抱ける。」
「周りの皆も俺の命令を喜んで聞いてくれるようになった。」
「だけど気づいたんです。」
「全ては嘘だと。」
「人間は皆、嘘つきで身勝手だ。」
「いくら沢山の人間が周りにいても、いつかは自分の都合で勝手に離れていく。」
「そんな様子を見続けながら俺は悩んだ。」
「人間の絆なんて物はこの世にない物なのかと。」
「そんな時、俺は絶対的な人間の絆があると言われる世界の存在を知った。」
「俺はそこに絶対的な絆という物が本当にあるのか知りたかった。」
「だから神田に金を渡し、あの有名な東城会の門を潜ったんです。」
「そこで知り合ったのがこの大吾さんでした。」
「大吾さんは極道として経験のない俺を普通に迎え入れてくれた。」
「歳も俺と変わらない。」
「だけど人の上に立つ男のカリスマがこの人にはあった。」
「俺は掛け値なしに初めて人を好きになることが出来たんです。」
「俺はね、桐生さん。今回の一件、もし大吾さんが生きていたら無条件に手を引いてたんですよ。」
「だが大吾さんは死んだも同然。」
「俺は空しかった。」
「目標になる人間を失った以上、次の生きがいが俺は欲しかった。」
「そして心に決めた。」
「嘘だろうがなんだろうが、誰にも文句を言わせない程の力を得てやろうと。」
「それでブラックマンデーに協力したんです。」
「こんな状態で生かされているのは人間じゃない。」
「俺にとっての大吾さんはこんな姿をした人じゃない。」
「こんな大吾さん、俺はこれ以上見たくないんですよ。」
「今俺がやるべきことは二つ。」
「俺の目標だった大吾さんを俺の手で最後の幕引きをして、大吾さんが大切にしていたあんたを殺す。」
「そして俺は東城会の頂点に立ち、新たな生きがいを見つける。」


「お前みたいな人間には口で説明しても伝わらない。」
「だったら俺が俺なりのやり方でお前に教えてやる。」
桐生は峯を叩きのめした。


「負けたのか・・俺が・・」
「何故かな。なんか吹っ切れたみたいに穏やかな気分だ。」
「全てが終わる時ってのはこんな気分なのかな。」


桐生が言う。
「いや、人間生きてりゃ終わりなんて無い。」
「いつだってやり直せるんだ。」


そこに風間譲二の同僚の男がやって来た。
「I'm afraid your role in all this has come to an end.(お前の役目は終わったようだ。)」


峯が言う。
「あの男がアンドレ・リチャードソンだ。」
「俺は奴に聞いてあんたがここに来ることも知っていた。」
「CIAや風間の動きも奴らには全て筒抜けだった。」
「俺らを殺して新たに基地拡大法案を実現出来る人間を捜すはずだ。」
「こうなった以上、奴にとって俺は用済みだからな。」


アンドレ・リチャードソンが峯に銃を向ける。
「Oh, there are plenty of people who could replace you.(お前の代わりはいくらでもいる。)」
「And unfortunately, you both far too much for me to let either of you live.(すまないが私の素性を知ってしまった以上、ここで2人とも殺すしかない。)」
「Die.(死ね。)」
アンドレ・リチャードソンが引き金をひこうとした時、大吾が起き上がった。
落ちていた銃を拾い、アンドレ・リチャードソンの銃を弾き飛ばす。
「まだ死ぬ訳にはいかないんだよ、俺は。」
大吾はすぐに2発目を発砲し、アンドレ・リチャードソンの左胸を撃ち抜いた。


大吾に駆け寄る桐生。
「大吾!お前、大丈夫なのか。」


「ええ。桐生さんこそ。」
「でも一体なにが・・」
「峯、お前どうしたんだ?大丈夫か?」
「危なかったな。だがもう大丈夫だ。」


アンドレ・リチャードソンが起き上がった。
血を吐きながらも右手に銃を持っている。
「I won't let it end like this. I'll kill you all!(お前ら皆殺しだ!)」


峯がアンドレ・リチャードソンに飛びかかり、羽交い締めにした。
「会長、すみませんでした。」
「桐生さん、俺も極道の端くれ。」
「俺なりの筋、通させてもらいます。」
「もう少し早くあんたに会って教えてもらいたかった。」
「生まれ変わったら俺もそっちにいれるかな。」
峯はアンドレ・リチャードソンを道連れに屋上から飛び降りた。


大吾が言う。
「まさか東城会を裏切ったのは峯だったんですか?」


「いや、違う。」
「あいつは裏切り者なんかじゃない。」


―数日後―
桐生は神室町の劇場前で一輝とユウヤに別れの挨拶をしていた。
「そうですか。それじゃ今夜発つんですね。」
「また寂しくなりますね。」


「そんなことはねえよ。」
「また近いうちに遊びに来るさ。」
「それじゃ、行くな。」


一輝、ユウヤと別れて歩き始めると浜崎が桐生の前にやってきた。
「おう、桐生。」
「全て失っちまったよ。」
「お前のせいでな。」
「俺はもう終わりだ。」
「だが捕まるくらいなら首でも括るわ。」
浜崎は桐生に突進し、隠し持っていた短刀を右脇腹に突き刺した。


すぐに一輝とユウヤが浜崎を取り押さえる。
しかし傷が深く、桐生はそのまま倒れ込んでしまった。


―数カ月後―
新しく建て直されたアサガオに、病院を無事退院した桐生が帰ってきた。