ジャッジアイズ 【JUDGE EYES】― 死神の遺言― チャプター5「白昼夢」

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新谷の死体を見つけた八神はさおりに電話をした。
「新谷先生が?でも八神さん、さっきは大丈夫だって・・」


「なあさおりさん、俺もまだよく呑み込めてないんだ。」
「ただ、犯人はモグラだと思う。」
「警察にはこれからだ。」
「通報はさおりさんの方で頼める?」
「俺は警察が来るまでにできるだけ現場を調べておきたい。」
「頼む。よろしく。」


新谷の死体は両目が抉られ、右の胸には銃創があった。
新谷のスマホの履歴を見ると、殺される数時間前に誰かに電話をしているようだ。


さおりからの通報を受け、黒岩が警察官と一緒にやってきた。
「新谷弁護士か。」
「よく知ってるよ。羽村を無罪にした凄腕だからな。」
「そうか。お前、それが妬ましかったんじゃないか?」
「被害者とはもともと不仲だったって?」
「これから鑑識を入れる。」
「お前には住居人として立ち会ってもらうぞ。」
「そのあとここは立入禁止だ。」
「少なくとも今夜はよそで寝床を探せ。」
「汚職警官に払ってる金があるだろ?」
「綾部の情報はガセも多いぞ。」
「お前、警察舐めんなよ?」


立ち会いが終わった後、八神は源田法律事務所に向かった。
「新谷先生と連絡が取れないって、さおりさんからそう聞いたんで電話をかけてみました。」
「その着信音がうちのクローゼットの中から聞こえてきたんです。」
「新谷はモグラの手口でやられてました。」
「目を抉られてました。」
「共礼会に狙われてたはずが、モグラに殺られるなんてな。」
「あの人は何か、俺も知らないモグラの情報を持ってた。」
「多分羽村からの仕入れだ。」
「その口封じに殺されたのかもしれない。」
「やつの死体が俺の事務所にあったのは嫌がらせか脅し、その両方かも。」


話を聞いていた源田が言う。
「八神、お前しばらくおとなしくしてろ。」
「かなりヤバいんじゃねえか?」
「なんなら少し街を出た方がいい。」
「お前までモグラに狙われたら・・」
「俺は新谷が駆け出しの頃から見てきた。」
「あいつは頭が良くてよ。」
「俺なんかより何でも要領が良かった。」
「ただ、いざってときの意気地はねえし弁護士としちゃ粘りも弱い。」
「それでもずっと俺についてきてた。」
「この先もずっとそばにいるもんだと思ってた。」


「初めて俺がここに来た時、弁護士のイロハを仕込んでくれたのも新谷先生です。」
「頼れる先輩でした。」


源田が立ち上がる。
「報告ありがとな、八神。」
「さおり君、今日はもう帰ろう。駅まで送る。」
「お前は今夜、ここで寝てったらいい。」
「星野くんは?」


「僕はもう少しやってから帰ります。」
「おやすみなさい。」


事務所に残った星野と話をする。
「源田先生、さっき言ってましたよね。」
「しばらくおとなしくしてろって。」
「でもモグラを追う気でいるんじゃないですか?」
「源田先生には黙ってます。」
「ただそのかわり、僕も一緒にモグラを追いかけてもいいですか?」
「八神さんたちの足は引っ張りませんから。」
「新谷先生はいつも自分に自身がないのを虚勢で隠して。わかりやすい人でした。」
「見た目や態度よりずっと弱かったはずです。」
「羽村のカシラとだって好きで付き合ってたわけじゃない。」
「ヤクザなんて怖いに決まってますよ。」
「その結果が今回の事件です。」
「僕はいつも新谷先生のすぐそばにいたのに何の力にもなれなかったんです。」
「本当に僕は若造で。自分でもまだどんな弁護士になりたいのかさえわかってません。」
「刑事弁護なのか、それとも民事でやっていきたいのかすら。」
「でも仲間が殺されても知らん顔なんて、そんな弁護士になるのだけはごめんです。」
「自分の弁護は自分でできます。」
「だから八神さん、いいですか?僕も一緒に。」


「OKしないと源田先生にチクるんだろ。」
「よしわかった。じゃあ早速ひとつ頼まれてくれ。」
「まず殺される前の新谷が何をしようとしていたか知りたい。」
「で、そいつがわかるかもしれない証拠があるんだ。」
「今日、新谷がスマホからかけてた電話番号。」
「これがどこのものなのか知りたい。」
「ひょっとしたらモグラは早く俺に死体を見つけさせたかったのかもな。」
「わざわざうちの事務所なんてとこに死体を隠したんだ。」
「どんな騒ぎになるかすぐ見たかった、とか。」


星野がPCで電話番号を調べる。
「あ、さっきの電話番号、ネットにありました。」
「先端創薬開発センター。そこの代表番号ですね。」


八神が驚く。
「なんだって?」
「3年前、その創薬センターで殺人があった。」
「入院中の患者がそこで殺されて山に捨てられたんだ。」
「そして捕まった犯人が大久保新平。」
「大久保新平は創薬センターに出入りするリネン業者でタオルやシーツを2、3日おきにクリーニングしてた。」
「で、回収したシーツごと死体を運び出したとされてた。」
「今日はもう遅い。」
「星野君も帰りな。」
「お互い少し休んだ方がいい。」
「ここだと源田先生の目があるし、神室町のシャルルってゲーセンがある。」
「まずはそこをアジトにしよう。」


翌日、シャルルに八神、海藤、東、杉浦、星野が集まった。
「源田法律事務所の新谷弁護士が殺された。」
「遺体は両目を抉られてて、その手口からモグラが絡んでいる可能性が高い。」
「みんな、手ぇ貸してくれるか?」


八神は一連の情報を皆に話した。
「新谷は殺される直前、なぜかその創薬センターに電話をかけてた。」


杉浦が言う。
「創薬センターって、去年テレビで騒がれてたね。」
「確かノーベル賞ものの新薬を作ってるとかで。」


すぐに星野が調べる。
新薬の名前は「アドデック9」で認知症の薬のようだ。
論文を発表したのはセンター長の木戸博士。
まだ動物実験の段階だが、認知症の実験マウスをほぼ正常に回復させてようだ。
木戸博士は神経脳生理学の世界的な権威で、アドデック9論文の筆頭著者。


八神が言う。
「3年前、大久保事件のときセンターを案内してもらった。」
「その時から木戸はセンター長だったよ。」


星野が言う。
「今はアドデック9の完成に向けて厚生労働省が予算枠を強化してるみたいですね。」
「創薬センターの建物、今度また一気に増築するようです。」


杉浦が八神に聞く。
「そういえばさ、八神さんが無罪にした大久保新平だっけ?今はどうしてるの?」


「拘置所にいる。」
「死刑囚は刑が執行されるまでずっとそこだ。」
「面会には行ってない。」
「なんでそんな事聞く?」


杉浦が答える。
「大久保って実際どんな人だったのかと思って。」
「結構ニュースでも騒がれた事件だったから。」
「八神さん、大久保を無罪にした時本当はどう思ってたの?」
「マジで無罪と思ってた?」


「多分な。」
「その後、絵美ちゃんを殺した大久保から俺は2度目の弁護を依頼された。」
「大久保は誰も殺してないって言ってた。」
「ただ俺は、それを信じきることができなかった。」
「法廷で彼の無罪を主張するたびに、ずっと吐き気を感じてた。」


八神と星野は2人で創薬センターへ向かった。
「3年前、新谷と一緒に事件を調べるためここへ来た。」
「木戸はうちらを煙たがっていた。」
「案内を寺澤という女性看護師に押し付け、俺らは入院棟4階にある被害者の患者・和久光一のところに向かった。」
「和久が入院していた部屋は個室だった。」
「アルツハイマーで2年前から入院していたそうだ。」
「アルツハイマーはいくつかある認知症のタイプのひとつで、7割がアルツハイマー型。」
「和久は事件当日の朝、病室から消えていた。」
「病室の扉には窓がついていて、廊下からも中の様子がある程度わかった。」
「寝ている人の顔は見えなかったが。」
「和久光一は66歳。事件当時の朝8時半、ナースたちが和久の不在に気づいた。」
「和久は認知症患者で、はじめは院内のどこかを徘徊しているものと思われていた。」
「しかし見つからず、夕方には捜索願が出されている。」
「認知症患者が人目にも触れず、ひとりで外へ出たとは考えにくい。」
「そのため警察は和久が何者かに連れ去られた可能性に注目。」
「センターに出入りする車両をすべてチェックし、浮かび上がってきたのが出入りのリネン業者・大久保新平だった。」
「その後大久保は和久の遺体を山に埋めたとその場所を自供。」
「被害者が病室から消えて3ヶ月後、ようやく奥多摩山中で腐敗した遺体として発見された。」
「死因はおそらく窒息死。ただし詳しくは特定不能だ。」
「大久保は殺しについては無実を主張。」
「認めたのはあくまで死体を山に捨てたことだけ。」
「被害者の死体を遺棄した人間が必ずしも殺害も実行したとは言い切れない。」
「もしここを譲れば大久保は裁判するまでもなく有罪確定。」
「大久保が障害の前科持ちだというのもポイントだ。」
「当時から6年前、恋人を殴って指の骨を折った。」
「酔って気が大きくなってやってしまったそうだ。」
「まだ10代で子供だったと俺は思ってた。」
「それで大久保が今回も有罪っていうのは乱暴すぎだ。」
「大久保が病棟からシーツを回収してセンターを出たのが午前10時。」
「その時いつの間にかトラックの荷台に被害者の死体が紛れ込んでいた。」
「搬入口の駐車場は地下にあった。」
「リネン業者がシーツを回収する時はランドリーカートが使われる。」
「大久保は事件当日もランドリーカートで病室を回ってた。」
「この中になら被害者の死体を隠して運び出すことができる。」
「トラックは駐車場でエレベータ側に尻を向けいていた。」
「車両は2トントラック。」
「その荷台から被害者の体液が検出されている。」
「最後に被害者が目撃された時間は7時50分。」
「創薬センターの研究員・生野洋司がベッドに寝てた和久を見たと証言していた。」
「8時が朝食の時間で自力で立てる患者はデイルームに集まってくる。」
「でも和久はその日、8時半になっても来なかった。」
「大久保は和久の部屋に行った時はもう誰もいなかったと主張。」
「一度も和久を見てないという。」
「自分のトラックの荷台に被害者の死体が積まれていたことに気づき、警察に通報するか迷った末に死体を隠すという選択をしてしまった。」
「案内を務めてくれた看護師・寺澤の協力を得ることができ、廊下からは患者の顔を確認することができないことを裁判で証言してくれた。」
「そして生野が被害者の和久を見たという証言自体、かなり曖昧だった。」
「大久保は自分が有罪になった時に迷惑がかかると、寺澤が彼女であることを隠していた。」
「寺澤自身も大久保に言われた通りに隠していたが、裁判の途中で自分が彼女であることを打ち明けた。」
「それからも審理は続いたが、彼女の存在が判決の行方を決定づけたように思う。」
「大久保新平は無罪とされた。」
「しかし、それからわずか一月後、その大久保の手によって寺澤『絵美』は無残な姿に変わり果てた。」


創薬センターの受付で木戸センター長と再会した。
「3年ぶりにお会いします、木戸さん。」
「今もセンター長でいらしたんですね。」
「今は神室町で探偵をやってます。」
「ある殺人事件の調査をしてます。」
「是非ご協力いただけませんか?昔のよしみで。」


木戸は新谷からの着信を調べてくれた。
「たしかに新谷という弁護士からうちに電話があったようだ。」
「相手は生野君だ。」
「結局何の用だったかはわからずじまいだがね。」
「電話があった時、生野は席を外していたし、その新谷さんも伝言は残さなかった。」
「生野は新谷さんと面識がないと言っている。」
「だから電話が来た理由もわからんと。」
「私も生野もアドデック9の論文筆者。」
「これでずいぶん名が知られるようになってね。」
「赤の他人が友人や親戚と名乗って連絡よこすこともある。」
「新谷さんもそういう手合じゃなかったのかね?」


そこに黒岩がやってきた。
「黒岩と言います。神室署組織犯罪対策課。」
「こちらへある事件の重要参考人がお邪魔してるかと。」
「お前のことだぞ、八神。」
「新谷弁護士殺害事件の重要参考人として話を聞かせてもらう。」


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