キングダムハーツ ユニオンクロス ダークロード

青年のゼアノートがデスティニーアイランドの浜辺で一人つぶやく。
「またあの夢・・」


「小さかった頃からずっと繰り返し見る夢がある。」
「見知らぬ世界、見知らぬ友人、見知らぬ別れ。」
「自分じゃない誰かの人生を体験する感覚。」
「小さな本島の周囲に点在する更に小さな無人島。」
「あとは海・海・海―」
「どこまでも続く空。」
「それが世界の全て。」
「この海の向こう、空の向こうに夢で見るおとぎ話のような世界があるんじゃないかと思い始めたのはそんな夢を見るようになってからだったと思う。」
「めぐる世界の先であの夢で見る友人たちに再会できるんだろうか。」
「砂浜に大の字に寝転がり空に落ちていくような錯覚を感じながらいつもそんなことを空想する毎日だった。」


そこに黄色いローブを着た身体を持たない老いたゼアノートがやってくる。
「標だ・・」
「君が見る夢の世界・・」
「それは確かに実在する。」
「ここは海に囲まれた牢獄も同じ・・」
「君に必要なものは何もない。」
「こんな世界で一生を終えたくはないだろう。」
「お前が我が標であり、私は君の標だ。」
「何を聞いても知識がなければ無意味。」
「この世界で知り得ることには限りがある。」
「外の世界に旅立つのだ。」


老いたゼアノートは闇のゲートを開いた。
「旅立ちは簡単なことだ。」
「その覚悟があれば一歩踏み出すだけ。」
「臆病な弱者はその一歩を踏み出せず、いつまでも空想の世界に留まるだけ。」


青年のゼアノートは闇のゲートをくぐった。


スカラアドカエルムで過ごしているゼアノートところにエラクゥスがやってきた。
「ゼアノート、海の向こうってどんな?」
「海の向こうから来たんだろ?」
「羨ましいなあ。」
「この辺に倒れてたんだろ?」
「目に見える範囲の別の街は今では無人らしいから、そうなると水平線の目に見えない向こうから来たってことだろ?」


ゼアノートが言う。
「空から降ってきたのかも。」
「目線の先だけが全てじゃない。」
「視界に入ってるのに当たり前すぎて見落としがちなものはある。」
「発想は自由であるべきだ、エラクゥス。」
「だから俺に勝てないんだよ。」
「さあ、そろそろマスターのところに行こう。」


「あのローブの男との出会いから非日常の世界にやってきた。」
「それもやがて日常となった。」
「しかし日常はなんの前触れもなく一変する。」
「たった一歩で変わるんだ。」


ゼアノートとエラクゥスはマスター・ウォーデンのところに向かった。
「突然集まってもらったのは授業のためではない。」
「つまりお前たちの兄弟弟子である上級クラス7名がマスター承認試験前の旅で消息を絶ったということだ。」
「これまでの授業で教えた通り、世界はこのスカラ・アド・カエルム以外にも複数存在する。」
「キーブレード戦争以降、それぞれの世界は交じり合うことなく各世界の住人もその存在すら知ることはない。」
「故に容易に他の世界に関わることはできないが、世界が複数存在することを把握している我々キーブレード使いの秩序として承認試験前には見聞を広げる為に初めて外の世界に渡ることを許可している。」
「方法はいくつかあるが・・」
「本来ならば上級クラスに上がってからだが、今回は例外とする。」
「お前たちに上級クラス7名の捜索を頼みたい。」
「お前たちのクラスメイト、バルドルには別の人を頼み今は不在となっている。」
「皆も知っての通り、バルドルの姉が上級クラスにいる。」
「動揺を避ける為にまだ上級クラスのことは伏せている。」
「ともかくお前たちにはすぐに捜索の任についてもらいたい。」
「他の世界に行くには本来多くの教えがあるが今は急を要すため、3人一組となり二手に分かれて捜索の任にあたってくれ。」


ゼアノートがクラスメイトに言う。
「キーブレード戦争で一度世界は闇に飲まれ、再生されたのが今の世界。」
「各世界の時間の流れは違う。」
「消滅したタイミングから再生された世界は再生の速度も違っている。」
「場所によってはまだ再生が不完全な世界もある。」
「再生が完全に成された世界はまた時間が先に向けて流れ始めてる。」
「元々時間の流れが違うわけだから、それぞれの世界が違った速度で違ったタイミングにスタートを切る。」
「俺たちの感覚で簡単に接触するには注意が必要だってことさ。」


クラスメイトの一人が言う。
「秩序でしょ。」
「外の世界との接触時、他の世界のことを語ってはいけない。」
「その世界の秩序を守る為の教え。」


「秩序が通じる世界ではそうだ。」
「でももし相手が生まれたばかりの赤ん坊だったら、秩序を書き換えることも可能だ。」
「上級クラスのメンバーは各々一人で旅立った。」
「俺たち下級クラスは3人一組で行動するってことは、それ程危険を伴うってことだろう。」


「ゼアノート、エラクゥス、ウルド」「ヘルモーズ、ブラギ、ヴェル」の二組に別れた。


マスター・ウォーデンが言う。
「世界を行き来する方法はいくつかある。」
「より安全な方法として闇を払う鎧をまとい、キーブレードを乗用として変形させ世界を渡るのだ。」


ゼアノートたちはアグラバーの世界にやってきた。


アグラバーには住人の姿はなく魔物しかいなかった。
「世界が再生しても、その世界の住人が再生されるまでは時間が必要・・」
「それまでの間は魔物が支配する世界・・」
「この魔物たちがマスターが言っていたハートレスってやつか。」
「でもハートレスって2種類いるんだろ?」
「ビュアブラッドとエンブレム。」
「でもエンブレムは過去に予知書から具現化された未来のハートレスのはず。」
「なぜ今の時代にもエンブレムがいるんだ?」


3人が一度スカラアドカエルムに戻ると他の3人も戻っていた。
「あれ?もう戻ってた?」
「とりあえずみんな無事みたいでよかった。」
「ハートレスはいたが住人はいなかったな。」


「同じく。」


「ハートレスの存在も、それが脅威であることもこれまでマスターから教わっていたはずだ。」
「上級クラスのメンバーも正式な形で出発したならそれなりの準備も覚悟もあってのこと。」
「今度は確実な手がかりを探そう。」


ゼアノートは自分の中に眠っている記憶を思い出して呟いた。
「闇は姿を隠す。」
「人にさえ。」
ブレインが時計塔が見える小高い丘の上でエフェメラ、スクルド、ヴェントゥスに話している記憶だ。


同時に、エラクゥスも同じことを呟く。
「闇は姿を隠す。」
「人にさえ。」


ゼアノートが驚く。
「どうして・・」


エラクゥスが言う。
「でも俺は人の力、心の光を信じたい。」


「もし闇が人に隠れていたとしても本人は無自覚なのかもしれない。」
「無自覚な闇を持つ人間にキーブレードを振るえるのか・・」
「これはただの捜索では終わらないかもな。」


―4年後―
仲間たちは皆死んでしまった。


墓に花を供えるゼアノートにエラクゥスが言う。
「行くのか?」
「みんないいやつだった。」
「旅立つ必要はない。」
「まだ自分を責めてるのか?」


ゼアノートが言う。
「マスター承認試験の前に世界を見て回りたい。」
「まだ全て見ていない。」


「待ってるからな。」
「勝ち逃げは許さないぞ。」
「117勝312敗8分け。」


「107勝323敗7分けな。」
ゼアノートは旅立った。


「自分が何者なのか。」
「それを意識しはじめたのは他者を意識しはじめてからだ。」
「同じ教室の中で同じ時間を共有する仲間。」
「日常は彼らとの他愛もない時間で構成される。」
「その緩やかな日々は時には退屈で居心地がよかったのかもしれない。」
「でもその教室も自分が元居た小さな島の世界と同じだと気づく。」
「狭い世界で繰り返される日常。」
「箱が変わっただけにすぎない。」
「自分はそういう世界を否定し、この世界に来たのに。」
「問題はきっと箱ではない。」
「他者とどう向き合うか。」
「彼らをどう意識するか。」
「日常の環境が心を形成していき自分は何者かになっていく。」
「しかしその形成の途中、何に影響を受けるかによって心に変化が起きる。」
「きっかけはどこにでも有り得る。」
「誰かにとってみれば単純なことだったりもする。」
「それは光かもしれないし、闇かもしれない。」


旅立ちの一歩を踏み出し歩みを進める。
その道を進む最中、いくつかの闇が俺に語りかけてきた。
いや、具体的な言葉はなかったかもしれない。
自分の心の奥底にある感情を揺さぶるのに近かった。
心の中で具現化された感情は逆流するかのように言葉として脳裏に浮かぶ。
それは人の心の闇、誰かの感情?
自分の経験ではない増悪、嫉妬、疑心。
この時はわからなかったが、これはこの先俺が出会う人々の感情。
中には俺に向けられる感情もあった。
自分はこれほどの感情を受け止めきれるのか?
人の闇を、心を。
俺の心に何かが芽生え始めたのはこの時からだったと思う。
闇の回廊・・
この道を通り続ければ人の心はやがて闇に染まる。
そのことを教わったのはそれからそんなに先のことじゃなかった。
少なくとも闇であろうが感情があるのなら心を感じることはできる。
しかし闇よりも異質で底しれぬ恐怖。
「虚無」を知るのはまだ先のことだった。


ゼアノートとエラクゥス達はワンダーランドのハートの女王のところに向かった。
「あいにく刑を受けに来たわけじゃない。」
「話をしに来たんだ。」
「あなたはこの世界の秩序でありルール、逆らう気はないよ。」
「ただ教えてほしいことがあるだけなんだ。」
「あなたはこの国にあるものはみんな自由にしていいと言っていたけど、本当にそうなのか?」
「あなたの心はあなた自身のものなのか?」
「あなたの傲慢さは心が命じたことなのか?」
「あなたの中に隠れている闇の存在が命じたことなんじゃないのか?」
「あなたの心は根っからの闇じゃないんだろ。」
「俺は人の心の光を信じたい。」


ハートの女王が言う。
「私にあるのは怒り。」
「お前らのようなガキも私をイラつかせる。」
「愚か者たちが私をイラつかせる。」
「だから私の言う通りにしてればいいのさ。」
「自分の判断で何をしても、どうせ私を怒らせるだけだからね。」


ゼアノートが心のなかでつぶやく。
「たしかにこれは強欲による闇じゃない。」
「女王の闇の正体は憤怒。怒りか。」
「古の時代、闇は人に隠れその人間の感情を支配するものだった。」
「そうやって人間を器とし、闇は伝染するかのように人知れず世界に拡がり続けた。」
「しかし時代が進むにつれ闇自身が意思的に人を支配するのとは別に、人間がその心自ら闇を生み出すようになった。」
「人間の心の闇が具現化したものがハートレス。」
「長い時間を経て闇は人間の心と密接になった。」
「人間の心は自ら闇を生み出すようになった。」
「人間が自ら闇を生み出す原因は負の感情。」
「強欲、悲嘆、憤怒、嫉妬・・」
「そういった心の奥に眠る感情は本来抑制し得るものだが、どの抑制が利かない感情が闇として具現化する。」
「闇は長い年月を掛け、人間を作り替えた。」


ハートの女王の心が生み出した闇が具現化し、ハートレスとなってゼアノート達に襲いかかる。
ゼアノート達は協力してハートレスを倒した。


ゼアノート達はスカラアドカエルムの広場に戻り、仲間たちと情報を共有した。
「なるほど、話はわかった。」
「要は闇の存在ってのを追いかければいいってことだよな。」


ゼアノートが言う。
「闇が一体とは限らない。」
「日の光は一つでも、落ちる影はいくつにもなる。」
「さらに言えば日の光が影を落とすように光の守護者である俺たちが出張っていくことで闇の存在をあぶり出せるのかもしれない。」
「あくまで可能性の話だ。」
「つまり、上級クラスのメンバーも闇と対峙したのは間違いないだろう。」
「だから手掛かりのない上級クラスのメンバーより闇を追えばその手掛かりが得られる。」
「俺の目には、女王が抱えてた闇は自我があるように見えた。」
「一方で女王には無自覚にその闇を受け入れているようにも見えた。」
「つまり問題は外的とか内的とは別、どうでもいいことなんだ。」
「あの世界では怒りという闇を抱えた女王が秩序だった。」
「光が正しく、闇が過ちだという概念は通用しない。」
「問題はそこだと思う。」
「上級クラスのメンバーが闇に対峙した時、そしてその闇が秩序だったとしたら闇に傾倒してしまうことも考えられる。」


エラクゥスが即座に否定する。
「それはない。」

2020/11/5現在公開されているストーリーはここまでです。

更新され次第、追記します。