龍が如く2

―1980年初頭 東京・神室町―


とあるビルの廊下で韓国籍の男に銃弾を浴びせるヒットマン時代の風間。
「謀ったな・・俺が死んでも組織は消えない・・」
「思い知るがいい・・」
男は韓国語でそう言い残して絶命した。


瓦次郎という刑事が風間を追ってビルの中に入る。
ビルの最上階に行くとそこはすでに火の海となっていた。
その一室に小さな男の子を抱いた女性がいた。
この女性は風間に殺された男性の妻だった。
「安心しろ。俺は奴等とは関係ねえんだ。」
「ここから逃げるんだ。」


女性が韓国語で言う。
「近寄らないで!」
「この子は渡さないわ!」


ビルから飛び降りようとする女性を止めた瓦次郎は頬をぶった。
「何の罪もねえ子を死なせちゃいけねえだろ。」
瓦次郎は女性と小さな男の子の命を救ったのだった。


―そして2006年―


瓦次郎は自室で銃を整備しながら当時の記憶を思い返す。
「あれからもう20年以上経つのか・・」


2006年12月14日・神室町
スターダストの店長に出世したユウヤが中国系のマフィアともめている。
「てめぇ等だろ、この辺りの店荒らし回ってる中国系のチンピラってのは!」


マフィアの男が言う。
「知ってるのなら話が早い。」
「店の金、全部出せ。」


「てめぇ等に渡す金なんか無ぇ。」
「力ずくで奪うんなら、俺を倒してからにしな!」


「度胸ある日本人ね。」
マフィアの男達がユウヤに襲いかかる。


ユウヤは襲いかかってくるマフィアを全て殴り倒した。
「てめぇ等よそ者にこの街を好き勝手させるワケにはいかねえんだよ!」


マフィアの男達が引き上げていく。
「物騒になってきやがった・・」


スターダストの店員の男が言う。
「また1年前のようなとんでもない事件が起きるんすかね。」


「そうなってもらいたくねえんだが・・」
「桐生さんがいてくれりゃ・・」


東城会直系風間組二代目組長となった柏木修がミレニアムタワーにある事務所でタバコを吸っていると組員の男が慌てた様子でやってきた。
「親っさん。」
「スターダストの前で揉め事があったそうです。」
「相手はタチの悪い外国人だそうです。」
「若いモンに様子見させますか?」


柏木が言う。
「放っておけ。」
「何が発端で戦争の火種になるか分からねぇんだ。」


「関西は本気で関東進出を?」


柏木が言う。
「近江四天王の一人だった寺田がこっちの頭になったんだ。」
「向こうからすれば面白くはねえ。」
「下手すりゃ東と西の全面戦争になるかもしれんが、今はその時期じゃねえ。」
「若い奴にきつく言っておけ。」
「勝手にハネるんじゃねえとな。」
「こっちから仕掛けるか、待ち受けるか・・」
「桐生・・お前ならどうする?」


ミレニアムタワーの下階で男が携帯電話で話をしている。
「あれから20数年・・」
「俺達はこの時を待ってた・・」


電話の相手が言う。
「ワシにはアンタ等の過去などどうでもええ。」
「早いとこ派手にドカンと花火打ち上げて下さいや。」


男が言う。
「そう焦るな。」
「これは闇に葬られた仲間の恨みなんだ。」
「俺達は待っていたんだ。」
「復讐の時を唯ひたすら待っていたんだ・・」


電話の相手が言う。
「そないな事知ったこっちゃないわ。」
「余計なお喋りしとって盗み聞きされたりしてはりませんでしょうな?」


男が言う。
「問題ない。」
「私はこの道のプロだ。」
「盗聴することはあってもされることはない。」


「まあええ。」
「これだけは言うておくが、ワシとあんたらは仲間やない。」
「神室町を火の海にする。」
「目的が一緒なだけや。」
「事が終わったら赤の他人。」
「分かっとるな?」


「ああ。まあ期待していてくれ。」
電話が切れた後、男がつぶやく。
「火の海にするだけじゃ物足りない。」
「それだけじゃ無駄死にしていった連中が浮かばれやしない・・」


桐生は遥と二人で部屋を借りて暮らしていた。
朝方、桐生がベッドから起き上がると遥が帰ってきた。
「遥・・どこに行ってたんだ?」
遥は花束を持っている。
「どうした?その花束。」


「お墓参りに行くって言ってたでしょ。」
「おじさん、お腹空いた?」
「直ぐに朝ごはん作るね。」


桐生が言う。
「ああ。俺も手伝うよ。」


「いいって。私一人で出来るから。」
「この1年で上達したんだからね。」


桐生と遥は朝ごはんを食べた後、由美の墓参りに出かけた。
墓参りをしていると東城会五代目会長・寺田行雄がやってきた。
「四代目、お久しぶりです。」


桐生が言う。
「寺田、一人で来るとは不用心だな。」


「若いもんは向こうで待たせてあります。」
「どうしても四代目にだけはお話しておきたいことがありまして。」


桐生が言う。
「四代目はよしてくれ。おれはもう堅気だ。」
「で、何の話だ?」


「実は近江連合の郷田会長と盃を交わそうと思っております。」
「近江連合との全面戦争を避けるには最早それしか方法が・・」


桐生が言う。
「そこまで東城会は追い詰められているのか・・」


寺田が言う。
「1年前のあの事件で東城会の内部はガタガタです。」
「戦争となればまた多くの血が流れ、東城会は近江連合に乗っ取られてしまいます。」
「それだけは何とか避けたいと・・」


「お前と郷田会長では格が違う。」
「向こうがその話を飲むとは思えんがな。」


寺田が言う。
「十二分に承知しておりますが、しかし・・」


「寺田、東城会の五代目はお前だ。」
「堅気の俺が口をはさむ事じゃねえ。」


「先代なら東城会のこの危機をどう乗り越えるか・・」
寺田が頭を下げる。
「ご意見をお聞かせ下さい。」
「先代・・」


その時、近江連合の組員が突然現れ、銃で寺田の右上腕を撃った。
「寺田はんの首、頂きに来たんや。」


桐生が寺田を庇う。
「関西の送り込んできた鉄砲玉か・・」


「東城会のボディーガードは脇が甘いですなあ。」
「後は穴掘って埋めるだけですわ。」
「ここは墓地や。」
「運ぶ手間省けてええんとちゃいますか?」


桐生が寺田に言う。
「遥と逃げてくれ。」
「寺田、その体に東城会の未来がかかってんだ。」
「俺が相手になってやる。」
「お前等に極道の礼儀ってもんを教えてやるぜ。」


寺田と遥を逃した桐生は近江連合の組員達をなぎ倒した。


寺田は逃げずに遥と隠れていただけだった。
寺田が桐生のところに再び近づいていったその時、近江連合組員の一人が起き上がり、寺田の左胸を銃で撃ち抜いた。
「寺田!」
その組員は一人で逃げていった。


寺田が懐から手紙を取り出す。
「こ・・これを持って・・近江連合の郷田会長のもとへ・・」
「ワシと桐生さんとでは器が違う・・」
「東城会の明日を思えば・・これでええんです・・」
「これを・・頼みました・・」
寺田は絶命した。


遥が言う。
「私・・しばらくヒマワリに行ってる。」
「大切なお仕事があるんでしょう?」
「お仕事が終わったら迎えに来てね。」


桐生は寺田から預かった手紙を読んだ。
「私、東城会五代目寺田行雄は、近江連合五代目・郷田会長と兄弟の契りを交わし、これをもって長きに渡る抗争の終結を強く望むものであります。」
「2006年12月14日 東城会五代目・寺田行雄」


桐生はその手紙を堂島の妻、堂島弥生に持っていった。
しばらくは堂島弥生が東城会会長代行を務めることになった。


弥生により東城会の幹部達が集められ、緊急の会議が開かれた。
この会議には桐生も出席している。
「まさかこの書状を関西に持っていくつもりですか?」
「親の命ぁ殺った相手の所に出かけて行って盃交わして下さいなんて、笑い話にもなりませんでしょうが!」


柏木が言う。
「じゃあお前は五代目の敵を討つというのか?」


「殺られたら殺り返す、それが極道です!!」


「お黙り!」
弥生が桐生に言う。
「・・関西へ行くつもりだね?」


桐生が答える。
「五代目との約束です。」
「姐さん、この一件、自分に任せてもらえませんか?」


「あんたも全面戦争は避けるべきだと考えてるんだね?」


桐生が言う。
「はい。」


柏木が言う。
「向こうが話をのむとは思えんが・・」


「それも承知の上です。」
「ですが、これは寺田の遺言なんです。」
「覚悟は・・できています。」


弥生が言う。
「まさか郷田会長と刺し違えるつもりじゃないだろうね?」


「相手の出方次第では・・」


弥生が言う。
「あんた、まだ11年前の堂島殺しの事にこだわってるのかい?」
「あれは錦山がやったことだろう?あんたの責任じゃない。」


「錦とはガキの頃から一緒でした。」
「血の繋がった兄弟よりも絆は強い。」
「錦の残した借りは自分のものです。」


弥生が言う。
「止めても無駄だね。」
「分かった。」
「この件はあんたに預けよう。」
「桐生は東城会のために命懸けるって言ってんだ!」
「文句ある奴は、今前に出な!」
「盃の話が決裂したら後戻りは出来ない。」
「東と西の全面戦争だよ!」
「お前もそれでいいね?」


桐生が言う。
「はい。」
「ですが一つだけ頼みがあります。」
「関西に行く前にどうしても会いたい人間がいます。」
「堂島大吾です。」
「堂島組長とあなたの息子さんです。」
「寺田が死に、東城会は柱を失った。」
「今の東城会を建て直せるのは奴をおいて他にはいません。」
「あいつは暴力や権力に絶対に屈しない男です。」
「今の東城会にはそうした男が必要です。」


弥生が言う。
「遺言代わりってことかい?」


「そう取ってもらって構いません。」
「ですから関西に行く前にどうしても大吾に会っておきたいんです。」


弥生が言う。
「よしたほうがいい。」
「大吾はもう昔のあの子じゃない。」
「大吾が5年前、刑務所に入っていた事は知ってるね?」
「あんたがムショに居た頃の話さ。」
「あいつは父親の堂島をあんたに殺されたと思って荒れていた。」
「それで馬鹿やらかしてね。」
「関西に手を出したんだよ。」
「それで捕まっちまったんだ。」
「服役して・・今は出所して神室町に帰ってきてるが、毎日浴びるように酒呑んじゃ馬鹿みたいに遊んで暮らしているよ。」
「あいつは力の入らない人形みたいになっちまったんだ。」
「ま、会ってみれば分かるさ。」


桐生はSHINEという店で飲んでいる大吾に会いにいった。
「久しぶりだな。」
「東城会に戻ってくれ。お前が必要だ。」


大吾が言う。
「俺にとっちゃ必要のねえ場所だ。」
「放っといてくれ。」


桐生が言う。
「話は姐さんから聞いた。」
「今は組の存亡がかかってる。」
「お前は東城会に恩があるはずだ。」
「今のお前があるのは組と堂島組長がいたからだろう。」


「アンタにそんな事言われる義理はねえ。」
「俺はな、桐生さん。」
「アンタだけは信用していたんだ。」
「憧れの存在だった。」
「けど今は違う。」
「親父が殺されてから徐々に組はおかしくなった。」
「今はもう体張るだけの価値はあの組に残っちゃいない。」


桐生が言う。
「よく分かってるじゃねえか。」
「お前の言う通り、今の東城会にそんな価値はねえ。」
「幹部連中も金勘定ばかりして昔の威光は無くなった。」
「でもな、俺はまだ信じてんだよ。」
「風間の親っさんや嶋野、そしてお前の親父さんが居た頃の強い東城会を。」
「もう一度あの頃の東城会に戻るにはお前が必要なんだ。」


「勝手なこと言いやがって・・」
「1年前、組を滅茶苦茶にしたのはアンタだろうが!」


「そうだ。」
「だから俺はその責任を取りに来た!」
桐生は大吾を殴りつけた。
「どうだ・・少しは目が覚めたか?」


大吾が笑っている。
「変わんねえな・・」
「昔から力ずくで事を動かそうとする。」
「そうした生き方しかできなかったからな。」
「俺も同じだ。」
「力で来るものには力で向かっていくだけだ!」


桐生は挑みかかってくる堂島大吾を叩きのめした。
寺田の手紙を大吾に渡す桐生。
「東城会の運命は全てこいつにかかってる。」
「俺は明日関西へ行く。」
「無傷じゃ帰ってこれないかもしれない。」
「だからお前に留守を任せたいんだ。」


寺田の手紙を読み終えた大吾が言う。
「ふざけんな。」
「自分だけ格好つけてんじゃねえぞ。」
「俺も行く。」
「俺はな、関西に借りがあるんだよ。」
「5年前、罠にはめられたんだ。」
「それ以来、俺の人生は曲がっちまった。」
「とにかくその借りを返すまでは俺は極道に戻れねえ。」
「何を言おうが無駄だ。」
「たとえアンタが行かなくても俺は行くぜ。」
大吾は寺田の手紙を桐生に返した。
「明日、駅のホームで待ってる。」
「じゃあな。」


次の日、桐生と大吾は新幹線で関西へ向かった。
「お前、5年前誰に喧嘩を吹っ掛けたんだ?」


大吾が答える。
「近江連合直参郷龍会二代目会長・郷田龍司。」
「今から会いに行く近江連合会長・郷田仁の息子だ。」
「馬鹿だった。」
「俺はそいつの罠にハマったんだ。」
「5年前、郷龍会は神室町にちょくちょく顔を出すようになっていた。」
「東城会の幹部だったら誰でも良かったんだ。」
「近江は東城会をつついて関西におびき寄せる腹だった。」
「当時、荒れていた俺はまんまと郷龍会の挑発に乗った。」
「一人で関西に乗り込んだんだ。」
「郷田龍司って奴と一対一の勝負する為に関西へ飛んだ。」
「だがそこで待っていたのは警察だった。」
「銃刀法違反でパクられ、臭い飯を5年も食う羽目になった。」
「まあアンタの10年に比べりゃまだ短いほうだがな。」
「俺はその郷田龍司って奴に借りがある。」
「それを始末しねえと東城会背負って立つなんてできねえんだよ。」
「言っておくが、近江連合ってのは半端じゃねえ。」
「裏でどんな罠仕掛けてるか分からねえ。」
「盃の話、用心してかかった方がいいぜ。」


「ああ。」


大阪・蒼天堀にやってきた桐生と大吾。
大吾はホテルで休むと言うので、桐生は一人で飲むことにした。
GRANDというキャバレーに入り飲んでいると、奥の席で郷田龍司が取り巻き達と騒ぎ始めた。
桐生が郷田の席の前に行く。
「関西の龍・・落ち着かねえ店だ。」
郷田の取り巻き達を一網打尽にする桐生。
「お前等といると酒が不味くなる。」


その様子を見ていた郷田が拍手をしながら立ち上がる。
「お見事や。」
「すまんことしたわ。」
「ウチの若い衆は血の気が多くてのう。」
「アンタは大した男や。」
「気に入った!さっきのお詫びとして奢らせて下さいや。」
「近江・郷龍会の奢りでっせ。」
「ワシの顔、立てたって下さいや。」


「郷龍会・・」


「よっしゃあ!この店で一番高い酒もってこいや!」
郷田が席に座る。
「ホンマにええ度胸しとるわ。」
「ウチの組にもアンタ程の男はおりませんわ。」
「関東の方やな?」
「アンタ程の人が関西におったら直ぐに噂が広まりますさかいに。」
「お近づきの印に、お名前教えてもらえまへんやろか?」
「ワシは近江連合郷龍会二代目の郷田龍司と申します。」
「近江連合ぐらいはご存知でしょうが、日本で一番有名な代紋ですさかいに。」
「で、お名前は?」


桐生も席に座る。
「桐生一馬だ。」


郷田の顔色が変わる。
「堂島の龍・・」
「東城会の桐生一馬さんですか?」


「いや、そんな男は知らねえ。」


郷田が豪快に笑う。
「兄さんも人が悪いわ。驚かせんといて下さい。」
「まあでも本物な訳ないわな。」
「本物やったらこんなところで酒飲んでられるわけないわ。」
「必死こいて戦争の準備しとるはずや。」
「あー、せや。」
「折角やから教えますわ。」
「ワシ、関西の龍と呼ばれんのが気に入らんのです。」
「龍はまだええ。関西がイヤなんですわ。」
「龍に関西も堂島もありゃしません。」
「極道の世界で龍と呼ばれる男は一匹でええんですわ。」
「あんたもそう思いますやろ?」


「まあな。」


郷田が言う。
「あんたとは気が合いますな。」
「これも何かの縁や。」
「ついでにもっとええ話、教えさせてもらいますわ。」
「今夜の12時ちょうど、神室町に派手な花火がドカンと一発打ち上がるんですわ。」
「ワシが仕掛けた花火です。」
「一世一代の祭りが始まるんや。」
「その幕開けの花火が神室町に上がるんや。」
「そして明日、堂島の龍は・・死ぬ。」
「それでワシは本物の龍になる。」
「少し喋り過ぎましたわ。」
「まあ桐生さんはごゆるりとくつろいでって下さい。」
「ああ、そう・・一つ言い忘れましたわ。」
「明日出かけるなら香水の一つでもつけていったほうがよろしい。」
「あんたの体からプンプン匂うんですわ。」
「血の香りが。」
「桐生一馬さん・・ほな。」
郷田は店を出て行った。


「仕掛けた花火・・12時・・」
「一体何が始まるんだ。」
桐生が腕時計を見ると、11時59分だった。


店を出た桐生は交差点の巨大モニターでニュースを見た。
モニターにはミレニアムタワーの最上階が爆発して炎上している映像が流れてる。
「先程午前零時に神室町のミレニアムタワーで爆発が起きたもようです。」
「詳しいことはまだ分かっていませんが爆発が起こったフロアーには暴力団関係の事務所があるとの情報もあり、事故以外の可能性もあるとのことです。」


警視庁神室警察署にいる須藤が携帯電話で話をしている。
須藤は警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策四課の課長になっていた。
「ああ、須藤です。」
「ええ。残念ですが、倉橋課長の読み通りとなってしまいました。」
「・・いや、まだ関西との繋がりは分かりません。」
「ええ、そうです。」
「やはり海外の組織が関係しているのではないかと思いまして。」
「・・そうですか。」
「分かりました。では私の方も手配します。」
「ええ、あの任務は伊達さん以外にこなせませんから。」
「はい・・では。」


次の日の朝、桐生は大吾と橋の上で待ち合わせをした。
「大変な事になっちまったな。」
「どうした、何かあったのか?」


桐生が言う。
「いや、昨日の夜ちょっとな。」
「ま、今はいい。」
「お前は後で姐さんに電話して柏木さんの安否を確認しておいてくれ。」


「ああ、分かった。」
「じゃあ近江連合に行く。」
「車で行くぞ。乗ってくれ。」


ちょうどその頃、府警組織犯罪対策部組織犯罪対策第四課長の別所勉の所に須藤から電話が入った。
「近江連合と東城会が盃交わすやと?」
「ほんで天下の警視庁はんは府警に何せい言うんでっか?」


須藤が言う。
「桐生の身柄を確保していただきたい。」
「もし盃の話がこじれて桐生が殺されでもしたら、泥沼の抗争になるのは間違いありませんから。」


「つまりワシ等、警察がヤクザの身辺保護をせいっちゅう事でんな?」
電話を乱暴に切る別所。
「ホンマ勝手なことばかりヌカしやがって!」


大阪府警第四課主任警部補の狭山薫が近づいてきた。
「課長、誰からですか?」


「ん?ああ、警視庁の四課長からや。」
「桐生一馬が乗り込んで来たんやと。」
「東城会の四代目や。」
「あいつにこっちで死なれでもしたら西と東の大戦争や。」
「せやからワシ等に身辺保護をせいっちゅうとんのや。」
「ホンマ、アホらしい。」


「その任務、私にやらせてください。」
「チャンスやと思いませんか?」
「桐生一馬の命を守る。」
「その名目さえあれば私が関東で捜査しても問題ないという事ですよね?」


別所が言う。
「なんじゃい、お前の狙いは関東に乗り込んで府警四課の力を見せ付けて警視庁見返しちゃろうっちゅうてんのか?」


「展開によっては総動員体制もとれます。」


別所がタバコに火を付ける。
「そりゃおもろいな。」
「さしずめ府警四課の関東進出やな。」
「ちょっと待てや、お前、東城会に拘っとるんと違うやろな。」


「違います!」
「私は府警四課の主任として言ってるまでです。」


別所が言う。
「ホンマやな?」
「分かった。ほないっちょ行ってこいや!」


近江連合の門前にやってきた桐生と大吾。
「昨日の爆発・・風間組の事務所は粉々に吹っ飛んだそうだが、柏木組長は無事だそうだ。」
「近江連合の仕業じゃねえだろうな?」


桐生が言う。
「恐らく郷田龍司だ。」
「昨日、蒼天堀で会った。」
門が開いた。
「行くぞ。」


屋敷の最上階に行くと、車椅子に乗った郷田仁がいた。
「五代目近江連合会長の郷田仁と申します。」
「桐生四代目のお噂はかねがね。」


桐生が言う。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。」
「東城会四代目、桐生一馬です。」


「堅苦しい挨拶は終わりにして近江連合の執行部を紹介しましょう。」
「私の横に居るんが総本部長の高島です。」
「本部長やった寺田の後任となります。」


五代目近江連合本部長兼直参近江高島会会長の高島遼が頭を下げる。
「宜しくお願いします。」
「寺田・・いや、東城会五代目とは兄弟分でした。」
「この度は誠に残念でした。」


大吾が口を挟む。
「ちょっと待った。」
「おい、そこのあんた。今何て言った?」
「残念だと?何寝ぼけたこと言ってんだ。」
「お前等が殺ったんだろうが!」


高島が言う。
「寺田を殺したのは確かに近江の系列です。」
「ですが本家の命令ではありません。」


「ギャーギャー騒ぐな、兄ちゃん。」
五代目近江連合直参千石組組長の千石虎之助が持っていた扇子を大吾に投げつける。
「ええか?こういう会合には格っちゅうもんがあるんや。」
「兄ちゃんみたいな人間が来るとこちゃうんや。」
「ええ?そやろ?東城会の四代目はん?」


桐生が頭を下げる。
「すみません。こちらが無礼を致しました。」


郷田仁が言う。
「寺田の一件に関してはホンマに申し訳ない。」
「上座からですが、お詫び申し上げます。」


千石が口を挟む。
「ちょっと待った!謝る必要なんてあらへん!」
「元々寺田はウチの人間やったんや。」
「組織裏切った人間、焼こうが煮ようがこっちの勝手でっしゃろ?」


大吾が立ち上がる。
「クサい芝居はやめろ。」
「アンタ等全員本当に悪いと思ってんのか?ええ?郷田さんよ。」
「アンタ一年前、寺田の背後で政治家の神宮とつるんで東城会乗っ取ろうとしたじゃねえか。」
「知らねえとは言わせねえぞ!」


郷田仁が言う。
「確かに。ですがあれは私や執行部の仕業ではありまへん。」


高島が言う。
「桐生さん、堂島さん、郷田の口からは申し上げ難い話なので私の方から説明致します。」
「実は1年前の神宮との件は直参郷龍会会長が独断で行ったことなんです。」
「郷田龍司・・彼は親父の実子です。」
「親の心子知らずとはこの事で、奴は近江の代紋を使って勝手な行動を次々・・」
「寺田襲撃を実行したのも郷龍会によるものかと思います。」


桐生が言う。
「では、龍司が寺田殺しを命令したと?」


「恐らくは・・」


「アホらし・・やっとられんわ。」
千石が立ち上がる。
「ま、後は勝手にやっておくんなはれ。」
「寺田の香典が必要やったら声かけてくださいや。」
「10億でも20億でも用意しますさかい。」
「ほな。」
千石は部屋を出て行った。


郷田仁が言う。
「桐生さん、これが近江連合の現状です。」
「直参120、構成員3万5千・・」
「巨大になりすぎた組織を統制するのは至難の業です。」
「この高島は若うて器量もある。寺田もそうやった。」
「ですがね、今の千石や龍司のように他の若い連中は言う事を聞かへん。」
「桐生さん、寺田を失うたんは東城、近江関係なく痛い事や。」
「今こそ東と西の力を均衡させる事で争いの種を取り除きたいと私は思ってる。」
「桐生さん、あんたならそれが出来る。」
「是非東城会を建て直してください。」
「その為に近江連合の力が必要なら私は喜んで力になります。」


桐生は立ち上がって寺田の手紙を郷田仁に渡した。
「寺田から預かった書状です。」
「あいつは郷田会長との盃を願っていました。」
「東城会としては寺田の願いに従い、近江との五分の盃を望んでいます。」
「受けていただけますか?」


手紙を読み終えた郷田仁が言う。
「お受けいたします。」


桐生が言う。
「そうですか。」
「では直ぐにでも東城会五代目代行の堂島弥生をこちらに向かわせます。」


郷田仁が言う。
「いや、そうは行きまへん。」
「今度はこちらから出向く番です。」
「神室町へ行きましょう。」


「はい、有難うございます。」


そこに郷田龍司が乱入してきた。
「やっぱりアンタ、本物の堂島の龍やったんや、桐生はん。」
「近江と東城が五分の盃やと?」
「八対二・・いや、九対一の間違いとちゃうんか?」


大吾が郷田龍司の前に行く。
「俺を覚えているだろ?」
「お前に5年前ハメられた堂島宗兵の息子、大吾だよ。」


「知らん。」


「盃なんて関係ねえ。」
「俺はお前に借りを返さなきゃならねえんだよ!」
大吾が郷田龍司に殴りかかるが、あっさりと返り討ちにされる。
「ザコなんぞ覚えてられるか。邪魔やねん。」
「そこで寝とけや。」


「やれや。」
郷田龍司の合図で郷龍会の組員が近江連合執行部に銃を向ける。


桐生が言う。
「ここをどこだと思ってんだ。」
「近江連合の本部だぞ。」


「そないなことはわーっとりまんがな。」
日本刀を抜く郷田龍司。
「ワシ等はクーデター起こしに来とんのやから。」
「今、東城会さんにウチの親父と話させるわけにはいきませんねん。」
「盃なんぞ交わしてもたらワシの計画がパァや。」


近江連合の執行部が全員部屋から出された。
「お前の狙いはやはり戦争なのか?」


「そや。西と東の大戦争。」
「それこそがワシの狙いや。」
「それともう一つ。」
「アンタの首や。」
「悪いがその価値があるか、試させてもらいまっせ。」


桐生は襲いかかってくる郷龍会組員達を倒した。
「いやあ、さすがでんなあ。」
「昨日よりも迫力あるわ。」
「やっぱこれぐらい強ないとやりがいが無いってモンですわ。」


大吾が起き上がり、郷田龍司を殴り飛ばす。
「お前の好きにはさせねえぜ。」
「俺との勝負が先だろうが!」
「桐生さん、悪いがこいつは俺がやる。」
「アンタは郷田会長を。」


郷田龍司が起き上がる。
「意外にやるやないか。」
「まあええやろ。」
「そないに死にたいなら先に殺ったろやないかい、ボケがあ!」


桐生は郷田仁を追いかけ、郷龍会から救い出した。
「桐生さん、息子の失態・・あんたに助けていただくとはお詫びのしようもありまへん。」


桐生が言う。
「東城も近江も関係ありません。」
「御気になさらず。」


そこにフラフラ状態の大吾がやってきた。
「桐生さん、やっぱあの男・・ただモンじゃねえ。」


郷田龍司が追いかけてくる。
「勝負はまだついとらんやろうが!」


桐生が大吾に言う。
「お前は郷田会長を連れて東城会へ行け。」
「今は郷田会長が東城会と盃を交わす方が先決だ。」
「それにお前を、ここで死なすわけにはいかない。」
「ここは俺の言う通りにしろ。」


「・・分かった。」
大吾は郷田仁を連れて東城会へ向かった。


郷田龍司が言う。
「やっと二人きりになれたのう。」


「会長は東城会が預かる。」
「この盃、絶対に邪魔はさせねえ。」


郷田龍司が言う。
「まあええ。」
「アンタを倒して奪い返しゃええだけの話や。」
「本物の龍はどっちか・・決着つけようやないか!」


桐生は郷田龍司を叩きのめした。
「まだ勝負は終わっとらんわ・・」


桐生が言う。
「俺は対等じゃねえ勝負は嫌いなんだ。」
「お前は大吾とやりあった。」
「あいつは強い。」
「まともな状態じゃねえはずだ。」


郷田龍司が言う。
「どっちかが死ぬまで勝負は終わらへんわ。」


サイレンの音が聞こえる。
「クソが!」
「覚えとけや。」
「勝負はまだ終わっとらんで!」
郷田龍司は逃げていった。


警察車両から大阪府警第四課主任警部補の狭山薫が降りてくる。
「本部内の全員、連行や!」


狭山が桐生の前にやってくる。
「桐生一馬さんですね?」
「府警四課の狭山薫です。」
「あなたを傷害の現行犯で逮捕します。」
桐生は逮捕されてしまった。


伊達が警視庁にやってきた。
伊達は1年前の事件が原因で刑事を辞めていた。
辞表を神室署署長に投げつけた後、一発殴ったという話が伝説として残っている。
警視庁に入った伊達のところに瓦次郎がやってきた。
「神室町で誓った極道との友情・・」


伊達が驚く。
「あんた、どうしてここに?」


「知らなかったか?俺は今、公安所属の刑事なんだ。」


伊達が言う。
「あれだけ銃をブッ放していた男が公安の刑事か・・」
「ふざけた話だ。」


「人聞きの悪いこと言うなよ。」
「もう昔の話じゃねえか。」


伊達が言う。
「俺にとっちゃ、今でも昨日の事のように思い出すぜ。」


瓦次郎が言う。
「目の前で容疑者を殺されたのがそんなにトラウマになってんのか?」


「まあな。」
「でも今は関係ねえ。」
「あんたと会う事ももう無いはずだ。」


瓦次郎が伊達を引き止める。
「待てよ。」
「それがそうもいかねえんだ。」
「お前、須藤に呼ばれて来たんだろ?」
「奴が待ってる。」
「一緒に来い。」


伊達は地下3階に連れて行かれた。
「地下3階か・・」
「随分とおかしな場所に連れてくんだな。」
「ここは良くない噂ばかり流れていたからな。」
「地下3階、13号資料室・・」
「警視庁、開かずの間って奴か。」
「不祥事の間とも言われてた。」


中に入ると須藤と公安部外事二課課長の倉橋警視正がいた。
「伊達さん、態々ご足労頂いて申し訳ありません。」
「こちら公安部外事二課課長の倉橋警視正です。」


倉橋が言う。
「伊達さんのお噂はかねがね・・倉橋です。」


伊達が驚く。
「公安二課?どうしてアジア専門の公安二課がここに?」


須藤が言う。
「実は昨日も伊達さんに連絡したように今我々四課は近江連合の動きを追っています。」
「ですが裏に海外、特に中国・韓国系の組織が絡んでいるのではないかと。」


伊達が言う。
「海外マフィアってことか・・」


倉橋が言う。
「実は私達二課は1年程前からアジア系マフィアの調査を進めていまして。」
「近々何か大きな動きがあるという情報を掴んでいましてね。」
「予想はしてたんですよ。こんな事件が起こるんじゃないかってことを。」


須藤が言う。
「私は倉橋課長から内々に要請を受けまして、数週間前から神室町の様子を探っていました。」
「すると・・爆発が起こった。」
「予想は的中してしまったわけです。」
郷田龍司の写真を見せる。
「五代目近江連合直参郷龍会二代目会長、郷田龍司という男です。」
「寺田殺害を実行したと思われる近江連合の実力者です。」
「実はその郷田が爆発をほのめかす電話をしていたとの情報がありまして。」


倉橋が取り出したボイスレコーダーから郷田龍司の音声が流れる。
「これだけは言うておくがワシとアンタ等は仲間やない。」
「神室町を火の海にする。目的が一緒なだけや。」
「事が終わったら赤の他人。」
「分かっとるな?」


須藤が言う。
「この関西弁の男が須藤龍司本人と思われます。」


伊達が言う。
「なるほど。じゃあ四課と二課はこの電話相手の男が何者なのかを探っているのか。」


倉橋が言う。
「そうです。この男の正体を探り出し、近江連合と繋がっている組織を明らかにするのが狙いです。」
「この音声の全てのノイズを除去してみましたが場所の特定までには至ってません。」
「実は伊達さんにはこの男に近づいていただきたいと思いまして・・」
倉橋はスターダストの一輝の写真を取り出した。
「伊達さんもよくご存知の男です。」
「神室町でスターダストというホストクラブを経営する男。」
「源氏名、一輝です。」


須藤が言う。
「実は半年ほど前、1度だけ郷田龍司が神室町にやって来たことがありまして。」
「その時接触したのが一輝なんです。」
「彼には一輝という名前の他に別の本名がありまして。」
「康珍羽。」
「彼はれっきとした韓国人なんです。」
「伊達さんにはそれとなく一輝に近づいて揺さぶりをかけて欲しいんです。」
「彼が韓国組織の構成員なのかどうか。」
「それを探ってみて下さい。」


倉橋が言う。
「あなたと彼の間には1年前の事件で培った信用があります。」
「これはあなたにしか出来ない任務なんですよ。」


逮捕された桐生は狭山薫が運転する車に乗せられた。
「俺だけどこへ連れてくんだ?」
「おい、聞いてるのか。」


狭山薫は無言で車を走らせる。
しばらすると車が停止した。
「ここまで来ればもう大丈夫だわ。」
「傷害罪は表向きの口実。」
桐生にかけられた手錠を外す。
「あなたの身辺保護を頼まれたのよ。」
「逃げようとしたら即座に逮捕するわ。」


その時、ビルの屋上から狙撃を受けた。
すぐに気づいた桐生が狭山薫をかばうが、狭山薫は左肩を撃たれてしまった。
「たいしたことないわ・・」


傷口を見る桐生。
「弾丸が貫通してない。このままじゃ危険だ。」
「おい、近くの病院はどこだ?」


「蒼天堀にある葵っていうスナックへ・・」
狭山薫は意識を失った。


桐生はスナック葵に狭山薫を運び込んだ。
スナックのママ、狭山民世に治療してもらった狭山薫はソファで眠っている。
「病院に居たのか?手馴れたもんだったな。」


「かなり昔のことや。」
「ウチはな、この子の親や。」
「まあ血は繋がってへんけどな。」
「一応これでも母親や。」
「育ての親っちゅうほうが近いな。」
「この子、孤児やねん。」
「生まれて直ぐ両親が死んでもうてな。」
「せやからウチが育てたんや。」


桐生が言う。
「撃たれた時、あいつは葵って店に行けといったんだ。」
「普通人間はああいう状況下で店の名前を言わない。」
「母親や父親の事を先に言うんだ。」
「俺も孤児だったから分かるんだ。」


狭山民世が言う。
「まあ、薫にとったらウチはホンマのオカンちゃうしな。」
「気にせんといて。ウチは全くそういうの気にせえへんから。」
「そんなことよりあんた、薫と同業?それとも探偵さんか何か?」


「いや、そんな立派なもんじゃねえ。」
「まあ、警察の敵っていったところだ。」


狭山薫が目を覚ました。
「ママ、お喋りしすぎやで。」


「痛むか?」


狭山薫は左肩を押さえながら起き上がった。
「アンタに心配される筋合いじゃないわ。」
「ヤクザ風情に礼いう程、私も落ちちゃないわ。」


「まあいい、それだけ口がきけりゃもう大丈夫だ。」
「しかし郷田龍司がこれほど手回しがいいとは思わなかった。」


左肩から取り出された弾丸を見る狭山。
「これは・・郷田龍司の仕業じゃないわ。」
「郷龍会は力で相手をとことん追い詰めてトドメを刺す。」
「それが奴等のやり方よ。」
「こんなプロの殺し屋を雇うような手の込んだ真似はしないわ。」
「あの距離からライフルを扱える者はそうはいないわ。」
「それにこの弾丸、通常のライフルで使用する弾丸より口径が小さい。」
「殺すつもりじゃなかったのかもしれないわ。」


「つまり相手は俺を脅そうと?」


狭山が言う。
「さあ、分からないわ。」
「それは直接犯人から聞くしかないわね。」


立ち上がり店を出ようとする桐生。
「雇い主を探す。」
「このままじゃ俺は誰と闘えばいいのか分からないからな。」


狭山が銃弾を桐生に差し出す。
「それならこれ持って招福町の雀荘へ行きなさい。」


銃弾を受け取る桐生。
「情報屋か。」


「3人卓で打っているチャンチャンコを着た男。」
「あなたがレートは?と聞くと向こうがいつもどのぐらいで打ってる?と聞き返す。」
「そこであなたはアンタに任せると答える。」
「そうしたら相手はでたらめなレートを言うわ。」
「とにかくそれを受けて。」
「一言言っておくけど、あなたは府警の監視下にあるの。」
「逃げるような真似しないでね。」
「私の電話1本で即座に逮捕できるんだから。」
「分かったわね?」


「ああ。」
桐生は招福町の雀荘へ向かった。
チャンチャンコを着た男は江崎と名乗った。
江崎に合言葉を言い、銃弾を見せる。
「こらあ、近江高島会や。」
「寺田・・いや、東城会五代目とは兄弟分でした。」
「この弾丸、大陸からの密輸銃でしか使用できへんタイプの特殊なもんや。」
「今関西でこのルートから武器を調達しとるんは近江高島会しかない。」
「高島が他に流しているという線は無いな。」
「あの高島っちゅうやっちゃ、そないな危ない橋は渡らんのや。」
「他に流して足つくようなマネはせん。」
「密輸はあくまで安うてええ武器を手に入れる手段でしかないんや。」
「ワシが話せんのはここまでや。」


「なぜ高島が・・」
「まだ教えてもらいたい事がある。」
「高島の裏を教えてくれ。」


江崎が言う。
「別料金や。」
「それにちっとばかり値が張んで?」
「30万や。」


桐生は江崎に30万を払った。
「高島って奴は東都大卒で官僚と繋がっとるらしい。」
「近江連合では郷田五代目への絶対的な忠誠心で若くして執行部にのし上がったってもっぱらの評判や。」


江崎の携帯電話が鳴る。
「え?ホンマでっか?」
「分かりました。」


桐生が立ち上がり帰ろうとする。
「世話になったな。」


「おいおい、待てや。」
「桐生一馬さん。」
「アンタ、1億円になってしもたわ。」
「懸賞金や。悪う思わんといてな。」
「その首に1億がかかっとりゃ誰でも目が血走るわな。」
「ま、東城会先代の首としちゃ安いかもしれへんけど、ワシらにとったら大金や。」
「死んでもらうで!」


桐生は襲いかかってくる江崎と雀荘にいたチンピラ達を倒した。
江崎の首根っこを掴む。
「俺の首に懸賞金をかけたのは誰だ?」


江崎が言う。
「千石組や!」
「郷田、高島、千石に狙われて・・アンタ、八方塞がりやで。」
「アンタは・・跡目争いのゴールなんや。」


大阪府警の取調室で高島が携帯電話で話をしている。
「じゃあ計画は成功したんだな?」


電話の相手が言う。
「はい、親父の指示通り軽く怪我させる程度に。」


高島が言う。
「弾はどうした?」


「それも手筈通りです。」
「あの桐生って男が余程の馬鹿じゃない限り、車内に残った弾丸からウチの仕業だと気がつくでしょう。」
「でもどうしてこのような事を?」


高島が言う。
「これで奴は誰も信じることが出来なくなる。」
「今はそれだけで十分だ。」


「分かりました。」
「で、この後はどうしましょうか?」


「暫くの間待機だ。」
「このまま泳がせておけ。」
「時間はある。」
高島が電話を切ったと同時に別所が取調室に入ってきた。
「何やお前、電話しとったんかい。」
「取り調べ舐めとんのか!」


高島が言う。
「単なるビジネスの話ですよ。」
「私も色々忙しいんで。」


「極道風情がカッコつけんなや。」
「コッチは裏でお前が汚いこと仰山やっとんの知っとんのじゃ。」
「噂やとオノレん所の組織がライフル密輸しとるそうやないか?」


高島が言う。
「任意の取り調べですよね?」
「お答えする義務はないはずですが。」
「別件の取り調べでもやるつもりですか?」
「こっちは被害者なんですよ。」
「捕まえるなら桐生一馬のほうなんじゃないですか?」


別所が言う。
「他の幹部連中の話と違うがな。」
「お前、桐生の味方ちゃうんか?」


「まさか。」
「近江は被害者です。」
「さっさと桐生をあの女刑事さんに捕まえさせて下さいよ。」
「簡単な話ですよね?」


別所が高島を睨みつける。
「お前、なんで侠山の事・・」


「まあいいでしょう。」
「ところで別所さん、本部長から何かお達しがあったんじゃないですか?」


別所が言う。
「ああそうや。」
「ご丁重にお帰りいただけって言われたわ。」
「もう帰ってええ。釈放や。」


「そうですか。」
「では・・」
立ち上がり帰ろうとする高島に別所が言う。
「高島お前、何企んどるか知らんがなんぼ府警の上層部と繋がっとっても逃げられへんど。」
「郷龍会の肩持つような真似しくさったら直ぐにお縄じゃ。」
「わかっとんな?」


「別所さん、もう極道と警察が喧嘩する時代は終わったんですよ。」
高島は取調室を出て行った。


千石組の事務所で千石が話をしている。
「そうか・・ほな雀荘で桐生を仕留める事はできへんかったっちゅうこっちゃな?」


組員の男が言う。
「せっかくあの女刑事の情報源を先取りしてゼニに困った情報屋連中を焚きつけたんですが。」


千石が言う。
「あないなシロウトに桐生の首は殺れん。」
「まあええ。少しは大阪で遊ばしたれや。」


「せやけどこのままやったら郷龍会に遅れとりまっせ。」


千石が言う。
「あの若ボンに何が出来るっちゅうねん。」
「所詮、正面からドンパチやらかしてムショ行きがええとこや。」
「あの桐生っちゅう奴、絶対に神室町に戻る。」
「そうなればあの若ボンも後を追うはずや。」
「その前にこの10億・・神室町にバラ撒いてこいや。」


桐生がスナック葵に戻ると、民世と薫が言い争いをしていた。
「このままやったら体がもたへんよ!」


薫が言う。
「放っといて!」
「ママが何も話してくれへんからやないか!」


「何遍も言うてるやんか。」
「アンタの両親とヤクザは関係ないって。」


薫が言う。
「だったら教えてよ。私の本当の親は誰なの?」
民世は何も答えない。
「もうこの話はええわ。」
「とにかく私はあの桐生一馬を追いかける。」
「あの男が東城会の人間だから。」
「彼の身辺保護をすれば東城会に近づける。」
「そうすれば過去に何があったか調べることが出来るわ。」


物陰から会話を聞いていた桐生がスナックの中に入る。
「まだ痛むか?」


薫が言う。
「もう何とも無いわ。」


薫の携帯電話が鳴った。
「狭山です。」
「あ、はい。」
「ちょっと怪我をしまして・・はい。」
「・・はい、一緒です。」
「え?あ、はい。分かりました。」
薫が桐生に携帯電話を渡す。
「ウチの課長から。」


電話に出る桐生。
「桐生だ。」


「府警四課の別所や。」
「ウチの狭山から捜査の話は聞いとるな?」
「聞いて腰抜かすなや。」
「あんたの連れと郷田会長がどこぞの連中に誘拐されよった。」
「駆けつけたウチの捜査員に、あいつらマシンガンぶっ放して逃げおったそうや。」
「そんでそいつら、外国語喋っとったそうや。」
「心当たりあるか?」


桐生が答える。
「いや・・」


「そうか・・ほんならええわ。」
「それが知りたかっただけや。」
「それよりさっさと神室町へ戻った方がええんやないか?」


桐生が言う。
「だがこのまま大吾と会長を放っとくわけにはいかない。」


「逃げた車のナンバーは神室町方面のナンバーやったそうや。」
「ワシが言えるのはそこまでや。」
「立場もあるしのう。」
「ええか?お前のタマぁ四課と狭山が握ってるっちゅうのを忘れんなよ。」
「ほな。」
電話が切れた。


「神室町に戻る。」
「府警の管轄外だ。お前は残ってもいいんだぞ。」


狭山が言う。
「あなたの身辺保護を頼まれた以上、管轄なんて無いわ。」
「私も行く。」


桐生は狭山と一緒に神室町に向かった。
熱が出てフラフラしている狭山をセレナに連れて行く。
「俺の馴染の店だった所だ。」
「無理してついて来るからこうなるんだ。」
「あれから営業はしてないようだが電気は使えるようだ。」
ソファに狭山を寝かせると、桐生の携帯電話が鳴った。
「柏木だ。無事だったか。」
「今どこにいるんだ?」


「神室町に戻って来たところです。」


柏木が言う。
「関西は大騒ぎになっているそうじゃないか。」
「一体何があったんだ?」


「郷田会長と大吾が何者かに連れ去られたんです。」
「詳しい事は東城会本部で。」


「分かった。幹部衆は俺が集めておく。それじゃあ。」
電話が切れた。


桐生は一人で東城会本部に向かった。
途中で再び桐生の電話が鳴る。
「桐生一馬さんですね?」
「堂島大吾を助けたいのなら明日の深夜1時、神室町の天野ビルまで起こし下さい。」
「来ていただければ全て分かりますよ。」
「ただし、絶対に一人で来て下さい。」
「では。」
電話が切れた。


東城会本部で幹部達に事情を説明する。
「郷田龍司は何が何でも関東と関西の全面戦争に持ち込む腹づもりです。」
「2人を連れ去った海外組織の正体は分かりません。」


堂島弥生が言う。
「それで大吾を連れ去ったその男は深夜の1時、天野ビルに1人で来いと言ったんだね?」
「これは罠だよ。」


桐生が言う。
「分かっています。」
「ですが行かないことには相手の素性も狙いも掴むことができません。」


柏木が言う。
「その海外組織と郷龍会は裏で繋がっているのか?」


「間違いないでしょう。」
「郷田会長と大吾を誘拐するのは郷龍会以外に考えられませんから。」


柏木が言う。
「俺の組事務所を爆破したのもその海外組織の仕業か。」


堂島弥生が言う。
「ということは神室町に詳しい組織に違いない。」
「それならなおさら1人で行くのは危険だ。」
「新藤、天野ビルがある所はお前のシマ内だったね?」
「相手に気づかれないように桐生の警護をしてやってくれ。」


東城会直系二代目錦山組組長、新藤浩二が言う。
「お断りします。」
「うちの若い衆は桐生の叔父貴に組潰されかけた恨みを忘れちゃいません。」
「ですから警護など・・」


柏木が怒る。
「馬鹿野郎!あれは錦山が裏切ったからだろうが!」


新藤が言う。
「そのことは重々承知しております。」
「しかし自分達は錦山の親父に惚れてこの世界に足踏み入れたんです。」
「今でも親父に対する思いは変わりないんです。」
「例え東城会の代紋を外されようと、それだけは・・」


桐生が言う。
「分かった。」
「錦の男気を1番よく知っているのは俺だ。」
「お前達の気持ちはよく分かる。」
「ただ、1つだけ聞いておく。」
「俺に対する恨み以外、腹ん中に包み隠してるもんはないだろうな?」


新藤が答える。
「ありません。」


「そうか、それならいい。」


桐生は一度セレナに戻った。
狭山は熱が引いて元気そうだ。
「なあ、東城会の過去を調べるために俺に近づいたと言ってたな。」
「盗み聞きするつもりはなかった。」


狭山が言う。
「そこまで分かっていてなぜ神室町に連れて来たの?」


「東城会と聞いたからな。」
「何があったのか、教えてくれ。」


狭山が言う。
「ママが話していた通り、私は本当の親を知らないまま育ってきたの。」
「小さい頃から病気で死んだと聞かされていたけど、ママが何か隠している事は薄々感じてた。」
「そんな時ママが電話で怒鳴っているのを聞いちゃってね。」
「薫は東城会のせいで不幸になったってね。」
「あの時ママは私の過去を知っている人と話をしてたんだと思う。」
「それから十数年、何度となくママにそのことを聞いても何も教えてくれない。」
「そんな事聞いても幸せになれないって言うばかり。」
「ママの反応を見れば分かる。」
「絶対に何かを隠してる。」
「でもママを問い詰め続けるのは私も辛い。」
「だから警察官になって自分自身で調べる道を選んだの。」


桐生が聞く。
「お前は両親を東城会に殺されたと思っているのか?」


「これだけ自分の生い立ちを隠されたらそう推測するのが普通でしょ?」
「相手に手の内がバレちゃ、刑事失格よね。」


桐生が言う。
「お前の気持ち、分からないでもない。」
「俺にも隠された過去があったんだ。」
「だが俺はそれを知ってしまったことで苦しかった。」
「知らないほうが良かったとさえ思った。」
「もしかしたら人間には、知らなくてもいい過去があるんじゃないのか?」


「それは自分の過去を知っている人間のセリフよ。」


桐生は情報を仕入れるため、狭山を連れて賽の河原に向かった。
花屋に会いに行くが、なぜか真島が現れる。
「待ってたで、桐生チャン。」
「桐生チャンが堅気になってしもうてこの1年、メッチャ淋しかったわ。」
「せやけど桐生チャンなら絶対にこの街に帰ってくると思っとったで。」
「何や桐生チャン、もう女作ったんかい。」
「このスケコマシが。」
「照れることないやんけ。なあ姉チャン。」


狭山が警察手帳を見せる。
「府警第四課主任、狭山薫です。よろしく。」


「府警?四課?姉ちゃん、デカなんか。」
「桐生チャン、どないなってんねん。」


桐生が言う。
「それよりどうしてアンタ、ここにいるんだ?」


「ここの前の親分が居なくなったからや。」
「通称サイの花屋。元警官のオッサンや。」
「何や情報渡すときに花束使こうてたからそないな名前になってもうたらしいわ。」
「花屋は今、表の人間になったらしいわ。」
「何や警察の下請けで神室町のモニター映像から情報提供をやってるらしいわ。」
「ま、ある意味花屋にとっちゃ元のサヤに戻ったってだけのことなんやがな。」
「それがきっかけで賽の河原は機能せんようになったんや。」
「そこで俺は真島建設を立ち上げて神室町ヒルズの建設事業を請け負った。」
「上に建っとったやろが、バカでっかいビルの鉄骨が。」
「アレが神室町ヒルズや。」
「ま、俺のホンマの狙いはそれに乗じてこの地下街を丸ごと頂く事やったんやがなあ。」
「で、今日は何の用や?」


桐生が言う。
「東城会に戻ってくれ。」
「今の東城会にはアンタが必要なんだ。」
「戻ってくれ。」
「東城会を救うには真島組の力が必要なんだ。」


真島が言う。
「しゃあないなぁ。」
「東城会に戻ればええのか?」


「あんたが東城会に収まる器じゃない事は知ってる。」
「今は組に戻るよりも、組を助けてやって欲しいんだ。」


真島が言う。
「分かったわ。桐生チャンの頼みやからな。」
「せやけど、そないに東城会はピンチなんか?」


「実は新藤率いる錦山組が東城会から抜けるかもしれない。」
「その上郷龍会がいつ攻めてきてもおかしくない状況だ。」


真島が言う。
「しかしまあ、何かスッキリせんなあ。」
「何か作為的なモンを感じるんや。」
「確か寺田は近江連合に殺されたんやったな?」
「それがおかしいんや。」
「寺田が東城会の五代目になってから、近江とはそないに敵対しとらんかったからなあ。」
「まあ相手があの郷龍会ならやりかねんが。」
「少なくとも殺される程の揉め事はなかったはずや。」
「今となっちゃ俺も東城会におらんから詳しい事は分からんが、俺は寺田の事は好かんかったわ。」
「平和やら和睦やら共存やら、理想ばっかり語りよって。」
「結局東城会はそのへんの組織からも舐められるようになってしもた。」
「それにあいつは、結果的に東城会を混乱させたからな。」
「ヤツは周りで言うほど立派な極道やなかったわ。」
「寺田は自分の言うことに従うイエスマンしか周りにおかんかったんや。」
「俺や柏木のオッサンとかの古参衆は真っ先に除け者扱いにされた。」
「若頭代行なんぞ言うとるが、実際はお飾りや。」
「ミレニアムタワーにデッカイ事務所作っても、寺田の命令無しには一切動くことはできんかった。」
「俺はそんな寺田のやり方に嫌気がさして組割ったんや。」
「ま、他人の腹の中までは探れへんっちゅうことよ。」
「桐生チャン、人を信じるのもええけど気いつけなあアカンで。」
その時、警報が鳴り響く。
「ちっ!またかいな。」
「連中もしつこいのう。」
「現場に不審な侵入者が出た時に鳴るようになっとるんや。」
「最近そういう輩が多くてのう。」
「うちの神室町ヒルズの計画を奪い取ろうとしている連中や。」
「またひと暴れするで。」
「うちに何度も喧嘩売るとはええ度胸やないかい。」


外に出ると株式会社武藤不動産代表取締役、武藤敬司がやって来た。
「真島さんにヒルズ計画を譲ってほしいってお願いしてんだけど、なかなかOKしてくんなくてさ。」
「真島さんも堅物だよね。」
「いくら金積んでもOKしてくんねえんだもん。」
「まあそっちがその気なら、こっちは強引にやるだけだけどな。」
「なあ、蝶野?」


隣にはギャングチーム・カラーズ総長、蝶野正洋がいる。
「ああ。」


「俺のパートナーの蝶野だ。」
「この辺で一番でかいカラーズっていうギャングチームを束ねてる。」


蝶野が言う。
「よろしく頼むぜ、真島さんに桐生さんだっけな。」
「建設会社の一つや二つ、うちの下っ端連中だけで処理できると思ったんだが、とんだ勘違いだったな。」
「あんたらなかなかやるじゃねえか。」
「カタギにしとくのはもったいねえぜ。」
「こんな助っ人が出てきたんだ。こっちも何かしら策をうたねえといけねえんじゃねえか?」


武藤が言う。
「策ねえ。例の地上げ三銃士にお願いするか?」
「俺は好きじゃねえけど。」
「遊びはこれまで。」
「次は本気でいかせてもらうからな。」
武藤と蝶野は帰っていった。


桐生と狭山は一度セレナに戻った。
「12時を過ぎたわよ。」
「堂島大吾が1時にあなたのお迎えを待ってるんじゃないの?」
「何のんびりしてんのよ。行かなくていいの?」


桐生が言う。
「なあ、お前は怖くないのか?」
「隠された自分の過去を調べることだ。」
「実はな、俺の両親は東城会に殺されたんだ。」
「1年前に知った。」
「両親を手にかけたのは俺をこの道に導いてくれた風間新太郎という親っさんだった。」
「俺は風間の親っさんを本当の親と思って育ってきたから許すことができた。」
「だがあんたはどうだ?」


「私だったら・・両親を殺した人間を知ったらそれが例え誰であっても許すことは出来ないと思う。」
「正直怖いわ。過去を知るのって。」
「でもいいの。」
「それが私の選んだ道だから。」


桐生が言う。
「そうか。」
「なら俺を利用すればいい。」
「俺に張りついて東城会を探れ。」
「それがあんたの過去を探る近道だったらな。」
「俺は極道だった自分を誇りに思っちゃいない。」
「もし俺が関係していたら、そん時は迷わず俺に向かって引き金を引けばいい。」
「あんたはその相手を許すつもりはないんだろ?」


「そうね・・そうするわ。」


ちょうどその頃、伊達と瓦次郎はスターダストに来ていた。
ユウヤが二人に酒を用意する。
「本当にお久しぶりですね。」
「あの時は伊達さんにはお世話になりました。」


伊達が言う。
「しかし初めて会った時はチンピラみたいだったが、店長らしくなったもんだ。」


一輝がやって来た。
「いらっしゃいませ。」
「ところで今日はどんなご用件で?」


伊達が言う。
「お前だけに話があるんだ。」


「ああ、俺つまみを用意してきます。」
ユウヤが席をはずした。


伊達が一輝に言う。
「今から1時間後の午前1時、ここへ捜査陣がガサ入れに来る。」
「ここだけじゃない。目ぼしい風俗店、飲み屋、カジノがターゲットだ。」
「この前のミレニアムタワーの爆破だ。」
「確かな情報によるとどうやら外国人の組織がホシらしい。」


瓦次郎が言う。
「あれだけ派手にやられりゃ警視庁の面子は丸潰れだ。」
「そこでだ、400人の捜査陣を動員して不法滞在の外国人を一網打尽にするって作戦だ。」
「風営法に色々と引っかかるところがあんだろうが。」
「早いとこ店を閉めねえとしばらく営業できなくなんぞ。」


一輝が言う。
「でもどうしてそんな重要な情報を私に?」


伊達が言う。
「1年前この店には迷惑をかけた。」
「そのお詫びだ。」


「そうだったんですか。」
「伊達さん、瓦さん、本当にありがとうございます。」
一輝は頭を下げて席を離れていった。


瓦が言う。
「さあ、これでヤツが組織の人間なら仲間に直ぐに知らせに行くはずだ。」


伊達が言う。
「俺には信じられねえ。」
「ヤツが海外組織の一員だなんてな。」


「あれだけの事をやらかした組織の一員だ。」
「簡単には見破られやしねえさ。」


伊達がフロアの様子を見ている。
「変わった様子もねえようだ。」
「組織の一員だなんてガセネタじゃねえのか?」


一輝が走って店の外に出た。
瓦も駆け出す。
「ほら来た。行くぞ、真!」


桐生は狭山と一緒に天野ビルの屋上に向かった。
屋上に着くと、伊達、瓦、そして二人の一輝がいた。
「伊達さん!」


伊達が驚く。
「桐生か!?」


二人の一輝を見て驚く桐生。
「これはどういう事なんだ?」


伊達が言う。
「俺にも説明がつかねえ。」
「一輝を追ってきたらこの2人が立っていた。」


一人の一輝が言う。
「私が本物です!」
「こいつ等に監禁され、気づいたらここにいたんだ。」


もう一人の一輝が言う。
「デタラメを言うな!」
「お前が俺を脅してここに連れて来たんだろうが!」


伊達が桐生に聞く。
「どうしてここへ来た?」


「午前1時にここに来るように呼び出されたんだ。」
「やはり罠だったか・・」


瓦が片方の一輝に銃口を向ける。
「俺達3人をここにおびき出したのは偽者の方だ。」
「そいつはスターダストで細かい芸をして俺達をハメた。」
「刑事をなめるんじゃねえ。」
「ナリはそっくりに真似られても声だけはどうにもならねえんだ。」
「店ん中で聞いたお前の声が耳ん中に残ってんだよ。」
「正直に言え。」
「どうして俺達をここにおびき出した?」
「お前の裏でこの筋書きを書いたのは誰だ?」


突然偽物の一輝が二丁の拳銃を出し、左手の銃で本物の一輝の左下腹部を、右手の銃で瓦の左大腿部を撃ち抜いた。
「桐生・・昨日電話でここにお前を呼び出したのは俺だ。」
「俺はお前達を殺すためにここにおびき出した。」
「ここであんた達4人は殺し合って死んだ。」
「これが筋書きのエンディングだ。」
「結末さえあれば筋書きはどうにでも創れる。」
「そういうもんさ。」
「死ね!」


偽者の一輝が伊達に向けて発砲しようとした時、伊達は隠し持っていた銃で威嚇射撃をした。
怯むことなく引き金を引こうとする偽者の一輝。


その時、隠れていた狭山が偽者の一輝の右胸を銃で撃ち抜いた。
前のめりに倒れ込む偽者の一輝。


「逃げるぞ。」
「これには裏がありそうだ。」
桐生は一輝を背負い、伊達は瓦に肩を貸しビルを出た。
その後すぐに一輝と瓦を知り合いの柄本医院に運ぶ。
「大怪我をしてる。頼む!」
「すまん、至急治療して欲しいんだ。」


銃創を見た柄本が驚く。
「早く処置しなければ危険だ。」
「おい、手術室に運んでくれ。」
「少し時間がかかりそうだ。」
「理由は聞かねえが、もし追われているのならあんたら2人は他所で身を隠してた方がいい。」
「ここにいたら目立つからな。」


桐生と伊達は二人でバンタムに向かった。
バンタムは以前、バッカスという名前だった店だ。
「久しぶりだな、マスター。」


バンタムのマスターが桐生を見て驚く。
「桐生さん?」
「この街に帰ってきたんですか。」
「ま、どうぞ!」


カウンターの席に座る。
「マスターに頼みがある。」
「今日は店を貸し切ってもらえないだろうか。」


二人だけになった桐生と伊達。
「じゃあお前は堂島大吾を助ける為に天野ビルに来たってわけか。」


桐生が答える。
「ああ。だが分からないのはなぜ俺達を始末しようとしたかだ。」
「いや、一輝は俺達をおびき出す為のエサだ。」
「俺達の存在が邪魔な連中・・」
「俺達に共通するもの・・分からねえ。」
「仕組んだのはおそらく大吾と郷田会長を拉致した海外組織だ。」
「府警の別所という刑事がそう言っていた。」


伊達が言う。
「別所?」
「別所は昔、神室署の四課にいたんだ。」
「俺が新米の頃は神室署の四課の看板だった。」
「さっきの瓦のオッサンとは同期でな。」
「マムシの別所に鬼瓦っていや神室署と警視庁のエースとして有名だった。」


「伊達さん、あの瓦って刑事と何かあったのか?」


伊達が言う。
「ああ。」
「俺は今でもあの人を許すことができねえんだ。」
「俺が一課に入った頃、もう15年以上前のことだ。」
「警視庁に入ったばかりの俺は、当時一課の班長をしてた瓦さんと組んで不法入国者の捜査をしていた。」
「目的は殺人事件の容疑者との接触だった。」
「あの頃の瓦さんはノンキャリアにも関わらずやり手の刑事として有名だった。」
「俺はそんな瓦さんから捜査のコツを盗もうと自分から申し出て現場へ同行した。」
「だがそんな瓦さんへの尊敬の思いは一瞬にして吹っ飛ぶ事になった。」
「瓦さんは捜査に抵抗する不法入国者に向かって次々と銃を発砲したんだ。」
「相手の抵抗も激しかった。」
「だが俺達は警察官だ。」
「よほどの事が無い限り撃つことはしねえ。」
「でも瓦さんは容疑者に向けて次々と発砲した。」
「相手の男達は当然死んださ。瓦さんが殺したんだ。」
「俺は問い詰めた。」
「容疑者とはいえ、なぜ躊躇う事なく殺せるのかと。」
「そうしたら瓦さんはこう答えた。」
「しょうがねえじゃねえか。コイツ等が悪いんだってな。」
「その後も瓦さんは不法入国者への発砲を何度となく繰り返したが、その都度正当防衛として処理された。」
「しかし殺人刑事と陰口を叩かれるようになり、遂に瓦さんは一課から外された。」
「未だに撃たれた男達の死に際の顔がまぶたに焼きついてる。」
「瓦さんには何か深い傷があるんじゃないかと感じているんだが、本人に聞いてみても何も言わない。」
「だがただの外国人嫌いとも違う。」
「俺はな、桐生。」
「瓦さんを止められなかった事を後悔してるんだ。」
「あのオッサンが抱える深い闇・・」
「俺はそれを理解してやることも出来やしねえ。」


桐生がバッカスを出て柄本医院に戻ると狭山も来ていた。
「遅くなったな。」
「一輝の容態は?」


狭山が答える。
「まだ手術中よ。」
「中の様子は分からないわ。」


そこに海外組織の男達が乱入してきた。
男達は手術室に入ると治療中の柄本を殴り飛ばし、一輝に韓国語で話しかけた。
「おい、大丈夫か?起きろ!助けに来たぞ!」


一輝が目を覚ます。
「お前等・・誰だ?」


男達が動揺する。
「違う・・こいつは康じゃない・・」


桐生が男達に近づく。
「お前等、海外組織の連中か?」
突然襲いかかってきた男達を桐生は叩きのめした。


倒れ込んでいる男に銃口を突きつけて脅す瓦。
「お前等誰に頼まれた?」


韓国語で答える男。
「韓国の組織・・ジングォン派・・」


瓦は韓国語が分かるようだ。
「なるほどな。」


警察のサイレンが鳴り響く。
狭山が言う。
「非常警戒網が敷かれたのよ。」


桐生が言う。
「ここはマズイな。話は後だ。」
「伊達さんが待っているバンタムへ行こう。」


瓦が言う。
「すまんが先に行っててくれ。」
「この服で動き回っちゃさすがにまずいからな。」
「替えを見繕ってくる。」
「後でバンタムで合流しよう。」


桐生と狭山は二人でバンタムに向かった。
しばらくすると瓦が足を引きずりながらやって来た。
「真、いいネタが仕込めたぜ。」
「病院で一輝を襲ってきた二人組を捕まえて組織の名前を吐かせた。」
「真拳派だ。」
「韓国語で真という字はジン、拳はグォン。派ってのは派閥って意味でパと読む。」
「まあ日本じゃハって言うのが普通だがな。」
「韓国の組織に間違いねえ。」
「日本のヤクザと違って韓国系の組織はマフィア化している。」
「表立って代紋を掲げるようなマネは絶対にしない。」
「組織の名前も単なる呼び名でしかない。」
「奴等にとっちゃ名前なんかどうでもいいのさ。」
「大切なのは鉄の結束、それだけだ。」


桐生が言う。
「じゃあ大吾と郷田会長を誘拐したのもそのジングォン派か。」
「よく韓国語が分かったな。」


瓦の歯切れが悪い。
「昔、ちょっとな・・」


伊達が言う。
「ここも危ねえようだからそろそろ場所を移そう。」
「どうやらここにも刺客の手が回っているらしい。」
「マスターの様子がおかしいんだ。」
「そわそわと出たり入ったり、どっかに連絡したりな。」
「それに、彼女の事を捜してるみたいだ。」


狭山が驚く。
「私を?」


「この写真がカウンターの中にあった。」
伊達は桐生と狭山が写る2枚の写真を見せた。


桐生が狭山に言う。
「ここは俺一人に任せてくれ。マスターに確認する。」
「お前は伊達さんと瓦さんをセレナへ。」


一人になった桐生のところにマスターが戻って来た。
「あれ?桐生さん、お戻りで。」


桐生が写真を見せる。
「マスター、この写真は一体なんだ?」
「なあマスター、俺は1年前からアンタの事を知ってる。」
「だからできれば争いはしたくねえんだ。」
「理由を聞かせてもらえないか?」
「誰に頼まれたんだ。」


マスターが土下座する。
「許して下さい。」
「この辺りの店は1年前の事件で客足が減ってみんな借金を抱えてしまって。」
「銀行が相手にしてくれなかったので、つい闇金に手を出してしまったんです。」
「毎日返済に追われて困っていたら急に借金を全額肩代わりしてくれるって人が現れまして。」
「千石組という組織の人です。」
「それでお二人の写真を。」
「懸賞金がかかっていたんです。」
「私は迷った。」
「でもやるしかないところまで追い込まれてました。」
「ですから・・」


「もういい。」
マスターを立たせる桐生。
「1年前の騒ぎは俺の責任が大きい。」
「全てのカタは俺がつける。」
「あと少し待っていてくれ。」
「だからマスターはこの場所でいつも通り客に美味い酒を楽しませてやってくれ。」
「毎日同じ場所に同じものが待ってる。」
「それがこの街じゃ心の救いになるんだ。」
「だから店を捨てないでくれ。」


桐生はセレナに向かった。
伊達が言う。
「桐生、ちょっとやばいことになっちまった。」
「さっきの天野ビルの一件、どうやら俺が容疑者になっちまったらしい。」


瓦が言う。
「警察の監視カメラに銃を持っている真が映っていたらしいんだ。」
「ビデオに映っているのはほんの一部だが、そんな事は幹部の連中には分からない。」
「今この街で起きた事件は全てビデオで検証する事になってるんだ。」


狭山が言う。
「あの男を射殺したのは私よ。」
「銃を提出して証言するわ。」


瓦が言う。
「よせ。元刑事とはいえ、一般人である真を使って極秘捜査をしていた事は事実なんだ。」
「それに現場には真が撃った銃弾が残ってる。」
「お前の銃弾はもみ消されちまうだろう。」


桐生が言う。
「花屋が撮ったビデオが証拠になってるのか。」
「これから大吾の居場所を探し当てて、そこからジングォン派を探ってみる。」
「こうなったら花屋を頼るしかない。」


桐生と狭山はミレニアムタワーの50階にいる花屋に会いに行った。
花屋は警察官の制服を着ている。
「久しぶりだな、桐生。」
「きれいなお嬢さんだな。」
「狭山薫さんだね。」
「高専在学中20歳で国家公務員Ⅱ種をパス。」
「人事院からの推薦を受け、卒業後府警にキャリアとして採用される。」
「その後は配属先を四課へと移し、今年の4月最短の4年というキャリアを経て警部補へ昇格。」
「同時に四課主任へと就任する。」
「通称ヤクザ狩りの女だったかな?」
「あんた達が神室町に入ってからの動きは大体知ってる。」
「その間にチョチョっと調べておいたのよ。」
「お前達がここに来たのは堂島大吾の件だろ?」
「妙な事件に巻き込まれちまったな。」


狭山が言う。
「伊達さんの話だと警視庁に証拠のビデオを提供したのはあなただと言ってたけど。」


「確かに。だがあれは運が悪かった。」
「映像の角度的に伊達と一輝しか映ってなかったんだ。」
「もし俺が確認してたらあんな情報量の少ない映像を証拠として提供してなかった。」
「言い訳になっちまうが、ありゃ俺が居ない間に警視庁に流れちまったのよ。」
「どうやらネズミが入り込んだようなんだ。」
「まだはっきりは分からんが、例のここのビルの爆破も通常なら事前に察知できたはずなんだが。」
「肝心の情報は全く俺の所に入って来なかった。」
「ここは24時間体制で神室町の様子を監視している。」
「だが当然俺がいない時間帯がある。」
「その隙きをついて誰かが小細工したとしか考えられん。」
「ここで働いている連中は全員が賽の河原にいた古い付き合いの者ばかりだ。」
「そう簡単に裏切るとは思えんのだが。」


その時、メインモニターに大吾の映像が映し出される。
「あんたがここに来ると思って先に手を回していたのよ。」
「場所は泰平通りの桃源郷。」
「俺達が居場所を突き止めた事が向こうに漏れてるかもしれん。」


桐生と狭山は桃源郷に潜入して大吾を助け出した。
「悪い。

「郷田会長は別の場所に連れてかれちまった。」
「すまねえ。」
救出した大吾とセレナに向かい話を聞く。
「1人1人の動き、銃の撃ち方、やつら普通の組織じゃねえ。」
「まるで軍隊のようだった。」


そこに柏木がやって来る。
「大丈夫か、大吾!」
「体は問題ないのか?」


大吾が言う。
「すんません。郷田会長を守りきれませんでした。」


「それは聞いた。」
「気にするな。お前が無事で何よりだ。」
「それでお前と郷田会長を拉致した奴等はどこのどいつなんだ?」


大吾が答える。
「詳しいことはわからない。」
「だが自分達のことをジングォン派と呼んでた。」


柏木が驚く。
「本当にジングォン派と言ってたのか?」
「だがジングォン派は壊滅したはずなんだが。」
「ジングォン派は世間では全く知られてない組織だ。」
「しかも警察はジングォン派の存在を抹消した。」
「あれは20年以上前のことだ。」
「当時の神室町は堂島組以外に海外の勢力がひしめいていた。」
「その中でも最大の組織が韓国のジングォン派とい組織だった。」
「東城会で中堅だった堂島組が大きくなるにはそういった組織を制圧するしかなかったんだ。」
「風間の親父さんは最後まで迷っていた。」
「だが白いものでも親が黒と言えば黒になるのがこの世界だ。」
「結局組の為に風間の親父さんは嶋野の叔父貴と共にジングォン派のアジトに乗り込んで組織を壊滅させた。」
「堂島組は神室町を手中に収め、東城会での勢力を伸ばした。」
「その後嶋野の叔父貴は独立して嶋野組を直系に昇格させた。」
「東城会もその勢いに乗じて関東一円に組織を拡大させていった。」
「ジングォン派は壊滅した。」
「だがもしかしたら生き残りが存在していたってことになるのか。」
「当時警察はジングォン派の実態をつかみかねていた。」
「だから堂島組に奴等の壊滅を任せる形をとったんだ。」
「しかしえらい事になった。」
「郷田会長はさらわれたまま。」
「郷龍会は神室町を狙っている。」
「それにジングォン派の影。」
「次は一体誰が何を仕掛けてくるかだ。」
「明日、東城会本部で五代目の本葬儀がある。」
「弥生の姐さんが葬儀委員長を務める事になってる。」


次の日、桐生は大吾と一緒に東城会本部に向かった。
堂島弥生と会い事情を説明する。
「あのジングォン派が郷龍会と手を組んだとなればまた多くの血が流れることは避けられないね。」


桐生が言う。
「とにかく一刻も早く郷田会長の居場所をつきとめることです。」
「盃さえ交わせばヤツらの動きは封じられる。」


外が騒がしくなったので行ってみると、郷田龍司が来ていた。
「おはよう、桐生はん。」
「寺田はんには昔よう世話になったさかい、焼香させてもらいに来たんや。」


柏木が言う。
「お前の焼香など受けられねえ!とっとと帰れ!」


郷田龍司が言う。
「さっきからおっかない顔しとるけど、あんた何モンや?」


「若頭代行の柏木だ。」


郷田龍司が言う。
「ホンマでっか?」
「ワシはてっきり葬儀屋のオッサンかと思うてましたわ。」
「まあ人手不足の東城会さんならしゃあないかもしれませんなあ。」
「死んだ会長は他所様の組からヘッドハンティング。」
「会長代行は未亡人のオバハン。」
「こないな組と喧嘩してると思うとちいとばかり泣けてきますわ。」


桐生が聞く。
「郷田会長はどこにいるんだ?」


「空気のええところでゆっくり休んでもろうてますわ。」
「天下の近江連合とこんなヨレヨレの組が盃交わすなんぞバランスがとれへんやろ。」
「今日はホンマに寺田はんを弔うつもりで来ただけですわ。」
「それにワシも人の子や。」
「厳粛な葬儀の場でドンパチやる程アホちゃいます。」


堂島弥生が言う。
「こんな子供染みた挑発をして近江連合の六代目を継げると思ってんのかい?」
「郷田会長の気持ちを思うと胸が痛くなるよ。」
「親はね、どんなに出来の悪い子供でも可愛いもんなのさ。」
「けどね、これだけ筋違いの事をされちゃ血の繋がった親としては死ぬ程情けないはずだ。」


郷田龍司が笑う。
「ワシと親父は血など繋がっておやんのや。」
「せやから親の情なんかあらへん。」
「あるのはお互いに憎しみの感情だけや。」
「今日はもうお遊びはナシや。」
「お邪魔なようやし、そろそろおいとまさせてもらいますわ。」
「そうやな・・3日やな。」
「ワシ等もその間は喪に服させてもらいます。」
「せやから3日後再戦といきましょ。」
「もうこれ以上ゴチャゴチャせんと一気にカタつけましょうや。」
「神室町に血の雨降らせたりますわ。」
「せやけどうちには礼儀知らずのオッサンがおるからのう。」
「多分今頃神室町のどこぞで派手なパフォーマンスを繰り広げとるはずや。」
「千石や。」
郷田龍司は帰っていった。


その日の夜、騒動を聞きつけた桐生と狭山が神室町ヒルズの建設に向かうと真島が血だらけで倒れていた。
「遅いわ、桐生チャン・・」
「千石組の兵隊全員ブッ倒したで・・」
「それより早う東城会の本部に戻るんや。」
「連中、街中でヘリ飛ばしたり兵隊を行進させたりしたんは桐生チャンをここにおびき出すためや。」
「ホンマの目的は本部を乗っ取る事や。」
「裏で千石組を手引きしたんは・・新藤や。」
「あのド阿呆、金で寝返ったんや。」
「早う行けや、桐生チャン。」


桐生は真島を狭山に任せ、東城会本部に向かった。
会議室に入ると新藤が大吾、柏木、弥生の3人を人質にとっていた。
「あなたが留守の間、ひと仕事させてもらいましたよ。」
「これでもう東城会の現体制は崩壊です。」
「今頃他の幹部は千石組が送り込んだヒットマンの餌食になっていることでしょう。」


桐生が言う。
「恥ずかしくねえのか。」
「てめえが世話になった東城会を売り渡すような真似をして。」


「売り渡しはしませんよ。」
「私が次期会長の座に就いて、ついでに姐さんを自分のものにします。」
「俺はね、姐さん。」
「前からあんたに惚れていたんですよ。」
「私から逃れることはできませんよ。」
「方々に女をつくっていた堂島組長より私の方が姐さんを幸せにできます。」
「欲しい物を力で奪う。それだけです。」
「あんたの首殺って東城会の跡目を継ぐ。」
「そして俺は姐さんを手にするんだ!」
桐生は日本刀を持って切りかかってくる新藤を倒した。


桐生が拘束されていた大吾と柏木を解放していると、息を吹き返した新藤が銃で弥生を撃とうとした。
それに気づいた大吾が落ちていた銃で新藤の右脇腹を撃ち抜く。
「テメエの欲で組を滅茶苦茶にしやがって!」
「ぶっ殺してやる!」
大吾は銃弾をもう一発発射し、新藤の右胸を打ち抜きトドメをさした。
弥生が言う。
「情けない。」
「新藤のような男に喉元に刃を突きつけられるとは。」
「正面から来るのならまだしも、こうも裏をかかれちゃ手の打ちようが無いね。」
「いいかい、組員に伝えるんだ。」
「神室町で近江連合の者を見かけたら容赦することはない。」
「力ずくで叩き出せとね!」


その頃、伊達は13号資料室で「神室町海外マフィア大量排除に関する報告書」を読んでいた。
「堂島組がジングォン派を・・」


そこに瓦がやって来る。
「はかどってるか?真。」


「なんだ、瓦さんか。驚かさないでくれ。」


瓦が言う。
「悪かったな。」
「ちょっと表の様子を見てきた。」
「まだ誰にも気づかれてねえみてえだ。」


「13号資料室なんかに近づく人間はそういねえだろう。」


伊達が持っているファイルを見た瓦が言う。
「遂にその事件にたどりついたか。」
「さすがだ。」
「最後のページを見てみろ。」
担当捜査官の名前が別所勤と瓦次郎になっている。
「瓦さんと府警の別所さんが・・」


瓦が言う。
「ああ。俺達が担当したんだ。」
「今回、公安の倉橋がジングォン派を探っていると耳にして捜査の協力を申し出たんだ。」
「俺はその事件に借りがあるんだ。」
瓦は自分の警察手帳を伊達に渡した。
「もう俺の役目は終わった。」
「後はお前に任せる。」
「理由は聞くな。」
瓦は資料室を出て行った。


伊達はセレナの屋上で桐生と狭山に事情を説明した。
話を聞いた狭山が言う。
「あのジングォン派の事件を課長が担当していた?」
「ってことは柏木さんの言ってた担当刑事っていうのは・・」


伊達が言う。
「ああ。別所さんだ。」
「間違いない。極秘の資料に名前が載ってた。」
「瓦のおっさんもそう言っていた。」
「俺に警察手帳を渡して事件から降りちまったが。」
「どういうことかは分からん。」
「だがあのおっさん、まだ何かを握ってるのは確かだ。」
「どうやらこの事件に借りがあるらしい。」
「記録によると当時神室署の四課に居た別所さんは、堂島組の動きを察知していた。」
「だが裏で手を回して事件を黙認したらしい。」
「神室町の治安を回復させるには一番手っ取り早い方法だと判断したんだろう。」
「しかし上層部にそれが漏れて別所さんは府警に飛ばされた。」
「桐生、お前これからどうするんだ?」


「郷田会長がまだ見つかっていない。」
「龍司を追いかけて関西へ向かう。」


狭山が言う。
「もう誰も信じられないわ。」
「課長は今まで私に神室町に居たなんて話、一度もしなかったわ。」
「ずっと信じてきたのに。」
「私が四課でどんな思いをして今までやってきたか。」
「あの人だけは私のこと理解してくれてると思ってた。」
「でも自分は裏でヤクザとつるんでたなんて。」
「あなたには悪いけど、まず最初に府警に行ってもらうわ。」
「ジングォン派の事件を調べるのが先よ。」
「あなたはまだ私の監視下に居るのよ。」
「勝手な行動は許さないわ。」


桐生と狭山は新幹線で大阪に向かい、府警で別所と会った。
取調室に案内される桐生と狭山。
「すまんな。こんな所しか空いてのうて。」
「まあ話するにはここが一番ええやろ。」
「で、わしに何の用や?」


「20数年前、神室町で起きた堂島組とジングォン派の抗争事件。」
「課長が担当していたそうですね。」


別所が言う。
「なんや、調べたみたいやのう。」
「そうや。ワシが担当した。それがどないしたんや?」


「課長、今回のミレニアムタワー爆破と郷田仁、堂島大吾の誘拐の一件はジングォン派が絡んでいる可能性が高いです。」
「単刀直入に聞きますが、課長は何か知ってらっしゃるんじゃないですか?」


別所が言う。
「ワシが知ってるのは昔の事件のことだけや。」
「今回の事件の事なんか知ってるはずないやないか。」


狭山が言う。
「じゃあ何故今までジングォン派のことを私に教えてくれなかったんですか?」


「事件との関係性が見えへん以上、不必要に情報を伝える必要は無い。」
「混乱を招くだけや。」


狭山が言う。
「じゃあ20数年前に起きた事件の事を教えて下さい。」


「せやな。何から話そうか。」
「もう聞いとるかもしれんが、当時ワシは神室町の四課におったんや。」


「それで堂島組の手引をした。」


「まあ簡単に言うたらそうや。」
「せやけどそれしか道はなかった。」
「警察ではどうにもならんかったんや。」
「あいつらの実態はつかめんわ、略奪と暴行で市民は恐怖に陥るわ。」
「ジングォン派が神室町に拠点を構えてから手がつけられん程街は荒れとったんじゃ。」
「あん時は他に方法がなかったんじゃ。」


狭山が言う。
「質問を変えます。」
「消えたはずのジングォン派がなぜか今動いている。」
「これについては何か知っているんですか?」


「当時ジングォン派の構成員は36人の組織やった。」
「このうち死体として発見されたのが33人。」
「3人生き残りがいるってことになる。」
「そのうちの1人をワシは知っとる。」
「蒼天堀に桂馬という店がある。そこに居るわ。」
「今は村井という名前で生きとる。」
「狭山、村井を大阪に連れてきたんはワシや。」
「村井っちゅう名前もワシがつけたんや。」
「あいつは奇跡的に一命を取りとめた。」
「けどジングォン派の掟は生よりも死。」
「復讐せんと生きる事は許されん。」
「そこで村井は生きることを選んだんや。」
「せやから神室町から逃げる手助けをしたんや。」
「他の生き残りからの報復を避けるために。」
「ワシと瓦が関西へ赴任する時に一緒に連れて来た。」
「狭山、今日付けで身辺保護の任務は終わりや。」
「ジングォン派が絡んでるとなりゃ、かなりの危険が伴う。」
「今回の事件はヤクザ狩りのようにはいかんのじゃ。」
「お前はジングォン派の恐ろしさを知らん。」
「あいつら女やろうが子供やろうが手加減せんのんじゃ。」
「これは命令や。」
狭山は別所を睨みつけ、取調室を出て行った。
「見ての通り頑固もんでのう。」
「狭山の奴を守ってくれるか?」
「あいつを守れんのはアンタしかおらんねん。」
桐生に頭を下げる別所。
「頼む。」


「ひとつ聞きたいことがある。」
「瓦さんの発砲事件を知ってるな?」
「堂島組とジングォン派の事件と関係があるんじゃないのか?」
「それに関西への赴任とも。」


別所が言う。
「これ以上のことはワシの口からは言えん。」
「とにかく狭山の事、頼んだで。」


次の日の朝、蒼天堀の橋の上で待ち合わせをした桐生と狭山。
「昨日の夜、今までのこと整理してたら嫌な予感がしてきてね。」
「私がジングォン派の生き残りじゃないかと思って。」
「ママの言っていた事から推測して私の両親が20数年前東城会に殺されたとするなら、両親は東城会に敵対していたジングォン派の人間って考えるのが自然じゃない?」
「自分の過去から逃げたくない。」
「行きましょう。」


桐生と狭山は別所が言っていた桂馬という店に向かった。
「あなたが村井さんね?」


将棋盤の前で腕組みをしながら座っている村井が話し始める。
「これは昭和59年名人戦最終局の142手目の場面や。」
「ここで挑戦者の薮田は5八馬と指して勝負に出た。」
「だがこれが敗因で薮田は負けた。」
「4三に銀を打って王を固めるのが定跡な事はプロなら誰でも分かるのに。」
「薮田はなぜか勝負に出た。」
「皆は凡ミスや言うが、わしにはそうは思えんかった。」
「若いおなごに答えられるような事は何ひとつあらへん。」


狭山が言う。
「府警の別所からあなたの事を聞いて来たんです。」
「安心して下さい。私は別所の部下です。」
「ジングォン派の事をお聞きしたいんです。」
「20数年前の神室町での事件、覚えていますよね?」
「私もその時に生き残った1人かもしれないんです。」
「あの時、現場にまだ物心がつかない子供はいませんでしたか?」


村井が言う。
「1人おった。」
「何も知らんでも生きていけるのならその方がええ。」
「薮田は名人戦に負けた後、公式戦から遠ざかって酒を浴びるほど呑んで体を壊して死んでしもうた。」
「絶対に名人になるんやと思っとったが、多分己の実力じゃ無理やいうことを悟ったんや。」
「それが自分の運命やとな。」
「せやから最後に自分らしい手を指して死を選んだんや。」
「人の人生っちゅうのは残酷や。」
「あんたは今まで過去を知らんでも生きてこれたんや。」
「余計な事を知っていらぬ運命を背負うことはない。」


狭山が言う。
「どんな過去でも受け止める覚悟はできています。」
「だからあなたに会いに来たんです!」
「お願いします!教えて下さい。」
「話を聞くまで帰りません。」


村井が渋々語り始める。
「ありゃあクリスマスの夜やった。」
「お祭り気分のわしらの隙きをつくように堂島組が襲って来て、アジトにいた構成員は次々と葬られた。」
「けどあなたを含めた3人が運良く生き残った。」


狭山が聞く。
「あなたは瓦さんと別所さんの助けで関西に逃れたのね?」


「せやけど本国から送られて来た構成員に居場所をつきとめられてしもた。」
「だがわしはこうして生き延びる事ができた。」
「仲間を売ったんや。」
「金大津と池潁敏やなく・・」


狭山が言う。
「キム・デジンとジ・ヨンミン・・?」


「当時2人は16歳やったが何故か難を逃れた。」
「その後の行方は分からん。」
「あと2人おったんや。生き残りが。」
「それはボスの女房とその子供や。」
「わしは急所が外れて生き残ってしもうた。」
「それから村井という名前をもらってこうして生き延びとるんや。」


狭山が聞く。
「その後ボスの奥さんと子供はどこへ?」


村井が答える。
「瓦さんがこっちへ逃したんや。」


「じゃああなたは自分が助かりたい為にその親子を本国の組織に売ったのね?」


村井は静かに頷いた。
「その後その2人がどうなったかは知らんがな。」


狭山が言う。
「母親は死んで子供だけが助かったのよ!」


「ほんまあんたがあん時の子供なんか?」


狭山が聞く。
「その子の父親を殺したのは誰なの?」


「名前は知らんが顔はよう覚えとる。」
「髭を生やした男やった。」


桐生が言う。
「風間の親っさんだ。」
「俺を育ててくれた。」
「あの風間新太郎だ。」
「俺もその場にいた。」


そこにジングォン派の構成員達がやってきた。
「あんた等には礼を言う。」
「その裏切り者の居場所をつきとめてくれたんだからな。」


「この男に手出しする前に郷田会長の居場所を吐かせてやる。」
桐生はジングォン派の構成員達をなぎ倒した。


しかし息を吹き返した構成員の一人が村井にナイフを投げる。
ナイフは村井の腹部に突き刺さった。
その後構成員達は皆、服毒自殺をしてしまった。
「それがジングォン派の掟や。」
「わしも掟に従っておけばよかったんや。」
「昔、他人様に散々迷惑をかけた男が人並みに幸せな生活を送りたいなどと思ったんが間違いやったんや。」
「運命に逆らったらあかんのや。」
「あの時死んでしまえばよかったんや。」
「あの世でお袋さんに娘さんは立派になったと報告しとくわ・・」
「幸せになるんやで・・」
村井は絶命した。


店の外に出た桐生と狭山は橋のふもとで話をする。
「話、聞いてくれるか。」
「あのクリスマスの夜、俺は堂島組の事務所に行った。」
「風間の親っさんは毎年クリスマスになると俺達の孤児院ヒマワリへ顔を出してくれていた。」
「だがあの日、親っさんは来なかった。」
「俺は親っさんに何かあったのかと思い、一人神室町へと向かった。」
「いつもは優しい親っさんだったがその時は違った。」
「俺は気になって親っさんの後を追った。」
「親っさんは組の指示に逆らってジングォン派を逃がすつもりでいた。」
「俺はそんな事も知らずに・・」
「2人の会話は聞こえなかった。」
「俺は親っさんが危ないと思い体を張って助けようと思った。」
「部屋に飛び込んだ時、相手の男は俺に銃口を向けた。」
「風間の親っさんは俺を助けようとしてその男を撃ったんだ。」
「俺がその男・・お前の父親を殺したようなもんなんだ。」
「俺を撃たないのか?」
「どんな償いでもすると言ったろ。」


狭山が言う。
「カッコつけるのもいい加減にして。」
「親の仇をとらせれば自分が犯した罪が軽くなるとでも思ってんの?」
「罪を償うから俺を殺せだなんて。」
「人はね、そんな簡単に割り切って生きてゆけないのよ。」
狭山は桐生の前から去っていった。


桐生が一人で佇んでいると携帯電話が鳴った。
「お前の大切な子供を預かった。」
「遥に会いたければ今から大阪城に来い。」
「勿論一人でだ。」
電話は一方的に切れた。


大阪城に向かうと千石がいた。
遥は体を縛られ、口に粘着テープをはられている。
そこに日本刀を持った郷田龍司がやって来る。
「このオッサンの遊びに付き合わされてホンマご苦労やったな。」
郷田は千石を日本刀で袈裟斬りにした。
「ワシも目的のためなら何でもする男や。」
「せやけどガキを人質にとるんは趣味にあわん。」
千石は絶命した。
「これで邪魔モンは消えた。」
「いよいよ明後日や。」
「ワシら総力をあげて神室町に攻め込む。」
「覚悟はええな?」


桐生が答える。
「ああ。」


「ほな。」
郷田龍司は去っていった。


遥の拘束を解く桐生。
「怖かったろう。」
「ごめんな、またこんな思いをさせてしまって。」


桐生は遥を連れてスナック葵に向かった。
すると狭山民世の姿はなく、かわりに薫がいた。
民世がメモを残していったという。
そこにはこう書かれていた。
「あなたのお父さんは生きている。」
「だから桐生さんを信じてあげて。」


薫が言う。
「生きているって言ったって、一体どこの誰なのよ。」
「ママ、こんなメモを残してどこへ行ったんだろう。」


その時、桐生の携帯電話が鳴った。
電話をかけてきたのは警視庁公安二課の倉橋だった。
「警視庁公安二課の倉橋です。」
「まあ20数年前までは倉橋という名前ではなく池潁敏と名乗ってましたがね。」
「ついに我々ジングォン派が動く時がきたんです。」
「26年前に無残な死に方をした仲間達の無念を晴らす時が。」
「皆さんがお集まりいただくために伊達さんを人質として誘拐しました。」
「26年前に我々の人生を狂わした方々。」
「当然あなたも来ていただけますよね?」
「場所は神室町の心臓部。ミレニアムタワー。」
「夜明けまでにはお越し下さい。」
「さもなければ今後はこのビルが丸ごと吹っ飛ぶことになりますよ。」
「あ、そうだ。狭山薫さんもご一緒に来て下さい。」
「来ていただければ分かります。」
電話が切れた。


桐生、狭山、遥の3人は狭山の車で神室町に向かった。
遥をセレナで待たせ、桐生と狭山の2人でミレニアムタワーに向かう。
最上階に倉橋がいた。
「ようこそ、桐生さん。」
横には拘束された伊達と花屋がいる。
「銃をつかうのはよせ!爆弾が仕掛けられている。」
ジングォン派構成員の男が爆弾のそばにいる。
この男は以前、郷田龍司に頼まれてミレニアムタワーを爆破した男だ。


狭山が言う。
「私をここに呼んだ理由は何なの?」


倉橋が言う。
「あなたもこの復讐劇の主役の1人だからですよ。」


狭山が言う。
「この体ジングォン派の血が流れているから?」


「もうご存知なんですか。」
「それなら我々と手を組んで26年前の恨みを晴らそうではないですか。」


そこに瓦と狭山民世がやって来た。
倉橋に銃口を向ける瓦。
「騙されんな!」
「お前等と彼女を一緒にすんじゃねえよ。」
「倉橋、俺はお前が日本に帰化して警視庁に入ってからずっとマークしてたんだ。」
「だから一課を捨ててお前と同じ公安へ異動した。」
「組織を捨て心を入れ換えているなら見逃してやろうと思ったがお前は違った。」
「お前のような腐っている奴は世に放っちゃいけなかったんだ。」


「あんたの演説なんか聞きたくない。」
「それ以上近寄ったらこのビルまるごと全員吹っ飛ぶことになりますよ。」
倉橋は爆弾の起爆装置を手に持っている。


瓦が言う。
「押せるもんなら押してみろ。」
「20年以上も自分を偽りながら生き延びたお前にそんな度胸は無いはずだ。」


倉橋が言う。
「私をみくびるな!」
「復讐のためなら自らの命を絶つ。」
「それがジングォン派の掟だ。」


倉橋が起爆装置のボタンを押そうとした時、瓦は銃で起爆装置をのみを弾き飛ばした。
「何が鉄の掟だ。」
「村井を覚えてんだろ。」
「韓国名は朴会宗だ。」
「奴はな、自分の犯した罪に苦しみながら生きてきた。」
「強盗、殺人、放火。」
「自分達が過去にこの街でやらかした事を考えりゃ人間として当然の事だ。」
「それを鉄の掟のために復讐だと?」
「そんな事は俺が許さねえ。」
「村井は死んだ。」
「後はお前と大津を始末すりゃ全てが終わるんだ。」
「ここでケリをつけなきゃまた無駄な血が流れることになるんだ。」


倉橋が言う。
「自分の娘の前で人を殺せるのかな?」
「そう、あなたの事ですよ。狭山薫さん。」


スキをついた倉橋が瓦の右上腕を撃ち抜く。
「我々のボスだった男の女房、鄭秀淵とこの男が引っついた。」
「で、あんたが産まれた。」
「あんたの父親はこの瓦次郎なんだよ!」
倉橋はさらに3発の銃弾を瓦の胸部に浴びせた。


「瓦さん!」
瓦に駆け寄る狭山民世。


倉橋が言う。
「俺がこの26年間、どれほど辛い思いをしても耐え忍んできたのはな、今日のこの復讐のためなんだ!」
「お前が本国から来た仲間を皆殺しにしたのも知っている。」
「こいつに死んだ仲間の恨みを込めて、その体にブチ込んでやる!」


狭山薫が銃を構えて倉橋の前に立ちふさがる。
薫を撃とうとする倉橋に飛びかかる桐生。
その桐生を撃とうと銃を構える爆弾男。
薫はそれを見逃さず、爆弾男の右上腕を撃ち抜いた。


桐生が倉橋の右腕を締め上げる。
「もうこの街をジングォン派の好きなようにはさせねえ。」
「死んだ風間の親っさんに代わって。」
「俺が相手になる。」


桐生は倉橋をコテンパンに打ちのめした。
爆弾男は途中で逃げたようだ。
伊達と花屋の拘束を解く桐生。


薫が倉橋に銃口を向けている。
すると突然、瓦が薫から銃を奪い、薫の銃で倉橋にとどめをさした。
「父親らしいことは何もできなかった。」
「お前の母さんの遺言を守るために父親だということを隠していた。」
「母さんと初めて知り合ったのはあの事件の日だった。」
「その時、秀淵はまだ幼い男の子を抱いていた。」
「秀淵が神室町にいたら危険だと思った俺は別所と協力して彼女を関西に逃した。」
「それから半年ぐらいして秀淵に会いに行ったが、あのおぞましい事件の直後で心ん中にぽっかりと穴が開いちまったんだろう。」
「生活がかなり荒れてた。」
「一緒にいた子供は泣く泣く手放した。」
「俺はこのままじゃ秀淵はダメになると思い、彼女の仕事を探し新しい生活をさせてやった。」
「そのうち俺達は一緒に住むようになり、薫、お前が生まれた。」
「俺はその後すぐに香港への単身赴任が決まった。」
「だがその1年間の赴任中に秀淵は殺された。」
「本国から送り込まれたジングォン派の構成員にだ。」
「それから俺は日本にいるジングォン派を1人残らず始末しようと動いた。」
「俺が射殺した不法滞在の人間は全員ジングォン派だ。」
「殺された秀淵の復讐。それと薫の過去を消し去るためだ。」


民世が言う。
「あんたの母親が死ぬ間際にこう言うたんや。」
「この子を呪われた過去から解放してやりたいって。」
「それが秀淵の遺言。」
「それで秀淵はジングォン派とは何の関係もないウチにあんたを預けたんや。」
「ほんで瓦さんもあんたの前には一遍も姿を見せへんかった。」


瓦が言う。
「だが時々電話をいれていた。」
「その電話でお前は自分の過去と東城会が関係あることに勘付いてしまったらしいな。」


薫が言う。
「いいのよ、これで。」
「自分の生い立ちを知らないまま生きていく程、怖いことはないんだから。」
「事件の時、お母さんと一緒に逃げた子供はどうしたの?」


「それは・・俺の口からは言えん。」
「いいか、これだけは胸に刻んでおくんだ。」
「お前の体に流れている血はジングォン派のものじゃない。」
「優しくて、働き者で、強い心を持った秀淵の血だ。」
薫の手を握る瓦。
「懐かしいなあ。お前の手を握るのは・・」
「俺の指をつかんで笑っていた時はちっちゃな手だったのに・・」
「俺と母さんの分まで・・幸せになるんだぞ・・」
「ありがとう・・な・・」
瓦は絶命した。


翌朝、狭山薫と桐生がセレナで話をする。
薫は民世と一緒に大阪に帰るという。
「関西に帰るのか。」


薫が言う。
「あんな事があったばかりだからママの事が心配なの。」
「大阪までは一緒に帰ってあげたいの。」
「なんか大変なときに逃げ出すみたいで悪いわね。」
突然泣き出す薫。
「やだ・・ごめんなさい・・」
「・・怖いの。」
「これ以上事件のことを調べるのが・・」
「初めてそう思った。」
「あれだけ知りたかった私の過去。」
「どんな事実でも受け入れられると思ってた。」
「あなたの言った通りよね。」
「やっぱり辛くなっちゃった。」
「でも・・もうやるしかないのよね。」


「大丈夫だ。」
桐生は強引に薫の唇を奪った。
「どんな結果であろうと、俺が全てを受け止めてやる。」
「だから、何があっても帰って来い。」
「この街に。」


薫が頷く。
「うん・・分かった。」


その日の夜、桐生は伊達とユウヤを連れて一輝が入院している柄本医院に向かった。
「体の方は大丈夫なのか?」


一輝は元気そうだ。
「ええ。もう大丈夫です。」
「伊達さんには助けてもらいました。」
「私をあの組織から救い出してくれたんですから。」
「実は半年ほど前から私は監禁されてたんです。」
「店にいたのは俺じゃなかった。」
「例のもう一人の男です。」
「最初は俺も信じられませんでした。」
「自分そっくりの人間がもう一人いるなんて。」
「その男は韓国人でした。」
「店先で急に襲われたと思ったら、半年間も監禁されるはめに。」
「桐生さん、伊達さん、奴等とんでもない事を話していました。」
「監禁中に知ってしまったんですが、奴等はこの街を破壊するつもりなんです。」
「爆弾は1個じゃない。」
「既に多くの爆弾がこの街に仕掛られているはずです。」
「奴等は着々と準備を進めてました。」
「場所は分かりませんが数は分かります。」
「連中は言ってました。」
「26年前殺された恨みの数だけの爆弾を用意したと。」


伊達が言う。
「桐生、確か例の事件で死んだ人間は・・33人。」
「爆弾は全部で33個。」
「1つがミレニアムタワーの爆破。」
「そしてもう1つが昨日、倉橋が準備してたものだとすると残りは31個。」
「桐生、俺は警察に事情を話して爆弾処理班を発動できるように要請する。」
「例え爆弾が見つかったとしても専門知識がなきゃ処理する事はできんからな。」


桐生が言う。
「伊達さん、俺は今から東城会本部へ行ってくる。」
「今夜、郷龍会が総力を挙げてこの街に乗り込んでくる。」
「だからそれに対応するために東城会の協力を仰ぎたいんだ。」
「あいつらにこの街を好き勝手にさせるわけにはいかない。」


桐生は東城会本部に向かい、堂島弥生と大吾、柏木に事情を説明した。
「31個の爆弾だって?」


桐生が言う。
「はい。でも大丈夫です。」
「爆弾の件に関しては伊達さんが警視庁に掛け合ってます。」
「今俺達に出来るのは街を郷龍会から守ることです。」


弥生が言う。
「そうは言っても主だった幹部は殺されちまって、組員は浮足立ってまとまりがつかない状態なんだよ。」


柏木が言う。
「神室町周辺の組織に声をかければ300人くらいはなんとか・・」


大吾が言う。
「柏木さん、その300人俺に預けてくれ。」


「ああ。すぐに召集をかける。」
柏木は急いで部屋を出て行った。


大吾が言う。
「親父や風間の叔父貴が体を張って守ったこの街を、郷田龍司のような奴に好きにさせたくねえ。」
「郷龍会を返り討ちにしてやる!」


柏木によって招集された東城会構成員300人の前で大吾が言う。
「みんな、聞いてくれ!」
「いいか。これは東城会だけの問題じゃねえ。」
「関東の極道組織の存亡をかけた戦いだ。」
「俺達はこの街と共に生きてきた。」
「世間様から言わせれば綺麗事かもしれねえが、俺はこの街が好きだ。」
「だから世話になったこの街に恩返しがしたいんだ。」
「天下の東城会の組員として体張って郷龍会の神室町侵攻を食い止めようじゃねえか!」


その様子を後ろで見ていた桐生が弥生に言う。
「これで大吾は誰もが認める東城会の跡目ですね。」


伊達から桐生の携帯に賽の河原へ来て欲しいと連絡が入る。
桐生は大吾を連れて賽の河原に向かった。
「警視庁は今回の一件、動かないようだ。」
「俺は例の事件の容疑者だった。」
「そういう人間の情報は信用できねえってことなんだろう。」
「昔から警察ってとこは証拠がなけりゃ動かねえ。」
「分かってはいたんだが、こうも門前払いを食らうとはな。」


桐生が言う。
「俺達でやるしかねえな。」
「300人の組員を爆弾処理に回す。」
「郷龍会は俺が相手になる。」
「この広い神室町で31個もの爆弾を探すのは簡単じゃねえ。」
「街に詳しい東城会の連中は全員そっちに回したほうがいいだろう。」
「だから郷龍会は俺が何とかする。」


そこに真島がやって来る。
「揃って不景気なツラしとって。」
「桐生チャン、絶体絶命のピンチって感じやな?」
「こんな事もあろうかと俺がここのシステムをメンテナンスしとったんや。」
「ま、ホンマはこれでボロ儲けするつもりやったんやけどな。」
「ホラ、アンタの出番やで。」
「伝説の情報屋はん。」


花屋がシステムを操作する。
「おう、これなら爆弾の場所を特定できる。」


「後は任せたぞ。」
爆弾処理の指揮を大吾に任せ、桐生は郷龍会が攻めてきたというスターダストに向かった。
スターダストには郷田龍司がいた。
「ここなら確実にアンタに会えると思うとったんや。」
「よっしゃあ!思う存分暴れたれや!」


桐生は襲いかかってくる郷龍会の組員達をなぎ倒した。
その様子を見ていた郷田龍司が言う。
「今のアンタを倒しても本物の龍にはなれん。」
「それにアンタには他にやらなあかん事があるやろ。」
「爆弾の処理や。」
「ありゃジングォン派が勝手にやった事や。」
「ワシには関係ない。」
「ワシもこの街傷モンにされたら困んねや。」
「いずれ神室町はワシの街になる。」
「綺麗なまま引き渡してもらわんと価値が落ちてまう。」
「全部ことを済ませたらワシんとこへ来いや。」
「逃げも隠れもせん。」
「この街で一番高いところでアンタを待つ。」
「今度は一切の邪魔はナシや。」
「一対一の勝負や。」
郷田龍司は去っていった。


そこに大吾がやって来た。
「爆弾は30個が解除できた。」
「今最後の1つを真島の叔父貴が解除してる。」


賽の河原に戻ると真島が爆弾の解除を無事終えていた。
「流石だな、真島の兄さん。」


真島は勘で爆弾を解除したようだ。
「いやー、今日はホンマに勘が冴えとったわ。」
「百発百中やで。」
「さ、メシでも食いに行こうか。」
「ええ仕事すると腹が空くのう。」
「じゃ、桐生チャン。後の事は任せたで。」
「龍司とかいう奴に負けたら承知せえへんで。」
「俺との勝負も残っとるんやからなあ。」


その後、桐生は伊達に呼び出されセレナに向かった。
セレナには須藤も来ていた。
「これを見てくれ。」
「倉橋のパソコンを須藤に解析してもらったんだ。」
伊達は2枚の経歴書を出した。
「狭山と郷田龍司の経歴だ。」
「郷田龍司の両親の欄を見てみろ。」
郷田龍司の両親の欄に鄭秀淵の名前がある。
「狭山薫と郷田龍司の母親は同一人物なんだ。」


狭山薫がセレナに入ってくる。
「今帰ったわ。」
「どうしたの?そんな深刻な顔をして。」


伊達が須藤を紹介する。
「彼とは初めてだな。」
「警視庁四課長の須藤警視正だ。」


「はじめまして。」
「私は捜査の続きがありますので、これで。」
須藤は経歴書を持って帰っていった。


狭山薫が聞く。
「爆弾はどうなったの?」


桐生が答える。
「全て解除できた。」


「そう。それはよかったわ。」
「郷龍会の方はどうだったの?」


桐生が言う。
「どうにか撃退できた。」
「残るは龍司1人だ。」
「奴は俺との決着を望んで一旦退いた。」
「今は神室町の1番高い場所、神室町ヒルズで俺を待っている。」
「あいつとの勝負、避けて通ることは出来ない。」


「その前に行ってほしいところがあるの。」
「今、うちの課長が警視庁に来てるの。」
「あなたに話があるそうよ。」
「近江高島会の動きが怪しいの。多分その事よ。」


伊達と一緒に警視庁の13号資料室に向かうと別所の姿はなく、1台のノートパソコンが置いてあった。
パソコンを開くと狭山薫の自撮り動画が流れた。
「えー、こんな所に呼び出してごめんなさい。」
「私にもしもの事があった時の為にこれを残しておこうと思いました。」
「私が知っている全ての情報と、今の私の正直な気持ちをあなたに聞いてほしかった。」
「少しの間、時間を下さい。」
「たった今、府警のシステムを使って倉橋が持っていたデータの解析に成功したわ。」
「そうしたらある事が分かったの。」
「私と郷田龍司は血の繋がった兄妹だったのよ。」
「多分瓦さん、いや、私の父があの現場から救い出した子供が郷田龍司だったのね。」
「今の私にとって唯一血の繋がった人間が郷田龍司だなんて。」
「こんな皮肉ないわよね。」
「あれだけ憎んでいた極道組織の男が兄妹だったなんて。」
「今の私に出来ることは郷田龍司に全てを話し、この無駄な抗争に終止符を打つこと。」
「彼のたった1人の肉親として。」
「そして府警四課主任の任務としてね。」
「あなたが私に話してくれた事、2人で歩いた大阪の街、忘れたりはしないわ。」
「ずっと胸に刻んでおく。」
「それが私にとって唯一のあなたとの思い出。」
「それでいいのよ。やっぱり。」
「私とあなたは棲む世界が違うんだもの。」
「心を許した私がいけなかったのよ。」
「それだけあなたは素敵だった。」
薫の目から涙がこぼれる。
「ゴメン。笑顔で別れようと思ったのに。」
「あなたの言う通り、宿命から逃げずに生きてゆくね。」
「さよなら。」


桐生は建設途中の神室町ヒルズ屋上に向かった。
桐生が到着すると、すでに薫が来ていた。
薫は銃を構え、龍司と睨み合っている。
「動かないで!郷田会長を返しなさい!」


龍司が言う。
「すぐそこに居るわ。好きにせい。」


車椅子に座った郷田仁のもとに駆け寄る桐生。
「無事だ!」


龍司が言う。
「で?姉ちゃんは何をしに来たんや?」


薫が言う。
「あなたを・・逮捕しに来たの。」
「あなたを逮捕したら私も出頭するわ。」
「一緒に刑務所にでもどこへでも行きましょう。」
「もうこれ以上、家族が死んでしまうのは嫌なの。」
「郷田龍司、あなたは覚えているはずよ。」
「炎で燃えるビルから助け出されたことを。」
「あなたも知っているでしょう?」
「自分がジングォン派の生き残りであるという事は。」
「あなたが知らないところで鄭秀淵、つまりあなたの母親は生きていたの。名前を変えてね。」
「瓦洋子。私のお母さんよ。」
「あなたと私は鄭秀淵の血を分け合った兄妹なのよ。」
「私はあなたを助けたい。」
「たった一人の兄妹として。」
「そして一人の刑事として。」
「だからもうこれ以上戦うのは止めて。」
「郷田龍司さん・・あなたを逮捕します。」


「嘘や・・ワシに妹がおるなんて・・」
龍司は持っていた日本刀を下ろした。


郷田仁が口を開く。
「お嬢さんの言う通りや。」
「今までホンマの事が言えんですまなんだ、龍司。」
「26年前、秀淵が関西へやって来て直ぐ私達は知り合うた。」
「蒼天堀のしがない酒場。」
「偶然私はその店で秀淵と知り合うて彼女の素性を知った。」
「組織から逃げる毎日。」
「秀淵はお前という子供を抱えて疲れきってた。」
「生活に余裕のあった私は彼女を助けるつもりで援助を申し出た。」
「その後私は秀淵を身請けした。」
「けど関西へ秀淵を追いかけて赴任してきた瓦という刑事に秀淵との仲は切り裂かれた。」
「仕方が無い話や。」
「私は所詮、極道者。」
「秀淵も生活のために私についてきている事は分かってた。」
「去っていく秀淵にお前を欲しいと言うた。」
「私にとってお前は本当の息子以上に・・」


龍司が怒鳴る。
「うっさいわ!」
「そないな事どうでもええんや。」
「ワシは今まで孤独の中で生きてきたんや。」
「郷田仁っちゅう極道を超える事だけを考えてな。」
「せやからワシはジングォン派みたいな連中と結託してまで戦争を仕掛けたんや。」
「26年前の事件など関係ない。」
「ワシにとっちゃ復讐とか恨みとかはどうでもええ。」
「奴等と利害が一致した。それだけや。」
「さあ、残るはアンタとの決着だけや。」


桐生が言う。
「郷田龍司、やはりお前は俺が思っていた通りの男だ。」
「自分の生き方を変えられない。」
「ただ馬鹿正直に己を信じて突き進む。」
「俺の親友だった男に良く似てる。」
「闘うことこそが生きている事の証。」
「そういう男に俺も全身全霊をかけて応えるぜ。」
「薫、すまない。」


「よっしゃあ!ならいっっちょ派手に極道の花、咲かせようやないか!」
桐生は日本刀を振りかざして襲いかかってくる龍司を死闘の末、素手で倒した。


郷田仁が言う。
「あんたのお陰で龍司の心の声を初めて聞くことができました。」
「おおきに。ありがとうございました。」
「今まで私は大切な事を龍司に隠し通してきた。」
「ホンマの事を言えば龍司が私の元から去っていってしまうと思うたからです。」
「狭山さん、龍司の父親として息子が犯した罪を一緒に背負うつもりです。」
「私も近江の代紋を背負うてきた男です。」
「ケジメだけはきちんと取りたいんや。」
「龍司と一緒に逮捕して下さい。」


そこになんと、死んだはずの寺田が現れる。
「お見事や。郷田会長、桐生さん。」
「ここまで見事に私の筋書き通りに動いてくれました。」
「これは全て私が描いた絵図なんですよ。」
「26年間、考えに考え抜いたね。」
「そう、私が金大津。」
「26年前の事件、最後の生き残りですよ。」
「あなたという人間は理屈じゃ動かない。」
「死ぬ位の事をしないと動いてもらえないと思いましてね。」
「あなたが動けば近江も動く。」
「そして関東と関西は一触即発の状態になる。」
「そういう筋書きです。」
「龍司は東城会と近江の盃など絶対に認めるわけがない。」
「予想通りクーデターを起こして関東に牙を向けた。」
「そしてあなたに倒される。」
「まあこれも計算の内でしたがね。」
「龍司は我々の掟に背いた。だからです。」
「龍司はジングォン派として行動する事を拒み続けた。」
「彼にとっては26年前の恨みなど、どうでもよかった。」
「頭にあるのは自分が頂点に立つことだけ。」
「それならそれを利用して最後は掟に従い死んでもらおうと思ったんですよ。」
「桐生さん、後はあなたを片付けて東城会を潰せば全ては終わる。」
寺田が右手をあげると、ミレニアムタワーで逃げ出した爆弾男とジングォン派の構成員達が現れた。
「長かった。」
「やっとだ。」
「寺田行雄として生きた26年間。」
「あと少しでそれも終わる。」
「あなた達を倒し、あの爆弾にスイッチを入れれば全てが終わるんだ。」
「気がつかなかったんですか?」
「あなた達の目の前にあるじゃないですか。」
「倉橋の分ですよ。」
「あなたの父親、瓦次郎が殺した倉橋のね。」
「あなた達は私の同志、いや、親友を奪い去った。」
「だからその復讐をする私が用意したんですよ。」
「このスイッチを押せば神室町が火の海になります。」
「安心して下さい。」
「この爆弾が爆発する頃、あなた達は既にこの世にはいないんですから。」


桐生が言う。
「寺田、最後に教えろ。」
「お前はあの時、風間の親っさんの墓前で嘘をついたのか?」
「26年前、お前を助けたのは風間の親っさんなんじゃないのか?」


寺田が言う。
「確かに私と潁敏は風間さんによって命を救われた。」
「その後、私は復讐をするため風間さんを狙い続けた。」
「来る日も来る日も。」
「だが風間さんはそんな私を逆に世話し、近江へと導いてくれた。」


郷田仁が言う。
「そうか、それでか。」
「お前が近江に入った後、堂島の風間という男がお前のことを頼みにやって来た。」
「私に手をついて何度もお前のことを。」


桐生が言う。
「寺田お前、風間の親っさんにそこまでしてもらって人間としての恩は無えのか。」


寺田が言う。
「桐生さん、まだ分からないんですか。」
「私はジングォン派の構成員です。」
「ジングォン派の掟は全てに優先する。」
「たとえ親だろうが殺る時は殺る。」
「それが私達の宿命です。」
「私達は人間であることを捨てた集団だ。」
「そうでなければ26年間も恨みを抱えてこのような復讐を計画する事などできません。」
「とにかく、あなたを倒さなければ終わらない。」
「桐生さん、死んでもらいます!」


桐生は襲いかかってくる寺田とジングォン派構成員達を倒した。
「寺田、お前との勝負は終わった。」
桐生が寺田に背を向けた時、高島が現れ桐生の左脇腹を背後から銃で撃った。


「あなたには感謝している。」
「私にとって邪魔な人間を予定通り次々と葬ってくれましたからね。」
高島は郷田仁の左肩を撃った。
「寺田の動きを知って、裏で画策したのは私です。」


寺田が言う。
「高島はジングォン派と目的が合致した。」
「東城会をつぶすという一点でな。」


「そしてその目的は果たせた。」
「だからもうお前は用済みだ。」
高島は寺田の左胸を撃った。
「自分が利用されているとも知らず馬鹿な男だ。」
「ご安心下さい、会長。私があなたの跡を引き継ぎます。」
「冥土の土産に教えましょう。」
「私は近江連合六代目となり東城会を傘下に収める。」
「極道社会の全国制覇です。」
「更にジングォン派も抑え、海外に進出する。」
「それが私が描いた最後の絵図です。」
高島は郷田仁の左胸を撃った。
郷田仁は血を吐いて絶命した。
「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。」
「どうしてこう人を信用するのか。信じられん。」


寺田はかろうじて息があるようだ。
「心の底から・・お前の事なんか信じちゃいない。」
「お前の思った通りにはならん。」
「今に・・分かる・・」
「桐生さん・・あんたしかいない・・」
「この男を・・倒してくれ・・」
「最後に俺を・・信じて・・」
寺田は爆弾の起爆スイッチを押して絶命した。


爆弾が起動し、タイマーのカウントダウンが始まった。
タイマーの残り時間は10分だ。
「畜生!何てことをしてくれたんだ、この馬鹿野郎が!」
動揺した高島は薫を人質にとった。
「少しでも動いたら迷わず撃ちますよ。」
「桐生一馬、お前には撃てない。」
「人を見殺しにできない。それがお前の弱さだ。」
高島は桐生の右肩を撃ち抜いた。
「馬鹿な男だ。」
その時、郷田龍司が起き上がり高島の左肩を背後から撃った。
怯んだ高島に無数の銃弾を浴びせる。
龍司も高島の反撃をくらい、左胸と右脇腹に銃弾を受ける。
「男はのう、馬鹿な位でちょうどええんや。」
「ワレのような計算高い男は所詮天下など取れんのや。」
高島は絶命した。


龍司が言う。
「本物の龍は一匹でええ。」
「早いとこケリつけようやないか。」
「なあ、ワシ等もうボロボロや。」
「どうせ助からん。」
「お互いあんま時間はないな・・」
「ええか?行くで。」


「ああ。手加減はしねえ。」
「来い。」
桐生は龍司との最後の決闘に勝利した。


薫が龍司に駆け寄り、抱きかかえる。
「ええ匂いや。」
「オカンと同じ匂いや。」
「オカンのこと、覚えとるんか?」
首を横に振る薫。
「そうか・・かわいそうになあ。」
「顔も覚えとらん時に別れてしもうたんか・・」
「お前によう似とるわ・・」
「初めてお前に会うた時、オカンを思い出したからのう・・」
「こないに可愛い妹がおったとは・・」
「もっと早う知っとればな・・」
「ワシの体にはジングォン派の血が流れとるんや。」
「いずれこうして野垂れ死ぬ運命やったんや。」
「まあ思ったより長生きしたわ。」
「笑顔を見せてくれや・・」
「オカンの笑った顔が好きやったんや・・」


泣きながら必死に笑顔を作る薫。
「・・お兄ちゃん。」


「ええ・・顔や・・」
龍司は絶命した。


桐生が爆弾を見るとタイマーが3分を切っていた。
ビルの上空にヘリコプターに乗った須藤と伊達がやってくる。
「爆発まで時間がありません!」


ヘリコプターのスピーカーで伊達が言う。
「桐生、聞こえるか!」
「もうすぐ爆発する!早く逃げろ!」


桐生の負った傷も深く、仰向けに倒れ込んでしまう。
それを見た薫が駆け寄る。
「一馬!早く逃げないと危ないわ!」


桐生が言う。
「お前だけ逃げろ。」
「俺はもう動けない・・」


「諦めないで!私が背負っていくわ!」


桐生の傷口から大量の出血がある。
「・・お前だけ逃げるんだ。」


「分かった。」
「それなら私もここにいる。」
「あなたを置いて逃げられないわ。」
「私はあなたと一緒にいるの!」
2人は激しく口づけを交わした。


爆弾のタイマーは1分を切った。
ヘリコプターを操縦する須藤が言う。
「伊達さん!これ以上近づくのは危険です!時間も無い!」
「我々も退避します!」
ヘリコプターは神室町ヒルズから離れていった。


桐生と薫は抱き合った。
「怖いか?」


薫が言う。
「うん。でもこんなにあったかいのは初めてや・・」
爆弾のタイマーが0になった。


数日後、伊達と桐生が墓地で話しをしている。
「あの爆弾が偽物だったとは・・」
「寺田が一番の役者だったな。」


桐生が言う。
「ああ。奴が言っていた通り、高島の事は心から信用しちゃいなかったのさ。」


伊達が言う。
「そうだな。最初から爆弾の信管は抜かれていたわけだしな。」
「ハナっから爆発させる気はなかったってことだ。」
「しかしまあ、爆弾が起動した時はどうなるかと思ったぜ。」


桐生が言う。
「だがあの時、寺田の判断が無ければ高島の思い通りになっていただろう。」
「奴は最期に信じてくれと言った。」
「多分、風間の親っさんへの気持ちだったんだと思う。」
「今思えばな。」


寺田の墓に手をあわせていた遥が薫の姿に気づく。
「あ・・!」
墓花を持った薫が桐生のもとに笑顔で歩いてきた。