とある王国の姫君に男の赤子が生まれた。
「あの子がそうなのか?」
「あの痣(あざ)がある。間違いあるまい。」
その赤子の左手の甲には不思議な痣が刻まれている。
数日後の深夜、王国は魔物に攻め込まれた。
燃え広がる炎の中、姫君は生まれたばかりの赤子と幼い少女を連れて逃げだした。
しかし姫君と幼い少女は追手に見つかってしまう。
痣のある赤子は一通の手紙と共にベビーバスケットごと川に流され、次の日の朝、初老の男性に発見された。
「なんと、赤ん坊がこんな所に。」
「もしや・・この子は・・」
「もう心配いらんぞ。」
16年後、主人公と名付けられた赤子は立派な青年に成長していた。
主人公の横に同い年のエマという少女がいる。
「今日は大切な儀式・・ついにあの岩を登る日が来たんだ。」
主人公と少女の目の前には高くそびえ立つ岩山がある。
「あんな高い場所、私に登れるかな。」
ルキという名の大型犬が吠えながら岩山に向かって駆け出した。
「うふふ、ルキが私達を案内してくれるみたい。さあ行こう、主人公。」
ルキの後を追って行くと、橋の前でダン村長が待っていた。
「主人公と孫娘のエマ。二人が無事にこの日を迎えられて、村長としてこれ以上嬉しいことはない。」
「よいな、16歳となったおぬし達は神の岩で成人の儀式を果たし、一人前の大人にならなくてはいかん。」
「神の岩の頂上で祈りを捧げ、頂上で何が見えたかわしに知らせるのだ。そこまでが成人の儀式じゃからな。」
主人公の育ての母親ペルラも見送りに来てくれている。
「主人公、自慢の息子がここまで大きく育って、お母さん本当に嬉しいよ。」
「いいかい?エマちゃんは幼馴染なんだからね。あんたがしっかり守ってあげるんだよ。」
「さあ行ってきな。夕飯を作って待ってるからね。チカラを合わせて頑張ってくるんだよ。」
神の岩の麓にある石碑の前でエマと話をする。
「今日は私達の16歳の誕生日。今日の成人の儀式が無事終われば私達も大人の仲間入りよ。」
「我らイシの民。大地の精霊と共にあり・・か。」
「お爺ちゃんから聞いたの。あの神の岩には大地の精霊様が宿ってるんだって。」
「小さい頃からずっと16歳になったら神の岩に登って大地の精霊様に祈りを捧げなさいって言われてきたけど、こんなしきたり誰が考えたのかしら。」
「一人前になる前に崖から落ちて怪我でもしたらどうするのよ。」
「でも主人公と生まれた日が一緒だったのが唯一の救いね。一人だったら絶対めげてたもん。」
「ねえ、知ってる?神の岩の頂上へ行くには洞窟を抜けていかないと駄目なのよ。」
「ちょっと怖いけど、主人公が一緒だしへっちゃらだわ。さあ、行きましょう。」
神の岩を登っていくと、途中で叫び声が聞こえてきた。
「助けてー!」
声のする方へ向かうと、マノロというエマの弟が魔物に襲われていた。
主人公は襲いかかってくるスモークを倒してマノロを助けた。
「ごめんね。先回りしてエマねーちゃんを驚かせようと思ったんだ。」
「でも魔物に襲われて・・」
エマがマノロに言う。
「変よね・・神聖な神の岩に魔物が出るなんてこと今までなかったのに。」
「それはそうと駄目よ、マノロ。こんな危ないことしたら。さ、ルキと一緒に村に戻ってなさい。」
マノロはルキと一緒に村に戻っていった。
「ありがとね、主人公。あんな怖い魔物を倒しちゃうなんて。主人公、強くなったんだ。」
「もう少しで頂上だね。」
頂上に着いたが霧が深くて見通しが悪い。
「惜しいなあ。天気が良かったらきっと絶景が見れたはずなのに。」
「早くお祈りを済ませないと。」
その時、突然ヘルコンドルに襲われ、エマが崖から落ちそうになってしまう。
「主人公、助けて!」
主人公がエマの手を取り引き上げようとするが、再びヘルコンドルが襲いかかって来た。
その瞬間、主人公の左手の甲に刻まれた紋章が光り輝き、その紋章が上空に浮かび上がる。
上空に浮かび上がった巨大な紋章から雷が発生し、ヘルコンドルを直撃した。
助けられたエマは驚いた表情をしている。
「助かったのね。でも不思議だわ。まるであなたが雷を呼んだみたい・・」
「主人公、その痣は一体・・」
「あら?光が消えちゃったわね。何だったのかしら。」
「いっぱい助けてもらったわね。やっぱり主人公が一緒だと私心強いわ。」
「さ、早いとこお祈りを済ませましょ。」
エマと主人公は大地の精霊に祈りを捧げる。
「我らイシの民。大地の精霊と共にあり。」
「ロトゼタシアの大地に恵みをもたらす精霊たちよ。日ごとの糧を与えてくださり感謝します。」
「どうかその大いなる御心で悠久の大地に生きる我らをこれからも見守り下さい。」
急に空が晴れ渡り、目の前に絶景が広がった。
「世界ってこんなに広かったんだ。」
「このしきたりを考えた人、きっとこの景色を見せたかったんだね。」
「それじゃ、儀式を終えたことをお爺ちゃんに教えてあげましょ。」
「みんな私達の帰りを待ってるはずだわ。」
麓まで戻り、ダン村長に報告する。
「おお、二人共。無事に帰ってきて何よりじゃ。」
「神の岩に雷が落ちたから怪我をしてないか皆で心配しておったわい。主人公よ、頂上で何が起こったのじゃ?」
主人公は神の岩の頂上で起きたことを話した。
「ふむ、そのようなことがあったのか。まさに奇跡という他あるまい。」
「きっと神の岩に宿りし大地の精霊様が二人を守ってくださったのじゃろう。」
「ところでエマよ。神の岩の頂上から何が見えたのか、わしに教えてくれるかな?」
エマが答える。
「ええ、見渡す限りの海が見えたわ。お日さまに照らされてキラキラしててね。あんな光景初めて見たわ。」
「うむ、この世界ロトゼタシアがいかに広大かをイシの村しか知らぬおぬしらも分かったようじゃな。」
「おぬしらはまだまだ若い。もしかするとこの村を出て羽ばたく時が訪れるかも知れんからな。」
「このロトゼタシアの広大さを、わしは儀式を通じて二人に伝えたかったんじゃよ。」
「さて、そろそろ村に戻るとするかの。主人公、お前の母ペルラにも儀式を終えたことを教えてあげなさい。」
イシの村に戻り、主人公の家に入るとペルラが出迎えてくれた。
「ああ、主人公。お帰り。」
「無事成人の儀式を終えたようだね。村中で噂になってるよ。」
「うちの主人公、エマちゃんの足手まといにならなかったかい?」
エマが答える。
「全然。ねえペルラおばさま、聞いて!主人公ってば凄いのよ!」
「神の岩の頂上でね、私達魔物に襲われたの。」
「私なんて崖から落ちそうになっちゃうし、本当にもう駄目って思ったわ。」
「でもね、その時主人公の痣がピカーって光って、雷が魔物に直撃したの。」
「まるで主人公が雷を呼んだみたいに。」
ペルラが驚く。
「何だって?主人公の痣が光って魔物を退けた・・そうかい。そんな事があったんだね。」
「考えないようにしていたけど、お爺ちゃんが言っていた通り運命には抗えないのかねえ。」
「ついにあの事を話す時が来たようだね。」
「主人公。これを受け取りなさい。」
主人公はペルラから首飾りを手渡された。
「あんたが成人の儀式を終えたらその首飾りを渡すよう、お爺ちゃんに頼まれててね。」
「実は16年間、村のみんなにも言わないでずっと黙ってたことがあるんだ。」
「主人公、あんたはね・・勇者の生まれ変わりなんだよ。」
「勇者が何なのか分からないけど、あんたは大きな使命を背負ってるってお爺ちゃんずっと言ってたわ。」
「主人公が成人の儀式を終えたら北の大国デルカダールに向かわせて欲しい。そして王様にその首飾りを見せた時、全てが明らかになるだろうって。」
「だからね、あんたは勇者の使命を果たすため、この村を出てデルカダールに行かなきゃいけないんだ。」
「さあ、明日から当分会えなくなるわ!今夜はお母さんがとびっきり美味しいご飯を作ってあげるからね!」
自分は勇者の生まれ変わりである。
突然打ち明けられた事実に主人公は不安と期待の中で眠れぬ夜を過ごすこととなった。
夜に家を抜け出した主人公は、村の木の前にいるエマに会いに行った。
「あら、主人公も眠れないのね。私もよ。何だか眠れなくって。」
「ねえ、この木覚えてる?」
「子供の頃、この木にスカーフを引っかけて、私大泣きしたんだよね。」
「でも主人公はなんとかしようと村中を駆け回ってくれて。」
「私ね、主人公はこの村でずっとみんなと穏やかに過ごしていくんだろうなって思ってたの。」
「だから勇者の生まれ変わりだってペルラおばさまから聞いた時はとても信じられなくてビックリしちゃった。」
「あのね、お爺ちゃんから前にちょっとだけ聞いたことがあるの。」
「遠い遠い昔、世界中が魔物に襲われて大変だった時、何処からともなく勇者が現れて世界を救ったんだって。」
「そしてその後、勇者は星になって今もこの世界を見守ってるらしいわ。」
「主人公が勇者か。何だか信じられないわ。」
「でもデルカダールに行けば全てが分かるのよね。」
「さあ、もう自分たちの家に帰りましょう。みんな心配しているわ。」
「じゃあね、主人公。」
主人公は自分の家に帰るとベッドに入り眠りについた。
そして夜が明けた。
「うう、本当に立派になって。その姿、お爺ちゃんにも見せてあげたかったわ。」
「主人公、忘れちゃ駄目だよ。あんたは村で一番勇敢だったお爺ちゃんの孫なんだからね。」
「この先何が起きてもアンタだったら乗り越えられるってお母さん信じてるわ。だから頑張ってくるんだよ。」
「さあ、村のみんなもアンタの旅立ちを見送ろうと集まってるわ。準備が出来たらアンタも来るんだよ。」
村の出口に行くとダン村長も見送りに来てくれていた。
「こんなにも早く旅立ちの時が訪れるとはな。おぬしの祖父テオにもその勇姿を見せてやりたかったわい。」
「テオがおぬしを拾って・・いや、連れてきたのは確か16年前じゃったのう。」
「ごく普通の子供だとばかり思っていたが、まさか勇者の生まれ変わりとはのう。」
「勇者とは伝説の英雄。その昔大いなる闇を払い世界を救った人物と聞く。」
「おぬしがそんな大それた人物の生まれ変わりだとは到底思えんが、まあテオが言うならそうなんじゃろうな。」
「デルカダールの王様に会ったらくれぐれもこの村のことを宜しくな。」
「勇者様を育てた村ということで王様から何か褒美が貰えるかも知れんからな。」
「わっはっは。冗談じゃよ。ともかく主人公よ。この先おぬしにはわしらでは想像もつかぬような運命が待ち構えているかも知れん。」
「故郷を離れ旅に出るおぬしに、このロトゼタシアの地図を授けよう。道に迷った時はこれを見るのじゃ。」
主人公はロトゼタシアの地図を受け取った。
「そしてこの白馬もおぬしに授けよう。村一番の器量良しの馬じゃぞ。」
「村を出て真っ直ぐ北へ向かえばデルカダール王国じゃ。」
エマが駆け寄ってきた。
「これ受け取って!昨日あなたが旅立つって聞いて急いで作ったの!」
主人公はエマのお守りを受け取った。
「デルカダール王国は村を出て北にあるわ。村の外は魔物が出て危険だからそのお守りをしっかり身につけて行くのよ。」
「どんな使命があるのか私には分からないけど、どこにいてもこの村のこと忘れないでね。」
「絶対に元気で帰ってきてね!主人公!」
デルカダール地方を北へ進んで行き、デルカダール城下町へ入った。
城下町の一番奥にある城に入りデルカダール王に謁見する。
「ユグノアの首飾りか。」
「よくぞ来た旅の者よ。わしがデルカダールの王である。」
「こうしてそなたが来るのを長年待っておった。ようやく会うことが出来て嬉しく思うぞ。」
「その首飾りを携え王であるわしに会いに来たということは、そなたは自分の素性を知っておろう。」
「もしそなたが本物の勇者であるならば、恐らく手の甲に痣があるはず。」
主人公は左手の甲にある痣を見せた。
「うむ、その痣こそ勇者の印。そなたこそあの時の赤ん坊。」
「皆の者よ、喜べ。今日は記念すべき日。ついに伝説の勇者が現れたのじゃ!」
「ときに勇者よ。そなたは何処から来たのだ?そなたをここまで育て上げた者に礼をせねばならん。教えてくれぬか。」
主人公はイシの村で育ったことをデルカダール王に伝えた。
「なるほどな。イシという村か。ホメロス、しかと聞いたな?」
「ホメロスよ、分かっているな?あとは任せたぞ。」
グレイグという将軍が主人公の前に立ちふさがる。
「まさか一人で乗り込んで来るとはな。何を企んでいるか知らんが貴様の思い通りにはさせんぞ!勇者め!」
「グレイグよ。その災を呼ぶ者を地下牢にぶち込むのじゃ!」
「皆の者も知っておろう!勇者こそがこの大地に仇をなす者!」
「勇者こそが邪悪なる魂を復活させる者!」
「勇者と魔王は表裏一体なのじゃ!」
グレイグが主人公に剣を向ける。
「我が王はあのように聡明なお方。勇者が何者であるか分かっておったのだ。お前には不運であったな。」
「よし!この者を捕らえよ!」
主人公は牢獄に連行された。
「イシの村か。お前の言ったことが真実か、3日もすれば分かるだろう。」
「3日もすれば探索に出たホメロスが戻ってくる。」
「災を呼ぶ悪魔の子よ。お前の命もそれまでと思うがいいだろう。」
牢に入れられた主人公は、隣の牢にいる青年に話しかけた。
「やれやれ、騒々しいな。うるさい奴が来たもんだ。」
「牢屋に入れられたぐらいでオロオロビクビクしやがって。しけた野郎だな。」
「ところでお前、何をやらかした?ここは牢の最下層だ。よほどのことをやらないとここまでは入れられねえ。」
主人公は事情を説明した。
「うん?何だって?自分は何もしてない?ただ勇者と名乗っただけだと?マジか!」
「こいつは驚いた。まさか勇者様が同じ牢だと?」
そこに監視兵が食事を持ってきた。
「お待ちかねの食事の時間だ。取りに来い。」
青年は一瞬のスキをついて監視兵を気絶させ、鍵と武器を奪った。
奪った鍵で主人公の牢も開ける。
「俺の前に勇者が現れるとはな。」
「全てはあの予言の通りだったって訳か。」
「来な。他の兵士が来る前に逃げるとしよう。」
「穴を掘っておいたんだ。今日脱獄しようと思っていたが、そんな日にまさかお前が来るとはな。」
「どうやらあの予言通り、俺はお前を助ける運命にあるらしいな。」
「今は詳しく話してる時間はねえ。さあ、お前から先に行きな!」
穴を通って脱獄を図るが、途中で監視兵に気づかれてしまう。
監視兵に追い詰められ逃げ込んだ先は、断崖絶壁だった。
「くそ!いいか、よく聞くんだ。ここで捕まったらお前も俺も長くは生きられねえ。」
「行くぞ、主人公。俺は信じるぜ。勇者の奇跡ってやつを。」
「俺の名前はカミュ。覚えておいてくれよな。」
主人公とカミュは崖から飛び降りた。
「起きろ!主人公!」
主人公は目を覚ました。
「よお!ようやくお目覚めか。ここはデルカダールの外れにある教会だ。」
「お前、あれからずっと気を失ってたんだぜ。」
「勇者の奇跡ってやつを信じて崖から飛び降りたが、どうやらその賭けには勝ったらしい。」
「何が起きたか分からねえが、気付いた時には無傷で崖下の森の中さ。大したもんだな、勇者ってのは。」
「さて、これでお前も俺も仲良くお尋ね者って訳だ。」
「のんびり休んでる訳にもいかないが、まずは俺達を助けてくれたシスターに礼を言っておくとするか。」
シスターと話をする。
「あら、旅のお方。お連れの方のお身体はよろしいのかしら?」
「お気をつけて。先程不穏な話を耳にしました。」
「何でも凶悪な囚人達が牢を脱走し、この辺りをうろついているそうです。一体どんな恐ろしい人物なのか。」
「町は何とも物々しい雰囲気です。逃走中の二人の囚人を追って兵士の方々が懸命に探されています。」
「それにあの大英雄グレイグ将軍までもが囚人が来たイシという村への道を封鎖しに自ら南の渓谷地帯へ出陣されたとか。」
「あら、ごめんなさい。不安にさせてしまったわね。」
「大丈夫、きっとすぐに悪人は捕まりますよ。それまではこの教会を宿と思ってお好きに使って下さいな。」
教会の外に出てカミュと話をする。
「イシの村・・聞いたこともないが、あの渓谷地帯に村があるとは驚いたな。お前はそこの出身なのか。」
「村のこと、気になるだろうが早まるなよ。」
「今来た道を戻ったところでグレイグの野郎に捕まるだけだ。」
「奴に見つからずイシの村に行くには別の裏道を使うしかない。」
「俺ならその道を知っている。なんだったら案内してやってもいいぜ。」
「だが先に俺の用事を済まさせてくれ。デルカダールの城下町に忘れ物があってな。そいつを取り戻しておきたいんだ。」
「牢から連れ出してやったんだ。それくらいの頼み、聞いてくれてもいいだろ?」
「どうやら予言によると、俺はお前を助ける運命にあるらしい。改めて宜しく頼むぜ。勇者様!」
カミュが仲間に加わった。
カミュと一緒にデルカダール城下町の下層にやって来た。
「上の城下町とは違う雰囲気で驚いたろ?ならず者たちが暮らす掃き溜め。ここもまたデルカダールの一つの顔さ。」
「1年前、俺は相棒のデクと協力して古代からデルカダール王国に伝わる秘宝レッドオーブを盗み出した。」
「まあ下手を打って捕まりはしたが、予めオーブは後から回収できるように安全な場所に隠しておいたのさ。」
「真っすぐ進んだ先に城下町のゴミを集めたでっかいゴミ捨て場がある。その奥を掘り返してオーブを埋めたんだ。」
「奴ら自分達が出したゴミの中に自分たちのお宝が隠されてるなんて夢にも思ってないだろうぜ。」
「さあ、さっさと回収しに行こう。ゴミ捨て場はこの奥だ。」
ゴミ捨て場の奥を掘り起こすがレッドオーブがない。
「まさかデクの野郎、オーブを持ち逃げしやがったのか?」
「くそ!デクの野郎!見つけ出して締め上げてやる!」
「お前にもアイツを探すの手伝ってもらうぜ。デクの足取りを追うんだ!」
「この先に俺達が昔ねぐらにしていた下宿がある。2階建ての建物だからすぐに分かるはずだ。まずはそこへ行くぞ。」
2階建ての下宿に入る。
「懐かしいな。全く変わってないぜ。」
「ここは俺とデクが盗賊だった頃、随分と世話になっていた下宿なんだ。」
「おい、女将!女将はいないか?俺だ!カミュだ!聞きたいことがある!」
返事がない。
「女将は留守か。弱ったな。あの人ならデクの居場所が分かると思ったんだが。」
「まあ焦ったところで仕方がないか。まずは女将を探し出してデクの居場所を聞き出そう。」
「主人公は町の東側にある火の見櫓から女将を探し出してくれ。」
「女将は見ればすぐに分かるぜ。この辺じゃただ一人の赤髪だからな。」
「俺は別の場所を探すとするぜ。」
主人公が火の見櫓に登ると、ふくよかな赤髪のおばさんが下宿の方に向かって歩いているのが見えた。
カミュと合流して一緒に下宿に戻り、カウンターにいた女将と話をする。
「あんた、まさかカミュちゃんかい?城の連中に捕まってたんじゃないのかい?」
「ひょとして城下町を騒がせてる脱獄囚てっのは・・」
「どうやら訳ありみたいだね。やれやれ、相変わらず危なっかしい子だよ。」
「え?デクを探してるって?おやまあ、懐かしい名前だこと。」
「けど最近この辺りじゃ見かけないね。」
「なんでも城下町のお城の近くで店を初めて、随分と忙しくしてるらしいよ。羽振りがよくて結構なことさ。」
「おっと、他人の事情には首を突っ込まないのがこの町のルールだ。これ以上知りたければ自分で聞いてみるんだね。」
下宿の外に出てカミュと話をする。
「デクが城下町で店をやってるだと?」
「あの野郎、俺とオーブを売りやがったんだ!締め上げてオーブの行方を吐かせてやる!」
「城下町はあの門を越えた先だ。邪魔な門番には金を握らせるか。」
門番に2000Gを握らせて城下町に入った主人公とカミュは、北にあるデクの屋敷に入った。
カミュの姿を見たデクはいきなり抱きついてきた。
「兄貴ー!お化けじゃない!本物の兄貴だー!」
「無事で良かった。ずっと心配してたんだよー!」
「ったく、調子のいいこと言いやがって。」
「この店だって俺を裏切ってオーブを売った金で始めたんじゃないのか?」
デクが言う。
「裏切るわけないよー!兄貴のことは1日だって忘れたことなかったよー!」
「店も兄貴を助けるために始めたんだから!」
「私、盗みの才能はいまいちだったけど、商売の才能はあったみたいよー。」
「兄貴が捕まって何とか命だけでも助けようと色々考えたのよー。」
「放っといたらどんな酷いことされるか。」
「だから私オーブを拾ったと嘘ついて王様にオーブを返したのよ。それで貰った賞金で商売始めたのよー。」
「商売で稼いだ金は城の兵士にバラ撒いて兄貴が早く出てこられるよう裏から手を回してたってわけ。」
「私、国にオーブを返した後も人を使ってオーブの行方、ずっと追ってたのよー。兄貴が大事にしてたの知ってたからね。」
「オーブはグレイグ将軍が南のデルカダール神殿に移して厳重に守ってるらしいよー。」
「確かデルカダール神殿はここから南東。主人公の住んでたイシとか言う村も多分同じ方角だな。」
「なるほど、手間が省けて丁度いい。早速デルカダール神殿に向かうとするか。」
「それじゃ、足がつかないうちに出発するか。デク、世話になったな。達者で暮らせよ。」
「南門は兵士だらけで突破は無理だな。グレイグの部下が相手じゃ賄賂を握らせても難しいだろう。」
「仕方ない。遠回りになるが、デルカダールの丘の南の裏道を抜けてデルカダール神殿へ向かうか。」
「ついでにイシの村にも寄って行こう。」
デルカダール城下町の下層から外に出てデルカダール神殿へ向かう。
デルカダール神殿に行く前にイシの村に立ち寄った。
「お兄ちゃん、見ない顔だな。旅の人かい?ここはイシの村。何にもない所だがゆっくりしていくといいさ。」
「え?あんたがこの村の出身だって?ハッハッハ!なに馬鹿なこと言ってんだ。お兄ちゃん面白い人だな。」
主人公の家に行き、ペルラに話しかける。
「ひっ!あんた誰なんだい?」
主人公は自分が主人公であることをペルラに伝えた。
「何言ってるんだい。うちの子はまだ6歳だよ!」
「お前さん、私を馬鹿にしてるのかい?」
「さあ、とっとと出ていっておくれ!でないと人を呼ぶよ!」
自宅を出て村の木の前に行くと、6歳のエマが泣いていた。
スカーフが木に引っかかってしまったようなので取ってあげる。
「ありがと、お兄ちゃん。」
「あたしエマっていうの。お兄ちゃんは?」
主人公は自分の名前を告げた。
「主人公?あ、分かったわ!お兄ちゃん、主人公を探してるのね!」
「主人公ならテオお爺ちゃんのとこにいるはずだわ。こっちよ。」
エマについていくと、6歳の主人公とテオがいた。
「ふむ、君はわしに用があるようじゃな。主人公とエマは向こうで遊んでなさい。」
6歳の主人公とエマは遊びに行ってしまった。
「さてと・・お前さんも主人公じゃな。」
「ははは。わしには分かるわい。赤ん坊の頃から面倒を見てきたんじゃ。」
「そんな辛そうな顔をして、一体何があったと言うんじゃ?わしに話してみなさい。」
主人公はテオの言いつけを守ってイシの村を出た後、自分の身に何が起きたのかテオに話した。
「なるほど。どうやらお前さんはわしがいなくなった後の未来からやって来たようじゃな。」
「ふむ、頼りにしていたデルカダールの王に裏切られたというか。辛い思いをさせてしまったのう。」
「デルカダール王が頼りにならないと分かった以上、お前さんには包み隠さず全てを伝えたほうが良さそうじゃ。」
「だがこうして話してる時間はあまりなさそうじゃな。よいか?よく聞くんじゃぞ。」
「村を出て東に向かった所にイシの大滝があるじゃろ。自分の時代に戻ったらそこにある三角岩の前を掘ってみなさい。」
「東にあるイシの大滝。そこの三角岩じゃぞ。」
「しかし大きくなったのう。これほど立派になった主人公を見ることが出来てわしは果報者じゃ。」
「主人公や。人を恨んじゃいけないよ。わしはお前のじいじで幸せじゃった。」
テオが主人公の目の前から消えてしまった。
カミュが近づいてくる。
「何ボーッとしてんだ?大丈夫か?」
辺りを見渡すと、イシの村が壊滅した光景が広がっていた。
「全くひでえことをしやがる。勇者を育てた村と言うだけでこの仕打か。」
「お前を捕まえた後、デルカダールの兵士達がやって来て焼き払ったんだろうな。」
「そういやお前がボーッとしている時、お前の痣と木に巻き付いた根が光ってたが、何かあったのか?」
主人公は今見てきたことをカミュに話した。
「へえ、不思議なもんだ。過去にさかのぼって村の人やお前の爺さんに会ってきたとはな。」
「お前にはきっと、この根を通じて過去を見るチカラが備わっているんだな。」
「それじゃ、爺さんの言葉を信じてイシの大滝とやらに行ってみるか。」
「イシの大滝は、村を出て東に向かった所なんだな?」
「辛いのは分かるがここにいても何も始まらない。行くぞ、主人公。」
イシの大滝に向かい、東の方にある三角岩の下を掘ってみると木箱が埋まっていた。
木箱の中には手紙が二通と青白く輝く石が入っている。
「主人公、あなたがこの手紙を読めるようになった頃、私はもうこの世にはいないでしょう。」
「あなたが生まれてすぐ、故郷のユグノアの地が魔物に襲われました。」
「私はあなたを逃がすので精一杯でした。」
「いいですか、主人公。心ある人に拾われ立派に成長したら、ユグノアの親交国であるデルカダールの王を頼るのです。」
「あなたは誇り高きユグノアの王子。そして忘れてはならないのが、大きな使命を背負った勇者でもあります。」
「勇者とは大いなる闇を打ち払う者のこと。」
「いずれこの言葉が何を意味するのか分かる時が来るでしょう。」
「主人公、一緒にいてあげられなくてごめんなさい。」
「無力な母を許して。」
もう一通の手紙を読む。
「親愛なる孫、主人公へ。」
「未来から来たお前に出会った後、わしは約束通りお前の道標となる物をここに埋めておいた。」
「母親の手紙はもう読んだかのう?あの手紙はお前が流されてきた時、一緒に入っていた物じゃ。」
「わしはあの手紙に従いお前をデルカダール王国に向かわせたが辛い思いをさせたようじゃの。」
「なぜユグノアの地が魔物に襲われ勇者が悪魔の子と呼ばれているのか、わしには見当もつかんかった。」
「なれば真実は自分の目で確かめるしかない。」
「東にある旅立ちの祠の扉を開ける魔法の石をお前に授けよう。」
「それを使って世界を巡り、真実を求めるのじゃ。」
「お前が悪魔の子と呼ばれ、追われる勇者となった全ての真実を。」
「主人公や。人を恨んじゃいけないよ。わしはお前のじじいで幸せじゃった。」
「旅立ちの祠の扉を開く魔法の石か。まあこれも乗りかかった船だ。俺もお前の旅に付き合ってやるぜ。」
「お前の爺さんが言ってた旅立ちの祠はここから東にあるんだったな。」
「それじゃさっさとそこに行こうぜ・・と言いたい所だが、その前に俺の目的も果たさせてくれ。」
「レッドオーブが移されたのはこの道の先にあるデルカダール神殿だ。宜しくな、主人公。」
デルカダール神殿へ着くと、デルカダール王国の兵士達が皆、殺されていた。
「おいおい、どういうことだ。これは。」
「兵士が殺されている。一体誰がこんな事を・・」
神殿の最下層に行くと、イビルビーストという魔物がレッドオーブの前にいた。
「ケケケ。こいつは楽な仕事だぜ。このオーブをあの方に渡すだけで褒美は思いのままって話だからな。」
イビルビーストが主人公達の姿に気づく。
「ケケケ。何だお前ら。まあいい。ここに来た不運を呪うんだな!」
主人公達は襲いかかってくるイビルビーストを倒した。
「ちっ、手こずらせやがって。しかし何だって魔物がオーブを狙ってやがるんだ?」
カミュはレッドオーブを手に入れた。
「まあいいか。やっと手に入った。長かったぜ。」
「諦めかけていたレッドオーブが今はこうして俺の手の中にある。」
「主人公、俺は確信したぜ。」
「お前と一緒にいれば、いつか俺の願いは果たされるとな。」
「おっと、願いは何かって質問はなしだぜ。これは俺の問題だからな。」
「さて、やることも全部終わったし、お前の爺さんが言ってた東にあるっていう旅立ちの祠に向かうか。」
デルカコスタ地方を東へ進み旅立ちの祠に近づくと、グレイグ将軍に見つかってしまった。
「見つけたぞ。悪魔の子め。」
「逃がすものか!災いを呼ぶ悪魔の子め!」
何とか旅立ちの祠に逃げ込み、中にある旅の扉を魔法の石で起動させてワープする。
「主人公、逃しはせぬ。地の果てまで追いかけてやるからな。」
旅の扉は荒野の祠につながっていた。
荒野の祠を出てホムスビ山地を西へ進み、ホムラの里に入る。
「やれやれ、やっと人のいる場所に着いたぜ。追手の姿は見えないようだが、これからどうしたもんかな。」
>
ホムラの里の男性に声をかけられる。
「おやおや、お兄さんたちは見たところ旅の方のようですね。いやあ、いい時にいらっしゃいました。」
「私つい先日、里の奥の方で蒸し風呂屋を開店したばかりでして。」
「今でしたら先着100名まで無料でご入浴頂けます。この機会、ご利用されないと損ですよ!」
「お客さん、ちゃんとお風呂に入らないと不審者に思われちゃいますよ!」
「確かにちょっと臭うかもな。風呂なんてこの先もあるか分からねえし。入れるうちに入っておくか。」
酒場の前を通りかかると何やら揉め事が起きていた。
赤い帽子をかぶった幼い少女が酒場の従業員に食ってかかる。
「ちょっと、レディには優しくしなさいよ!乱暴な男はモテないわよ!」
「何よ!マスターと話すくらいいいでしょ。マスターならはぐれちゃった妹のこと知ってるかも知れないんだってば。」
「ふん!分かったわよ!マスターなら話が通じると思ったけど、こんな石頭がいたんじゃどうしょうもないわ。」
少女は怒りながら酒場を後にする。
少女が主人公の顔を見ると何かに気付いたように話しかけてきた。
「あれ?あんたは・・ねえ、名前を聞いてもいいかしら?」
主人公は少女に名前を告げた。
「ふうん、主人公というの。なるほどね。」
「アンタとはもう少しお話したいけど、今はいなくなった妹の方が心配。里の中を探してからにするわ。」
「まさかこんな所でアンタに会えるなんて、運命って分からないものね。」
赤い帽子の少女は何処かへ行ってしまった。
里の北東部にある蒸し風呂に入る。
「ここの蒸し風呂はなかなかいいな。」
「客は俺達しかいないらしい。せっかく貸し切り状態なんだから、ここで一息ついていこうぜ。」
「しかし俺達、これからどうするか。追手がここに来るのも時間の問題かもな。」
「さっきの妹を探している女の子、酒場で聞き込みなんてマセてるよな。」
「妹・・まったく出来の悪い妹を持つと兄ちゃんや姉ちゃんは苦労するよな。」
どこからか声が聞こえる。
「ねえ、どこなの・・どこに行っちゃったの?」
幼い少女が泣きながら蒸し風呂の中に入ってきた。
「何だ、驚かせやがって。お前、こんな所で何やってんだ?」
少女が泣きながら言う。
「あたし、宿屋で待ってたのに・・」
「お風呂に行くってでかけたまま、もうずっと帰ってこないの。」
「あたし、ルコって言うの。」
「よし、ルコ。お前の家族に会わせてやるから俺達についてきな。」
主人公とカミュはルコを連れて村の入口にいた赤い帽子をかぶった幼い少女に声をかける。
「よう、チビちゃん。俺達、お前が探している妹を見つけて来てやったぜ。」
ルコを見た赤い帽子の少女が言う。
「誰よ、その子。あたしそんな子知らないけど?」
ルコが言う。
「あたし、一人っ子だよ。いなくなっちゃったのは、あたしのパパだよ。」
赤い帽子の少女が言う。
「とにかくその女の子も迷子みたいだし、このままじゃ埒が明かないわ。」
「ねえ、主人公。悪いけどあたしを酒場のマスターの所まで連れて行ってくれない?」
「あたし一人じゃ酒場に入れないけど、アンタ達がいれば何とかなるはずよ。」
「あたしはベロニカって言うの。この子と一緒についていくから、あとはよろしくね。」
ベロニカとルコを連れて酒場に入る。
ベロニカがマスターに話しかける。
「単刀直入に聞くわ。私と似た格好をしたセーニャって子が誰かを探しに来なかった?」
「あのお嬢ちゃんなら、うちにお姉さんを探しに来たけどいないと分かって里を出ていったよ。」
「西の方にお姉さんがいる気がするからそこを目指すって言っていたっけねえ。何とも不思議な子だったなあ。」
ベロニカが言う。
「西の方?ああもう、入れ違いだわ!セーニャはあたしを助け出そうとして・・」
「実はあたし、蒸し風呂に入っていた所を魔物にさらわれちゃって。今までそいつらのアジトに閉じ込められていたの。」
「せっかくそこから抜け出してきたのに、今度は妹のセーニャが魔物のアジトに行っちゃうなんて。」
「ねえ、主人公。アンタ達ただの旅人じゃないでしょ?聞かなくてもあたしには分かるわ。」
「今はまだ詳しい話が出来ないけれどお願い、どうか何も聞かないで一緒に妹を探し出して頂戴。」
主人公は頷いた。
「ありがとう、主人公。アンタならそう言ってくれると思っていたわ。」
「ルコ、あなたのパパについては心当たりがあるの。必ず連れて帰ってくるからいい子で待ってて。」
「あたしは聖地ラムダからやって来た最強の魔法使いベロニカよ。」
「さあ行きましょ、主人公。魔物のアジトがあるのは、ここから西の地下に広がる大きな迷宮の中よ。」
「きっとセーニャも迷宮の中にいると思うの。西の海岸辺りに迷宮の入り口があるはずだから、一先ずそこを目指しましょ。」
「あたし、知ってるのよ。あんたが何者なのか。」
「あたしの期待を裏切らないでね。」
里を出てホムスビ山地を西へ進み、荒野の地下迷宮へ入る。
迷宮を進んで行く途中、回復の泉の前に主人公と同い年くらいの少女が倒れていた。
「あ、あれは!」
ベロニカがセーニャに駆け寄る。
「セーニャ!セーニャったら!ちょっと、しっかりしてよ!」
「どんな時もずっと一緒だって約束したじゃない。ねえ、返事してよ、セーニャ!」
セーニャはただ寝ていただけのようだ。
「んん・・ふわあ・・」
「すみません、私、人を探していて・・」
「疲れて泉の側で休んでいたらそのまま眠ってしまったようですわ。」
「・・お姉さま!何というおいたわしい姿に!」
ベロニカが驚く。
「え、アンタ、あたしが分かるの?」
「ふふ、何年もお姉さまの妹をしてますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ。」
カミュが二人に聞く。
「なあ、お取り込み中のところ悪いが、セーニャってのはお前の妹なんだろう?一体どういう事だ?」
ベロニカが答える。
「実はあたしとこの子は双子なの。」
「あたしがこんな見た目になっちゃったのは深い訳があるのよ。」
「あたしをさらった魔物はね、ここをアジトにして沢山の人をさらっては魔力を吸い取って集めていたの。」
「魔力を吸い尽くされないように堪えていたらどんどん年齢の方も吸い取られたみたい。それで今はこんな格好ってわけ。」
「つまりこう見えてあたしはれっきとした年頃のお姉さんなの。これからは子供扱いしないでよね!」
「あたしの身体がこんなんじゃこの先大変だから、アンタ達にはあの魔物から魔力を取り戻すまで付き合ってもらうわ。」
迷宮の最奥にベロニカから魔力を吸った魔物がいた。
「俺があれだけ注意したのに獲物に逃げられやがって。ごめんなさいじゃ済まねえんだよ!」
「あのベロニカという女は只者じゃねえ。桁外れのチカラと極上の素質を秘めた何年に一度現れるか分からない逸材だった。」
「あの女の魔力を全部お納めすれば、いずれ現れるだろう魔王様の右腕になれただろうに。それをお前らは!」
ベロニカが言う。
「間違いないわ。あの魔物たち、ホムラの里で蒸し風呂に入っていたあたしをここまでさらってきた奴らよ。」
「あの魔物の側に大きな壺があるでしょ?あたしの奪われた魔力はあそこにみっちり閉じ込められているはずだわ。」
その時、主人公達は魔物に見つかってしまった。
「なんだ、オメーらは。このデンダ様のアジトに勝手に入り込みやがって。」
ベロニカを見つけるデンダ。
「ははーん、なるほど。オメーらは俺が取り逃がした獲物をわざわざ届けに来てくれたって訳か。」
「果報はブチ切れて待てとはこのことよ。さあ、野郎ども!仕事の時間だ!こいつらの魔力、全部吸い尽くしてやるぞ!」
主人公達は襲いかかってくるデンダ一味を倒した。
「ク・・魔王様の右腕になるという俺様の野望もここで潰えるのか・・」
「ククク・・いずれ魔王様にやられちまうオメーらに何を教えたって無駄さ。命あっての特ダネとはこのことよ・・ぐふっ。」
デンダ一味は消滅した。
カミュが言う。
「いずれ現れる魔王か・・」
「あたしの魔力はその壺の中に閉じ込められているみたいだね。」
壺を開けると、奪われた魔力が吹き出してベロニカに吸収された。
しかしベロニカの身体は幼い少女のままだ。
「そんな・・お姉さまの姿が変わっていない・・魔力は戻らなかったのですね・・」
「ご心配なく。魔力はすっかり元通りよ。魔力が頭のてっぺんからつま先までギンギンに満ちているのが分かるわ!」
「ふーん、年齢までは元に戻らなかったみたいね。」
「でもせっかく若返ったんだし、まあいいわよね。」
セーニャが笑っている。
「まあ、お姉様らしいですわね。何だかそのお姿のお姉さまも愛おしく思えてきましたわ。」
「ところで・・ねえ、お姉様。主人公様のこと、気付いてまして?」
「ええもちろんよ、セーニャ。アンタも気がついたみたいね。流石あたしの妹だわ。」
ベロニカとセーニャが二人揃って主人公に近づいてくる。
「命の大樹に選ばれし勇者よ。こうしてあなたとお会いできる日をお待ちしておりました。」
「私達は勇者を守る宿命を負って生まれた聖地ラムダの一族。これからは命に代えてもあなたをお守り致します。」
「主人公様、あなたは災いを呼ぶ悪魔の子などではありません。」
「里の者から聞かされていました。私達姉妹が探し求める勇者は、瞳の奥に暖かな光を宿していると。」
カミュが言う。
「勇者を守る聖地ラムダの一族か。俺の読み通り、どうやらお前は本当に世界を救う勇者だったみたいだな。」
ベロニカが言う。
「アンタにはまだ話したいことがいっぱいあるんだけど、その前にもうちょっとだけあたしに付き合って。」
「もう一人助けてあげたい人がいるの。ここからしか入れない部屋があるはずだから一緒に探して頂戴。」
奥にある牢獄を探すと、ルコの父親がいた。
「もう大丈夫よ、おじさん。あの悪い魔物はあたし達がやっつけたわ。」
「ありがとう。俺の名前はルバス。アンタ達から受けた恩はきっと忘れねえよ。」
カミュが言う。
「ルバス?その名前、どこかで聞いたことあるような・・」
「それじゃあ俺はルコが心配だから先に行くぜ。アンタ達、本当にありがとうな!」
荒野の地下迷宮を後にした主人公達はホムラの里へ戻り、宿屋で休むことにした。
そして夜が明けた。
「よう、主人公。起きてきたか。俺達もちょうど集まったところだ。」
ベロニカが言う。
「やっと聞いてもらう時が来たわね。勇者であるアンタとあたし達姉妹の使命について。」
セーニャが言う。
「大いなる闇、邪悪の神が天より現れし時、光の紋章を授かりし大樹の申し子が降臨す・・私達の故郷に伝わる神話の一節ですわ。」
ベロニカが言う。
「そう、信じられないだろうけど、アンタはかつてその紋章のチカラで邪悪の神を倒して世界を救った勇者の生まれ変わりなの。」
「邪悪の神は倒されたはずなのに、なぜ勇者がこの世に生を受けたのか。それはあたし達にも分からない。」
「そこで真実を突き止めるために、アンタを勇者とゆかりの深い命の大樹へ導く使者としてあたし達が大抜擢されたって訳。」
「命の大樹は空に浮かんでいるから簡単には行けない。」
セーニャが言う。
「かつて邪悪の神と戦った勇者様は空を渡り大樹から使命を授かったそうですが、その記憶も時の流れに埋もれてしまいました。」
カミュが言う。
「命の大樹ねえ・・うん?待てよ。何か分かるかも知れねえぜ。」
「昨日助けてやったおっさんな、実は有名な情報屋なんだ。命の大樹について何か知ってるんじゃねえか?」
主人公達は酒場で酒を飲んでいたルバスに話を聞く。
「フッ、バレちまったならしょうがねえ。天才情報屋ルバスたあ俺のことよ。」
「命の大樹とはでかいターゲットだな。いいだろう。アンタ達は命の恩人だし、とっておきのネタを教えてやる。」
「ホムラに来る前、南西の砂漠の真ん中で俺とルコは熱中症になっちまってな。その時、砂漠の大国サマディーの兵士が運良く通りがかって俺達を城に運んで介抱してくれたんだ。」
「意識を取り戻した時、城の中に飾られたキラキラと七色に輝く枝を見た。」
「俺の目に狂いはねえ。あれこそが命の大樹の枝だと思うぜ。」
セーニャが言う。
「それではお姉様、ひとまずサマディーに向かいましょう。」
「ここから南西の関所を抜けて進んで行けばサマディー王国に辿り着けるはずですわ。」
「主人公様。これから先長い旅になると思いますが、私達姉妹をどうかよろしくお願い致します。」
ベロニカとセーニャが仲間に加わった。
ホムスビ山地を南へ進んでサマディー地方へ向かい、サマディー城下町に入った。
サマディー城の玉座の間に行くと、サマディー王がスピーチの練習をしていた。
「えー、本日は絶好の好天となりまして、ファーリス杯という我が王子の16歳の誕生日を祝うレースに相応しい・・」
「うん?なんだそなた達は。今は客の相手をしている暇などない。出直して・・」
そこにファーリス王子がやって来た。
「父上!ただいま訓練から戻りました!」
「ファーリスよ。お前も今年で16歳。ファーリス杯では騎士の国の王子に恥じぬ勇敢な走りを期待しているぞ。」
「お任せください、父上。必ずや期待に答えて見せましょう。それではこれにて。」
ファーリス王子が玉座の間を後にしようとした時、主人公の姿に気付いた。
「あなたは・・失礼ですが旅の方、お名前は?ふむ、主人公さんと言うのですね。何用で我がサマディーを訪れたのです?」
主人公は大樹の枝を求めてサマディーにやって来たことを伝えた。
「大樹の枝・・もしやサマディーの国宝、七色に輝く虹色の枝のことでしょうか。」
「僕ならお役に立てるかも知れません。後で大階段を下り左に曲がった所にある僕の部屋に来てください。お待ちしています。」
主人公は下の階にあるファーリス王子の私室に向かった。
「おお、来てくれたか。わざわざ呼び出してすまなかったね。」
「うんうん、思った通りだ。身長も体格もピッタリだし、馬の扱いに長けていそうな顔をしている。」
「君達、虹色の枝を求めて来たんだっけ?残念だけどあれは国宝でね。旅人にあげられる物ではないんだよ。」
「だけど僕が父上に掛け合えばきっと虹色の枝を譲ってくれるだろう。」
「その代り僕の頼みを聞いて欲しい。」
「ここでは誰が話を聞いているか分からない。今城下町に来ているサーカス一座のショーを見ながら話をしよう。」
夜に城下町の東部にあるサーカステントに行き、ファーリスと話をする。
ステージでは流浪の旅芸人シルビアが摩訶不思議なショーを行っている。
「みんなサーカスに夢中のようだな。ではそろそろ本題に入ろうか。これから言うことは口外しないでくれよ。」
「今度騎士たちが乗馬の腕を競うファーリス杯っていうレースが行われるんだ。」
「それに僕も出場するんだけど、一つだけ大きな問題があってね。」
「実は僕、生まれてこの方、馬に乗って走ったことがないんだ。」
「これまでは部下の協力もあって父上や国民達を欺くことができたが、レースに出たらいよいよボロが出てしまう。」
「だけど今回は僕の16歳の誕生日を祝う大切なレース。出場しないわけにもいかず、これまでずっと頭を悩ませて来た。」
「そんな時、君が現れたのだ。僕と同じ背格好をしている君がね。君こそ僕の影武者に相応しい。」
「王族は身の安全を優先させるため、鎧と兜を身につける。絶対にバレっこないさ。」
「頼む、一生のお願いだ!僕の代わりに僕のフリをしてレースに出場してくれ!頼む!」
主人公は頷いた。
「良かった!そう言ってくれると思ったよ!レースが無事に終わったら虹色の枝の件は父上に掛け合うと約束する!」
「今日は君達のために宿をとったから、そこで泊まっていくといい。」
「明日になったらレースハウスにある王族控室に来てくれ。」
「レースハウスの入り口は城下町の西側だ。迷わないように気をつけるんだぞ。」
主人公達はファーリス王子の計らいで城下町の宿屋で一夜を過ごすことにした。
そして夜が明けた。
主人公はレースハウスでファーリス王子と入れ替わり、ファーリス杯に出場した。
主人公はファーリス杯で優勝することが出来た。
「凄いぞ!主人公さん!まさか優勝するとは思わなかったよ。君には馬術の才能があるな!」
「さあ、代わってくれ!これからみんなの前に出ないといけない。今度は僕が馬に乗る番だ。」
主人公とファーリス王子が再び入れ替わった。
「君のおかげで助かったよ。虹色の枝の件は僕が何とかしよう。それじゃ、また後で。」
こうして勇敢な走りを見せたファーリス王子は表彰され、サマディー王国中の人々から声援を受けることとなった。
その後、レースハウスの裏でファーリス王子と話をする。
「ふう、ここまで来れば大丈夫だろう。」
「ありがとう、主人公さん。君のおかげで面目を保てたよ。早速虹色の枝の事だ・・」
そこにサーカステントのステージで芸を披露していた旅芸人シルビアがやって来た。
「騎士の国のお坊ちゃん!さっきの走り、やるじゃない~。アタシ感動しちゃったわ~。」
主人公とファーリス王子が同じ格好をしていることに気づくシルビア。
「何よ、がっかりだわ。折角いいレースが出来たと思ってたのに、入れ替わってズルしてたのね。」
「勝てない勝負でも正々堂々と戦うのが騎士道ってものではなくて?」
「主人公さん、君には世話になった。虹色の枝の件は僕が何とかするから後で玉座の間に来てくれ。」
ファーリス王子はシルビアの事を無視してサマディー王の所に行ってしまった。
シルビアが言う。
「アナタ、主人公ちゃんって言うのね。アナタの走り、とっても痺れたわ。またどこかで会ったらよろしくね。」
主人公はファーリス王子の言葉通り、玉座の間に向かった。
「父上、実はお願いがあります。あちらの旅の方の頼みを聞いては下さいませんか?」
「そのお願いというのは、あちらの旅の方に虹色の・・」
そこに兵士が慌てた様子でやって来た。
「王様!大変です!サソリの化物です!バクラバ砂丘にまたあのサソリが現れました!巡回中の兵士が怪我をした模様です!」
サマディー王が立ち上がる。
「ええい!あの砂漠の殺し屋か!毎年この時期になると決まって現れるな。」
「自国の平和を守るのは騎士の務め。二度と現れぬよう、よりすぐりの騎士を派遣し今度こそ息の根を止めてくれるわ!」
「そうだ。我が息子に魔物を捕らえさせよう。騎士として成長したお前ならば今回の任務もきっとこなせるであろう。」
それを聞いたファーリス王子が震えている。
「歴戦の騎士を次々と亡き者にしてきたあの魔物を、私がですか?」
「私では敵いませんよお・・」
「わはは!実力者ほど謙遜するものだ。それに戦いを前にして武者震いも止まらぬとみた!頼もしい限りだな。」
「よし、ファーリスよ!行け!砂漠の殺し屋を見事捕らえてまいれ!」
ファーリス王子は渋々承知した。
「はい、承知しました。準備のため一度自室に戻ります。それでは・・」
主人公の側を通る時、小声で主人公に言う。
「すまない。虹色の枝の話は後だ。話があるから後で僕の部屋に来てくれ・・」
主人公は王子の私室に向かった。
部屋に入るとファーリス王子が土下座をして待っていた。
「頼む!一生のお願いだ!魔物を捕まえるのに協力してくれ!」
「今まで訓練のくの字もやったことがなく、実践は全部部下に任せていたんだよ。」
「一人息子の僕は幼い頃から過保護に育てられ、父親と母親からどんな小さなことでも褒められて来たんだ。」
「僕は両親や民衆の期待を裏切らぬよう、出来ないことでもさも出来るかのようにやり過ごしてきた。」
「そうこうしているうちに、僕の評判は実力に見合わぬほど高くなってね。いつの間にか後戻り出来なくなっていたんだ。」
「でも今回ばかりはとても誤魔化せない!あのサソリを捕らえるなんて僕には無理だ!だからチカラを貸してくれ!頼む!」
主人公は頷いた。
「ありがとう!君達はこの国の救世主だ!魔物を捕まえることが出来たら今度こそ虹色の枝の件は父上に掛け合うと約束しよう。」
「それじゃ、城門の前で待ってるからな!準備が出来たら君達も来てくれよ!」
城門の前に行くとファーリス王子と兵士達が待っていた。
「よし来たな。紹介しよう。主人公さんとその仲間達だ。彼らに砂漠の殺し屋を捕まえてもらう。」
「砂漠の殺し屋がいる魔蟲の住処はバクラバ砂丘という場所の一番奥にある。まずは西の関所を抜け、バクラバ砂丘に行こう。」
「よし!行くぞ、お前達!」
そこにシルビアがやって来た。
「ねえ、サソリちゃんを捕まえに行くんでしょ?楽しそうじゃな~い。アタシも交ぜて~。」
「ふふ~ん、サーカスよりもあのお坊ちゃんのことが気になってね~。」
「ね?アタシもついて行っていいでしょ?」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよ~。アタシ結構戦いには自信あるの。それじゃ、張り切って行くわよ!」
シルビアも一緒に行くことになった。
途中のキャンプ地で小休止をとる。
シルビアが主人公に話しかけてきた。
「アナタ達、男二人、女二人の四人旅なんてロマンチックじゃない?どうして旅なんかしてるの?」
セーニャが答える。
「今はまだ全てが明らかになった訳ではありませんが、勇者にまつわる伝説、その全ての謎を解き明かすために命の大樹を目指す旅をしているのです。」
「もしかしたら世界に災厄をもたらしたという邪悪の神と戦う日が近い将来訪れるのかも知れません。」
「へー!みんなの笑顔を奪おうとする邪悪の神ちゃんって悪いやつがこれから復活するかもしれなくって、アナタ達はそれを倒すために旅してるっていうの?何それ、面白そうじゃな~い!」
「さ、明日はサソリちゃんと決戦よ。お喋りはこれくらいにして寝ましょ。」
キャンプ地から東へ進んだところで、砂の中からデスコピオンが現れた。
主人公達がデスコピオンを倒すと、今まで隠れていたファーリス王子がやって来た。
「わはははは!何だ、砂漠の殺し屋と言えども全然大したことないじゃないか!」
「お前たち、いいな?これは僕の手柄だと説明するんだぞ。」
「君のおかげで何とかなりそうだ。本当にありがとう。今度こそ虹色の枝の件は父上に掛け合うから安心してくれ。」
デスコピオンの死骸を持ち帰ると、城下町の入口までサマディー王が出迎えに来ていた。
「見よ!我が国の王子ファーリスがあの砂漠の殺し屋を捕らえて来たぞ!」
「勇敢な王子がいる限りサマディー王国の未来は安泰だ。さあ、ファーリスよ。民に言葉を!」
「皆さんの声援をチカラに変えることでこの通り、砂漠の殺し屋を倒し捕らえることが出来ました。」
「今後もこの国の王子としてより精進を重ね・・」
その時、デスコピオンが息を吹き返して暴れ始めた。
サマディー王がファーリス王子に言う。
「どうした、ファーリスよ。お前ほどの実力があれば問題なかろう。民の期待に答えるのだ。」
「父上・・僕には無理です・・」
シルビアがファーリス王子に声を掛ける。
「騎士たる者!どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう!」
「アナタは騎士の国の王子!卑怯者で終わりたくなければ戦いなさい!」
「僕は・・騎士の国の王子!」
ファーリス王子は勇気を振り絞り、一人でデスコピオンに立ち向かった。
途中で剣が折れてしまうが、なおも逃げずに立ち向かう。
最後はシルビアが助けに入り、デスコピオンを倒すことが出来た。
「やれば出来るじゃな~い。かっこ良かったわよ。」
「いい?騎士の国の王子様なんだから、いかなる時も騎士道を忘れちゃ駄目よ。」
サマディー王が立ち去ろうとするシルビアを止める。
「待ってくれ!騎士道に深い理解があるようだが、そなたは一体何者なのだ?」
シルビアが言う。
「ただのしがない旅芸人よん。」
その後ファーリス王子は主人公達と一緒に玉座の間に行き、サマディー王の前で全てを告白した。
「父上、という訳でレースを走ったのも魔物を捕らえたのも主人公さんだったのです。」
「ファーリス、私はこれまで等身大のお前を見ずに見合わぬ重圧を与えていたようだな。」
「謝らなければいけないのはわしの方やも知れん。これからは考えを改めるとしよう。」
「だが先程の戦いで見せた勇気はなかなかのものだったぞ。防戦一方とはいえ、騎士の国の王子として相応しい戦いだった。」
「あの勇気があればいつかはお前の目標であるデルカダールの猛将グレイグ殿の隊にも入れるであろうな。わっはっは。」
ファーリス王子が言う。
「ところで父上、一つお願いがあります。ここにいる主人公さん達は虹色の枝を求めて旅をしているのです。」
「お世話になった主人公さん達に国宝である虹色の枝を差し上げてもよろしいでしょうか?」
「虹色の枝か・・うーむ、そいつは無理だな。行商人に売り払ってしまったからのう。」
「今年のファーリス杯を豪華にやるためにな。全てお前のためにやったんだぞ。」
「すまないことをしたな、旅の者よ。」
「虹色の枝を売った行商人だが、ここより西のダーハルーネに向かうと言っておったぞ。」
「これを持っていけば西の関所を越えることが出来る。ダーハルーネで情報を集めるがよい。」
主人公はサマディー王の書簡を受け取った。
ファーリス王子が言う。
「君達には本当に世話になった。何か困った事があったらまたサマディーに来てくれ!」
「この僕がいつでもチカラになるからな!」
城下町を出ようとするとシルビアに声をかけられる。
「待ってたわよ~ん、主人公ちゃ~ん。」
「アタシもついてくわ。命の大樹を目指す旅に。そして邪神ちゃんを倒すのよ!」
「もちろん遊びでついていく気はなくてよ。旅芸人として世界中を回って沢山の笑顔と出会ったわ。」
「でもね、それと同じくらい魔物に苦しめられている人々の悲しみにも出会ったの。」
「アタシの夢はね、世界一大きなホールを建ててそこで盛大なショーをして世界中の人々を笑わせる事よ。」
「でもみんなから笑顔を奪おうとする邪神ちゃんがいたらその夢も叶わなくなるじゃない?」
「だ・か・ら、アナタ達の旅の目的はアタシの旅の目的でもあるってワケ。」
「それじゃみんな、これからもよろしくねん。」
シルビアが仲間に加わった。
「で?アナタ達、とりあえずこれからどうするの?」
セーニャが言う。
「命の大樹への鍵となる虹色の枝。その枝を手にした商人を追ってダーハルーネの町に行こうかと思います。」
「なるほどね。でもあそこは港町。もう船に乗って海に出てるかもね~。そしたらどうやって追うつもりかしら。」
「ふふん、船で行けばいいのよ。自分たちで自由に使える船でね。」
「そう!アタシが持ってるフ・ネ。」
「それじゃ、アタシの船が泊まってるダーハルーネに行くわよ!」
「ダーハルーネはここより西!さあ、しゅっぱ~つ!」
ダーハラ湿原を進んでいき、ダーハルーネの町に入った。
「アタシの船ちゃんは町の南西にあるドックの中でお休みしているの。さ、みんな行きましょ~!」
ドックに行くが、受付の男性が中に入れてくれない。
「ンもう、主人公ちゃん聞いて~!この男の子が意地悪してアタシをドックに入れてくれないのよ~。」
受付の男性が言う。
「違います!もうすぐ町でコンテストが開かれるので今ドックは閉鎖中なんです。」
「申し訳ありません。海の男コンテストはこの町にとって大事な伝統行事でして。」
「海の男コンテストとは波のように荒々しく空のように爽やかで海のように深みを持つ、その三拍子が揃った男を決めるものです。」
「なのでこの時期になると美しい肉体美を誇るたくましい男や潮風の似合う美男子が続々とこの町に集まってくるんですよ。」
カミュが言う。
「なあ、俺達は急いでるんだよ。このドックを開けてもらえると助かるんだが、コンテストの責任者は一体誰なんだ?」
「それはもちろん、このダーハルーネの町をわずか一代でここまで発展させた町長のラハディオさんですよ。」
「どんな相手でも優しく接してくれる人格者ですし会ってみるといいでしょう。」
「町の北東にあるお屋敷にいるはずですから。」
屋敷にいたラハディオ町長は主人公の顔を見るなり態度を変える。
「あんた達と話すことは何もない。さっさと消えてくれ。」
主人公とカミュは追い出されてしまった。
「何だよ。全然取りあってくれねえな。アレのどこが優しい人なんだ?」
「というかあの町長、お前を見て妙な顔をしてたよな。まさかお尋ね者なのがバレたか?」
その時、町の少年二人組がこっそりと近づいてきてベロニカの杖を盗もうとする。
しかしカミュにあっさりと阻まれてしまった。
「ねえアンタ。アタシの杖を盗んでどうするつもりだったの?売ってもたいした値にはならないわよ?」
「俺はラッドでこいつはダチのヤヒム。こいつはこの町の町長ラハディオさんの一人息子なんだ。」
「こいつとはよく一緒に遊んでたんだけど数日前に声が出なくなっちまって。何があったのか聞いても分からなくてさ。」
「それで魔法使いの杖でも使えば魔法のチカラでそいつの喉を治してやれるかもしれないと思ったんだよ。」
セーニャがヤヒムの喉を見る。
「どうやら喉にとても強力な呪いがかかっているようですわ。一体誰がこんな酷いことを。」
「さえずりの蜜という魔法の蜜があれば呪いは解けると思いますが、それを作るには清き泉に湧く神聖な水が必要ですわ。」
それを聞いたラッドが言う。
「清き泉の水、そいつが手に入ればヤヒムを助けられるのか?それなら俺聞いたことあるよ。」
「この町から西の方に川をのぼって行くと霊水の洞窟って所があってさ。奥にすっごく綺麗な泉があるらしいぜ。」
「なあお兄ちゃんお姉ちゃん。俺とヤヒムは小さい時からずっと兄弟みたいに仲良くしてきたんだ。」
「泥棒をしておいてなんだけどだ、喋れないコイツからの頼みだと思ってヤヒムを取り戻してやってくれないか。」
町を出て西へ進み、霊水の洞窟へ向かう。
洞窟の一番奥でシーゴーレムを倒して先に進むと清き泉があった。
「まあ綺麗な湧水。ここの水ならきっと最高級のさえずりの蜜が作れますわね。」
セーニャは清き泉の水をすくい、薬と調合してさえずりの蜜を作った。
「出来ましたわ、主人公様。さあ、早くダーハルーネの町に戻ってあの子に渡してあげましょう。」
ダーハルーネの町へ戻ると海の男コンテストが開かれていた。
ヤヒムにさえずりの蜜を届けたあと会場へ向かうと、デルカダールの軍師ホメロスに発見されてしまった。
「フッ、逃亡者は人混みに紛れるもの。このコンテストを利用し貴様をあぶり出そうと画策していたが、その必要はなかったようだ。」
「まさか人目もはばからず堂々とコンテスト会場にやって来るとはな。」
「聞きたまえダーハルーネの民よ!私はデルカダール王の右腕、軍師ホメロス!」
「そしてあの者こそ悪魔の子、主人公!ユグノア王国を滅ぼした災いを呼ぶ者だ!」
デルカダールの兵士達に取り囲まれる主人公とカミュ。
「さあ忌まわしき悪魔の子、主人公よ!大人しく我が手中に落ちるがいい!」
すぐにベロニカ達が助けに入り、主人公を逃がす。
「チッ。まだ仲間がいたとはな。さっさと取り押さえろ!」
軍師ホメロスが主人公に闇の呪文を放つ。
それに気づいたカミュが身代わりとなり、闇の呪文をまともに受けてしまった。
「俺のことはかまうんじゃない!主人公、お前だけでも逃げるんだ!」
主人公達は逃げ切ることが出来たが、カミュは軍師ホメロスに捕まってしまった。
シルビアが言う。
「ここまで来ればもう大丈夫よ。みんな怪我がないみたいで良かったわ。」
「あのカミュちゃんがそう簡単にどうにかなるわけないしね。」
「それにしても訳分かんないわね。悪魔の子主人公ちゃんが邪悪の神ちゃんを倒すってどういう事?」
セーニャが説明する。
「主人公様はデルカダール王国から災いを呼ぶ悪魔の子という汚名を着せられ、追われながら旅をしているのです。」
「シルビア様にはいずれきちんとお話するつもりだったのですが、巻き込んでしまってすみません。」
「や~ねぇ。そんなこと気にしてないわ。はじめっから主人公ちゃんは悪い子じゃないって分かっていたもの。」
「そんな事より今度はこっちから動くわよ。」
「町の中は兵士ちゃん達でいっぱい。でも建物の中を通り抜けながら進めば無駄な争いは避けられるはずよ。」
「まずは町の真ん中にある大きな橋の上からカミュちゃんの様子を探ってみましょ。」
ダーハルーネ中央の高い橋に行くと、ちょうどホメロスがカミュを一人で見張っていた。
「貴様らいつの間にこんな所まで!」
「チョロチョロと目障りなネズミ共め!悪魔の子もろとも私一人でカタをつけてくれるわ!」
襲いかかってくるホメロスを主人公達は返り討ちにした。
「グッ、この私に膝をつかせるとは。」
セーニャがカミュを無事助け出すと、デルカダール兵士達が大勢駆けつけて来た。
「私を倒しても何も変わらぬ。貴様らはここで捕らわれる運命なのだ!」
シルビアが海の方を見て叫ぶ。
「みんな安心して!もう大丈夫よ!」
シルビアの船が波止場スレスレを走ってくる。
主人公達は走り抜ける船に飛び込み、そのまま逃げ去った。
「じゃーね、ホメロスちゃん。今宵のショーはなかなか楽しかったわ。アデュ~。」
「フッ、薄汚いドブネズミ共が。このホメロスから逃げられると思うなよ。」
船上でカミュが言う。
「もう大丈夫みたいだな。一時はどうなることかと思ったが、おっさんのおかげで助かったぜ。」
「ウフッ。お礼はアリスちゃんに言ってあげて。あの子はうちの船の整備士でね。船の操縦もお手の物なのよん。」
アリスと呼ばれた厳つい男性が操舵席から手をふっている。
その時突然、海の中からクラーゴンという巨大なイカの魔物が現れる。
クラーゴンがシルビアの船に襲いかかってくるが、ダーハルーネのラハディオ町長が商船に乗って助けに来てくれた。
ラハディオ町長の商船には大砲がついていて、その大砲ででクラーゴンを追い払う。
「良かった。ご無事なようですね。あの魔物はこの辺りの海をよく荒らすことで有名なクラーゴンなんです。」
「息子から全て聞きました。この子の声を取り戻して下さったのはあなた達だったのですね。」
「息子が声を出せなくなってしまったのは災いを呼ぶという勇者の呪いによるものだとすっかり勘違いしていましたが、息子から話を聞いて全て誤解だったとようやく分かりました。失礼なことをして申し訳ありません。」
ヤヒムも一緒に商船に乗っている。
「僕この間、町の外であのホメロスっていうおじさんが魔物と一緒に話しているのを見かけてね。」
「びっくりして声を上げたらホメロスのおじさんに捕まって魔法で喉を潰されちゃったんだ。」
ラハディオ町長が言う。
「悪魔の子と呼ばれている勇者が人を助け、正義で動いているはずのデルカダール王国が魔物とつながっていた。」
「それが何を意味するのか分かりませんが、あなた達は私の息子の恩人です。どうか無事にお逃げおおせて下さい。」
カミュが言う。
「あんたもデルカダールに逆らったせいでこれから商売がやりづらくなるだろうけど、上手く立ち回ってくれよな。」
ラハディオ町長に見送られた主人公達は船で北東へ向かい、バンデルフォンの船着き場に入った。
そこから徒歩でユグノア地方のグロッタの町に入った。
グロッタの町では仮面武闘会が開催されるところだった。
優勝賞品が虹色の枝だと聞き、主人公も武闘会に参加するため受付で説明を聞く。
「仮面武闘会とは、仮面をつけた闘士達がタッグを組んで戦う格闘大会のことです。誰とタッグを組むかは抽選で決まります。」
「今年は優勝賞品も超豪華。町長じきじき、ある筋から高値で手に入れた最高級の逸品、虹色の枝を差し上げます。」
「こちらは試合の時につける仮面とパートナー選びに必要となる抽選番号です。」
主人公は参加者資格である仮面と11と書かれた抽選番号を受け取った。
「これよりパートナー選びの大抽選会が始まります。心の準備が出来たら3階の闘技場に向かって下さい。」
「闘技場はこの受付の裏にあるエレベーターから行けますからね。」
エレベーターに乗り闘技場に向かう。
「レディースアンドジェントルメン!今年もホットな季節がやって来たぞ!準備はいいか?今こそ戦いの時!」
「この戦いの聖地グロッタ闘技場で今年はどんな名勝負が生まれるのか。グロッタ名物仮面武闘会、いよいよ開催です!」
「それでは早速、皆様お待ちかね。誰がパートナーになるかハラハラドキドキ。運命の大抽選会を行います!」
「私がこの箱からボールを2つ取り出し数字を読み上げます。呼ばれたその2名が晴れてパートナーとなります!」
「仮面武闘会は2対2で戦うタッグマッチ!選ばれたパートナーとチカラを合わせ、優勝を勝ち取って下さい!」
主人公のパートナーは前大会のチャンピオンであるハンフリーに決まった。
「やあ、宜しく。一緒に頑張ろうな。」
抽選はその後も続き、司会が読み上げる数字にある者は喜びある者は嘆き、会場は熱気に包まれたまま抽選は終わった。
「以上をもちまして抽選会は終了です!選手の皆さんはパートナーの方と協力し、優勝を目指して頑張って下さい!」
主人公はハンフリーとチカラを合わせて危なげなく予選を勝ち進み、ついに決勝トーナメントへと進んだ。
決勝で対戦するのは老人と若い女性のコンビ。
対戦相手を見たハンフリーが言う。
「俺も格闘家の端くれだ。こいつらの強さをひしひしと感じるぜ。主人公、気を抜くなよ。」
ハンフリーは小さい小瓶を取り出すと中身を一気に飲み干した。
それを見た対戦相手のロウという老人がパートナーのマルティナに言う。
「姫よ、見たかね?」
マルティナが頷く。
「はい。間違いないかと。」
決勝戦が始まった。
試合の途中、マルティナが主人公の左手の痣を見る。
「・・その痣は!」
ロウも主人公の左手の痣に気づいた。
「何という事じゃ・・おぬしはまさか・・」
そのスキをついてハンフリーがロウとマルティナを倒し、主人公達が優勝した。
「やったな、主人公!ついに優勝したぞ!」
「今回はどの対戦相手も手強かった。もしお前がいなかったら優勝することは出来なかっただろう。」
「優勝賞品は虹色の枝という貴重な物らしい。売れば結構な金になるだろうからな。そいつを二人で山分けしよ・・・」
ハンフリーは突然胸を押さえて苦しみだし、その場に倒れ込んでしまった。
その晩、宿屋で休んでいると決勝の対戦相手のロウが訪ねてきた。
「ロウじゃよ。おぬしに用があって来たんじゃ。開けてはもらえぬか?」
「仮面武闘会でわしのパートナーであったマルティナ姫が行方不明になってしまってな。町中どこを探しても見つからんのじゃ。」
「恐らく何か事件に巻き込まれたんじゃろう。そこで相談なんじゃが、姫を探すのに協力してくれぬか?」
主人公は頷いた。
「ふむ、恩に着るぞ。大会優勝者のおぬしとその仲間達がいれば百人力じゃ。必ずや姫を見つけられるじゃろう。」
「マルティナ姫が消息を絶ったのはハンフリーの孤児院の近くじゃ。まずはそこに行ってみるとしよう。」
ハンフリーが住む孤児院に行くと、ハンフリーも行方不明になっていると子供達が騒いでいた。
孤児院の地下を探すと、奥にハンフリーと意識を失ったマルティナがいた。
「アラクラトロ様!新しい獲物を連れてきました!」
奥からアラクラトロという巨大な蜘蛛の魔物が現れた。
「シュルルル。今日の獲物はそやつか。ほほう。これは極上の女闘士だな。」
「そやつのエキスも絞り出してやろう。ハンフリーよ。我に差し出すのだ。」
マルティナが突然起き上がり、ハンフリーに一撃を与える。
「ふっ、姿を現したわね、黒幕。わざと捕まった甲斐があったわ。」
「16年前に町を襲った魔物の群れはグレイグによって倒されたと聞いていたけれど、生き残りがこんな所にいたなんて。」
主人公達もマルティナに合流する。
「ふむ、姫よ。ご苦労であったな。」
「ハンフリーよ。すまんがおぬしの部屋を調べさせてもらった。」
「決勝戦の直前でおぬしが飲んでいたもの。あれこそが闘士達から絞り出されたエキスだったのじゃな。」
アラクラトロが言う。
「シュルルル。その通りだ人間よ。」
「16年前、我は憎きグレイグによって傷を受けた。その傷を癒やすためのエキスを集めるためにこの男を利用したのだ。」
「強い人間のエキスを飲めば我が傷は治る。そのエキスを人間が飲めば無敵の身体になれる。」
「その誘いにこの男は乗ったのだ。」
ハンフリーが言う。
「勝ち進んで金を手に入れるためには強者のエキスが必要だったんだ。孤児院を守るためなら何だってするぜ。」
「すまない!この秘密を知られたからにはお前たちを生かしておく訳にはいかん!」
ハンフリーは戦おうと身構えるが、まだ胸が痛むようだ。
それを見たロウが言う。
「やれやれ、愚か者め。自分の体のことも分からぬとはな。」
「おぬしの身体はあのエキスのせいですでにボロボロじゃ。そうして立っていられるだけでも奇跡と言えよう。」
ハンフリーは再び倒れ込んでしまった。
アラクラトロが言う。
「シュルルル。これ以上は使い物にならんか。所詮は軟弱な人間よ。」
「ならばこのアラクラトロ様が直々に貴様らを始末してくれるわ。」
主人公達は襲いかかってくるアラクラトロを倒した。
ハンフリーが起き上がる。
「仕方なかったんだ。俺のような三流闘士の稼ぎでは子供達を養うことが出来なかった。」
「ある日金が底をつき頭を悩ませているとアラクラトロの声が聞こえてきたんだ。」
「チカラが欲しくないか、欲しかったら我のもとに来いと。」
「仮面武闘会で賞金を稼ぐために俺はチカラを手に入れることにした。奴の道具になる道を選んだ。」
「ろくでもない契約なのは分かっていた。だけど俺の育った場所、孤児院と子供達を守るためにはこうするしか・・」
ロウが言う。
「その決意をまっとうな努力に向けず、魔物の甘言に乗ったのはおぬしの弱さ。」
「わしはここの町長にツテがあってのう。孤児院については悪いようにはせん。何とか手を打つよう働きかけてやる。」
「だから安心して人生をやり直すがよい。」
こうしてグロッタの行方不明事件は解決し、主人公達は宿屋でひと晩を明かした。
翌朝、闘技場で授賞式が行われた。
「大いに盛り上がった仮面武闘会もいよいよ終わりの時を迎えました。」
「それでは改めて表彰式を行います。」
「ハンフリー・主人公チーム!どうぞ舞台へ!」
舞台に上がったハンフリーが言う。
「エキスを飲まなかったら俺の実力なんてしょぼいもんだ。」
「チャンピオンという名誉を受け取れるほど俺は実力もなければ立派な人間でもない。賞品はお前が受け取るほうが相応しい。」
「お前達のおかげで格闘家としての良心を取り戻せたような気がする。気づかせてくれてありがとな。」
「ではチャンピオンである主人公さんに優勝賞品である虹色の枝の贈呈を・・」
そこに大会関係者が慌てた様子でやって来た。
「虹色の枝が盗まれてしまいました!」
「虹色の枝があった場所にはこの仮面と手紙が。この手紙は主人公さん宛のようです。」
主人公は手紙を読んだ。
「主人公。ユグノア城跡にておぬしを待つ。見せたいものがあるでな。それまで虹色の枝はおあずけじゃ。」
どうやら仮面はロウの物のようだ。
「何と最後に思わぬ大波乱!優勝賞品の虹色の枝がロウ選手によって盗まれてしまいました!」
「はたして主人公さんはユグノア城跡で虹色の枝を取り戻すことが出来るでしょうか!」
主人公達はグロッタの町を出て西へ進みユグノア城跡に向かった。
「ここが主人公ちゃんの故郷ユグノア王国ね。噂では聞いてたけど酷い有様。」
「16年前、世界一の歴史を誇るユグノア王国は魔物の大軍勢に襲われ、たったひと晩で滅びたそうよ。」
「ユグノア王や王妃、そして偶然訪れていたデルカダールの王女様も魔物に殺されたと聞いているわ。」
「もしかして、その王と王妃って主人公ちゃんの父さんとお母さん?」
ユグノア城跡の奥にロウがいた。
「ふぉっふぉっふぉ。おぬしらが来るのを待っておったぞ。」
「訳あって姫には席を外してもらっている。」
「それにしてもよく来てくれたのう。」
「勇者主人公・・16年前に死んだと思っておったぞ。」
「だからグロッタの武闘会で手の痣を見た時は心臓が止まるかと思ったわい。」
「主人公にどうしても見せておきたいものがあったんじゃ。少しだけこの老人に付き合ってもらうぞ。」
ロウと一緒にユグノア城跡のさらに奥へと進んでいく。
「この地には辛い思い出が多くてのう。」
「あの頃わしは隠居しておってのう。城下に降りては民と杯を交わし笑い合う。そんな毎日を過ごしておったのじゃ。」
「じゃが16年前のあの日、魔物達が全てを奪っていった。」
「今やかつての栄華は見る影もない。たったひと晩でこうなってしまったんじゃ。」
「おおっと、すまんのう。主人公に見せたかったものは別にあるんじゃ。では行くとしよう。」
墓の前で立ち止まる。
「この国の・・ユグノアの国王夫妻の墓じゃよ。」
「勇者主人公の実の両親。すなわち16年前に亡くなったわしの娘と婿殿の墓じゃよ。」
「娘も死に婿殿も死に・・それでもわしだけが生き残ったことには意味があると。そう思わなければあまりにも辛すぎた。」
「だから16年間、わしは追い求めたのじゃよ。なぜユグノアは滅ぶことになったのか。その原因を探るのを生きる目的としたのじゃ。」
「そして各地を回り、わしは知った。勇者伝説の信奉者であった盟友デルカダール王の変心をな。」
「16年前のあの日からデルカダール王はまるで人が変わったかのように勇者を悪魔の子と呼び非難を始めたんじゃ。」
「あまつさえ自分の娘の死まで勇者の仕業として世に広めている始末。わしには王が正気であるとは思えなかった。」
「裏で何かが起きている。亡国の真相と盟友の変心。2つの謎を必ずや解き明かしてみせると誓ったのじゃ。」
「エレノアよ。アーウィンよ・・喜べ、お前達の息子じゃ。元気に生きておったぞ。」
「よく戻ってきたな、我が孫よ。よくぞ生きていてくれた。」
「こうして16年ぶりに愛する孫と再会することが出来たんじゃ。このじいの頼みを聞いてくれんかの。」
「ユグノア王家には代々伝えられている鎮魂の儀式があってな。非業の死を遂げたエレノア達を共に弔って欲しい。」
「儀式は城の裏山にある祭壇で行う。おぬしも祭壇まで来てくれ。」
ロウと一緒に祭壇に向かうとマルティナがいた。
「お待ちしておりました、ロウ様。」
「皆さん、下がって。鎮魂の儀式はユグノア王家のお二人のみで行われるので。」
ロウと主人公が祭壇の前に立つ。
「では主人公よ。わしの真似をするのじゃ。よいな?」
主人公はロウの真似をして祭壇に火を灯した。
祭壇の遥か彼方には、上空に浮かぶ命の大樹がある。
「人は死ねば皆命の大樹へと還ってゆく。あの大樹の葉1枚1枚が人の魂と言われておる。」
「されど魔物によって非業の死を遂げた者は未練を残しこの世を彷徨うと言う。そんな魂を救う儀式がこの地に伝わっておる。」
無数の光る蝶が祭壇に集まってきた。
「見よ。煙の香気につられて光り輝く蝶たちがやって来おった。」
「この蝶を人の魂と見立て、命の大樹へと送る。それをもって死者の慰めとするのじゃ。」
無数の光る蝶が上空に浮かぶ命の大樹に向かって飛んで行った。
「エレノア・・ただ死んだわけではない。おぬしとデルカダールの王女を救うため、自ら囮となったのじゃ。」
「かけがえのない二人の命が救われた。ありがとうな、エレノア。」
「そう言えばエレノアはおぬしに何か遺さなかったかのう?」
主人公は母の手紙をロウに渡した。
「おお・・これは!」
「そうか。そういうことじゃったのか。この手紙があったからこそおぬしはデルカダール王のもとに。」
「主人公。苦労をかけたな。」
「しかしならばこそ、こうしておぬしと出会うこともなかった。ひとえにエレノアの導きであろう。」
涙を流すロウ。
「すまんがしばらく一人にしてくれ・・」
主人公は祭壇の奥で一人涙を流していたマルティナに話しかける。
「これは恥ずかしい所を見られたわね。」
「エレノア様のことを思い出してたの。そう、君のお母様のことよ。」
「歩きながら少しお話でもしましょうか。」
マルティナと二人で歩き始める。
「私の母は病弱でね。私が生まれてすぐ亡くなったの。」
「エレノア様はそんな私を気遣って絵本を読んでくれたり花摘みに誘ってくれたり、本当に優しい方だったわ。」
「だからそのエレノア様が子供を授かったと聞いて、私心の底から嬉しかったの。自分に姉弟が出来たような気がして。」
「そう、エレノア様と最後にお会いした16年前のあの日もこんな雨だった。」
その時、デルカダール王国の兵士達が大勢でやって来た。
「どうやら君達の追手のようね。かなりの数だけど。」
「主人公、急いでみんなのもとに戻りましょう!」
仲間達と合流する前にグレイグ将軍に発見されてしまう。
「そこまでだ、悪魔の子よ。デルカダールの将グレイグ、推参!」
「デルカダールで脱獄した貴様を追い続け、グロッタの町でようやく足取りを掴んだ。よくもここまで逃げ延びたものだな。」
デルカダールの兵士達に囲まれる主人公とマルティナ。
「悪魔の子は私が相手をする。その女はお前達に任せた。」
「ゆくぞ!」
グレイグと剣を交える主人公。
「どうした!貴様の実力はそんなものか!」
兵士達を倒したマルティナがグレイグに向かって叫ぶ。
「やめなさい!グレイグ!」
グレイグが驚く。
「まさか・・マルティナ姫なのか?」
その時、主人公の足元の岩が崩れて崖の下に落ちてしまった。
それに気づいたマルティナは主人公を追って崖の下にダイブする。
主人公は崖の下にある山小屋で目を覚ました。
「良かった、気がついたのね。」
「外はまだ雨よ。服も濡れているし、暖をとりましょう。」
二人で暖炉の前に座る。
「君を助けられて良かった。もう二度とあの日のような思いはしたくなかったから。」
「君とデルカダールの姫を救うため、エレノア様は囮になった。ロウ様は君にそうおっしゃったはず。」
「そう、私こそがエレノア様に命を救われたデルカダール王の娘なの。」
「16年前、君を抱いたエレノア様に連れられ、私はユグノア城を脱出したわ。でも魔物の集団に追い詰められて。」
「エレノア様は私に君を預けると、囮になって私を逃してくれた。」
「それなのに魔物に見つかり、幼く非力だった私は逃げる途中で川に落ちて君を手放してしまった。」
「あの後ロウ様に助け出されたのが私ではなく、せめて君であったならと何度も思ったわ。」
「君とはぐれた後、私はロウ様と共に故郷のデルカダール王国に向かったわ。お父様に助けを求めようと思ってね。」
「でもお父様は私が死んだと決めつけ、勇者に殺されたのだと広めていた。」
「まるで真実から人々の目を遠ざけるように。」
「ロウ様はお父様をそそのかしている者が背後にいるはずだとおっしゃっていたわ。」
「お父様を利用しているのは誰なのか。真実を明らかにするため私とロウ様は旅に出たのよ。」
「でもまさかグレイグが来るとは。もしもう一度襲われたら次は逃げ切れるかどうか。」
「雨があがったらユグノア城に戻りましょう。」
小屋を出た所でグレイグに発見される。
「やはりな。あのようなことで死ぬとは思わなかったぞ。悪魔の子よ。」
グレイグがマルティナを見る。
「あの忌まわしき日より16年。姫様ご健在なりしはこのグレイグ、望外の喜び。」
「しかし何故悪魔の子を庇い立てなさるのです?姫様であっても主命を邪魔なさるなら斬らねばなりませぬ。」
「グレイグ将軍、あなたの立場は分かります。ですが私達にもやるべきことがある。」
「どうか私達を見逃してはくれませんか?」
グレイグが言う。
「姫様、我が主君はデルカダール王のみ。主君の命令が何よりも優先されるのです。」
「そう、相変わらずねグレイグ。あなたの忠誠心の強さは誰よりも知ってるわ。きっと話しても分かってくれないわね。」
「それなら・・」
マルティナがグレイグに向かって技を繰り出すが全く歯が立たない。
「驚きました。なかなかのお手前ですぞ。」
「16年前はただのおてんば姫であられたが、相当な修羅場をくぐり抜けたようですな。」
「しかし私を甘く見ておりますぞ!悪魔の子を庇いながら戦うなど笑止千万!それで私の剣をさばけるとお思いか!」
グレイグはマルティナに剣を振り上げるが、過去の幼いマルティナの姿と重なり怯んでしまった。
「今なら!」
グレイグが怯んだスキをついて一撃を食らわせたマルティナは、グレイグが乗っていた馬を奪って主人公と一緒に逃げていった。
ユグノア城跡まで戻ると仲間達が心配そうに待っていた。
「ロウ様、ご心配をおかけしました。グレイグの襲撃を受けましたが、何とか逃げ切ることが出来ました。」
ロウが言う。
「追手はやはり奴じゃったか。グレイグには確かめたいことがあったがそれには及ばぬようじゃな。」
「やはり今のデルカダール王国には魔物がはびこっておると見て間違いないだろう。」
「はるか昔、栄華を誇ったとある王国は魔物が化けた奸臣によって滅ぼされたという。その魔物の名はウルノーガ。」
「わしらは長い旅の末やっとその名前に辿り着いた。」
「奴こそ、はるか昔より暗躍し続ける邪悪の化身よ。」
「恐らく今のデルカダールもその魔物が牛耳っておるのじゃろう。」
「よいか主人公よ。この世に生きる全ての者達のためにおぬしはウルノーガと戦わなければならぬ。」
「邪神なきこの時代に勇者としておぬしが生まれたのはそのために違いない。」
「だがウルノーガは未知にして強大。闇の力をまとった恐ろしい奴じゃ。無策で奴に立ち向かうことは出来まい。」
セーニャが言う。
「闇の力・・私聞いたことがあります。命の大樹には闇の力を祓う何かが眠っていると。」
「やはり主人公様を連れて命の大樹に行かなくては。」
ロウが虹色の枝を主人公に差し出す。
「主人公よ。この枝を持て。この虹色の枝はかつて命の大樹の一部であったもの。」
「勇者のチカラを持つおぬしならば大樹への道のりについて何かを知り得るやもしれぬ。」
主人公は虹色の枝を手に取って念じてみるが何も見えない。
「ほっほっほ。まあ仕方あるまい。これからはわしと姫も同行し、命の大樹への行き方を見つけるとしよう。」
ロウとマルティナが仲間に加わった。
ユグノア城跡から出ようとすると主人公が手に持つ虹色の枝が輝き始める。
すると主人公と仲間達の頭の中に映像が流れ込んできた。
それは祭壇に6色のオーブをはめると上空に浮かぶ命の大樹に虹色の橋が架かるというものだった。
「ちょっと!何よ今の!アタシにも見えたわよ!」
カミュが喜ぶ。
「すげえ。大樹への行き方が分かっちまった。これが虹色の枝のチカラか。」
「これまで探し求めてきた甲斐があったぜ。」
「今見たオーブってこのレッドオーブのことだよな。」
「デルカダール城から盗んできたコイツにそんな意味があったとはな。」
「俺には俺の使い道があったんだが、そういう話ならこれはお前にやるよ。大事に使ってくれよな。」
主人公はレッドオーブを受け取った。
ロウがイエローオーブを懐から出す。
「ロウ様、売らなくて正解でしたね。仮面武闘会でもらったそのオーブ。」
「うむ、危うく真の価値も分からず路銀にかえるとこじゃったわい。」
「さあ主人公よ。受け取るがいい。」
主人公はイエローオーブを受け取った。
「祭壇のあった場所は命の大樹の真下。恐らく始祖の森と呼ばれる秘境じゃろう。」
「主人公よ。道は決まったな。」
「残り4つのオーブを集め、始祖の森にある祭壇に捧げるのじゃ。」
ベロニカが言う。
「オーブと言えば子供の頃、海底に沈んだオーブがあるって聞いたけどそんなの雲を掴むような話だしね。」
「とにかく今は手がかりがない。世界中くまなく回って情報を集めるほかなさそうじゃな。」
「まずソルティコの町にある水門を抜け、外海へ出るのがいいじゃろう。」
「ソルティコはダーハルーネの町から船で北西へ進めば辿り着けるはずじゃ。」
「幸いソルティコの町にはジエーゴという知り合いの領主がおる。わしが頼めば快く水門を開けてくれるじゃろうて。」
シルビアが何やら考え込んでいる。
「よし!それではオーブ探しの旅に出るぞ!ウルノーガを倒すため6つのオーブを手に入れ命の大樹への道を開くのじゃ!」
ダーハルーネの船で北西へ進み、ソルティアナ海岸から徒歩でソルティコの町に入った。
早速ジエーゴの屋敷へ行くと、セザールという使用人が出迎えてくれた。
「これはこれはロウ様。お久しゅうございますな。今日はお連れの方もお見えで。」
「セザール殿もお元気そうで何よりじゃ。ところでジエーゴ殿に用があるんじゃがおるかのう?」
セザールが言う。
「あいにくですがご主人様はデルカダール城に剣術の講義に出向いておりましてしばらくご不在です。」
「ロウ様の見識の広さにご主人様は感銘を受けておられました。ロウ様と会える日を楽しみにしておられましたよ。」
「では話はまた次の機会にするとして、ジエーゴ殿がいないのであれば代わりにセザール殿に頼むとしよう。」
「実はさらなる見聞を広めるために外海に出ようと思っておってな。水門を開けて欲しいんじゃが頼めるかのう?」
セザールが言う。
「勿論でございます。他ならぬロウ様の頼みを断っては私がご主人様に怒られてしまいますよ。」
「それでは私が水門を開けておきますので、皆様は船に乗って水門の前で待っていて下さいまし。」
外へ出て船に乗り、開いた水門を通って川を西へ進む。
川から海に出た所で急に霧が出てきて船が入江に乗り上げてしまった。
「主人公ちゃんごめんなさいね。海図をさんざん調べたけれど、この場所のことはどこにも書かれていないの。」
「こういう訳の分からない場所は早くオサラバしたいけど、船が乗り上げちゃって船を出せないのよ。」
入り江の中央にある水たまりに人魚がいた。
「あら、あなたは叫ばないのね。私を捕まえようとしないし。」
「珍しい人。キナイと一緒ね。」
「驚かせてごめんなさい。私はロミア。」
「キナイが来てくれたのかと思ってつい飛び出してしまったの。」
「キナイはナギムナー村に住む人間の漁師。私はこの入江で彼を待っているの。私達、結婚の約束をしたんです。」
「私も最初はそんな約束叶いっこないって思ってた。私達人魚には掟があるから。」
「陸に上がった人魚は再び海に戻る時泡となり消える。」
「私達人魚は海を離れて生きられない。」
「でもそれを知ったキナイはね、私のために海底で暮らすと言ってくれたの。」
「海底王国の女王様も許して下さったわ。」
「でもキナイが来ないの。一緒に海底王国へ行こうってこの入江で待ち合わせをしたのに。」
「キナイが約束を破るなんて一度もなかった。彼の身に何かあったのかも。そう考えると夜も眠れなくて。」
「あの、失礼を承知でお願いがあります。キナイの様子を見てきて頂けませんか?私に出来ることなら何でもします!」
ベロニカが言う。
「ロミア、あなたの頼みを聞いてあげるから何とかしてあたし達を海底王国に連れて行ってくれない?」
「はい、お安いご用です!あなた方の船を人魚に伝わる秘宝で海に潜れるようにして差し上げます。」
「キナイの住んでいるナギムナー村は遥か東のホムスピ山地の海岸にあります。」
「荒波のように男らしく、潮風のように爽やかで、海のようにおおらかな漁師がキナイです!」
主人公達はナギムナー村へ向かった。
「フフフ!ここがナギムナー村ね。ロミアに聞いた話によると、世界一の真珠が取れるって有名だそうよ。」
「青い海!白い砂浜!きらめく真珠と屈強な海の男達!まさに地上の楽園ねん!」
「でも何だか活気が無いわね。屈強な男達はどこにも見当たらないし。」
教会の近く行くと老婆が子供達に紙芝居を見せていた。
「さあみんな。静かによくお聞き。今から話して聞かせるのはこの村に伝わる忌まわしい呪いのお話。」
「この世で最も美しく、最も恐ろしい生き物の物語じゃ。」
「昔々、この村に大変腕のいい漁師がおりました。漁師は村の誰より真珠を沢山取りました。」
「村長さんは漁師をいたく気に入って自慢の一人娘と婚約させました。娘は漁師が大好きだったのです。」
「村長さんはこれで一安心。漁師と自慢の娘が村を豊かにしてくれる。そう信じておりました。」
「しかし突然平和な日々は消え去りました。悪魔のような大嵐が漁師を襲い、真珠と共に海に放り出されてしまったのです。」
「漁師は真っ暗な海に沈んでいきます。光る真珠が蛍のように見えました。」
「漁師が死を覚悟したその時です。」
「漁師の前に現れたのは、それはそれは美しい人魚でした。人魚は漁師の耳元でこう言いました。」
「生きたいならば魂おくれ。」
「それから何日が過ぎたでしょう。村人は漁師がもう死んだものと小さなお葬式を出してやりました。」
「その時、驚くべきことが起こりました。死んだと思われていた漁師がひょっこり帰ってきたのです。」
「許嫁はたいそう喜んで漁師を看病してあげました。」
「しかし漁師はまるで別人のようでした。日がな一日、ボーッと海を眺めて俺は人魚と結婚するんだと言うばかり。」
「ついには許嫁を捨てて海に出るぞと暴れるようになる始末。村長さんはカンカンに怒りました。」
「村長さんは漁師を引っ捕らえると、二度と海に出られないよう船を燃やしてしまいました。」
「こうして人魚に魂を食われた漁師は、暗く寂しいしじまヶ浜に閉じ込められてしまったのです。」
「さあ今日はここまで。続きはまた今度じゃ。」
老婆が主人公達に気づく。
「おや、旅人さんですかえ。こんな老いぼれに何かご用ですかな?」
ベロニカが言う。
「おばあちゃん、あたし達漁師のキナイを探しているの。この村にいるって聞いたんだけど。」
「おんやまあ、珍しいことじゃ。あんた方はあの子のお友達かい?キナイはわたしの息子だよ。」
「あの子なら今頃西の海ですじゃ。この村を襲った化物イカ退治に村の男衆と船を出しております。」
「あんた方、キナイに用があるのなら化物イカを倒す手伝いをして下され。ヤツが静まれば村の男衆も戻るじゃろ。」
「しかし気をつけるのじゃぞ、旅人さん。」
「海で最も恐れるべきものは人々を惑わす人魚ですからの。」
船で西の海に行き、船団に近付くと海からクラーゴンが現れた。
主人公達はクラーゴンを倒し、船団の漁師達と一緒にナギムナー村に戻った。
クラーゴン討伐に沸き立つ村民たちの中、一人桟橋の先にいるキナイにロミアの話をする。
「すまないが全く身に覚えがない話だ。他を当たってくれ。」
「この村では人魚人魚と気安く言わんほうがいい。」
「あんたらが探しているキナイってのは俺の祖父キナイ・ユキのことだ。あんたらは人魚の呪いを知ってるか?」
「その作り話に出てくる村一番の漁師が俺の祖父キナイ・ユキのことだ。」
「あの話はな、50年ほど前にこの村で実際に起きたことだ。」
「教えてやる。あの話の続きを。」
「漁師が村を追われて10年も経った頃だ。祖父の許嫁だった女ダナトラは別の男と結婚し子供を授かった。」
「人魚の呪いも祖父のことも人々の記憶から薄れていったそんなある日のことだ。」
「村の漁船が大嵐に巻き込まれた。祖父の時と同じ酷い嵐だったと聞く。」
「その大嵐でたまたま船に乗り合わせていた村長とダナトラの夫が死んだんだ。」
「それからあとを追うようにダナトラとその子供も行方不明になった。」
「村人達は噂した。キナイ・ユキを手に入れられなかった人魚の呪いに違いないと。」
「村人達はキナイを問いただそうとし、じまヶ浜の小屋に押しかけた。」
「その時彼らが見たのは信じられない光景だった。」
「一人でいるはずの祖父がズブ濡れの赤ん坊を抱えてぼうっと立っていたらしい。」
「村人達はその赤ん坊を人魚の子だと恐れ、いっそう祖父を避けて暮らすようになったと言う訳だ。」
「だが俺の母は人間だ。海辺に捨てられていた赤ん坊を祖父が引き取って育てただけだ。」
「人魚の子などと馬鹿らしい噂を村の奴らが好き勝手に言っているだけだ。」
「いい機会だ。人魚が祖父を待っていると言うならそいつに渡して欲しい物がある。」
「村の反対側にあるしじまヶ浜に来てくれ。教会の裏の扉を通ればすぐに着く。扉の鍵は開けておくからな。」
しじまヶ浜の小屋に行くとキナイが光り輝くベールを持って出てきた。
「このベールは俺の祖父が遺した物だ。母が言うには祖父が死の床で握りしめていた物らしい。」
「俺はどうしても捨てられなかった。あんたの話が本当ならその人魚に渡してキナイ・ユキは死んだと伝えてくれ。」
主人公は約束のベールを受け取った。
「俺たち家族がこの村で暮らしていくのは楽なことじゃない。」
「俺の母は祖父が死んでからやっと村の男と結婚出来た。」
「後ろ指差す奴もいたろうに、今じゃそれをネタに紙芝居なんて読んで小遣い稼ぎをしてるんだ。強い人だろ?」
「俺は人魚が憎い。俺の子孫にはもう人魚の呪いで蔑まれるような人生を送って欲しくはない。」
「ようやく俺も船に乗れるようになったんだ。悪いがこれ以上過去の呪いを蒸し返さないでくれ。」
主人公は白の入り江に戻りロミアと話をする。
「お帰りなさい!ずいぶんとお戻りが遅いから私とっても心配していましたわ。」
「もしかしてあなた方やキナイの身に何かあったんじゃないかって不安で祈りの唄をずっと歌っていたの。」
「それでどうだったかしら。キナイは元気でしたか?私を迎えに来てくれる?」
主人公はロミアに真実を話した。
「キナイが死んだ?主人公さん、何を言っているの?嫌よ。そんな事ってないわ。」
「あら主人公さん。その手に持っているものは何ですか?」
主人公はロミアに約束のベールを渡した。
「とても綺麗なベール。私の大好きな真珠の色だわ。」
「え?あの人がこのベールを握って死んでいった?」
「嘘よ!だってあの人は必ず迎えに来ると約束してくれたもの!」
「ごめんなさい、主人公さん。私は彼の死をこの目で確かめるまでとても信じられない。」
「あなたが会ったというキナイに会わせて下さい。私をナギムナー村に連れて行って!」
「主人公さんは私に構わず船を出して下さい。私は後ろからついていきます。」
ロミアを連れてナギムナー村に行き、人目を避けるためしじまヶ浜に移動した。
キナイをしじまヶ浜に連れてきてロミアに会わせる。
「そんな・・人魚。本物なのか・・」
「あんたが探しているのは俺の祖父だ。あの人はもういない。ここで死んだ。」
ロミアが言う。
「キナイはこんな寂しい所で一人ぼっちで死んでいった。」
「人魚は500年の時を生きる。人間の一生は私達人魚にとって一瞬であることを忘れていたわ。」
「あれからそんなにも時が過ぎていたのね。」
「主人公さん、最後まで私のわがままに付き合って下さって本当にありがとう。」
主人公はマーメイドハープを受け取った。
「海にそびえる光の柱でそれを使えば人魚たちがあなたの船を泡で包み、たちどころに未知なる世界へ導きましょう。」
「ソルッチャ運河を抜け、内海の中心にそびえる光の柱でハープを使って下さい。不思議な形の岩場がその目印になりますわ。」
「私、もう行くわ。」
ロミアが約束のベールをつけて唄を歌う。
悲しげな人魚の唄がしじまヶ浜に響き渡った。
ロミアの下半身が光に包まれ、尾ひれが二本の足に変わった。
ロミアが陸に上がり、キナイの墓まで歩いていく。
「ずっと待っていたわ。」
キナイの墓に口づけをするロミア。
「陸に上がった人魚は泡となり消える。それが人魚の掟。最後にキナイと会えて良かった。」
「もし私が人間だったなら、キナイと共に生きられたのかしら。」
「さようなら。」
海に潜ったロミアは泡となり消えてしまった。
海には約束のベールだけが浮かんでいる。
キナイが言う。
「あの姿、どこかで見たことがある。あれは確か祖父の小屋に。」
キナイと一緒に小屋に向かうとロミアの絵が飾られていた。
絵の裏側に手紙が挟んである。
「愛する人へ。」
「君に助けられたあの嵐の日から君を迎えに行くことだけを支えに生きてきた。」
「それももう終わりにしようと思う。すまない。俺は約束を守れそうにない。」
「あれは俺が村を追われて数年後の事だ。酷い大嵐で沢山の人が死んだ。」
「村長とダナトラの夫も犠牲になった。」
「その数日後、しじまヶ浜の崖の上に赤ん坊を抱いて立っている女がいたんだ。その女はかつての許嫁ダナトラだった。」
「ダナトラは生きる希望を失っていた。大きな悲しみを抱えた彼女に俺の声は届かなかった。」
「彼女は俺の目の前で海に飛び込んだんだ。」
「俺は二人とも助けようとした。だが救えたのは赤ん坊だけだ。」
「この子には俺が必要だ。」
「俺だけ幸せになるなんて出来ない。」
「人魚の呪いの言い伝えは俺のように愚かな人間が二度と出ることのないように戒めとして村に残した。」
「君の仲間を貶めるような皆の言葉を許して欲しい。」
「君はまだあの入江で俺を待っているだろうか。」
「俺はもう君を迎えに行く資格がない。だがこれだけは信じて欲しい。」
「君を愛している。」
キナイが言う。
「今までの無礼を許してくれ。ロミアに会わせてくれてありがとう。」
「今なら爺さんの気持ちが分かる。恋をしてしまいそうだった。」
内海の光る柱でマーメイドハープを使うと海底王国ムウレアへ行くことが出来た。
「海の中だってのに息が出来るぜ。これも人魚の不思議なチカラってやつか。」
「おかげで海底に沈んだっていうオーブの話が本当かどうか確かめられそうだな。」
北部にある海底宮殿で人魚の女王セレンと話をする。
「お待ちしておりました、主人公。」
「ようこそ海底王国ムウレアへ。わたくしは人魚の女王セレン。」
「ふふ、わたくしはちょっとした魔法が使えるのです。地上の全てを知っていますわ。」
「さ、難しいお話は後にしましょう。早速ですが主人公、あなたがお探しなのはこれでしょう?」
女王セレンはグリーンオーブを取り出した。
「人間の世界のものは本当に美しい。海底には届かない日の光を閉じ込めたよう。」
「ロミアのことではお世話になりました。これはお礼です。」
「さあ、あなた方にお返ししましょう。」
主人公はグリーンオーブを受け取った。
「わたくしは見ていました。ロミアとキナイのことを。」
「陸に上がった人魚は泡となり消える。この掟を越えて愛し合おうとしたのは彼らが初めてではないのです。」
「人間と人魚は共に生きる道を何度も探してきました。けれどそれは叶うことのない夢。」
「わたくし達人魚から見ればチカラも身体も弱く未熟な心を持ったあなた方人間はとても危うい。」
「しかし瞬きのような一生の中で何かを求め力強く生きる姿はひときわ輝いて見えるのもまた事実。」
「人間が海底に憧れるのと同じように、わたくし達人魚も地上に暮らすあなた方に惹かれてやまないのです。」
「キナイとロミア。巡り回る命の大樹の意思のもと、二人が再び出会うことを祈りましょう。」
「そして今、わたくしとあなたが出会ったのも大いなる世界のご意志でしょう。我等が勇者主人公よ。」
「時の流れに身を委ねなさい。大樹がそれを望むならばわたくし達はきっとまた巡り合う。」
「全ては大樹の導きのもとに。」
白の入り江から船で北東に進み、湾の行き止まりにある光の柱でマーメイドハープを使うとメダチャット地方に行くことが出来た。
メダチャット地方を南に進んでプチャラオ村に入る。
「この村は古代の遺跡があることで有名でな。以前わしらはウルノーガの情報を求めてこの村にも立ち寄ったんじゃよ。」
カミュが入り口にある看板を読む。
「ブワチャット遺跡の神秘。壁画にて微笑む妖艶なる美女が絵を見たものに幸福をもたらす。」
「なんかうさんくせーな。爺さん、こんな所で何か分かったのか?」
「ほほ、確かにのう。おぬしが言うようにその時は何の手がかりも得られんかった。じゃがあの時とは状況も違うからの。」
「今回は主人公もおるし、改めて遺跡を調べれば何か収穫が得られるかもしれんぞ。」
村の北に進んでいくと少女が一人で泣いていた。
「パパ・・ママ・・」
「主人公ちゃん、この子ったら迷子みたいね。」
「ほら、泣かないの。大丈夫。あたし達がついてるわ。ね?だからお名前を教えてちょうだい。」
少女が泣き止む。
「わたしメルっていうの。ここにはパパとママと一緒に何日もかけて来たの。」
「でも壁画のご利益でお金持ちになるんだって言って、パパもママもどこかに行っちゃったの。」
「ねえお兄ちゃん、お願い。メルのパパとママを・・」
「大丈夫よ。安心なさい。あたし達があなたのパパとママを探してきてあげるわ。」
さらに奥まで進み、プワチャット遺跡にある巨大な壁画を見る。
「確かにこいつはなかなかの迫力だ。でもってそこで笑ってる女性が俺らに幸福を下さる美女って訳だ。」
ベロニカが言う。
「ところどころ大きな傷もあるけど思ったより綺麗な絵ね。」
「女性の首にかけてある不思議な鍵も気になるわ。」
「もしかしてあれ・・魔法の鍵かも。」
一旦村に戻ると、酒場の前で村人に話しかけられた。
「おやおや、あなたは旅の人だよね。遠路はるばるようこそ!村には観光で?やっぱり遺跡の壁画がお目当てかい?」
「わたしゃこの村で商人をやってるボンサックと申します。」
「どうです?観光の記念品から村の特産品までお土産買うなら是非うちで。お値段も勉強させてもらいますよ。」
「おや?もしやこの村で人を探してる?いやー、丁度良かった。あなた方は実に運がいい。」
「うちの嫁が知ってるはずです。あいつはこの先で宿屋をやってましてね。職業がら耳が早いのなんの。人の出入りなら何でも知ってる。」
「あの宿に泊まれば迷子だろうが思い人だろうがすぐに見つかりますよ。しかもフカフカのベッドまでついてくる。」
宿屋に入り、ボンサックの嫁と話をする。
「いらっしゃいませ。こちらは宿屋になります。」
「主人から連絡は受けております。宿泊のお客様ですね?」
「え、私が迷子の行方を知っている?一体何のことでしょう。」
「あ、さてはまた主人の仕業ね。あの人ったらお客さんを呼ぶためにすぐ適当なことを言うんですよ。」
「ごめんなさい。私にはその迷子のことは分かりません。」
「お詫びと言ってはなんですけど、初回の宿泊料は無料で結構ですので是非泊まっていって下さい。」
「丁度空き部屋もありますしお部屋の準備も出来ていますよ。」
主人公は宿に泊まることにした。
翌日、遺跡の方へ向かうとメルの姿を見つけたので追いかける。
遺跡まで追いかけてきたが、メルの姿が見つからない。
ベロニカが壁画の変化に気づく。
「ねえ、ちょっとあれ見て。壁画の絵が前に見た時と違うわ。」
「何だか嫌な予感がするわ。早くここから出ましょう。」
その時、壁画に描かれている女性の首にかけられた魔法の鍵が光りだす。
主人公達は壁画の中に吸い込まれてしまった。
「何だ、この奇妙な場所は。夢の中って訳でもないよな。」
セーニャが言う。
「本当におかしな感じがしますね。まるで絵の中に入ってしまったよう。」
「ねえ。もしかしてメルちゃんもこの場所に連れてこられてるんじゃないかしら。」
「どのみちいつまでもここにいても仕方ないし、探してみましょう。主人公ちゃん。」
壁画の世界を進んでいくと壁画の女性の絵を見つけた。
すると突然、壁画の女性が喋りだす。
「ひい、ふう、みい・・。ふむ、7色か。」
「カカカ、汚い色ばかりで飽いていたところだ。歓迎するぞ。ようそこ我が世界へ。」
「特にお前・・お前は他の者とは違うな。カカ、なかなか良い色になりそうだ。」
「先立ってわらわに魅了された者ども同様残らず吸収し、わらわの美を支える一部としてくれよう。」
「どのような色になるか楽しみにしているぞ。カカカ!」
さらに壁画の世界を進んで行くと、壁画を発見した人が遺した手紙が落ちていた。
「私が偶然にも村のそばで発見した数百年前に滅亡した古代ブワチャット王国の不思議な壁画。」
「これで人も集まり村も栄えるはずだった。しかしそれは大きな過ちだった。壁画は邪悪に呪われていたのだ。」
「壁画は人間の命を自らの糧とするため人々の欲望を不思議なチカラで叶え惑わし、その御利益にあやかろうとする者を吸収する。」
「また欲深くない者の前には少女の姿で現れ人の善意につけ入って欺き、壁画の中に引きずり込むのだ。」
さらに壁画の世界を進んで行くと大きな裂け目があった。
「この裂け目・・もしかして外の壁画についていた傷じゃないでしょうか。」
「だったらここから外に出られるかも。」
大きな裂け目を調べると元の世界に戻ることが出来た。
「この壁画の恐ろしい真相を早く皆さんに知らせなくては。主人公様、村に戻りましょう。」
村に戻るとメルがいた。
「嘘、どうしてここに・・」
「あなたが言葉巧みに人々を誘導して皆さんを壁画に閉じ込めていたんですね?」
「お願いします。もうこんなことはやめて壁画の中に捕らわれている皆さんを解放して下さい。」
メルが不気味に笑い出す。
「あは、あはは・・カカ・・カカカカ!」
「折角捕らえた獲物を解放しろだと?調子に乗るでないぞ、たかが塗料風情が。」
「この素晴らしきチカラは愛しきあの方より頂いたもの。」
「人間ごときに指図される覚えはないわ!」
「不服があるなら我が世界に来るがいい。今度はわらわ自ら歓迎し、綺麗に丸飲みにしてやろう。」
メルはその場から姿を消した。
「みんな、壁画に向かいましょう!これ以上アイツの好きにさせてたまるもんですか!」
再び壁画の世界に入り、メルと対峙した。
「わらわは美と芸術の化身メルトア。その真の姿を貴様らの眼に焼き付けるがよい!」
「カカカ、人間などわらわを彩るための塗料にすぎぬ。美の一部となれる奇跡にむしろ感謝すべきであろう。」
「ああ、あの方より賜った次元を超え人間どもを吸収するチカラ、その何と素晴らしいことか。」
「わらわはこのチカラを使い、いつの時代も浅ましき欲望に抗えぬ愚かな人間どもを救ってやっているのだ。」
「そう、わらわという至高の芸術を彩れること、これぞ壁画が与えし真の幸福と知るがよい!」
主人公達は襲いかかってくるメルトアを倒した。
「馬鹿な・・貴様ら一体・・」
「おのれ、だがまだ終わらぬ。我が造物主たるあの方が・・偉大なるウルノーガ様がある限りは・・」
「カカ・・ウルノーガ様の世が実現さえすれば、いずれわらわも再び・・」
「カカカ・・貴様らに壁画の呪いあれ。ウルノーガ様、どうか宿願を・・永遠なる命のチカラをその手に・・ぐああ!」
メルトアが消滅したあとには魔法の鍵が残されていた。
ロウが言う。
「まさかここでウルノーガの名前を聞くことになるとは・・」
「奴はかつてとある王国の宰相に取り憑きその国を滅ぼしたと言うが、ブワチャット遺跡の文明がそうであったか。」
「永遠なる命のチカラこそがウルノーガの狙い。奴は一体何を企んでいるのか。」
「これは魔法の鍵か。これを使えば今まで開けられなかった扉も開けられるようになるじゃろう。」
主人公は魔法の鍵を手に入れた。
「この地で起きた悲劇と今のデルカダールはよう似ておる。あの国にウルノーガの魔手が伸びているのは間違いないじゃろう。」
「そう言えばネルセンの宿屋近くにあるバンデルフォン王国跡に魔法の鍵で開く扉があったな。まずはそこで扉を探すとしよう。」
壁画の世界を出た主人公達はバンデルフォン城跡に向かい、地下で魔法の鍵で開く扉を見つけた。
扉を開き、中にある宝箱からパープルオーブを入手した。
プチャラオ村から、メダチャット地方の北東部にある怪鳥の幽谷に行くと極楽鳥がシルバーオーブを守っていた。
極楽鳥を倒した主人公は宝箱からシルバーオーブを手に入れた。
白の入り江から船で北へ進み、クレイモラン城下町に入る。
クレイモラン城下町は町全体が凍りついていた。
町の南部に一人だけ凍りついていない女性がいたので話しかける。
「きゃ!すみません!気が付きませんでした。まさか旅の方が訪れるとは思わなかったので。」
ベロニカが聞く。
「あなたは無事なようね。どうして町が氷漬けになったのか知ってたら教えてくれない?」
「あれは3ヶ月前の晴れた日のこと。何者かが突然町の上空に現れたのです。そう、あの姿はまさしく魔女。」
「そして魔女が何やら呪文を唱えると突然激しい吹雪が巻き起こり、すぐに町全体を包み込みました。」
「私は吹雪の中で気を失ってしまい、目が覚めたら町は凍りついていました。私だけが助かった理由は分かりません。」
「すみません、紹介が遅れましたね。私はクレイモランの女王シャール。」
「1年ほど前に亡くなった父から王位を継いだ矢先に町がこんな事に。もう、どうすればいいのか。」
ロウが聞く。
「クレイモラン王家に伝わる家宝のブルーオーブ。訳あってわしらにはあのオーブが必要なんじゃが。」
「ああ、あの青い宝玉のことですね。あれでしたら今はお城の中にありますので氷を溶かさない限り中には・・」
「実は数日ほど前に来た外国の救援部隊に魔女退治をお願いしたのですが、苦戦しているのか全然音沙汰がなくて。」
「魔女は東のシケスビア雪原にあるミルレアンの森に潜んでいると聞きます。」
主人公達は町の外に出て北東へ進み、シケスビア雪原からミルレアンの森に入った。
猛吹雪で仲間とはぐれてしまった主人公は、ムンババという魔女の手先と戦っているグレイグ将軍と遭遇した。
グレイグがムンババに吹っ飛ばされて苦戦していたので主人公が代わりに倒してあげた。
折角助けてあげたのに主人公に対して剣を構えるグレイグ。
「悪魔の子よ!今度こそ逃さん!」
そこに魔女が現れ、魔法でグレイグと主人公の足を凍らせて動けなくした。
「ふふふ捕まえた、英雄グレイグ!」
「このままお前を氷漬けにすれば、私を解放してくれたあのお方との約束を果たせる。」
グレイグがつけているペンダントを奪う魔女。
「うふふ、あの方と同じペンダント。これで私達お揃いだわ。」
「英雄と呼ばれた男もあっけないものね。二人仲良く永遠に凍るがいい!」
そこにベロニカが助けに入り、魔女にメラゾーマを食らわせた。
その衝撃でグレイグから奪ったペンダントを落としてしまった魔女は何処かに飛び去って行った。
ロウが言う。
「グレイグ。救援に来たのはおぬしらデルカダールの兵だったのだな。」
ペンダントを拾い上げてその場を立ち去ろうとするグレイグ。
「どうした?わしらを捕まえるのではないのか?」
「貴様らを捕らえる前にやるべきことが出来た。それだけだ。」
グレイグはその場から立ち去って行った。
魔女の魔法で身体が冷え切ってしまった主人公は、近くにあった老学者の小屋で暖をとることにした。
「どうだ?身体はもう大丈夫かね?」
「私は魔法学者エッケハルト。クレイモランに住んでいたのだが、今はここで町を氷漬けにした魔女について研究しておる。」
「実は魔女が現れた時、私はたまたま国を離れておってな。幸運にも氷漬けを免れたのだ。」
「君達がシャール様から魔女退治を引き受けていることは仲間の者から聞いた。私も魔女について知っていることを話そう。」
「君を襲った氷の魔女リーズレットはいにしえの時代、高名な魔法使いによってある禁書に封印された魔女なのだ。」
「神話の時代に造られ、膨大な古文書が眠るという古代図書館。いにしえの魔法使いはそこに魔女を封じた禁書を収めたという。」
「そこで私は魔女を封印する手がかりを求め古代図書館に足を運んでみたのだが、中はすっかり魔物の巣になっていてな。」
「古代図書館は東の方角にあるが、南の道から遠回りしないと行けないから注意するがいい。では向かうとするか。」
主人公達はエッケハルトと一緒に古代図書館に向かった。
図書館の最上階中央の部屋に入る。
「おお、これじゃ、これ。この本を読めば魔女を封印した時のことが分かるはずじゃ。では読むぞ。」
「魔女の魔力はあまりに強大だった。私のチカラをもってしても倒すことはおろか封印することさえ出来なかったのだ。」
「そこで私は魔力を吸い取る聖獣を操り、魔女リーズレットの魔力を吸い取ってから魔導書の中に封印することにした。」
「この計画は成功し魔女を封印した禁書を古代図書館に収めた後、私はミルレアンの森でその聖獣と余生を過ごすことにした。」
ベロニカが言う。
「ミルレアンの森に聖獣なんていた?魔女の手下っていう魔獣ならいたけど。主人公が討伐したわよね。」
「なんじゃと?主人公君、その魔獣とはどんな姿をしていたのかね?」
主人公はムンババの特徴をエッケハルトに伝えた。
「ふむふむ、純白のまんまるい身体に金色のタテガミ。大きなお口でムフォムフォ言っておったじゃと?」
「・・って馬鹿もん!お前さんが倒したのはここに書かれてある聖獣じゃ!」
ベロニカが言う。
「とりあえずクレイモランに戻って女王様にいろいろ聞いてみましょう。」
クレイモラン城下町に戻りシャールと話をする。
「ああ、皆さん。ご無事だったんですね。私このまま帰ってこないんじゃないかと夜も眠れないほど心配で。」
ベロニカが言う。
「ねえ、もうお芝居はやめたら?」
シャールの首元に火傷のような傷がある。
「それ、あたしの呪文で受けた傷ね。あんたが魔女なんでしょ。」
「あら、バレちゃった。」
シャールは氷の魔女リーズレットに姿を変えた。
「ふふふ、あんた達が聖獣を倒してくれたおかげで昔のチカラが蘇ったわ。」
「英雄グレイグを取り逃がしたあの時の借り、ここで返してあげる。」
「さあ、私の腕の中で永遠に凍りなさい!」
主人公は襲いかかってくる氷の魔女リーズレットを倒した。
リーズレットのそばに落ちている禁書を拾い上げるベロニカ。
「今よ!エッケハルトさん!魔女を封印する呪文を!」
エッケハルトは呪文を唱え、氷の魔女リーズレットを禁書の中に封印した。
クレイモラン城下町を覆っていた氷が溶けて町に活気が戻っていく。
本物の女王シャールも元に戻った。
「そうだ、思い出しました。魔女が私をこの本の中に閉じ込めて女王に化けていたのです。」
「ありがとうございます。皆さんのおかげでクレイモランに平和が戻りました。何かお礼をしなければなりませんね。」
「そうだ、本の中で聞いていたのですが、皆さんオーブが必要なんですよね。差し上げますから後ほど城に来て下さい。」
「さあエッケハルト。その本を私に。」
ベロニカ言う。
「待って下さい、女王様。その本は危険です。あたし達が預かっておきますわ。」
「この本は主人公に預けておくね。」
主人公は魔女の禁書を手に入れた。
クレイモラン城の女王の間でシャールと話をする。
「主人公さん、よくいらっしゃいました。早速ブルーオーブを差し上げましょう。さあ、もっと私のそばに。」
主人公がシャールに近付こうとすると、禁書から声が聞こえてくる。
「ちょっと待って、私が本物のシャール!目の前にいるのは魔女が化けた偽物よ!」
「エッケハルトの呪文の詠唱が一部間違っていて封印が失敗したんです!私を信じて下さい!」
エッケハルトが言う。
「どちらが本物か、10年間シャール様の教育係を務めた私が見破ってみせましょう。」
エッケハルトの質問に答えられなかったのは目の前にいるシャールだった。
「あら、またバレちゃった。もういいわ。降参よ、降参。」
目の前にいるシャールが再びリーズレットに姿を変えた。
「折角取り戻した魔力もなくなったし、私には何のチカラも残ってないわ。煮るなり焼くなり好きにしなさいな。」
禁書の中から本物の女王シャールが現れた。
「皆さん、聞いて下さい。クレイモランを氷漬けにした彼女の行いは決して許されるものではありません。」
「でも私が本の中に閉じ込められている間、彼女は女王の重責に押しつぶされそうな私の相談に乗り悩みを聞いてくれたのです。」
「彼女の明るい言葉を聞くたびに父を亡くした悲しみは和らぎ、女王という責務に対しても再び向き合っていける気がしました。」
「お願いします。もう彼女に悪さが出来るほどの魔力は残っていません。命だけは助けてあげて下さい。」
ロウが言う。
「リーズレットよ。おぬしに聞きたいことがある。なぜクレイモランを氷漬けにしたのかその理由を教えてくれんか。」
「それはね、あの方が助けてくれたからよ。そう、私を本の中から出してくれた美しい顔をしたあのお方。」
「もう知ってると思うけど私、大昔に図書館にある本に封印されてたの。」
「本の中は泣きたくなるほど退屈だったわ。」
「でも3ヶ月前、あのお方が現れて本の中の私にこう言ったの。」
「お前を本から出してやろう。その代り私の言うことを聞くんだ。」
「お前がクレイモランを氷漬けにすれば私と同じペンダントをつけた英雄と呼ばれる男が現れる。」
「その男、グレイグを倒せ。」
「それでまんまとやって来た英雄を利用して魔力を取り戻すために聖獣を倒させたの。あとはあなた達の知っての通りよ。」
「これからは私が付き人としてシャールを守ってあげるわ。」
「主人公さん、皆さん。この度は本当にありがとうございました。お礼にこのブルーオーブを差し上げます。」
主人公はシャールからブルーオーブを貰った。
6つのオーブを全て手に入れた主人公達は、シケスビア雪原を東に抜けた先にある始祖の森に向かった。
ゼーランダ山を抜けて聖地ラムダに入る。
「この地こそ私達姉妹の故郷。命の大樹と共に世界を見守ってきた神語の里、聖地ラムダですわ。」
「虹色の枝が見せてくれたオーブを捧げる祭壇はこの里を抜けた先に広がる始祖の森の山頂にあるはずですわ。」
「ここで疲れを癒やしていきましょう。勇者様がいらしたと知ったらみんなきっと喜びますわ。」
大聖堂前にいる長老と話をする。
「おお、双賢の姉妹ベロニカとセーニャではないか。」
「ぬ?ベロニカ。そなた、しばらく見ない間にずいぶん背が縮んでしまったようじゃな。」
「おお、勇者様も一緒とは。なんと今日はめでたき日よ。」
「私は聖地ラムダの長老ファナード。こうしてお会いできる時を何年もの間お待ちしておりました。」
セーニャが旅の報告をする。
「長老様、私達世界中を旅してついに突きとめたのです。勇者様の命を狙う邪悪な者の存在を・・」
「なるほど、それではウルノーガなる者がデルカダール王国の誰かに化け、勇者様を亡き者にしようと。」
「私はかつてベロニカとセーニャが勇者様と共に命の大樹を目指し、天高い山を登っていく夢を見ました。」
「あの夢はきっと大樹の神託。そう思ってベロニカとセーニャの二人を勇者様のもとへと遣わしたのですが、これで全てが明らかになりました。」
「あの夢は勇者様が始祖の森の山頂にある祭壇へ向かう光景を示していたのでしょう。」
「始祖の森へ続く道はこの先に見える大聖堂の奥にあります。」
「私は大聖堂でお待ちしておりますから、6つのオーブを持って私の所までおこし下さい。」
大聖堂には神話の絵が飾られていた。
「こちらの数々の絵はラムダの地に伝わる神話の一節を表したものです。」
「勇者とは世界に災厄が訪れる時、大樹に選ばれて生まれてくる存在。」
「この世界にはじめて勇者という存在が降臨されたのは、はるか古の時代のことです。」
「ロトゼタシアの全ての命の源は命の大樹。邪悪の神はその大樹の中に宿る生命力の根源、大樹の魂を奪おうとしました。」
「そんな時代に命の大樹に選ばれ生まれたのが主人公様と同じ痣をたずさえた伝説の勇者ローシュ様です。」
「そして勇者ローシュ様と共に戦ったお仲間のお一人、賢者セニカ様。」
「そのセニカ様の生まれ変わりと言われているのが、そちらのベロニカとセーニャなのです。」
「ウルノーガ。邪神亡きこの時代に主人公様がなぜ勇者として生を授かったのか。皆様の話を聞いて全てつながりました。」
「どうかウルノーガなる者を討ち果たし、世界の未来をお守り下さいませ。ご武運をお祈りしておりますぞ。」
始祖の森を通って命の大樹に向かうと天空の祭壇があった。
「なあ主人公。ここってあの虹色の枝が見せてくれた例の祭壇と同じ場所じゃないか?」
6つのオーブを祭壇にはめると命の大樹へと続く虹色の橋が現れた。
「これは虹色の橋・・なんてまばゆいのでしょう。」
虹色の橋を渡って命の大樹に行くと、奥に大樹の魂と呼ばれる輝く巨大な塊があった。
大樹の魂の中には勇者の剣が浮かんでいる。
「これが大樹の魂。なんという大きさなのかしら。」
ロウが言う。
「勇者の紋章をたずさえた者しか大樹の魂の中には入れないんじゃろうな。」
「さあ主人公よ。大樹の魂の中にある勇者の剣を手に入れるのじゃ!」
そこにホメロスが現れた。
「まったく鈍いネズミ共だ。誰一人として尾行に気づかないとはな。」
「さあ、喜びに震えるがいい。貴様たちはこれから我が宿願を果たすための礎として犠牲になるのだからな!」
「悪魔の子主人公よ!悪魔の子と手を結びし者どもよ!この生命の大樹を貴様らの墓標にしてくれよう!」
闇のオーブを手に持つホメロスにまったく歯が立たない主人公達。
「グッ・・あの真っ黒いオーラのせいでちっとも歯が立たねえ。」
そこにグレイグとデルカダール王が現れた。
「王よ、見ていましたか。今の戦いを。」
「ホメロスの力こそ闇のチカラ。」
「私達はずいぶん長い間大きな勘違いをしていたのかもしれません。ホメロスこそこの大地に仇をなす者。」
「ホメロス!なにゆえに魂を魔に染めた!」
「もはや弁明などさせぬ。ホメロスよ!王の御前で成敗してくれる!」
その時突然、デルカダール王がグレイグに闇の魔法を放った。
「今までご苦労だったな、グレイグ。」
デルカダール王が魔物に姿を変える。
「そしてホメロス。よくぞ勇者を仕留めてくれた。褒めてつかわそう。
「おお、なんとありがたきお言葉。我が主君、ウルノーガ様。」
ウルノーガが倒れている主人公に言う。
「主人公よ。今こそ我が手中に落ちる時。そのチカラいただくぞ。」
ウルノーガは主人公の胸に手を突き刺し、勇者のチカラを奪った。
「ほう、これが勇者のチカラ。」
「これさえあれば・・」
ウルノーガは勇者のチカラを使い、大樹の魂の中から勇者の剣を取り出した。
「そしてこれが勇者の剣。」
「だが我は魔王なり!」
ウルノーガは勇者のチカラを握りつぶして消滅させ、勇者の剣を魔王の剣に変えた。
「生命の根源、大樹の魂・・そのチカラ、我がもらった!」
ウルノーガが大樹の魂に魔王の剣を突き刺す。
命の大樹は枯れ、世界が闇に包まれた。
主人公が目を覚ますと、そこは海底王国ムウレアだった。
しかも主人公の身体が青い魚の姿になっている。
海底宮殿に入り、入口にいるトウジンという魚人の男性に話を聞く。
「おお、目覚めおった!勇者様がお目覚めじゃ!」
「一時はエラ、皮膚ともに呼吸停止。ピクリとも動かんかったというのに。」
「まさに奇跡。女王様に報告じゃ!」
奥へ進んで女王セレンと話をする。
「あらおはよう、主人公。」
「フフ、その姿、とってもお似合いよ。いつにもまして可愛らしいわ。」
「傷はだいぶ癒えたようですね。王国の民があなたを運んできた時には難破船みたいにボロボロだったのですよ。」
「魔王はあなたを死んだものと思っていました。私は魔王の目を欺くためにあなたを魚の姿に変えていたのです。」
「あれからもう数ヶ月になるかしら。私の魔法で魚の姿になったあなたは今までこんこんと眠り続けていたわ。」
「傷が完全に癒えればやがて人間の姿に戻れるでしょう。それまでは無理は禁物ですよ。」
「フフ。これであなたも釣られるお魚の気持ちが分かるかもですね。フフフ。」
「聞きたいことが沢山ある。そんな顔をしていますね。」
「あなたが挑んだあの戦いのこと。共に戦ったお仲間のこと。私は全てを見ていました。」
「主人公。全てを受け入れる覚悟が出来たら私について来なさい。」
女王セレンと一緒に奥の部屋に入る。
「人間を連れてきたのは何百年ぶりかしら。」
「ここは守り人の海。海底の王たる者だけが立ち入ることを許された海。」
部屋の中央に大きな真珠がある。
「これは王家に伝わる千里の真珠。川や湖、一滴の朝露、あらゆる水に魂を乗せて地上の様子を見ることが出来る秘宝です。」
「地上にこっそり雨を降らせました。今ならこの雨を通じて世界を見ることが出来るでしょう。」
千里の真珠に触れると闇に包まれたロトゼタシアの光景が見えた。
「これが今のロトゼタシアの姿。あなたが魔王ウルノーガに挑んだあの日、世界は死んだのです。」
「熱をおびた猛烈な爆風が世界を駆け抜け、草木を焼き払い、水を干上がらせた。」
「空からは燃え盛る大岩が降り注ぎ山脈を崩し大地を砕いた。」
「魔王ウルノーガは多くの生命を一瞬にして奪い去ったのです。」
「絶望が新たに生み出すものは悲しみだけ。私は全てを見ていました。しかしどうすることも出来なかった。」
「絶望の中にも希望は残っています。この世界のどこかに希望の炎をいくつか感じます。」
「でもその炎も今消えようとしている。誰かが灯してやらなくては。」
「それは他でもない、あなたの役目。」
「世界の意思たる命の大樹は地に落ちました。そして今世界を統べるのは悪しき天空魔城に住まう魔王ウルノーガ。」
「魔王は命の大樹の魂を吸い取るだけでは飽き足らず、この地の全ての命を摘み取り悪しきチカラに変えようとしているのです。」
「海底王国は私が作った結界で魔王の目を欺き難を逃れてきました。」
「けれどそれももう限界です。」
「魔王のチカラは私のチカラを遥かにしのぎます。」
「もうあまり時間がありません。」
「不思議な人。あれ程の世界の惨状を目にしてもその瞳に浮かぶ光は消えてはいませんね。」
「主人公よ。これまで多くの災いがあなたに襲いかかってきました。」
「しかしその災を幾度となく打ち砕き、多くの命を奪ったあの破壊の最中にいながらもあなたはこうして生きています。」
「そう、それは未だあなたが魔王と戦う運命の中にあると大樹が告げているのやも知れません。」
「勇者主人公よ。世界に再び光をもたらすために希望の炎を灯しなさい。」
「希望の炎はあなたの仲間達と共にある。」
「あなたの仲間達に宿るその炎が照らす先に歩むべき正しい道が示されるでしょう。」
「全ては大樹の導きの・・・」
その時、海底王国を覆う結界が破られた。
「フフ、ウルノーガはせっかちなのね。別れの言葉も言わせてくれないなんて。」
女王セレンは魔法で海流を作り主人公を逃した。
「前を向きなさい。振り返ってはなりません。勇者とは最後まで決して諦めない者のことです。」
主人公はしばらく海中を彷徨った。
途中、美味しそうなエビを見つけたので食べると、船釣りをしていたアラーニという男性に釣り上げられてしまった。
釣り上げられた主人公は人間の姿に戻っている。
「なぬ?人?おい、あんちゃん!どっから乗ってきやがった?」
「いくら腹が減ったって魚の餌を横取りするやつがあるかよ。一体何があったってぇんだ?」
「何が何だか分からんが、深い訳があるみてぇだな。」
「よし、困ってる奴は放っておかねえ。それが海の男ってもんだ。」
「あんちゃん、ひとまず俺の小屋に来てひと晩休んでいけよ。こんなご時世だ。安全な場所はどこにもねえ。」
「けどな、あそこなら。最後の砦ならチカラになってくれるかも知れねえぜ。あそこには英雄がいる。俺たちの希望だ。」
「さあ、そうと決まればさっさと出航だ。あんちゃん、しっかりつかまってろよ。こっから先は海が荒れるぞ。」
アラーニの小屋で一休みした後、主人公は西へ向かいイシの村に入った。
イシの村には幼馴染のエマがいた。
「主人公なのね!私よ!幼馴染のエマよ!」
「私達の村、ずいぶん変わってしまったでしょ?」
「主人公がお城に旅立ってすぐにホメロスという名の将軍がやって来たの。」
「血の通わない冷たい目をしたホメロスは私達を村の広場に集めて、兵士達に命じたわ。皆殺しだと。」
「でも私達は生きてる。あの方が命まで奪う必要はないとホメロスを止めて下さったから。」
「村は焼かれてお城に閉じ込められたけど、あの方はとても親切だったわ。」
「誰も私達を傷付けなかったし。」
「それに誰よりもあなたの帰りを待っている人がいるわ。さ、主人公。私についてきて!」
エマと一緒にベルラのもとに向かう。
「主人公!よく無事でいてくれたね。それはもう恐ろしいことばかり起きて。私はてっきり・・」
「あの爆発で大勢の人が亡くなって。次に朝が来なくなって、恐ろしい魔物が大陸中に溢れかえった。」
「そんな時だ。あの方が私らの前に現れた。」
「彼は身分も国も関係なく困った人をみんな助けてくれてね。」
「わたしらを魔物から守りながらこの村に連れて来てくれたんだ。あの方がいなかったらどうなっていたか。」
「今じゃこの村は最後の砦なんて呼ばれて大陸中の人々が集まっているのさ。」
「それになんと、あのデルカダール王もいらしてるんだよ。」
「あらあら、そんな顔するもんじゃないよ。村を焼かれたことは忘れられないさ。でもね、人を恨んだって仕方ない。」
「まあすぐにとは言わないけど、あんたは王様に会いに行くべきだ。おじいちゃんならきっとそう言うさ。」
「デルカダール王のテントは砦の中央にあるよ。入り口にある2本の旗が目印だ。行っといで。でもね、喧嘩はするんじゃないよ。」
主人公はデルカダール王のテントに向かった。
「無事であったか。わしは長いこと恐ろしい夢を見ておったようだ。そなたが生まれたあの日から。」
「わしの所業は聞いた。何も思い出せぬが、民にもそなたにも本当に申し訳ないことをした。」
「許してくれとは言わん。この業は民達を守ることで返していくつもりだ。」
「主人公よ。そなたは大樹での出来事を覚えておるか?わしは何も思い出せぬのだ。」
「ただわしに取り憑いていた何者かが抜けていったような・・」
「そして気を失い、目が覚めた時にはこの砦に運ばれた後であった。」
「そなたは望まぬことやも知れぬが、我等の英雄殿にも会ってやってくれ。」
グレイグがテントに入ってきた。
「生きていたのか。」
「この地に光を取り戻す戦いを今こそ仕掛ける時だとわしは思う。」
「魔物の巣窟と化したデルカダール城に潜入し、常闇を生む魔物を討ち倒す。お前達にこの作戦を任せたい。」
「わしとて無策ではない。どうにか敵に一矢報いる手はないかとひそかに城を探らせておったのだ。」
「報告によればデルカダールの丘の崖上に、デルカダール城内に潜入できる地下水路への道を見つけたらしい。」
「城の中へ入るにはあの道しかない。この鍵で地下水路から城内へ忍び込むのだ。主人公、そなたに預けよう。」
主人公はデルカダールの鍵を受け取った。
「ひと晩だ。ひと晩持ちこたえれば我等の勝利ぞ。砦はわしが守る。」
「任せたぞ。そなたらは我等の希望じゃ。」
主人公はグレイグと共にデルカダール地下水路から城内に侵入した。
玉座の間の扉の前でグレイグが言う。
「主人公、今までの非礼を詫びる。すまなかった。」
「この先に誰が待ちうけていようとも俺は戦う。もう二度と俺の剣が道に迷わぬようチカラを貸してくれ。」
部屋に入ると玉座にホメロスが座っていた。
「お元気そうで何より。我が友、そして哀れな悪魔の子よ。」
「グレイグ、なぜお前は私の前を歩こうとする?」
「なぜお前ばかりがチカラを得る?」
「私はもうお前の後ろは歩かない。」
「愛も夢も光も、そして友も。この世界では何の意味も持たない。」
「あるべきはチカラ。世界を統べる闇のチカラだけ。」
「私のチカラを認めて下さるあの方こそが真の王。王の歩みを邪魔する者は私が許さぬ!」
「グレイグ!私はお前の先を歩く。お前はここで朽ち果てるのだ!」
ホメロスは魔物に姿を変え、飛び去っていった。
すると突然、屍騎軍王ゾルデが現れる。
「ンフフフ。我は魔王様のチカラを受けし六軍王がひとり、屍騎軍王ゾルデ。闇を愛し光を憎む者。」
「我は思う。そなたらは卑しい光を望む者たち。そして何より哀れな者たち。」
「魔王様は闇をお望みだ。我の命尽きるまで正常なる常闇は消えぬ。なればこの地に光は戻らぬ。」
「ンフフフ。さあ、穢れた光を癒やしましょうぞ。」
主人公とグレイグは襲いかかってくる屍騎軍王ゾルデを倒した。
「おお、私の愛しき闇が・・ああ、穢らわしい光が溢れ・・」
屍騎軍王ゾルデが消滅したあとにはパープルオーブが残されていた。
主人公はパープルオーブを取り戻した。
外に出ると空を覆っていた闇が消え、太陽が顔を出していた。
「常闇は消えた。しかし皆が心配だ。一刻も早く砦に戻らなくては。」
「主人公、帰ろう。最後の砦に。」
グレイグと共にイシの村に戻り、デルカダール王に報告する。
「グレイグ、よくぞやってくれた。」
「主人公よ。グレイグとチカラを合わせよくぞ太陽を取り戻してくれた。礼を言おう。」
「しかし世界は未だ混乱を極めておる。そなたはこの世界の希望、勇者じゃ。どうかロトゼタシアに光を取り戻してくれ。」
「グレイグよ。今日まで我等が王国のため、よく戦ってくれた。今宵の勝利はお前のチカラあってこそのもの。」
「さればお前のその剣を今こそ世界のために役立てる時じゃ。意味は分かるな?」
「砦のことは案ずるな。民は強い。そしてわしもな。ハッハッハ。」
「なあに、悩むことはない。お前の心はもうとうに決まっておるのだろう?」
「主人公、我等が勇者よ。この命、今日からあなたに預けます。」
グレイグが仲間に加わった。
太陽を取り戻した最後の砦の祝宴は一昼夜続き、山間の砦に絶え間なく喜びの歌が響いた。
そして夜が明けた。
デルカダール王のテントで旅立ちの報告をする。
「グレイグ、お前に渡すべき物がある。」
デルカダール王はデルカダールの盾を取り出した。
「お前はわしにとって我が子のようなもの。旅立ちに相応しき身支度を整えるのが親の役目。祝じゃ。受け取れ。」
グレイグはデルカダールの盾を受け取った。
「うむ、よく似合っておるぞ。その盾は世界最高の騎士の証。そなたこそ勇者を守る最強の盾じゃ。」
「さて主人公よ。道標となる大樹は地に落ち、勇者の剣は魔王に奪われたと聞く。」
「しかしだ。わしはそなたの父ユグノア王からこんな話を聞いたことがある。」
「ロトゼタシアにそびえる霊山。北のゼーランダ山と南のドゥーランダ山。」
「その山頂に住まう民達は何やら勇者とゆかりのある者達らしい。」
「あの話が本当であるとすればそなたは彼らに会うべきであろう。魔王を倒す助けを得られるやも知れぬぞ。」
「ナブガーナ密林を西に進むとソルティアナ海岸に通じる谷がある。」
「そこを越えた先にある山間の関所を抜ければドゥーランダ山はすぐそこじゃ。」
「我等もあずかり知らぬ道ゆえ何が起こるか分からぬ。心して向かうがよい。」
最後の砦から西へ進み、ナプガーナ密林からソルティアナ海岸へ向かう。
ドゥーランダ山を登っていき、ドゥルダ郷へ入った。
「ここが勇者ゆかりの地か。」
「しかし大樹が落ちた場所から近いというのに郷はまったく無事な様子。一体何があったのか。」
そこにサンポ大僧正という小柄な年若の男性がやって来た。
「あなたから感じるこのチカラは・・もしや勇者様ではありませんか?」
主人公は頷いた。
「ああ、どれだけこの時を待ちわびたか。」
「のちほど郷の一番高い場所にある大師の宮殿を訪ねて下さい。お話したいことがあります。」
主人公は大師の宮殿に向かった。
「勇者様。ドゥルダ郷へよくぞ参られました。私は郷を治める大僧正サンポと申します。」
「我々は16年前主人公さんがユグノアに生まれてからずっとその訪れをお待ちしていました。」
「さあ、あの旗を見て下さい。」
ユグノアの国旗が飾られている。
「ドゥルダは古来よりユグノアと縁のある郷。ユグノアの王家に生まれた男子は幼子の6年間、郷に修行に出されるという掟があります。」
「ユグノアの王子として生まれた主人公さんも本来は郷に修行に出され、ニマ大師に師事するはずだったのです。」
「不幸にもユグノアが魔物に滅ぼされ、それは叶いませんでしたが。」
「我等が指導者ニマ大師は魔王によって世界が崩壊した時、その衝撃から郷を守るため巨大な守護方陣を展開しました。」
「その強力な結界によって郷は助かりましたが、自らの命を犠牲にしたニマ大師はそのまま帰らぬ人となったのです。」
「ニマ大師の代わりにあなたにお見せしなければならない場所があります。宮殿の裏にある大修練場まで来て下さい。」
大修練場へ向かい、奥にいるサンポ大僧正と話をする。
「この扉の先がドゥルダの大修練場となります。」
「実際に修練場を見る前に郷に語り継がれる伝説の勇者ローシュの伝承についてお話致しましょう。」
「神話の時代、ローシュは邪悪なる神を倒す旅の途中、賢者の集まる神秘の郷ドゥルダを訪れました。」
「深き知恵を持つ郷の初代大師テンジンに弟子入りしたローシュは、この修練場でチカラを磨いたと伝えられます。」
「そして修行を続けるローシュはある人物と運命的な出会いを果たしました。」
「同じく大師のもとで修行に務め、弟子の中でも一番の実力者とされた大魔法使いウラノスです。」
「共に切磋琢磨し、お互いのチカラを認めあった二人は意気投合して友となりました。」
「修行を終えた後ウラノスはローシュの仲間となり邪悪なる神との戦いで大いに活躍したと伝えられています。」
「昔語りはこれくらいにして、実際に修練場をお見せしましょうか。私についてきて下さい。」
サンポ大僧正と一緒に修練場に入る。
「ここが歴史深きドゥルダの大修練場。神話の時代からある場所で、鍛錬した者の血と汗が染み付いています。」
「あなたも歴代のユグノア王子と同様、ここでニマ大師の稽古を受けるはずでした。」
「わざわざここに来ていただいたのは、ローシュの時代から連綿と続く伝統の地をあなたに踏ませてあげたかったからです。」
「あなたの祖父ロウ様もここで修行を受けたのですが、彼の偉業は今も皆の記憶に残っています。」
「主人公さん、ロウ様が心配ですか?ですがあの方は大師の厳しい修行を耐え抜き、今も伝説の弟子として語り継がれる方。」
「世界崩壊の衝撃で亡くなるほどヤワではありません。きっとどこかで無事にいるはずです。」
「主人公さん、今日はあなたのために大師の宮殿でささやかな宴を開かせて下さい。」
「ニマ大師がいない今私達に出来ることは多くありませんが、あなたのために出来る限りのことをしたいのです。」
こうして郷を訪れた主人公のためにその夜ささやかな宴が開かれ、修行僧達は久しぶりの宴を大いに楽しんだ。
そして夜が明けた。
外に出るとサンポ大僧正がいた。
「ああ、主人公さん、グレイグさん。実は半月ほど前に一人の修行者が郷を訪れドゥーランダ山頂へ向かったのです。」
「ですがその修行者は郷の者から大師が亡くなったことを聞くと何も言わずに山頂へ向かったそうです。」
「山には魔王の影響で凶暴化した魔物が棲みついているので救出のために僧兵を派遣したのですが、怪我をして戻ってくる始末。」
「それでどうしたものかと思案していました。」
「私と一緒に修行者の救出に行って頂けないでしょうか。」
主人公は頷いた。
「ありがとうございます。では早速ドゥーランダの山頂へ向かいましょう。山頂へは郷を出て東の道から行くことが出来ます。」
ドゥルダ郷を出て山頂へ向かうと、奥に小さな祠があった。
祠の中を覗くと、痩せこけた修行者が座禅を組んだまま息絶えていた。
「くっ・・こいつは見るに耐えんな。もしやこれが一人で山頂に向かったという修行者なのか?」
修行者の首にはユグノア王家の首飾りがかけられていた。
「む、これはユグノア王家の者が持つ首飾り!こんな貧相な修行者がなぜこれを・・」
サンポ大僧正が言う。
「まさかこの修行者は・・ロウ様!」
「いや、待って下さい!まだ息があります!」
「恐らくロウ様の御霊は今、生と死を彷徨っておられると思われます。しかしこのままでは死・・」
「ひとつだけロウ様を救う方法があるかも知れません。」
「主人公さんが冥府、生と死の狭間にある世界へおもむきロウ様を救出して戻ってくるのです。」
「実はドゥーランダ山頂にあるこの御堂は古来より冥府へと通じる霊験あらたかな場所だと伝えられます。」
「私が郷に伝わる分霊の儀式をおこなって肉体から魂を離脱させれば冥府に入ることが出来るはずです。」
「ですが冥府は生と死が揺らぐ世界。生者であるあなたが行けば二度と帰ってこられないかも知れません。」
「主人公さん、それでもあなたはロウ様を救うため冥府に行きますか?」
主人公は頷いた。
「分かりました。それではあなたを冥府へと送りましょう。」
主人公は冥府の奥でニマ大師と会った。
「あらあら、寄る辺なく彷徨う哀れな魂がまた一つ、この世の果てに流れ着いたようだね。」
「顔を見てみりゃまだ若い。こんな子が冥府に落ちるなんてホント神も仏もありゃしないよ。」
「ずいぶん呆けた顔してるけど、アンタ自分がこれからどんな運命を辿るか分かってるのかい?」
「あーあ、哀れなもんだよ。あの世に来ただけじゃなく、これから待ち受ける苦しみさえ何一つ知らないんだから。」
「仕方がないねえ。無知なアンタにこの冥府について少し教えてやろうか。」
「鈍いアンタでも分かるだろう。見ての通りこの世界には何もない。そう、ここは無の世界なんだ。」
「本来冥府へいざなわれた魂は新しい命として再生するために大樹へ向かうんだけどね。」
「魔王によって大樹が失われた今、冥府は完全な無の世界になった。哀れな魂の行き場は永遠に失われたのさ。」
「だからアンタの魂はもうすぐこの虚無の中で消えちまうんだよ。」
「大樹による生命の循環は絶たれ、やがて全ての命は消え去る運命にある。魔王がいる限りこれは変えられない。」
「悔しいだろうけど諦めな。もうどうしようもないんだよ。」
「全ての命の源、大樹の魂を手に入れた魔王に敵う者がいると思うかい?いるわけないよねえ。」
「でもさ、そんな魔王に逆らおうとしている奴がいるらしい。」
「ホントどいつもこいつも往生際が悪いったらありゃしないよ。」
奥の部屋にロウがいた。
「ふふ、ロウがこの世をはかなんで死んだとでも思ったかい?とんでもない、逆さ。」
「アイツは諦めてなんかいないよ。魔王をぶちのめすことをね。」
「ロウ、あんたの爺さんは郷の奥義を習得するために決死の覚悟で死んだあたいに会いに来たんだ。」
「もうあたいが誰だか分かっただろう?そう、ロウの師匠でありアンタの師匠になるはずだったニマだよ。」
「あの魔法陣が見えるかい?」
「ロウは身体に魔力をまとって舞い踊り、魔法陣に大樹の紋様を描いているんだ。それが奥義習得の修行ってわけ。」
「ここに来てから奴はずっと踊り続けてる。身体が自由に動く年でもないのにホント無茶するよ。」
「見てな。あの魔法陣が完成した時、ロウは奥義を会得するよ。」
ロウはグランドクロスを習得した。
「あの野郎、やりやがったね。たまにはかっこいい姿を見せんじゃないか。」
ロウが主人公の姿に気づく。
「おぬしは主人公!おお、主人公よ。死んでしまうとは何事じゃ!」
ニマ大師が言う。
「落ち着きな、ロウ。早とちりするのはアンタの悪い癖だよ。主人公は生きてる。」
「そいつはね、お前が死んだと思って現世からアンタを助けにやって来たんだよ。」
「そうか・・まったく危険なことをしおって。わしならもう大丈夫じゃ。」
「さあ行こう。奥義を会得したわしと勇者のおぬしがいればもう恐れるものはない。現世へ戻って憎き魔王をぶちのめすのじゃ。」
ニマ大師が二人を止める。
「おっと待ちな。どこへ行くんだい?」
「修行はまだ終わってないよ。主人公、アンタの修行がね。」
「さあ、こっちに来な。」
「さっきロウが放った技こそドゥルダの奥義グランドクロス。」
「あの技は神話の時代、勇者ローシュの仲間の一人ウラノスによって編み出された技だ。」
「そしてアンタに教える技はグランドクロスにも引けを取らない大技、覇王斬さ。」
「なんてったって覇王斬はローシュが初代大師テンジンとの修行の中で編み出した空前絶後の秘奥義だからね。」
「でもね、覇王斬は郷に受け継がれながらローシュ以外には誰も習得することが出来なかった。」
「その技をわずかな時間で覚えようってんだから当然修行はとんでもなく厳しいものになる。」
「主人公、どんなに辛く厳しい修行が待ち受けていてもそれに耐える覚悟がアンタにあるかい?」
主人公は頷いた。
「いい返事だね。それじゃあ早速覇王斬の修行を始めるよ。」
「覇王斬は使用者が自身の魔力を刃の形にして放つ技。さあ手を前に出し剣をイメージして魔力を集中させな。」
主人公は厳しい修行を終え、覇王斬を習得した。
「いいねえ、主人公。よくやった。」
「いいかい?あの光の剣の強さはアンタの心の強さ。あの剣を鍛えあげるんだ。決して折れない強き剣に。」
「そうすればアンタはどんな困難にも立ち向かって行けるよ。」
「主人公、辛い修行から逃げずによく頑張ったね。これでもうアンタはあたいの立派な弟子だよ。」
その時、冥府の上空に魔王ウルノーガの触手が現れた。
「見つけたぞ。」
「死滅した世界で這いずり回る虫けら共よ。ここで滅ぼしてくれよう。」
襲いかかってくる触手の攻撃をエマ大師が結界で防ぐ
「ち、魔王め。とうとうこの冥府にまでその触手を。奴のチカラをちょっと甘く見過ぎてたか。」
「ああもう、教えたいことがまだ残ってるってのに忌々しい奴だ。」
「でもこうなったら仕方ないね。この場でアンタ達に最終奥義を授けるよ。」
「ローシュとウラノスが協力して放つ合体技、それこそが初代大師が考案した真の最終奥義だ。」
「さあ二人共、覚悟はいいかい?遙かなる時を越え、もう一度伝説を繰り返すんだ。」
「アンタ達が放つ最終奥義、それをあたいの冥土の土産にさせておくれ。」
「あたいの掛け声に合わせて技を放ちな。チャンスは一度きりだよ。」
「ロウ!ありったけのチカラを込めて空にグランドクロスを打ち上げるんだ!」
ロウはグランドクロスを打ち上げた。
「主人公、今だ!覇王斬を!」
主人公も覇王斬を放つ。
「この技こそドゥルダに伝わる真の最終奥義、グランドネビュラだ!」
主人公とロウが連携技グランドネビュラを放つと、魔王ウルノーガの触手は消え去った。
疲労の中意識を失った主人公は、ニマ大師が最後のチカラを振り絞り魔王の目を眩ませる夢を見た。
そして夜が明けた。
目が覚めるとそこはドゥルダの郷のベッドの上だった。
「よかった、目が覚めたな。身体も大丈夫そうで何よりだ。」
「ロウ様は先に目覚められて一足先に外に出ている。俺たちも行こう。」
ロウが以前と同様の姿で出迎えてくれた。
「おお主人公。遅かったではないか。」
「何じゃ?人の顔をジロジロ見おって。」
グレイグが言う。
「ロウ様がすっかり元の姿に戻られたので驚いているのですよ。一時は骨と皮だけでしたからね。」
「ふぉっふぉっふぉ。あれくらい大師様の修行に比べれば何でもないわい。飯を食えばすぐ元通りよ。」
「そうじゃグレイグ。わしがあっちの世界にいる間、主人公が世話になったようじゃな。礼を言うぞ。」
「そなたも運命に翻弄された哀れな男。おぬしを責めるつもりはない。」
「これからのことについても心当たりがある。」
「大師様の話によると先代勇者ローシュは神の乗り物で空を飛び邪神と戦ったらしい。」
「詳しくは知らんが先代勇者達が使用したその乗り物を手に入れれば天空にいる魔王を討ち果たす方法も見つかるやも知れん。」
「それにバラバラになった仲間のことじゃ。皆諦めの悪い者ばかりじゃから、きっと世界のどこかで生き延びているはず。」
「よいか主人公。勇者ローシュの足跡をたどるため仲間を探しながらもう一度神語りの里、聖地ラムダを訪ねるのじゃ。」
「さあゆっくりしている時間はない。一刻も早くウルノーガの野望を砕かねば。皆の者、出発するぞ。」
ロウが再び仲間に加わった。
プチャラオ村に行く途中でシルビアに会う。
「あら。もしかして・・主人公ちゃんじゃない!」
「暗い世界に光を照らすため、アタシ世界各地を練り歩いて世助けパレードをしていたの。」
「それにしてもあんな事があったのに生きてるなんて奇跡よね。主人公ちゃんとまた会えて感激だわ。」
「ねえ主人公ちゃん、これからのことは後で考えるとして、ちょこっとだけアタシの世助けパレードに付き合ってみない?」
主人公はシルビアに付き合ってプチャラオ村で起きていた問題を一緒に解決した。
「ねえ主人公ちゃん。ウルノーガは世界を滅亡させるほどの強大なチカラを持っていたわ。」
「あのチカラを目のあたりにしてなおウルノーガと戦うつもりなの?」
主人公は頷いた。
「やっぱり主人公ちゃんは勇者ね。」
「世界に笑顔を取り戻すなんて言って世助けパレードをしてたけど、魔王を倒さなくちゃ笑顔は取り戻せない。」
「だからアタシ、もう一度主人公ちゃんの旅についていくことにするわ!」
グレイグが言う。
「貴様、まさかとは思うが・・ゴリアテか?」
「うふふ、やっと気づいたのね。いつ気づくかずっと待ってたのよ!グ・レ・イ・グ。」
グレイグはショックを受けているようだ。
「ということでアタシのパパがいるソルティコに向けてしゅっぱーつ!」
グレイグが言う。
「なんてことだ。あの生真面目なゴリアテがあんな姿に・・」
「ジェーゴ殿はさぞお怒りになるに違いない。」
「おお主人公、すまない。あまりにもショックだったものでつい取り乱してしまった。」
「奴の本当の名はゴリアテ。剣の達人とうたわれるソルティコの名門騎士の跡継ぎだ。」
「奴は幼少から父上のジェーゴ殿に鍛えられていたからさぞ立派な騎士になると思っていた。」
「ところがある時理由は分からないが、ジェーゴ殿と凄まじい大喧嘩をして町を飛び出していってな。」
「丁度いい。私もジェーゴ殿にお会いしたかったのだ。」
ソルティコの町のジェーゴの屋敷に向かう。
ジェーゴは屋敷のベッドで寝ていた。
「師匠、グレイグでございます。久方ぶりです。」
「おうおう、グレイグじゃねえか。でめえが修行を終えて町を旅立ってからもう十数年か。近くに来て顔を見せろよ。」
「でめえの活躍はさんざん聞いてるぜ。図体デカイだけが取り柄だったてめえが、今やデルカダールの英雄様だ。ハハ!」
「思ったよりお元気そうで何よりです。師匠のもとで騎士道を教わっていなければ今の私はあり得なかったでしょう。」
「ここを旅立って多くのことがありました。16年前のユグノアの悲劇に始まり、先日の大樹の落下。そして今や魔王が。」
「そう言えばシルビアはどうしたのだ。私は師匠と話しているからちょっと様子を見てきてくれないか。」
主人公はシルビアの様子を見に海岸へ向かった。
「あ、主人公ちゃん。そっか、アタシを探しに来てくれたのね。」
「実はね、アタシ主人公ちゃんと再会できたらウルノーガと戦うって心に決めてたの。」
「だけどパパと会う決心がなかなかつかなかったの。」
「話し合えば分かりあえる。そう覚悟を決めてここまで来たんだけど、やっぱりパパと会うのが怖くてね。」
「アタシがこの町の出身だって話したことあったかしら。」
主人公はグレイグに聞いたということを説明した。
「そう、グレイグが言ったのね。聞いての通りアタシは子供の頃から騎士になるべく徹底的に鍛え上げられた。」
「だからアタシはずっとこの町で騎士として生きていくものだと思ってた。そんな時だったわ。サーカス団が来たのは。」
「そのサーカスのショーがとにかく面白くって。不思議と身体の中からチカラが湧いてくるの。アタシはサーカスのパワーに魅せられたの。」
「そしてアタシは確信したわ。笑顔は人を強くする。アタシの騎士道はこれだってね。」
「いてもたってもいられなくなって、今のアタシに必要なのは旅芸人の修行だってパパに打ち明けたら当然のように反対されて。」
「その時言ってやったのよ。世界中の人達みんなを笑顔に出来るようなアタシにしか出来ない騎士道を極めてやる!って。」
「それまで絶対に帰らないって屋敷が壊れるくらいパパと大喧嘩して、アタシはこの町を飛び出したってわけ。」
「おセンチな話しちゃったわね。」
「でも主人公ちゃんとお話してたら何だか勇気が湧いてきたわ。」
「よーし!パパに会いに行きましょ!」
シルビアと一緒にジェーゴに会いに行く。
「誰だ、てめえ。」
「てめえは我が息子ゴリアテ!どの面下げて帰ってきやがった!」
「おいゴリアテ。てめえ、何か勘違いしてねえか?」
「てめえの騎士道ってやつで世界中を笑顔に出来たのか?」
シルビアが言う。
「いいえ、まだです。」
「だったらなぜ帰ってきやがった!」
「てめえは大口をたたいて出ていった。なのに夢を果たさぬままよくも抜け抜けと!そんな風にてめえを育てた覚えはねえぞ!」
「畜生。こんな身体でなけりゃてめえをぶん殴ってたところだ。」
「ありがとう、パパ。ずっとアタシのこと認めてくれてたのね!」
「アタシ確かに夢半ばのまま帰ってきちゃったけど、それには理由があるの。」
「魔王がいる世界じゃ人は心の底から笑えないの。」
「だからアタシ、魔王を倒す。そして明るい世界を取り戻して今度こそ夢を叶えてみせるわ!」
ジェーゴが言う。
「ハ!魔王を倒すだと?てめえ、またドデカイこと言いやがったな!面白え、やってみやがれ!」
「ええ、必ず。騎士に二言はないわ。」
「アタシのワガママに付き合ってくれて本当にありがと!主人公ちゃん、改めてよろしくね!」
シルビアが再び仲間に加わった。
「船があればこれまで行けなかった場所にも行けるようになるわ。」
船で移動中、大嵐になり海の中から魔物が現れた。
「臭う、臭うぞ。命の匂いだ。」
「我が名は覇海軍王ジャコラ。魔王様よりこの海を統べるよう賜った。」
「我が海を汚す雑魚どもめ。その命、魔王様のために貰い受ける!」
「グハハ!魔王様より授かったレッドオーブのチカラで海の底に沈め!」
主人公は覇海軍王ジャコラの攻撃を受けて海に投げ出されてしまった。
主人公が気がつくと、目の前に釣りをしている女性がいた。
「なーんじゃ。誰かと思えばおぬしか。」
「驚かんでもええ。ここは天国でも地獄でもない場所。安心するがよいぞ。」
「ほれ、ボケーッとしておらんでおぬしも釣り糸を垂らすがええ。そこに釣り竿が置いてあるじゃろ。」
「おぬし、わしのことを知らんようじゃな。」
「おぬしの世界ではわしは預言者と呼ばれておる。」
「釣れる時には釣れる。来るべき時が訪れるまで耐え忍ぶこと。それが肝要じゃ。」
「そう言えばおぬしの仲間にも会ったことがある気がするの。名前は確かカミュと言ったか。」
「まあよい。わしは部屋に戻るとしよう。ホッホッホ。」
預言者が住む小屋に主人公も入っていく。
「ほれ苦しゅうない。そこに座れ。」
「さて、ここに来たということは何か道に迷っておるな。ちょいと失礼するぞ。」
「ふむ、おぬし勇者のチカラを無くしたと思っておるな?」
「残念だがわしに出来ることは何もない。」
「ただ一つ言えることはある。」
「勇者のチカラを魔王に握りつぶされたと思っとるようじゃが、チカラなんてもんは見えやしないし触れも出来ん。簡単に握りつぶせるようなヤワなもんじゃない。」
「特に勇者のチカラなんてもんはな。」
「なんじゃ、まだ分からんのか。ま、今はそれでよい。」
「釣れるべき時に釣れるように、時が来ればおのずとつかめるものじゃ。」
「そう言えばおぬし、今溺れかけとるんじゃっけ。」
「ま、案ずるでない。大樹が言っておる。おぬしはまだ倒れる運命にないとな。」
「さーて、いつまでも寝てはおれんぞ。おぬしは勇者、やるべきことは決まっておろう?」
「世界を救え。」
主人公は意識を取り戻した。
「ああ主人公ちゃん!よかった。気がついたのね!」
ロウが言う。
「主人公が海に落ちた後、わしらは何とかおぬしを助けようとしたんじゃ。しかしあの状況での救出は絶望的でのう。」
「黒い海に飲み込まれて、もう二度と戻らぬものかと思ってしまった。」
「そんな時じゃった。突然辺りが光に包まれておぬしが海の底から上がってきたのじゃ。」
「わしは腰を抜かしそうになったがのう。なんとかおぬしを助け、魔物の猛攻を切り抜けてここまで逃げおおせたって訳じゃ。」
主人公達は近くの宿屋に泊まった。
その夜、主人公は夢を見た。
「ああ口惜しい・・」
「後悔という名の鎖がこの身を縛り付ける。私は何も出来なかった無力な存在・・」
「もしあの日に戻れるのなら地獄の業火に焼かれてもいとわない。」
「ああ口惜しい・・」
「誰か私の願いを受け止めて。あの人を暗い絶望の闇から解き放って。私の声よ。どうか誰かに届いて。お願い・・」
翌朝、夢の内容をロウに報告する。
「ふむ、それでは全員が同じ夢を見たわけじゃな。口惜しいと嘆く戦士の夢を。」
「あの戦士の甲冑に描かれた紋章は紛れもなく我が国ユグノアのものじゃった。」
「そう言えば世界が闇に覆われてからユグノアがどうなったのかも気になる。少し様子を見に行ってみようかのう。」
主人公達はユグノア城跡に立ち寄った。
「この場所はもともと崩壊しておったが、さらに酷い有様になってしまったのう。」
「確かこの辺りじゃったか。これは地下通路への入り口。ユグノアに何か危機が訪れた時に城の外へ逃げるための道じゃ。」
「わしの読みが正しければ、この先に夢で見た戦士の手がかりがある。さあ、行くとしようかの。」
地下通路を降りていくと、そこに嘆きの戦士がいた。
「うう、口惜しい・・」
「おのれ、またやって来たのか。邪悪なる魔の者達よ。」
「貴様ら魔族のせいで私は全てを失ったのだ。」
「許さん・・許さんぞ!」
主人公達は襲いかかってくる嘆きの戦士を倒した。
「うう・・口惜しいぞ・・」
「よくもエレノアと主人公を・・許さぬ・・決して許さぬぞ・・」
ロウが言う。
「やはりそうか。おぬしはアーウィンじゃな。」
「アーウィンはこのユグノア王国の王であった男じゃ。それと同時に勇敢なるユグノアの戦士でもあった。」
「そして主人公。アーウィンはおぬしの父親じゃ。まさかこんな形で再会するとは。」
「アーウィンよ。なぜおぬしはこのような姿になってしまったのじゃ?わしによく顔を見せておくれ。」
嘆きの戦士アーウィンには顔が無かった。
その時女性の声が聞こえてくる。
「ああ、ついに来てくれた。彼を救ってくれる人が現れるのをずっとお待ちしていました。」
「あなた方のおっしゃる通り、彼はこのユグノア王国を治めていたアーウィン王です。」
「16年前ユグノアを襲った悲劇の時。彼は闇にひるむことなく戦い抜き、正義の光を胸に立派に王国を守りました。」
「しかし今やその光は失せてしまった。今の彼は生きることも死ぬことも出来ない悪夢を彷徨う悲しい屍。」
「どうかお願いします。暗く悲しい悪夢から彼を解放してあげて。彼の絶望に光を照らしてあげて下さい。」
ロウが言う。
「この戦士の正体がアーウィンだと分かった今、このまま放っておく訳にはいかんの。」
主人公はアーウィンの顔を覗き込み、アーウィンの記憶の中に入っていった。
ユグノア城が魔物に襲われた日、地下でウルノーガがデルカダール王に乗り移っている場面に遭遇したアーウィン。
デルカダール王に駆け寄ったアーウィンは不意をつかれ、剣で刺殺されてしまった。
「勇者の血筋などここで途絶えるがいい。」
そこにグレイグがやって来る。
「王!よくぞご無事で。到着が遅れ申し訳ありませんでした。」
ウルノーガに乗り移られたデルカダール王が言う。
「アーウィンが突然私に襲いかかって来たのだ。だから仕方なくこの手で。」
「そして我が娘マルティナもユグノア王妃エレノアに人質としてさらわれてしまった。」
「恐らく勇者の誕生がこの城の者達を変えてしまったのだ。」
「城を襲った魔物達の狙いは勇者を手に入れること。そのために数多の命が消えていった。」
「勇者の光に闇が引き寄せられたのだ。伝説の勇者主人公がいなければこのような悲劇は起こらなかった。」
「主人公は世界を救う希望の子などではない。この世に邪悪なる闇をもたらす存在。」
「災いを呼ぶ悪魔の子だ!」
「ロトゼタシアの平和を脅かす勇者を野放しにする訳にはいかん。草の根を分けても見つけ出すのだ!」
主人公の前に突然魔物が現れた。
「我が名はバクーモス。絶望を食らう者。」
「国は滅び愛する家族とは死に別れ、この男の絶望はまさに高級フルコース。」
「こんな絶望にはそうありつけはしない。だからこの男に16年前の悪夢を何度も見せ、こうして食らい続けているのだ。」
「この男の絶望は一度食べたら忘れられぬ。16年間食べ続けても飽きぬほどだ。」
「だがしかし、そろそろ違う味も試したかったところだ。次はお前の新鮮な絶望を頂くとしよう。」
主人公が襲いかかってくるバクーモスを倒すと、アーウィンは意識を取り戻すことが出来た。
「その眼差し・・その目に宿る優しい光は・・まさか、そんな!」
「そうか、私を絶望の淵から解き放ってくれたのはお前だったのだな。立派になったな、主人公。」
エレノアの声が聞こえてくる。
「あなたを苦しめていた呪縛は主人公が解き放ってくれた。これで私達安心して旅立てるわね。」
「主人公、私の可愛い主人公。」
「あなたにはこれからも多くの困難が立ちはだかるでしょう。それでもそのまま真っ直ぐに進みなさい。」
「あなたの中にある希望の光がきっとあなたを導いてくれるはず。父と母もいつもあなたを見守っていますよ。」
「さようなら、主人公。ずっとあなたのことが大好きよ。」
アーウィンはエレノアと共に天に召されていった。
ロウが言う。
「これで本当にお別れじゃな。アーウィン、エレノア。」
主人公の左手の甲に再び勇者の紋章が刻まれていた。
「おお、勇者の紋章が光り輝いておる。アーウィンとエレノアが勇者のチカラを蘇らせてくれたんじゃな。」
「さあ、いつまでも嘆いていてはいかんな。気を引き締めて次の目的地へ向かうぞ。」
「ここより北にあるグロッタの町ならば人も多いし新たな情報が得られるかも知れん。早速行くとしようかの。」
ユグノア地方を北へ進み、グロッタの町に入った。
「何だか様子がおかしいわね。それにあんな悪趣味な像、前に来た時あったかしら?」
そこに魔物がやって来た。
「ようこそグロッタの町へ。」
身構える主人公達。
「おやおや困りますな。どうか落ち着いて下さいませ。」
「このグロッタの町は今や幸せな楽園に生まれ変わったのです。そんな場所で戦闘するなどヤボですぞ。」
「野蛮なコロシアムなんてもう古い。これからは六軍王であるブギー様が作ったモンスターカジノがここの新名物ですよ。」
「あなた達も興味がおありなら是非2階のカジノで遊んでいって下さい。どうなっても知りませんがね。フフフ。」
ロウが言う。
「魔物が運営するカジノとな。」
「怪しい匂いがプンプンするが、マルティナがいるやも知れん。2階にあるというカジノに行ってみようかの。」
カジノに行くとマルティナがいたが、何やら様子がおかしい。
「あら?グレイグじゃない。アンタみたいな頭でっかちでもこういう所に出入りするのね。」
「アタシが興味あるのはこのカジノを作った六軍王であるブギー様だけ。アタシの身も心もブギー様のものなのよ。」
「アタシはブギー様と一緒にこれからこのカジノを盛り上げていくの。」
「どうやらキツイお仕置きが必要みたいね。アンタ達みたいなしつこい奴らはアタシの蹴りで黙らせてあげるわ。」
主人公達は襲いかかってくる呪われしマルティナを倒した。
そこに妖魔軍王ブギーが現れる。
「困りますなあ、お客さん。うちのナンバーワンディーラーをイジメてもらっちゃあ。」
「泣かせた女は数知れず。最強のキングオブモンスター。妖魔軍王ブギー様参上だじょ!」
「クックック。ボクちんのマルティナを仲間に引き込もうなんて無駄。」
「ボクちんのチカラでマルティナをナイスバディーな魔物にしてボクちんの忠実なる下僕にしたからねん。」
「マルティナだけじゃなく、このカジノの従業員である魔物達は元々人間だった奴らさ。」
「カジノで大勝ちして調子に乗った人間達を魔物に変えてコキ使いまくるのがボクちんの何よりの楽しみなんだよーん。」
「ボクちんの楽園を壊そうとする奴はまとめてズタボロ百叩きの刑だじょ。全部消えてなくなれ!」
主人公達は襲いかかってくる妖魔軍王ブギーを倒し、グリーンオーブを取り戻した。
マルティナが正気を取り戻す。
「私、どうしたのかしら。ここは一体・・」
「まあ、主人公じゃない。隣りにいるのはグレイグ。あなた達どうしてここに?」
「・・今までのこと全て思い出したわ。」
「魔物になっていたせいかしら。私、新しい力に目覚めたみたい。今ならどんな強敵でも蹴り倒せそうだわ。」
マルティナはデビルモードを覚えた。
「ロウ様、ご心配おかけしました。」
グレイグが言う。
「姫様、今までの非礼な振る舞い、どうかお許し下さい。」
「私は今、主人公に命を預ける身。打倒ウルノーガの信念を貫き通すまで皆の盾となりましょう。」
「何よ、そのつまんない挨拶。これ以上アタシを退屈させるならキツーイお仕置きしてあげましょうか?」
「なーんてね。冗談よ、冗談。ウフフ。」
「グレイグ、頼りにしてるわ。これからもよろしくね。」
「主人公、しばらく見ない間にずいぶん頼もしくなったわね。」
「これ、あなたに渡しておくわ。」
主人公はマルティナからマーメイドハープを受け取った。
「世界各地を旅してる時にそのマーメイドハープを見つけたの。どうしてもあなたに渡したくて。」
「もう分かってると思うけど、海にそびえる光の柱でそれを使えば船で行けなかった場所にも行けるはずよ。」
「そこで残りの仲間を探しましょう。魔王ウルノーガを倒して世界に平和を取り戻すために。」
マルティナが再び仲間に加わった。
こうして主人公の活躍によりグロッタの町は元の活気を取り戻した。
魔物の姿になった人々も元の姿に戻り、人々は久しぶりに訪れた平和な時間を共に喜び分かち合ったのだった。
そして夜が明けた。
ソルティアナ海岸から船に乗り、ソルティコの水門を通って外海へ向かう。
船倉の方から音がしたので様子を見に行くと、なんとカミュがいた。
「許してください!」
「俺、もう3日も飲まず食わずで。この船に食べ物が積まれるのが見えて、それでつい出来心で。」
「あの・・俺の名前は多分カミュであってますけど・・でもどうしてそれを・・」
「あなた達もしかして俺のこと何か知ってるんですか?」
「俺、昔のことを思い出せないんです。気づいたら世界は酷い有様だし、本当わけが分からなくて。」
「覚えているのは自分の名前と、何か大事なやらなくちゃいけないとこがあったような。それくらいしか。」
「こんなこと頼める義理ないですけど、もし俺のこと知ってるならあなた達に同行させてくれませんか。」
「特にあなたといれば何か思い出せそうで。」
「盗み食いした分は弁償します。掃除でも皿洗いでも何でもしますから。」
カミュが再び仲間に加わった。
シルビアが言う。
「うーん、何だかムズムズするわ。ベロニカちゃんが今のあなたを見たらきっと笑い転げるでしょうね。」
しばらく船で進んでいると、海の中から覇海軍王ジャコラが再び現れた。
「臭う、臭うぞ。命の臭いだ。」
「グハハハ!この海にまだ命があったか!」
「おや?貴様は確か前に取り逃がした奴か?まあよい。魔王様のためにこの海には命一つ残さぬ。雑魚どもめが。海の底に沈むがよい!」
主人公は勇者のチカラで覇海軍王ジャコラの攻撃を弾く術を解いた。
「でかしたぞい、主人公!攻撃を弾く術さえ解けてしまえば、こんな奴恐るるに足らんわ!」
主人公達は襲いかかってくる覇海軍王ジャコラを倒してレッドオーブを取り戻した。
「わはは!あんなヤツ勇者のチカラを取り戻した主人公の敵ではないわ!」
「これで海の脅威は去ったはずじゃ!」
光の柱でマーメイドハープを使い桟橋に船をつけ、クレイモラン城下町に入った。
ロウが言う。
「シャール女王の安否を確かめたい。主人公よ。聖地ラムダへ向かう前にクレイモランの城に入るぞ。」
「皆の者は城下町の様子を見てきてくれんか。」
カミュの様子がおかしい。
「なんだ、この感覚・・どうして胸がざわつくんだ。」
「・・俺なら平気です。町の様子を見てくればいいんですよね?」
「いや、無理するでない。記憶も無い中一人で動くのは心細かろう。おぬしもわし達についてくるがよい。」
「では主人公よ。城に向かいシャール殿に会うとするかの。」
城へ行き、玉座でシャールと話をする。
「ロウ様!それに主人公さん達も。ああ、皆様ご健在だったのですね。」
「良かった。大樹が落ち闇が世界を覆い、黄金病の恐怖がこの地に蔓延したとしてもまだ希望は残されていたのですね。」
「数週間程前からです。クレイモラン王国一体で突如奇病が流行りだしたのです。」
「この病に感染した者は人間も動物も植物さえも身体が黄金と化してしまうのです。」
「原因も治療法も分からないこの病はいつしか不安に怯える人々から黄金病と呼ばれるようになりました。」
「他の国に助けを求めようにも、病とともに現れた巨大な黄金の氷山により陸路も海路も閉ざされて、この地は今や陸の孤島。」
「病を調べていた魔女リーズレットも逆にあらぬ疑いをかけられ、城の地下に幽閉されてしまいました。」
「友人として彼女を解放しようと試みましたが、民の強い反対にあいそれも叶わず。」
「黄金病がこの国を混乱に陥れているのです。」
城を出ると老婆が話しかけてきた。
「ちょっとお待ち!お前さん、もしかしてカミュじゃないか?」
「お前さん、忘れちまったのかい。知ってるも何もお前さんは・・うぐ!」
突然苦しみだした老婆は黄金像になってしまった。
そこに町の神父がやって来た。
「声を聞きつけ来てみればまさか君がいるとは・・」
「カミュのことをお話しましょう。後ほど城下町の正門そばにある私の教会にいらして下さい。」
カミュと一緒に教会に向かい神父と話をする。
「よく来て下さいました。カミュ、君も元気そうで何よりだ。最後に見てから5年ぶりくらいだろうか。」
「かつてこのクレイモランの城下町は北海で活動するバイキングの寄港地でね。以前は交流も盛んに行われていたんだ。」
「カミュ、当時君はそのバイキングの手下だった。」
「カミュは幼い頃、彼の妹と共にバイキングに拾われ育てられたようでした。」
「それが幸せだったのかは分かりません。彼と妹はかなり過酷な生活を強いられていたようでしたし。」
「ある日彼の妹が亡くなったという知らせを受け、その日を境に彼もまた姿を消してしまったのです。」
「神父として彼らを救えなかったことは心残りとして私の中に残り続けました。ですから彼が困っているなら今こそ・・」
突然カミュが怒り出す。
「やめてくれ!・・しばらく一人にして下さい。」
カミュは一人で教会を出ていってしまった。
主人公は神父と一緒にカミュを追いかけ、町の西にいたカミュに話しかけた。
「主人公さん、すみません。急に飛び出してしまって。」
「でも俺・・」
カミュは頭を抱えて倒れ込んでしまった。
そこにグレイグがやって来る。
「主人公、港に怪しい船が接近している。すぐに来てくれ。」
カミュを神父に任せ、主人公は港に向かった。
船から大量の魔物が押し寄せてくる。
「この世全ての黄金は偉大なる六軍王がお一人、鉄鬼軍王キラゴルド様の物!」
「さあ野郎ども、仕事の時間だ!宝石だろうが人間だった黄金像だろうが、この町のお宝を根こそぎ奪い取れ!」
主人公達は次々に押し寄せてくる魔物達を倒していった。
しかしその隙きにカミュが魔物達に連れ去られてしまう。
「まさかカミュが連れていかれるなんて。」
「神父さんがまだこの辺りにいると思うの。見つけてアイツらのこと聞いてみましょ!」
西の海沿いにいた神父と話をする。
「カミュは高価な物は持っていませんでしたし、黄金病にも感染していなかった。」
「あの魔物達の喋り方や仕草・・まさか彼らの正体は・・」
「あの黄金を欲する魔物達の言動や癖に見覚えがありまして。」
「そう、この地に寄港していたバイキング達にどこか似ているのです。」
「確かに彼らならカミュを知っていても不思議ではない。」
「当時、彼らのアジトはこの町から船で出てすぐ近くの洞窟の中にありました。もしやそこに行けば何か分かるかも知れません。」
船ですぐ近くの洞窟に向かうと、洞窟の牢屋にカミュが幽閉されていた。
「がはは。野郎ども、ラム酒の用意だ!思わぬお宝が手に入ったからな。」
「キラゴルド様もお喜びになるだろう。」
「それにしてもキラゴルド様ご指定のブツがこんなあっさり手に入るとは運がいいぜ。コイツを貢げば・・ふふふ。」
主人公達は魔物達を倒し、カミュを救出した。
「待たせたの、カミュ。怪我も無さそうで何よりじゃ。」
「そうだ、俺はここで・・ああ、そうだ。あいつをあそこに・・行かなきゃ。」
カミュはフラフラと洞窟の奥に歩いていった。
風穴の隠れ家で頭を抱えてうずくまるカミュ。
主人公はカミュの記憶を覗いてみた。
カミュがバイキングの男に怒鳴られている。
「なんだその生意気な態度は!10年前、雪の中で震えてたガキ2匹を今日まで面倒見てやってる恩を忘れたか!」
カミュが一人で荷物の積み込みをしていると妹のマヤがやって来た。
「まーた怒鳴られてやがんの。要領悪いよなあ、兄貴は。」
「ま、兄貴の気持ちは分かるけどな。おれもアイツら大嫌い。」
「ほら、それより早く終わらせて帰ろうぜ。おれも応援くらいはしててやるからさ。」
カミュが言う。
「いや、少しは手伝えよ。今日はお前があいつらの財布をチョロまかしたせいでキレられてんだぞ。」
「いつか俺たちでどデカイお宝を手に入れて、こんなろくでもない毎日とはオサラバしたいもんだ。」
「まずは今日の飯が問題だな。翼があれば今すぐどこにだって飛んでいけるんだけどな。」
場面は変わって、カミュがマヤに首飾りをプレゼントしている。
「今日の航海でたまたま見つけたんだ。今日はお前の誕生日だからな。」
「おめでとう、マヤ。」
マヤが言う。
「はあ?何このしょぼい首飾り。兄貴さあ、おれの誕生日を祝うならもうちょっと頑張れよ。」
「そうそう、こないだ噂で聞いたレッドオーブってのが欲しいな。」
「デルカダール王国に伝わる秘宝なんだってさ。」
「その首飾りにはいわくがあってな。身につけた人間に次から次へと金銀財宝をもたらすんだとよ。」
「嘘くさい話だが、お前みたいな欲張りにはお似合いだろ?だから今はそれで我慢を・・」
首飾りをつけたマヤが銅貨を触ると、金貨に変化した。
「兄貴、これ・・おれ、銅貨を触ったら・・」
首飾りをつけたマヤが触る物全てが黄金に変わっていく。
「はは・・凄い。マジなんだ。」
「凄いよ!何でも金に変えられちゃうんだ!この首飾り最高だよ、兄貴!」
マヤが首飾りをはずそうとするがどうやってもはずれない。
「あれ?何で?兄貴、どうしよう。首飾りがはずれなくなっちゃった。」
「嘘じゃないってば。本当に・・」
首飾りが怪しく光り出し、マヤの身体が黄金に変化していく。
「やだやだ!何でおれの身体が金に・・兄貴、助けて・・」
マヤの身体が黄金になってしまった。
カミュは記憶を取り戻した。
「妹を、マヤを失って俺は逃げるように旅に出た。全部俺のせいだったんだ。」
「旅の途中、調べていて分かった。あいつに贈ったのは誕生日の祝どころか呪われたアイテムだったんだ。」
「自分の犯した過ちから逃げたくて、忘れたくて、あちこちでヤケになった。」
「気づけばいっぱしの盗賊さ。」
「そんな時だった。預言者と名乗る奴に言われたんだ。」
「伝説の宝珠を集め、いずれ地の底で出会う勇者にチカラを貸せ。さすればお前の贖罪も果たされるだろうってな。」
「最初は信じちゃいなかった。胡散臭いのはもう懲り懲りだったしな。」
「けれどその預言通り俺は主人公と出会った。」
「預言者の言う贖罪ってのが何かは知らねえ。だけどお前達と旅を続けるうち、その預言を信じられそうな気がしたんだ。」
「お前も見たんだろ。この場所に黄金になった俺の妹がいたはずなんだ。」
「今この辺りには黄金を集めてるキラゴルドとかいう魔物がいるんだってな。恐らくそいつの仕業だろう。」
「捕まってた時に魔物どもの話を聞いたんだが、ここから北に連中の居城があるらしい。乗り込んでマヤを取り戻してやる。」
北へ向かい黄金城の最上階に登ると、そこにはマヤがいた。
「マヤ・・ダサくて貧乏くさい名前。今はキラゴルドって呼んでよ、クソ兄貴。」
「そうだよ、黄金病を撒き散らしてるのも、人間どもから宝を徴収してるのも全部このおれ、キラゴルド様の仕業さ。」
「緊張しちゃって、そんなにビビルなよクソ兄貴。健気な妹らしくこれでも気を使ったんだぜ。」
「大人しく黄金兵どもに捕まってればペットにして死にたくなる程可愛がってやろうと思ったのに。」
カミュが言う。
「お前が俺を恨むのは分かる。俺のことなら好きにすればいい。だが何故こんなことを。」
「はん、面倒くさい奴。まあいいや、特別に教えてあげる。」
「大樹が落ちたあの日、おれの身に起こった魔王の奇跡ってやつを。」
「黄金になり動けなくなっていたおれの前にウルノーガ様がやって来た。」
「哀れな者よ。貧しさに苦しめられ愚かな人間どもに虐げられ、挙げ句兄にまで見捨てられたか。」
「だが貴様の中に渦巻く欲望と孤独こそ、この闇が支配する世界には相応しい。」
「我が名は魔王ウルノーガ。この新たなるロトゼタシアの支配者が貴様に戯れのチカラを授けてくれよう。」
「こうしておれは復活してチカラを手に入れたんだ。」
「この世界の誰も、兄貴でさえおれを助けてくれなかった。」
「でもいいんだ。ウルノーガ様のおかげでおれはこうして復活できた。」
「今や黄金化のチカラも思いのままさ。」
「あのバイキングどもを手駒に変えたように、今度はおれがこのチカラで世界中の奴らをこき使ってやるんだ。」
マヤは鉄鬼軍王キラゴルドに姿を変えた。
カミュが言う。
「この5年間、ずっと考えていたんだ。俺が生き残ってしまった意味。やるべきことを。」
「マヤ、お前がそんな姿になったのも全ての原因は俺にある。」
「なら、ここでお前を倒すことが俺に課された贖罪だ!」
「クソ兄貴とザコ勇者どもが偉そうに正義のヒーロー気取り?おれさえ救ってくれなかった奴らが今更!」
「ああ超うざい。馬鹿な兄貴も勇者もみんな黄金にしてやるよ!」
主人公達は襲いかかってくる鉄鬼軍王キラゴルドを倒した。
元の姿に戻ったマヤを抱きしめるカミュ。
「ごめんな、マヤ。」
「まったくバカ兄貴のせいでまた貧乏に逆戻りだ。」
気を失ったマヤの横にイエローオーブが落ちていた。
主人公はイエローオーブを再び手に入れた。
クレイモランの教会にマヤを運び、神父に診察してもらう。
「人知を超えたチカラを使った反動ですね。完全に体力が回復するまではしばらく目を覚ますことはないでしょう。」
「ですが命に別状はありません。いずれ必ず意識を取り戻しますよ。」
カミュが言う。
「主人公、世話かけたな。」
「伝説の宝珠を集め地の底で出会う勇者に力を貸せ。さすればお前の贖罪も果たされるだろう。」
「預言は本当だったってことか。」
「さて、行こうぜ主人公。マヤはここに預けておけばひとまず安心だ。」
「あいつのためにも俺は新たな旅に出る。そう、お前と一緒に魔王を倒す旅にな!」
「よろしく頼むぜ、相棒!」
クレイモランを出てシケスビア雪原を歩いていると突然、魔竜ネドラが現れた。
「氷獄の湖の氷が砕かれ、我は長き封印から解き放たれた。」
「だが長い間封印されたせいで思うようにチカラが出ぬ。」
「我が名はネドラ。貴様らの命を我が糧としてやろう。」
主人公達は襲いかかってくる魔竜ネドラを倒した。
「この強さ。遥か昔に相まみえた勇者ローシュを思い出すわ。」
「だが所詮は人間。おのれの無力さをあの世で悔やむが良い。」
魔竜ネドラは闇の息を吐き出し、主人公達の意識を失わせた。
「貴様らの命、食らいつくしてくれよう。」
そこにセーニャがやって来て竪琴を奏でると、魔竜ネドラが動けなくなった。
「身体中からチカラが抜けていく・・何だこの耳障りな音は・・」
セーニャが言う。
「忌まわしき魔物よ。風の裁きを受けなさい!」
魔竜ネドラは消滅した。
「主人公様、皆様!今お助け致します!」
セーニャの癒やしのチカラで主人公達は意識を取り戻した。
「私は勇者を守る宿命を負って生まれた聖地ラムダの一族。世界が滅びようとも命に代えてあなたをお守り致します。」
「主人公様。よくぞご無事でいて下さいました。」
「私あれからずっと一人で魔王による災いで苦しむ人々を助けながら聖地ラムダを目指していたんです。」
「黄金の氷山が溶けたと聞いてやって来たら、まさかこんな所でお会いできるなんて。」
「主人公様、皆様。改めてよろしくお願い致します。」
セーニャが再び仲間に加わった。
「聖地ラムダはこの山道の先ですわ。さあ行きましょう。」
ゼーランダ山を通って聖地ラムダに入る。
「やはりお姉様はこの近くにいるようですわ。北の方から懐かしい気配を感じます。」
「主人公様、行ってみましょう。」
静寂の森に行くと、ベロニカが木にもたれかかるように眠りについていた。
「お姉さまの杖が光っている。それから主人公様の手も。」
「主人公様、お願いです。こちらの杖に触れてみて下さい。」
主人公がベロニカの杖に触れると大樹が落ちた時の情景が蘇ってきた。
ベロニカがありったけの魔力を振り絞り、仲間達を結界で守っている。
「あたしはどうなってもいい。みんな絶対に生き延びてアイツから世界を救ってちょうだい!」
ベロニカは最期のチカラで仲間達を世界各地に転送させた。
「セーニャ、またいつか同じ葉のもとに生まれましょう。主人公のこと、頼んだわよ。」
ベロニカは力尽きて倒れ込んでしまった。
この情景を見たセーニャが言う。
「お姉様、私達を助けるために・・」
セーニャがベロニカの身体に触れると、光と共に消え去ってしまった。
「お姉様はもういない。どこにもいないのですね。」
ベロニカの杖を握りしめるセーニャ。
「これがお姉様の選んだことなら、私は全てを受け止めます。」
「お父様とお母様と、里の皆様にもきちんとお伝えしなければ。」
聖地ラムダに戻りベロニカの葬儀を終えた後、長老ファナードと話をする。
「主人公様はもしかするといにしえの伝承の存在、神の乗り物を求めてこの地へいらしたのではないですか?」
「先日私は大樹の神託と思われるある夢を見たのです。」
「その夢の中で主人公様とセーニャは何やら白く大きな物に乗って空に浮かぶ不思議な島に降り立っていました。」
「しかしベロニカの姿だけ見えなかったので、ベロニカの身に何かあったのではとずっと心配していたのです。」
「嫌な予感はしていましたが、まさかこんな時にまで夢が現実になってしまうとは。」
「ですが夢の世界で見たその光景は、私にある神話の一節を思い出させました。」
「ケトス、天高く空を駆け巡る神の使い。聖なる調べに導かれ、勇者のもとに降臨す。」
「夢に出てきたあの天の島こそ勇者様が目指すべき地なのでしょう。」
「そしてそこに導くのは神の使いケトス。」
「私は今、里中の古文書をひっくり返してこのケトスについて調べております。何か分かったらご報告致しましょう。」
「さあ、今日はもうお疲れでしょう。皆様のために宿を用意しておりますのでひとまず宿屋でお休みくださいませ。」
宿屋で休んでいると何処からともなく竪琴の音色が聞こえてくる。
宿屋の近くでセーニャが竪琴を奏でながら歌っていた。
「後の世も一つの葉に生まれよと契りし、いとおしき片葉の君よ。」
「涙の玉と共に命を散らさん。」
「うつろう時に迷い追えぬ時に苦しみ、もがく手がいかに小さくともこの願い一つが私の全て。」
「この歌は古の時代から聖地ラムダに伝わる悲しき恋の歌。死に別れた恋人をいとおしむもの。」
「神語りの里に一体誰がこのような歌を残したのか分かりませんが、私は幼い頃からこの歌が好きでした。」
「大樹が落ちたあの日からずっと、私には心残りに思っていたことがあるのです。」
「私はずっと後悔していました。」
「お姉様がいなくなってしまうなんて考えられないと言い続けていたことを。」
「一人でもやっていけると伝えていれば、お姉様も安心して天に召されたのではないかと。」
「私はグズだったんです。言葉や呪文を覚えるのも、道を歩くのも何もかもお姉様より遅れていた。」
「ですがまさかこんな時にまで先に行かれてしまうなんて。」
「主人公様、ごめんなさい。少しだけ、ほんの少しだけあなたの隣で泣かせて下さい。」
「ごめんなさい、主人公様。やっと心の迷いが晴れました。」
「お姉様が助けてくれたこの命、精一杯未来へつないでみせます。」
セーニャは長い金色の髪をナイフで切り落とした。
「もう涙は見せません。」
その時ベロニカの杖が金色に輝き、光の玉になってセーニャの身体に吸い込まれていった。
「このチカラはもしかして・・ありがとう、お姉様。」
ベロニカの呪文と特技がセーニャに継承された。
翌日、勇者の峰にいる長老ファナードに会いに行った。
「おお、主人公様。よくぞいらしてくれました。」
「実は昨夜、また夢を見ましてな。ベロニカがここにいる姿が見えたのです。」
「この場所は勇者の峰。かつて勇者様が邪悪の神と戦った後に空から舞い降りて来た地だと言われています。」
長老ファナードは笛を取り出した。
「ベロニカは夢の中でこの地に立ってこの笛を吹いておりました。」
「これは賢者セニカ様が邪神を討った後に聖地ラムダに立ち寄り置いていったという笛。」
「お守りとしてベロニカに持たせていたのですが、今朝目を覚ましたら私の枕元に置かれていたのです。」
「もしかしたらこの笛が私達に道を示してくれるかも知れん。」
「セーニャよ。さあ吹いてみなさい。」
セーニャが笛を吹くが何も起きない。
「何も起きませんね。ですがお姉様が夢の中で吹いていたなら必ず何か意味があるはずですわ。これは主人公様がお持ち下さい。」
主人公が笛を手に持つと突然金色に光り輝き出した。
そして笛がどんどん伸びていき、釣り竿になった。
釣り竿になった笛から光の釣り糸が垂れ、何かアタリが来たようだ。
釣り竿を引くと、なんと巨大な白いクジラが釣れた。
「空飛ぶ・・魚・・いえ、あれはクジラ?」
長老ファナードが言う。
「おお、神話は本当だった。あれこそ私が夢で見たもの。神の乗り物、ケトス。」
「今伝説が蘇りました。その笛を吹けば神の使いは主人公様を大空へいざないましょう。」
主人公は天空のフルートを手に入れた。
「主人公様。世界のどこかにある天空に浮かぶ島を探すのです。きっと
そこに闇を打ち払う新たなチカラがあるはず。」
「主人公様、お願い致します。諸悪の根源たる魔王ウルノーガを討ち果たしてベロニカの無念を晴らして下さいませ。」
主人公は天空のフルートを吹き、ケトスに乗って神の民の里に向かった。
「天空に浮かぶ島・・長老様の夢の通りならここに闇を打ち払うチカラが。」
「何でしょう。見たところ神殿のようですが。」
「私達がこの地に導かれたことには何か意味があるはず。皆様、あの神殿に行ってみましょう。」
神殿に入ると、中には神の民がいた。
「ふーん、なるほど。兄ちゃんがそうなのか。」
「オイラは神の民だよ。」
「そっか。最近の地上人は知らないんだな。神の民はロトゼタシア創世の時代から世界を見守ってきた天空の住人さ。」
「この辺りはもともと神の民達が暮らす里だったのさ。」
「けど魔王軍に襲われて里のあった浮島をほとんど地上に落とされちゃってね。オイラは生き残った最後の神の民なのさ。」
「この太陽の神殿の奥には世界が誕生した時から燃え続けているという聖なる種火が祀られているのさ。」
「神の民の里が襲われた時、オイラはたまたま神殿内を掃除してて聖なる種火の加護に守られて助かったんだ。」
「オイラのことなら気にしないで大丈夫。魔王が倒されて大樹様が復活すれば大いなる命の流れも蘇る。」
「そうすれば死んでいった者達もいつかまた新たな命として生まれてくる。オイラの家族や友達も救われるってもんさ。」
「だから頼んだよ、勇者の兄ちゃん。」
「神殿の奥にある聖なる種火を調べれば、闇を打ち払うチカラについても何か手がかりが見つかるかも知れないよ。」
主人公は太陽の神殿の奥にある聖なる種火を調べた。
「なんて清らかで神々しい。この炎が聖なる種火なのでしょうか。」
主人公の左手の痣が反応して輝き出す。
主人公が左手を聖なる種火にかざすと、炎が横にあった小さな器に宿った。
主人公は聖なる種火を手に入れた。
同じ部屋に光り輝く3つの苗木があった。
「あの3本の苗木からは命の大樹にも似た不思議なチカラを感じます。」
「主人公様、あの木々を調べましょう。何か大事なことを伝えようとしている、私にはそう思えるのです。」
3本の苗木の所へ行ってそれぞれ手をかざすと、勇者ローシュがオリハルコンとガイアのハンマーを手に入れて剣を打っている情景が見えた。
この情景は仲間達にも見えたようだ。
マルティナが言う。
「先代の勇者達は何かの鉱石を集めて特殊なハンマーを使い剣を打っていた。」
「もしかして私達が見たのは、かつて勇者の剣が作られた時の光景なんじゃないかしら?」
セーニャが言う。
「思い出しました。最後に見た剣を打っていた山。あれはホムラの里から見える火山のはず。」
シルビアが言う。
「ハンマーを手に入れてた砂漠はきっとサマディー地方のどこかよ。サマディーの王様に聞いてみましょ。」
ロウが言う。
「最初の鉱石を採掘していたのはこの場所と同じく天空の浮島じゃったな。」
「神の民殿なら何か知ってるかもしれんの。」
「では天空の浮島とサマディー王国とホムラの里に向かうとしよう。そこを巡れば新たな勇者の剣が作れるかも知れん。」
主人公達は神の民の所に戻り、神殿の奥で何があったかを伝えた。
「なるほどねえ、そんなことが。」
「でもそれで思い出したよ。じいちゃんから聞いた大昔の言い伝えを。」
「邪神の神と戦った人間、つまり先代の勇者は闇を打ち祓う特別な剣を作るべく聖なる種火を持って冒険してたそうだよ。」
「兄ちゃん達が見たのはその時の光景で間違いないだろうね。」
「先代勇者が鉱石を集めてた浮島ってのも、多分天空の古戦場のことじゃないかな。」
「古い話だから詳しくは知らないけど、かつては特別な金属が採掘できた浮島でそれを巡って大きな戦いがあった場所なんだ。」
「戦いの果てにその金属の鉱脈も失われてしまったと聞いてるけど、もしかしたらまだ残ってるかもね。」
「兄ちゃん達、行くなら気をつけてね。もう何百年もの間、神の民すら近寄らずどうなってるか分からない場所だからさ。」
主人公は天空のフルートを吹き、ケトスに乗って天空の古戦場に向かった。
入口にある燭台で聖なる種火を使うと中に入ることが出来た。
一番奥にあった大きな鉱石を見つけたカミュが言う。
「おいおい、マジか。ひょっとしてこいつは・・」
「主人公、スゲェぞ!こいつは各地に伝わる財宝伝説に登場する古の神の金属、オリハルコンだ!」
「間違いねえ。お宝のことなら俺の専門だ。世界で一番珍しい金属としてマヤからもさんざん聞かされてるしな。」
「まさかこんな所にあるとはな。このオリハルコンを鍛えればとんでもねえ剣が作れるはずだぜ。」
主人公はオリハルコンを手に入れた。
サマディー王国に向かい城の玉座の間に入ると、サマディー王とファーリス王子が揉めていた。
「ファーリス!危険な真似はよすのだ。」
「父上、心配いりません。僕があの勇者の星の謎を解き明かし、サマディーの民を安心させてみせます。」
ファーリスはそう言うと何処かへ行ってしまった。
サマディー王と話をする。
「おお、主人公ではないか。いつぞやはファーリスが世話になった。」
ロウが言う。
「久しぶりだな、サマディー王よ。ユグノアを忌まわしき災厄が襲ったあの日、四大国会議の日から16年ぶりになるか。」
「ロウ殿!事情は全て聞いています。勇者がロトゼタシアに災厄をもたらす悪魔の子だという話はデタラメだったと。」
「デルカダール王の嘘を見抜くことも出来ず、世界の崩壊という最悪の事態を招いてしまったこと、どうかお許し下さい。」
ロウが言う。
「もう良いのじゃ。顔を上げよ。」
「全てはデルカダール王に取り憑いたウルノーガの仕業だったのだ。他の誰に非がある訳でもない。」
「それよりもファーリス王子はどこにいったのじゃ?」
「サマディー王国の上空に勇者の星が出現しまして、その勇者の星がどんどん地上に迫って来ているのです。」
「勇者の星はかつて伝説の勇者ローシュが邪神を討伐した後、星空に浮かぶ赤星となって世界を見守る存在になったと言われているもの。」
「息子のファーリスがあの星を覆う赤い結界に刻まれた文字のようなものを発見しまして。」
「それで王子は先程その文字のようなものを調べるため学者を連れてバクラバ砂丘へ向かいました。」
「ロウ殿、もしバクラバ砂丘に行くのであれば息子の様子を見てきてくれませんか。どうもファーリスのことが心配で。」
「関所を塞ぐ兵士には通行を許すように言いつけておきますので。」
サマディー王国の北西にある関所にファーリス王子がいた。
「あ、主人公さん、シルビアさん!久しぶりだな。無事だったんだ。」
「あなたはデルカダールの英雄グレイグ将軍じゃないですか!こんなところでお会いできるとは!」
「あなたは騎士の憧れ。僕はグレイグさんの部隊に入るのを目標にして頑張って来たんです!」
ロウが言う。
「時に王子よ。勇者の星の調査はなかなか苦戦しておるようじゃな。」
「おぬしが見つけた古代文字、わしが解読してやろう。」
「え、じいさんも古代文字が読めるのか?ありがとう、助かるよ。」
「多分バクラバ砂丘の中心にある遺跡の辺りなら文字もよく見えると思う。僕は先にそこに行ってるから!」
ファーリス王子を追いかけて砂漠の中央付近にある遺跡に入る。
「ふむ、確かに勇者の星には何やら文字が書いてあるようじゃな。早速調査を始めるか。」
遺跡には主人公だけに見える黒い小さな妖精がいた。
「私が見えるのか?」
「聞くまでもなかったな。」
「それではお前が・・」
黒い小さな妖精は6本の触手を伸ばして勇者の星に祈り始めた。
「過ぎ去りし時よ。さあ、我がもとへ来たれ。」
赤い勇者の星が地上に落ちてくる。
「もう少しであの文字が読める!」
「ニ・・ズ・・ゼ・・ル・・ファ?」
そこに魔王の剣を持ったウルノーガらしき魔物が上空に現れた。
魔物は星を斬り裂き、勇者の星を破壊してしまった。
「これで世界は我のものなり。」
そう言うと魔物は何処かへ飛び去っていった。
ロウが言う。
「消えてしまったが、勇者の星にはニズゼルファという古代文字が刻まれていた。ニズゼルファとは一体何なのじゃ。」
主人公だけに見える黒い小さな妖精は項垂れて動かなくなってしまった。
サマディー王国に戻りサマディー王と話をする。
「お二人ともよくぞ戻られました。勇者の星がいきなり砕け散ったので心配していたのですが、無事で何より。」
「ファーリスから話は聞いておりますぞ。勇者の星が落ちてもう駄目だと言う時に救世主が現れ、あの星を斬ったそうですな。」
ロウが言う。
「救世主かどうかは分からんが、まあそれはいいのじゃ。」
「それよりおぬしに聞きたいことがある。」
「わしが見たところ勇者の星を覆う結界にはニズゼルファと刻まれておった。この言葉に心当たりはないか?」
「ニズゼルファ・・うーん、聞き覚えがありませんな。」
ロウが言う。
「空に浮かぶ勇者の星に刻まれたこの言葉、きっと深い意味があるはずなのじゃが。」
「ああ、いかんいかん。忘れておった。漠然とした話で申し訳ないのじゃが、この国にある巨大なハンマーについて心当たりはないか?」
「魔王を倒すためにどうしても必要なのだ。神話の時代、サマディーにあったことは分かっておるのじゃが。」
「ハンマー・・おお、もしや王家に伝わるガイアのハンマーのことか!」
「ファーリスよ。宝物庫にあるガイアのハンマーを持ってくるのじゃ。」
ファーリスは走って宝物庫に行きガイアのハンマーを持ってきた。
「おお、これじゃ!これこそ大樹の記憶の中で見たローシュ様が持っていたハンマー!」
ファーリスが言う。
「父上いいんですか?これって来年のファーリス杯のために行商人に売る予定だったハンマーじゃ・・」
「馬鹿もん!黙っておれ!」
「・・ゴホン。主人公よ。ガイアのハンマーは父祖の時代からサマディー王国に伝わる貴重な宝物だ。」
「しかし今や魔王を倒せる者は勇者であるお前しかおらん。もし必要ならば喜んで渡そう。」
主人公はガイアのハンマーを手に入れた。
「伝承によるとそのハンマーには大地の精霊のチカラが宿っているそうだ。」
「それで叩けばどんなに硬い金属でも鍛え上げられるという話だ。」
「主人公、わしは信じておるぞ。そなたなら必ずや悪しき魔王を討ち倒すとな。」
ホムラの里に向かい、一番奥にあるヤヤクの社に入った。
「ん?客人か。見たところずいぶん腕が立つようだ。」
「名は・・そうか、主人公と言うのか。少し私の話を聞いてくれぬか。」
「この里には火の神を称えるためヒノノギ火山である儀式をする風習がある。里を守るには絶対に欠かせぬ儀式なのだ。」
「先日その儀式をするためにヒノノギ火山に神官を送ったんだが、その道中で突然化け物に襲われてね。」
「逃げ帰って来た神官の話では化け物の奴は鋭い牙と爪を持ち、おぞましい姿をしていたという。」
「本来なら私が成敗してやりたいところだが、この地に巣食う火竜を倒した時に怪我をしてな。今は歩くので精一杯さ。」
「旅の者に頼むのは気が引けるが、里のため化け物を退治してくれぬか。」
主人公は頷いた。
「おお、引き受けてくれるか。礼を言うぞ、主人公。」
「まずは化け物が出没した西どなりにあるヒノノギ火山の山道を調べてみてくれ。」
「火の神よ。この者達に聖なる炎の加護を与えたまえ。」
ヒノノギ火山の入り口で魔物と出会った。
「我は火の神の化身なるぞ!そのはらわた八つ裂きにされたくなくば早々に引き返せ!」
魔物に攻撃しようとすると、魔物の中から子供が2人出てきた。
グレイグが子供達に聞く。
「お前達は里の者か?なにゆえ化け物のフリなどしていたんだ?」
テバという男の子が答える。
「だって、おいら達ヤヤク様に儀式をやらせる訳にいかないんだよ。」
「儀式を止めないと大変なことになるんだ。」
「この先においら達の秘密基地があるんだ。詳しいことはそこで話すから絶対に来てね。」
秘密基地には子供達の母親がいた。
子供達が言う。
「儀式をしないとみんなが困るのは分かってる。でも駄目なんだ。」
「だって儀式をしたら母ちゃんが火の神様に捧げる生贄として火山に落とされちゃうんだよ。」
「ある日ヤヤク様がおいら達を集めて言ったんだ。」
「我等は火の神の怒りに触れた。捧げ物をしなくては火山が噴火し里は火の海になるだろうって。」
「はじめは大根とかお芋をあげてたの。でも急にお日様が出なくなて、食べ物が育たなくなっちゃったんだ。」
子供達の母親が言う。
「ヤヤク様は里を守るため火の神様への捧げ物を絶やさぬようにと人間を生贄に捧げると宣言しました。」
「誰が生贄として相応しいかヤヤク様が火の神様の神託を受けて、そして私が選ばれました。」
「私の死が里のためになるのなら生贄になる覚悟は出来ています。だけどこの子達が心配で・・」
テバが言う。
「こないだの夜、母ちゃんが儀式以外立ち入りを禁じられた火山にヤヤク様が一人登るのを見たんだって。」
「その事をヤヤク様に言ったら母ちゃんは生贄に選ばれちゃったんだ。まるで見られた事を言わせないように。」
「ヒノノギ火山には絶対何か秘密がある。それを暴いて母ちゃんを助けたいんだ。でもおいらだけで行くのは無理だから。」
ロウが言う。
「ふむ、そういう事であったか。ではそのヒノノギ火山とやらに様子を見に行ってみようかの。」
秘密基地の奥から裏道を通ってヒノノギ火山の内部に行くと、そこに火竜がいた。
「あれが人食い火竜!しかし火竜はヤヤク殿が倒したはずではなかったのか?」
テバが言う。
「ヤヤク様はこれを隠してたんだ。人食い火竜を退治できなかったからこうやって隠してみんなを騙してたんだ。」
「母ちゃんが生贄になるのも全部コイツのせいか。」
「こうしちゃいられない。早くみんなにこの事を教えなきゃ。お兄ちゃん、一旦里に戻ろう!」
ホムラの里へ戻り、ヤヤクの社へ向かう。
「貴様、まさかヒノノギ火山に入ったのか?化け物がいるのに一体どうやって。」
「貴様、分かっているのか?儀式をせねば火の神の怒りに触れ里は火の海になるのだぞ。」
「人食い火竜は我が息子ハリマが確実に仕留めた。火竜と刺し違えハリマは死んだのだ。」
「小僧、貴様がしていることは火の神への冒涜。このままでは里は神の裁きを受けるだろう。」
「隠している貴様の母親の居場所を言え!さすればすぐに生贄の儀式を行い、私が火の神の怒りを鎮めてみせよう。」
その時、里に火竜が現れた。
主人公達が火竜を攻撃しようとするとヤヤクが火竜の前に立ちふさがった。
「やめよ、やめてくれ!どうかこの火竜を殺してくれるな。」
ヤヤクが火竜に言う。
「分かっているわ。お腹が空いているのね。さあこの私を。だからもう里の人は・・」
ヤヤクは火竜に食べられてしまった。
主人公達はなおも暴れ狂う人食い火竜を追い払った。
火竜はヒノノギ火山の山頂に逃げていった。
ヤヤクの社でヤヤクが書いた手記を読む。
「時折無性に大声で叫びたくなる。己の罪を決して忘れぬようこの手記に真実を書き記しておこう。」
「激闘の末、私とハリマは人食い火竜を退治した。ハリマの一太刀がトドメとなったのだ。」
「だがその刹那、火竜は断末魔の如く黒い瘴気を噴き上げハリマはそれを浴びてしまった。」
「倒れたハリマを連れ里に戻り、私は必死にあの子を看病した。しかしあの瘴気は火竜の呪いだったのだ。」
「ハリマの姿はだんだんと火竜に近づき、とうとう里では隠しきれなくなった。」
「里の者に知られたら殺されてしまう。私はハリマを火竜との戦いで死んだことにし、火山に隠すことにした。」
「私はハリマを元の姿に戻す方法を死に物狂いで探した。そしてついに見つけ出したのだ。」
「真実の姿を写すという八咫の鏡。これでハリマも元の姿に戻れるはず。」
「しかしいくら火竜を写しても鏡は反応せず。真の使い方が分かるその日まで私は肌身離さず鏡を持っていることにした。」
「だが時は待ってくれぬ。ハリマが人の血肉を欲するようになり、里から生贄を出すしかなくなった。」
「生贄を出すことに悩み苦しんだが、どうしても私は可愛い息子ハリマを見殺しにすることなど出来ぬのだ。」
「八咫の鏡の使い方さえ分かればハリマを救うことが出来る。」
「ハリマを生かすためならばこの修羅の道、歩いてみせよう。例えどんな罰を受けたとしても。」
主人公達は人食い火竜を追ってヒノノギ火山内部の上層へ向かい、火竜を追い詰めた。
「あの火竜がハリマ様だなんて、今でも信じられないよ。」
「ハリマ様はすごく優しい人だったんだ。おいらにも剣を教えてくれたりして。」
「ハリマ様はいつも言ってた。里を守るためにはどんな困難にも立ち向かわなくちゃならないんだって。」
「お兄ちゃん、頼むよ!ハリマ様を苦しみから解放してあげて!」
主人公達は襲いかかってくる人食い火竜を倒した。
人食い火竜の体内から声が聞こえる。
「終わりだ、悪しき火竜よ。八咫の鏡のチカラの前に滅するのだ!」
火竜の身体が光り輝き、ハリマが元の姿に戻った。
「ようやく元の姿に戻ることが出来た。そなた達のおかげだ。礼を言う。」
「火竜の呪いのチカラはとても強く、外から八咫の鏡を照らしてもその光は届かなかった。」
「だがそなた達が火竜を弱らせてくれたおかげで体内にあった八咫の鏡の力が発揮されたのだ。」
「しかしなにゆえ火竜の身体の中に八咫の鏡があったのか。」
「長く火竜になりすぎたために私の寿命はもう尽きるだろう。」
「私の母ヤヤクに伝えてくれ。これで里は救われたと。そしていつまでも幸せにと。」
ハリマは死んでしまった。
テバが言う。
「ヤヤク様とハリマ様の秘密はみんなには言わないことにするよ。二人はずっとこの里の英雄さ。」
「すぐには無理かも知れないけど、これからは自分達のチカラで里を守るよ。だっておいらの大好きな里だからな!」
ヤヤクの社の奥の部屋で老婆と話をする。
「おや、あなた様は。その節はホムラの里を救って下さりありがとうございました。」
主人公はヒノノギ火山のどこかにある鍛冶場の存在について尋ねた。
「おお、その話は私がまだ童の頃に聞いたことがございます。」
「炎の山の頂にて聖なる種火を投げ入れし時、遥かいにしえより伝わる大いなる鍛冶場が蘇るだろう。」
「そういった伝承を守るため、火山の頂上は長い間禁足地として封じられておりました。」
「しかし里の救い主であるあなた様ならば禁足地に入ることも許されましょう。さあこちらをお持ち下さい。」
主人公は禁足地の鍵を受け取った。
「禁足地はヒノノギ火山の中腹の固く閉ざされた扉の先にございます。どうかお気をつけて。」
主人公達は禁足地を進み、火口の中に聖なる種火の炎を投げ入れた。
すると大きな音と共にマグマから鍛冶場が現れる。
「すごい!マグマから鍛冶場が現れるなんて!この鍛冶場こそ先代勇者ちゃん達が剣を打っていた場所に違いないわ。」
主人公は仲間達と一緒に鍛冶場の中央にある台座でガイアのハンマーを使いオリハルコンを鍛えた。
鍛え上げられた剣を主人公が手に持つと、天から剣に稲妻が落ちた。
主人公は勇者の剣を手に入れた。
グレイグが言う。
「共に戦う仲間と空飛ぶ神の乗り物、そして新たなる勇者の剣。ついに魔王と戦う準備が整ったか。」
カミュが頷く。
「ああ、いよいよ大詰めだな。行こうぜ、魔王の城へ!」
セーニャが言う。
「主人公様、いざ最後の戦いの地へと参りましょう。」
「天空のフルートを使いケトスを呼べば、空に浮かぶ魔王の居城へも辿り着けるはずですわ。」
天空魔城の入り口には邪竜軍王ガリンガが待ち構えていた。
「我が名は邪竜軍王ガリンガ。魔王ウルノーガ様の居城、この天空魔城の番人である。」
「勇者よ。非力な人の身でありながら我等魔王軍の攻撃をかいくぐり、ここまで辿り着いたことは誉めてやる。」
「だがお前達など魔王様が直々に相手をするまでもない。ここで我が血祭りに上げてやろう。」
主人公達は襲いかかってくる邪竜軍王ガリンガを倒した。
「この邪竜軍王ガリンガが人間ふぜいに敗れるとは。これが勇者のチカラだと言うのか。」
「だが覚えておけ。お前がどう足掻こうと世界はもはや魔王様のもの。」
「過ぎ去りし時はもう戻らぬ。」
邪竜軍王ガリンガは消滅し、主人公はブルーオーブを取り戻した。
天空魔城に入り奥に進んでいくと、ホメロスがいた。
「グレイグ。まだ生き延びていたのか。相変わらず執念だけは立派だな。そのしぶとさ、尊敬に値するよ。」
「さて、ここまで来てもらって何だが、この先はウルノーガ様がおわす領域でな。貴様らが入っていい場所ではないのだよ。」
「今すぐご退場願いたい所だが、虫けらが頑張ってここまで来たんだ。記念にこの魔軍司令ホメロスが貴様らを直々に葬ってやろう。」
ホメロスは魔物に姿を変えた。
「ふははは!どうだグレイグ!素晴らしいだろう、この身体、この魔力。」
「ゆくぞ!貴様らの屍をウルノーガ様に捧げてくれるわ!」
主人公達は襲いかかってくる魔軍司令ホメロスを倒した。
「まさか、そんな馬鹿な・・」
「俺は六軍王を束ねる魔軍司令。この俺が貴様らに敗れるというのか。」
「またそうやってお前は俺の先を行くのか?」
「お前が賞賛を浴び光り輝くほどに俺は影になっていった。」
「なあグレイグよ。俺はただお前のようになりたかっただけなんだ・・」
グレイグが言う。
「俺は王に拾われて以来、お前の背中を追い続けて来た。」
「お前こそが俺の光だったんだ。」
「今の俺があるのはお前のおかげだ。ホメロス、なぜそれが分からぬ。」
「グレイグ・・」
魔軍司令ホメロスは消滅し、主人公はシルバーオーブを取り戻した。
奥にある扉を開けると、そこには魔王ウルノーガがいた。
「来たか。勇者の名を継ぐ者よ。」
「万物を創りし命の大樹は死んだ。今や我こそがこのロトゼタシアの王。」
「生命の根源、大樹の魂を得た我にとって貴様など吹けば散るひと葉に等しい。」
「その目、かつての勇者達を思わせる。気に入らん。」
「愛、希望、夢、くだらぬ幻想にしがみつき、しぶとくもがき続ける人間どもめ。」
「この全世界の王たる我が貴様らの躯に刻み込んでやろう。永遠に消えることのない絶望をな!」
主人公達は襲いかかってくる魔王ウルノーガを倒した。
「我に膝をつかせるとは。さすがは勇者の名を継ぐ者よ。」
「だが!我はウルノーガ!万物の頂点なり!」
「剣に宿りしチカラをもって全てを滅ぼさん!」
魔王の剣が邪竜ウルナーガに姿を変えた。
「忌まわしき大樹の子らよ。貴様らの命、我が身に委ね永遠なる闇へと堕ちるがいい。」
主人公達は襲いかかってくる邪竜ウルナーガと魔王ウルノーガを倒した。
主人公は魔王の剣を手に入れた。
「我はウルノーガ。万物の頂点・・おのれ勇者め・・グアアア!」
魔王ウルノーガは消滅した。
どこからともなく声が聞こえてくる。
「よくぞウルノーガを倒してくれました。これでロトゼタシアは息を吹き返し、再び生命で満ちていくでしょう。」
崩壊する天空魔城からケトスに乗り脱出した主人公達。
天空魔城が消え去ると、その場所に命の大樹が蘇った。
主人公達が魔王ウルノーガを倒し世界に平和が訪れてから数日後、ベロニカの死を悼んでラムダの思い出の地に集まっていた。
「お姉様、見て下さい。今日は世界が平和になったお祝いをするため、こうして皆さん来て下さったんですよ。」
「ああ、命の大樹があんなに気持ちよさそうに葉を広げていますわ。」
シルビアが言う。
「今までいろいろあったけど、アタシ達本当に世界を救ったのね。」
「悪しき魔王の手によってこの世界は一度闇に覆われました。私達は尊い多くの命を失った。」
「でも私達はこうして生きています。生きて笑っていればきっと何度だってやり直せますわ。」
「それにいつまでも泣いていたらお姉さまに怒られてしまいますものね。」
平和になった世界を見てまわることにした主人公は、仲間達と共にグロッタの町の南に向かった。
そこには謎の遺跡があり、ロウが一冊の書物を見つけた。
「遺跡を調べていたら古い時代の書物を見つけてのう。興味深いことが書かれておるんじゃよ。」
「覚えておるか主人公よ。かつて太陽の神殿の苗木を通して見た勇者ローシュの人生の軌跡の回想を。」
「この書物にはその回想が詳細に記されておるんじゃよ。そんな書物がなぜこのような遺跡に・・」
主人公は「ロトゼタシアの歴史・時空の章」という本を見つけた。
「我等神の民の一族に伝わりし伝承、かの時代よりこの地に在り続ける時間の理をここに記さん。」
「ロトゼタシアの大地より生まれし悠久の時間を紡ぐ精霊。その名は失われた時の化身。」
「失われた時の化身が守りしは刻限を司る神聖なる光。」
「その光輝き燃ゆる時、悠久の彼方に失われしものが大いなる復活を果たさん。」
謎の遺跡を探索していると不思議な壁画を見つけた。
壁画には赤い大きな星が描かれている。
「不思議な壁画ですね。何だか見入ってしまいます。」
そこにロウが書物を持ってやって来る。
「この遺跡を探している間に神の民が書いた書物を見つけたんじゃ。そこにはこう書かれておる。」
「ロトゼタシアの大地より生まれし悠久の時間の流れを紡ぐ精霊。その名は失われた時の化身。」
「神の民の伝承曰く、失われた時の化身が守りしは刻限を司る神聖なる光。」
「その光輝き燃ゆる時、悠久の彼方に失われしものが大いなる復活を果たさん。」
シルビアが言う。
「復活って、もしかしてその光には失ったものを蘇らせる力があるってことかしら?」
マルティナが言う。
「それが本当なら彼女も・・」
「思い出して。私達には心の底から会いたい大切な仲間がいるじゃない!」
ロウが書物を読み進める。
「刻限を司る神聖なる光。忘却の塔にて静かに輝けり。」
「古より神の民が守りし神秘の歯車手に入れし時、失われた時の化身が集う忘却の塔を目指すべし。」
セーニャが言う。
「神秘の歯車・・それがお姉様を蘇らせる手がかり。」
「たとえ僅かな希望でももう一度お姉様に会えるなら、私はその希望に懸けてみたいです。」
壁画を調べると歯車の形の穴が空いている。
「神の民が守りし神秘の歯車。古文書にはそう書かれておったのう。そしてあの壁画の穴。」
「もしかすると神秘の歯車はこの場所の近くにあるのかも知れん。」
主人公が壁画の近くを調べると神秘の歯車が落ちていた。
主人公は神秘の歯車を手に入れた。
「神秘の歯車手に入れし時、失われた時の化身が集う忘却の塔を目指すべしか。」
天空のフルートでケトスに乗り、命の大樹の北にある塔へ降りる。
塔の入り口に固く閉ざされた扉があった。
不思議な形のくぼみがあるが鍵穴はどこにも見当たらないようだ。
主人公が神秘の歯車をくぼみにはめると、大きな音をたてながら扉が開いた。
「おお、道が開かれたぞい。ここが失われた時の化身が集うという忘却の塔じゃったか。」
「早速先に進もうかの。行くぞい、主人公。」
主人公達が塔に入った後、バクラバ砂丘の遺跡で見た黒い小さな妖精も中に入っていった。
塔の奥に進んでいくと青白く輝く時の番人がいた。
「わたしは時の番人。時の行く末を見守る者。」
「わたしは何者でもありません。ただ時の流れを見守るだけの存在。」
セーニャが言う。
「時の番人よ。この塔には失ったものを復活させるチカラを持つ光があると聞きました。」
「私達には蘇らせて欲しいかけがえのない人がいます。どうか知っていることを教えて下さい。」
「この先にある祭壇には時のオーブと呼ばれる宝玉が祀られています。」
「その時のオーブのチカラを使えばあなた達の願いも叶うでしょう。」
「ですがあなた達は本当に失われた時を求める覚悟がありますか?」
「時のオーブとは失われた時の化身が遥か古より紡ぎ続けたロトゼタシアの時の結晶。」
「その時のオーブを壊すことで時空の流れが乱れ、全てが過去に巻き戻るのです。」
「仲間を蘇らせたければ、世界の時を断ち切らなければならない。」
「失われた時を求める。あなた達がしようとしているのは世界にとって大きな選択なのです。」
セーニャが言う。
「お姉様を復活させるには、この世界ごと時を巻き戻すことになる。」
ロウが言う。
「世界ごと過去に戻る・・もしかすると、もしその話が本当だとしたら。」
「大樹が落ちたあの日より前に戻り、ウルノーガの悪しき野望を食い止めることが出来るのではないか?」
「そうすればベロニカだけじゃない。あの日失われたロトゼタシアの全てを今度こそ救えるかも知れんぞい。」
時の番人が言う。
「恐らく今この時を紡いでいる一番新しい時のオーブを壊してしまえば、あなた達が望む、世界が闇に覆われる直前に戻ることも出来るかも知れません。」
「しかし残念ですが、あなた達全員が過去に行くことは出来ません。」
「時のオーブを壊すには全てを断ち切る事のできる大いなるチカラが必要です。」
「そのようなチカラは恐らくこの世界で一つしかありません。」
「それはあなたの持つ勇者のチカラです。」
「あなたの名前は・・そう、主人公と言うのですね。」
「主人公、あなたが持つその勇者の剣をもってすれば時のオーブも砕くことが出来るはず。」
「それが出来るのはあなただけ。そう、過去に戻る事が出来るのは主人公だけなのです。」
「一度過去に戻れば恐らく二度とこの世界には戻って来れないでしょう。」
「それに壊れた時のオーブが暴走すればネジ曲がった時の渦に飲み込まれてしまうかも知れない。」
「時の渦に飲まれてしまったら、主人公は永遠に時の狭間を彷徨うことになるでしょう。」
「かけがえのない仲間と別れ、たった一人で過去に戻る。あなた自身もどうなるか分からない。」
「主人公、それでもあなたには失われた時を求めて過去に戻る覚悟がありますか?」
「この選択はあなたが決めるのです。覚悟が出来たら時のオーブが待つ時の祭壇へ。」
主人公は一人で時の祭壇へ向かった。
「時の番人の名の下にあなたを過去へと導きます。主人公よ、前へ。」
「オーブと共に今装備している勇者の剣は壊れてしまうかも知れませんが、あなたはかつて勇者の剣だった魔王の剣を手に入れているはずです。」
「しばらくはそれを装備して戦うといいでしょう。」
「さあ時は満ちました。今こそ過ぎ去りし時へ。」
主人公は勇者の剣で時のオーブを砕いた。
気がつくとそこは、まだ命の大樹が落ちる前の穏やかなゼーランダ山だった。
仲間達と合流し、命の大樹に向かう。
大樹の魂の中ににある勇者の剣を取ろうとするとホメロスが現れた。
ホメロスの闇の攻撃を魔王の剣で跳ね返す。
「な・・貴様!今何をした?」
「尾行にも気づかぬドブネズミに語る言葉など持たぬ!私の目的は主人公ただ一人!」
ホメロスが纏う闇のオーラを魔王の剣で切り裂く主人公。
「そんな馬鹿な!闇のオーラを切り裂いただと?その剣は一体・・」
「く・・おのれ!そんな剣一つで私に勝てると思うたか!」
「悪魔の子主人公よ!悪魔の子と手を結びし者どもよ!この命の大樹を貴様らの墓標にしてくれよう!」
主人公達は襲いかかってくるホメロスを倒した。
「ぐああ!馬鹿な・・この私が敗れるなど・・」
「こんな所で果ててはあの方へ申し訳が立たぬ。」
ホメロスは最後の力を振り絞り主人公に闇の呪文を放つ。
主人公は闇の呪文を魔王の剣で弾き返すが、その衝撃で魔王の剣が砕け散ってしまった。
そこにデルカダール王とグレイグが現れる。
魔王の剣の破片を拾うデルカダール王。
「この破片は・・」
ロウが言う。
「グレイグよ。この者の姿を見るがよい。デルカダール王国の将として仮面を被りつつ裏で魔物に魂を売っていた者の末路じゃ。」
マルティナが言う。
「グレイグ、よく聞きなさい。魔物の手先として暗躍し続けていたのは主人公じゃないわ。ホメロスだったのよ。」
グレイグが言う。
「やはりそうだったのか。ホメロスよ、お前ほどの男がなにゆえ魔物に。」
ホメロスがデルカダール王に助けを乞う。
「お助け下さいませ・・」
デルカダール王はホメロスを剣で切り裂いた。
「人民をたぶらかし世を乱した悪魔の手先め。死をもって償うがよい。」
ホメロスは消滅した。
「グレイグよ。よくぞホメロスの正体を見抜きわしをここまで連れて来てくれた。」
「そなたがいなければわしはずっとホメロスの口車に乗せられ魔物達の企みに手を貸していただろう。」
「主人公よ。今までのわしの行いをどうか許して欲しい。」
「わしは今までホメロスから勇者こそが魔物を呼ぶ存在なのだと説き伏せられてきたのじゃ。」
「おお、そなたマルティナか!よくぞ無事でいてくれた。そんな所にいないでよく顔を見せておくれ。」
「ロウよ。そなたにも苦労をさせたな。」
「ユグノアの件は残念だったが、これからはチカラを合わせ復興していこうではないか。」
ロウが言う。
「それも大事じゃが、まずは16年前に我が国ユグノア王国を滅ぼした宿敵ウルノーガを倒さねばな。」
「ふむ、ホメロスも恐らくウルノーガの手先だったのだろう。」
「主人公よ、話は聞いたな。全ての元凶たるウルノーガは今も世界のどこかで息を潜めているはず。」
「さあ勇者主人公よ。大樹の魂に宿る勇者の剣を手に入れるのじゃ。」
主人公は大樹の魂から勇者の剣を取り出した。
デルカダール王が主人公に近づいてくる。
「おお、何という素晴らしい剣だ。主人公よ、わしにも見せてくれぬか?」
デルカダール王が勇者の剣に触ろうとした時、黒い小さな妖精の触手がデルカダール王の手に触れた。
「なんだ、今のは・・」
「まあ良い。それよりも早くデルカダール城に戻って宴の準備をせねばな。」
「主人公よ。そなた達の功績を称えるため、我が城に招待させて欲しい。」
「主人公、デルカダール城で待っておるぞ。」
デルカダール城2階の玉座の間へ向かう。
「よくぞ参った、勇者主人公よ。こうしてそなたを再び迎え入れる事が出来て嬉しく思うぞ。」
「ホメロスにたぶらかされたわしは長い間勇者こそ災いを呼ぶ悪魔の子だと思い込んできたが、よくぞホメロスを討ち果たし我が娘マルティナを見つけて来てくれた。おかげでようやく目が覚めたぞ。」
「それからおぬしに会わせたい相手がいるのだ。」
エマとペルラがグレイグに連れられてやって来た。
「さあ勇者主人公よ。急な準備ゆえたいしたもてなしも出来ぬが、今日は存分に宴を楽しんでくれ。」
「皆の者、心して聞け!この日より主人公を真の勇者と認めその名を称えるものとする!」
その日は夜遅くまで宴が催された。
ある者は歌い、ある者は踊って主人公達の活躍を讃えた。
そしてその夜、主人公が貴賓室のベッドで休んでいるとデルカダール王がやって来た。
勇者の剣に触れようするが、また黒い小さな妖精の触手がデルカダール王の手に触れて邪魔をする。
「ぐあ!なぜ剣に触れられぬ。まさかこのチカラは・・」
目を覚ました主人公は勇者の剣を手に取り構える。
「貴様!その剣を・・勇者の剣を私によこせ!」
騒動を聞きつけた仲間達が貴賓室に駆けつける。
「何となく感づいておったよ。デルカダール王と何十年も親交のあったわしの目をごまかせる訳がなかろう。」
「ククク・・ハハハ・・」
デルカダール王はウルノーガに姿を変えた。
「我は魔道士ウルノーガ。16年前にユグノア王国を滅ぼしデルカダール王になり変わった者。」
「今まで貴様を追い回していたのも全ては勇者のチカラを利用して勇者の剣を奪い、大樹の魂を得るため。」
「だが勇者の剣が貴様の手に渡った今、もはや手段は選ばぬ。ここが貴様らの死に場所となるのだ!」
グレイグもその場に駆けつける。
「ウルノーガ、貴様今までずっと王に取り憑いて私を謀ってきたというのか。」
「グレイグよ。貴様はよい手駒であった。焦らずともすぐに天国の家族のもとへ送ってやろう。」
グレイグが言う。
「貴様まさか・・わが祖国バンデルフォン王国を・・」
「主人公よ。私も戦わせてもらう。こいつは私の家族と友を奪った仇でもあるのだからな!」
「来るがよい、主人公。貴様のチカラを奪い、地上の生命全てを我が供物にしてくれよう。」
主人公達は魔道士ウルノーガを倒した。
「グオオ・・!」
主人公の足元にいる黒い小さな妖精を見つけるウルノーガ。
「ククク・・時をさかのぼって来たのはお前だけだと思うなよ・・グフ!」
魔道士ウルノーガは消滅し、デルカダール王が意識を取り戻した。
「うう、マルティナ?まさかそなたマルティナなのか?」
「ずいぶん長い夢を見ていたようだ。ユグノア王国が魔物達に襲われてからわしは一体何を・・」
デルカダール王が魔物に取り憑かれていた事はたちどころに城中に広まった。
本物の王はすぐさま介抱され、主人公達は王の目覚めを待ちながらひと晩休むことにした。
そしてその夜、主人公のそばにいた黒い小さな妖精は何処かに行ってしまった。
翌日、玉座の間でデルカダール王と話をする。
「主人公よ、よくぞ悪しき元凶ウルノーガを倒しロトゼタシアを救ってくれた。」
「そなたこそ古の勇者ローシュの名を継ぐに相応しい若者。今ここに勇者の称号を授けよう!」
突然辺りが暗くなった。
「何だ?急に暗くなりやがった。」
セーニャが言う。
「とてつもなく邪悪な気配を感じます。このチカラ、一体どこから・・」
兵士が慌てた様子でやって来る。
「王様!大変です!直ちにバルコニーへお急ぎ下さい!」
「勇者の星に異変が!」
皆で3階のバルコニーへ向かう。
「勇者の星が落ちているのか?」
黒い小さな妖精が祈りを捧げ、勇者の星を地上におろしている。
その様子を見ていった黒い小さな妖精が言う。
「かつて我が肉体はウルノーガに滅ぼされた。」
「だがウルノーガ無き今、邪魔する者はいない。」
「時空を超え、ようやく一つになれる。」
「今こそ復活の時。」
黒い小さな妖精は勇者の星に吸い込まれていった。
勇者の星は消え、邪神ニズゼルファが降臨した。
デルカダール王が言う。
「主人公よ。何やら胸騒ぎがしてならん。勇者の星の様子を見てきてくれぬか。」
「勇者の星が落ちたのはバクラバ砂丘の方角。デルカコスタ地方へ赴けば何やら見えるやも知れん。」
グレイグが言う。
「王よ、私も主人公と共に行きます。」
「主人公よ。これまで勇者に刃を向けてきた償いは勇者の助けになることで果たさせて欲しい。」
「まだ俺にも守るべきものがある。主人公が世界を救う勇者なら、俺は勇者を守る盾となろう。」
グレイグが仲間に加わった。
デルカコスタ地方へ向かうと、勇者の星があった場所に巨大な黒い物体が浮かんでいる。
そこにウルノーガの姿をした預言者が現れる。
「勇者よ、お困りのようじゃな。」
「このわしがウルノーガとな?そうか、おぬしらにはわしがウルノーガに見えるのか。」
「わしはおぬしらの世界では預言者と呼ばれている。」
「わしに抱く姿形のイメージが人によって違うのでな。その者に応じてわしの姿は変わるのじゃ。」
「とはいえ、この姿では落ち着かんじゃろう。」
預言者は女性の姿に変わった。
「わしには見える。おぬしらが神の使いケトスに乗って天空の民と出会う姿がな。」
「伝説の笛の音が彼の地へ導く。わしが言えるのはそんなところかのう。」
「残された時は僅か。ぼんやりしている暇はないぞ。さあ、ゆくがいい。」
預言者は姿を消した。
ベロニカが天空のフルートを取り出す。
「伝説の笛って言われてもこれしか持ってないし。」
「主人公何か心当たりある?」
主人公が天空のフルートを吹くとケトスが現れた。
「あんまり驚いてないのね。」
「預言者に会ったのも空飛ぶクジラを呼んだのもまるで初めてじゃないみたい。」
「ふふ、まあいいわ。あたし達はいつも通りアンタについていくだけだから。」
「それじゃ行きましょう、主人公。」
「あの空飛ぶクジラに乗って天空の民ってのに会いに行くわよ!」
主人公達はケトスに乗り神の民の里へ向かった。
神の民の里に着くとクーロンという神の民がやって来た。
「古の昔、生き物達は大樹の加護のもと長きに渡って繁栄し、我等神の民も大樹の下僕として平和に暮らしていました。」
「ですがある日、闇が空を覆い遥か天高くより災厄が飛来しました。」
「その災厄の名はニズゼルファ。」
「地上に現れた黒い太陽。あれはニズゼルファの復活を示しているのかも知れません。」
「ニズゼルファとはかつて地上を地獄に落とした災厄なる邪神の名。」
「ケトスを操りし勇者よ。事態は一刻を争います。さあ、長老様のもとへお越し下さい。」
北にあるいにしえの神苑に向かう。
長老は眠っているようだ。
「長老様は神話の時代から生きている方だよ。普段は深い眠りについておられるから滅多に目を覚まさないんだ。」
クーロンが言う。
「勇者を前にすればイゴルタプ様も目覚めると思いましたが仕方ありません。」
「この里に伝わる神話について私の方からお話しましょう。」
「古の昔、邪悪の神ニズゼルファは命の大樹に眠る大いなるチカラを狙い、このロトゼタシアに現れました。」
「邪神は大勢の魔物を引き連れ、邪悪な瘴気で地上を汚したのです。」
「世界は滅びの時を迎えようとしました。」
「しかし万物の創造主たる命の大樹はこの事を予見し、一人の救世主を地上に遣わしていたのです。」
「その者の名はローシュ。あなたの祖先、伝説の勇者です。」
「ローシュはケトスの背に乗って大空を舞い、広大なロトゼタシアの大地を巡って共に戦う仲間を集めました。」
「そして戦士ネルセン、賢者セニカ、魔法使いウラノスという頼もしき3人が勇者のもとに集ったのです。」
「4人はチカラを合わせ勇者の剣を作り、邪神討伐へと向かいました。」
「長き戦いの末、ついに邪神を倒し平和をもたらしたのです。」
長老イゴルタプが目を覚ました。
「大樹様の苗木を頼れ。苗木が全てを知っておる。」
長老イゴルタプは再び眠りについてしまった。
主人公は太陽の神殿に向かい、聖なる種火を手に入れた。
3本の苗木の前でそれぞれ手をかざすと、過去の情景が見えた。
勇者ローシュがガイアのハンマーで勇者の剣を鍛え上げている。
賢者セニカが天空のフルートを吹いてケトスを呼び、勇者の剣から放たれる雷のチカラでケトスをパワーアップさせている。
パワーアップしたケトスに乗り黒い太陽に向かう勇者ローシュ達。
ケトスのパワーアップした角で黒い太陽の結界を破っている。
そこに預言者が現れる。
「勇者よ。お困りのようじゃな。」
「ケトスを覚醒させるには賢者セニカのチカラが必要となる。」
「彼女の行方を知るためにもう一つの記憶を読み解くとしよう。」
「ベロニカよ。ここへ。」
「おぬしの今の姿、本来あるべき姿ではないな?」
「さあ、これを身につけるのだ。」
ベロニカが預言者から受け取ったベンダントを身につけるとベロニカが本当の姿に戻った。
「セーニャよ。ベロニカのもとへ。」
「おぬしらは勇者の導き手となる運命の双子。二人がチカラを合わせ心より願えば奇跡も起きよう。」
「だがそれにはベロニカが子供の姿では駄目なのだ。」
「さあ運命の双子よ。祈るのだ。全ての真実を明らかにするために。」
ベロニカとセーニャが願うと、2人は1本の青白い木になった。
「さあ勇者よ。導きの木に手をかざすのだ。」
主人公が導きの木に手をかざすと過去の情景が見えた。
勇者ローシュが勇者の剣を振り上げ、邪神ニズゼルファにトドメを刺そうとしている。
その時、魔法使いウラノスが勇者ローシュの背中を剣で突き刺す。
「ウラノス・・なぜだ・・」
勇者ローシュは仲間である魔法使いウラノスに殺されてしまった。
魔法使いウラノスが邪神ニズゼルファの魔力を吸い取る。
「魔力がみなぎってくる・・これが邪神のチカラか・・」
邪神のチカラを手に入れた魔法使いウラノスはどこかへ行ってしまった。
その後、駆けつけた戦士ネルセンと賢者セニカは勇者ローシュの亡骸の前で泣き崩れた。
その後の情景が見えた。
戦士ネルセンと賢者セニカが神の民達と共にバクラバ砂丘にいる。
戦士ネルセンが言う。
「勇者の剣のチカラでなければ邪神の身体を完全に消滅させるのは無理だ。」
神の民の長老イゴルタプが言う、
「だがローシュなき今、勇者の剣を扱える者はおらん。」
「滅ぼせないなら、せめて封印するしかあるまい。賢者セニカよ、頼むぞ。」
賢者セニカが邪神ニズゼルファを封印する。
「これより封印した邪神の肉体を地上より遥か彼方の空へ閉じ込めます。皆様のチカラをお貸し下さい。」
賢者セニカは神の民達と共に封印した邪神ニズゼルファの身体を上空へ打ち上げた。
戦士ネルセンが聞く。
「これからどうするんだ?」
賢者セニカが答える。
「勇者の剣をあるべき場所に。命の大樹へとおさめて参ります。」
「その後は・・旅に出ます。もう一度あの人に会うために。」
命の大樹に勇者の剣をおさめる賢者セニカ。
「ローシュ、待っててね。」
その後賢者セニカは勇者ローシュを復活させる方法を調べる。
その方法を発見した賢者セニカは一人で忘却の塔に向かった。
「これが時のオーブ。これさえ壊せば・・」
剣で時のオーブを壊そうとするが、剣が折れてしまう。
「そんな・・私にはそのチカラが無いと言うの?」
「もう一度あなたに会いたかった・・」
その時、何体もの時の化身が現れる。
そして時の化身に取り囲まれた賢者セニカは、時の番人になった。
グレイグが言う。
「我々が勇者の星だと思っていたものが、まさか邪神を封印したものだったとは。」
ベロニカとセーニャの身体が元に戻る。
ベロニカは再び子供の姿に戻ってしまった。
「私達にも見えていました。まさかセニカ様があのようなお姿になっていたなんて。」
預言者が言う。
「そうじゃ。邪神を倒す鍵を握る賢者セニカは姿を変え、今もあの塔で生きておる。」
「わしの本当の姿を見せよう。」
預言者の姿が魔法使いウラノスに変わった。
「そう、わしはウラノス。伝説の勇者ローシュの仲間じゃ。」
「ローシュが邪神にトドメを刺そうとしたあの時、わしの頭の中に声がよぎった。」
「ローシュを殺せ。さすればチカラをやろうと。」
「わしは己の心を奮い立たせ甘言に抗ったが、気づけばローシュを殺していた。」
「邪神のチカラ吸い取り悪に染まったわしはウルノーガとなったのじゃ。」
「だがウルノーガの中には善なる心がかすかに残っていてな。もう一人のわしが生まれたのじゃ。」
「ウルノーガが倒された今、最後の預言を与えよう。」
「時の賢者は命の大樹の北にて勇者の訪れを待つ。神の民のチカラを借りかの地を目指せ。」
「主人公よ。どうか邪神を討ち果たし、この長き戦いに終止符を打ってくれ。」
魔法使いウラノスは消えてしまった。
もう一度長老イゴルタプに会いに行くと、長老が目を覚ました。
「懐かしい匂いがするのう。」
「この匂いはウラノスか。おぬしウラノスに会ったと見える。」
「一体何があったのじゃ?」
主人公は聖なる苗木で見た光景を長老イゴルタプに話した。
「もしやと思っておったが、やはりそういう事じゃったか。」
「ウラノスはロトゼタシア随一の魔力を誇る天才であったが、あやつの心の中には確かに危ういものがあったからのう。」
「己の魔力を高めることだけに執着し、そのためには手段を選ばぬ。そんな男であった。」
「それはそうと、おぬしらセニカに会いに行くんじゃろう?ならばこれを持っていくがいい。」
主人公は神秘の歯車を受け取った。
「セニカによろしくのう・・」
長老イゴルタプは再び眠りについた。
命の大樹の北にある忘れられた塔の最上階に向かうと時の番人がいた。
「セニカとは誰でしょう。何か私に用ですか?」
ベロニカが言う。
「邪神が目覚めてしまったの。世界を救うためにチカラを貸して。」
「思い出してセニカ様。これはセニカ様の笛よ。」
「ああ、この笛は。この笛の事はかすかに覚えています。」
「ですが私の記憶の中にある笛はもっとチカラに溢れていました。」
時の番人が天空のフルートに触れると、天空のフルートがチカラを取り戻した。
「この笛で奏でる音色は一つ。聖地に伝わる目覚めのしらべ。」
セーニャが竪琴を奏で、ベロニカが天空のフルートを吹く。
「時は来たれり。」
「今こそ目覚める時。」
「大空はお前のもの。」
「舞い上がれ、空高く。」
勇者の剣が輝き出し、剣から放たれた雷が天に昇る。
雷を受けたケトスはパワーアップして角が生えた。
声が聞こえてくる。
「私はケトス。かつて勇者ローシュを背に乗せ邪神ニズゼルファと戦いました。」
「邪神ニズゼルファ、その強さは想像を絶するでしょう。」
「バンデルフォンの地下迷宮、ローシュの仲間ネルセンが遺した試練に挑み邪神に負けない強さを身につけるのです。」
「我が心ローシュとともに。私のチカラがあれば結界を打ち破る事が出来るでしょう。」
バンデルフォン地方にあるネルセンの地下迷宮でチカラをつけた主人公達はケトスの背に乗り、黒い太陽に向かった。
ケトスの角で結界を破り黒い太陽の中に入る。
「ここまで来るとはな。」
「私はニズゼルファ。闇の深淵より生まれし者。」
「聖竜がのこした大樹の魂。それさえ消せば全ては闇に包まれる。」
「闇こそが私の喜び。」
「来るがいい、光の子孫たちよ。」
「時間も記憶も空間も存在する全てを闇に染めてくれよう。」
主人公達は邪神ニズゼルファを打ち破った。
「コオオオ!」
「一度ならず二度までもこの私が敗れるとは・・」
「だが光が闇を凌駕するなどありえぬこと。」
「我が肉体滅びようとも、我が魂は永遠なり。」
「光・・なんだこの光は。眩しい・・グオオオ!」
邪神ニズゼルファはまばゆい光と共に消滅した。
ロウが言う。
「終わった。これでもうこの世を脅かす者はいない。長い長い旅がついに終わったんじゃ。」
セーニャが言う。
「先代勇者ローシュ様の時代から続く時を越えた戦い。本当に長い冒険の物語でしたわね。」
主人公達は忘れられた塔の最上階に向かい、時の番人と話をする。
「また会いましたね。不思議な旅人達よ。」
「ロトゼタシアに影を落とす邪悪な気配は消え、世界は救われました。」
「もうここには用は無いはず。一体何をしに来たのですか?」
主人公は時の番人に左手をかざし、勇者のチカラで時の番人を賢者セニカの姿に戻した。
「あなたは・・」
賢者セニカの手を握り勇者のチカラを賢者セニカに移した主人公は、勇者の剣を賢者セニカに渡した。
「まさか私をあの時へ・・」
主人公は頷いた。
勇者のチカラを得た賢者セニカは、勇者の剣で時のオーブを砕く。
「ありがとう、勇気ある者達よ。」
賢者セニカは過去の時代へ旅立って行った。
邪神を倒し平和を取り戻した主人公達はそれぞれの故郷へ戻り、穏やかな日々を過ごすこととなった。
そんなある日・・
幼馴染のエマと結婚してイシの村で過ごしていた主人公のもとに、ベロニカとセーニャが訪ねてきた。
「ご無沙汰しております、主人公様。こうしてお会いするのは邪神ニズゼルファとの戦い以来ですわね。」
「主人公様は覚えておいでですか?邪神を封印した後、賢者セニカ様が勇者の剣を大樹に奉納したことを。」
「その勇者の剣はロトゼタシアの希望の象徴。」
「私達もセニカ様にならい、勇者の剣を命の大樹に納めたほうが良いと思ったのです。」
ベロニカが言う。
「という訳でどう、主人公。命の大樹までの短い時間だけど、もう一度あたし達と旅に出てみない?」
主人公は頷いた。
主人公はベロニカとセーニャと共に命の大樹へ向かった。
「ここに来ると色々なことを思い出すわね。未だに信じられないわ。」
「この大樹の魂に無限の力が秘められているなんて。」
セーニャが言う。
「はじめに光ありき。」
「神話の一節によれば、もともとこの世界は闇に覆われた死の大地だったと言われています。」
「そこに命の大樹の光が降り注ぎ、緑豊かな美しい世界ロトゼタシアが生まれたそうですわ。」
「ここは私達の命の故郷なのかも知れませんね。」
「さあ主人公様。勇者の剣を大樹の魂へ。」
主人公は大樹の魂に勇者の剣を納めた。
すると主人公達の前に聖竜が現れた。
「ようやく会えましたね、光の子らよ。」
「私は命の大樹のもう一つの姿。かつて聖竜と呼ばれていた者。」
「遥かな昔、邪神ニズゼルファとの戦いで私は敗れ命を落としました。」
「私の命は光の源。主を無くした光達は時の彼方に葬られ、世界は闇に飲まれました。」
「しかし私と共に戦った神の民、彼らの願いが奇跡を起こし、私の失われた時が再び動き出したのです。」
「私は自らの姿を捨て命の大樹となり、この世界を創りました。」
「いつかニズゼルファを討ち滅ぼす。勇敢なる者達が。」
「そしてあなたはやり遂げたのです。」
「私や先代勇者ローシュも成し得なかった邪神ニズゼルファの討伐を。」
「主人公、あなたこそロトゼタシアを救った真の勇者。」
「あなたはこれよりロトの勇者として語り継がれ、皆の希望の架け橋となるでしょう。」
「ロトの勇者、主人公よ。光ある限り闇もまたあります。」
「長き時の果て、再び闇から何者かが現れるでしょう。」
「もしかしたら私自身が闇に染まることもあるかも知れません。」
「しかし人の愛は、勇気は、決して消えることはありません。」
「もし私が闇に堕ちてしまったら、その時はどうかこの剣を手に、過ぎ去りし時を求めて。」
賢者セニカが勇者ローシュと無事再会した情景が見える。
「起きなさい、起きなさい。私の可愛い坊や。」
「今日はお前が初めてお城へ行く日だったでしょう。」